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11話 『追跡』

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「「うわ~……おっきいなぁ」」


 リリアと俺は目の前の城を見上げていた。なんか王都についたときも同じようなことを言っていた気がする……いや、田舎者がゆえの反応だろう。


「お前ら! ここに何の用だ?」

「こんにちは! 私、お城って初めて見たんですけど大きいですね~」

「そうじゃなくなぜこんなところに…………あ、あなたは」

「知り合いがここに来ていると聞いてね――これでいいかしら?」


 ソフィアさんが冒険者プレートを見せると衛兵は姿勢を正した。


「こ、これは失礼致しました! この子たちは……お連れ様ですか?」

「えぇ、大事なお客様よ」

「そうでしたか、お話は聞いております。ご案内しますね。君たちも中に入ってくれ」


 門が開かれ中に入る……通路は大きいはずなのに迷子になりそうな構造だ。衛兵に案内され大きな扉の前に着く。


「ソフィアさん……ここって」

「謁見の間ね、王様がいるところよ」

「や、やっぱりかぁ……」

「王様ってどんな人なんだろう? 楽しみだね」


 そう言ってリリアは俺に笑顔を向けるが……。楽しみって……変なこと言ったらきっと『無礼者。はい死刑!』とかいわれるんじゃないの……やばいドキドキしてきた。
 少し待つと扉が開かれ、ソフィアさんが歩き出し俺とリリアもそれに続いて中へと入る。

 奥には立派な椅子にザ・王という風貌のおじさんが座っており横には大臣らしき人、手前にはタイラーさんが立っていた。


「お久しぶりです、ヴェザール王」

「お~懐かしい顔ぶれが揃ったものだ。おや、その子はお主の子供か?」

「面白いご冗談を。タイラーから話があったと思いますが、この子たちが今回の件の……」


 ソフィアさんはそういうと俺たちに自己紹介をするよう促す。


「は、初めまして。俺はレニと申します!」

「私はリリアです。よろしくお願いします!」

「お~そなたらが……そこまで畏まらんでもよいぞ。ドラゴンの鱗をもらったというのは本当かね?」

「は、はい今出します――これなんですが」


 大臣が俺の元へやってくる。


「失礼するよ。ふむ…………間違いなくドラゴンの鱗ですね。しかもかなりの魔力を保有している」

「な、本当だったろ? ……んでどうするよ。いっそ裏が関わってそうな貴族たち全員、審判にかけるか?」

「それでは疑いの掛けられた貴族から王様への不信が募ってしまいます。本当に手がなければそれも考慮しなければなりませんが、まずはほかに手がないか探すべきです」


 大臣がはっきりとした口調で言うとタイラーさんはやれやれといったご様子だった。
 審判というのは嘘発見器のようなものなのかな? もしくはそういうことがわかる職業の持ち主がいるとか――この世界ならありそうだ。

 しかし、ほかにできそうなことと言えば……ドラゴンの言っていたアレくらいか。


「王様よろしいでしょうか。ドラゴンは、卵もこの鱗と同じ魔力を持っていると言っておりました。何か……魔力に反応する道具とかがあれば追えると思うのですが」

「ふむ……ソフィアよ。お主のほうで探知はできぬか?」

「こちらに来た時、王都周辺を探ってみたのですが反応はありませんでした。たぶん阻害する道具か結界を張られている可能性が高いと思われます」

「タイラーよ、お主のほうはどうだ?」

「目に見えて不審な情報はありませんでしたが、門番やらを買収していることも考えられるのでこれに関しては期待できません」

「ふぅむ……巫女の行方もわからぬ今、裏の連中も面倒なことをしてくれたものだ」


 全員が何か方法がないかと思案するなか一人、リリアだけがきょろきょろして何か言いたそうにしている。


「あの~ちょっといいでしょうか」

「む? 何かあれば申してみよ」

「私の魔法だったらどうかなって……あ、できるってわけじゃなくて試してみたいなと思っただけで……」

「ほう、ソフィアよ。お主はどう思う」

「彼女はまだ魔法が使えるようになったばかりですが可能性はあります」

「よし、ならばこの件はお主らにまかせる。大臣よ、何かあればすぐに動けるよう衛兵にも伝えておけ」

「かしこまりました」

「何かあればすぐに報告に参ります。それでは私たちはこれで失礼致します」


 ソフィアさんとタイラーさんが一礼すると俺たちもすぐに礼をして城をあとにした。





「大臣よ、あの者の後ろ姿……似てはおらんか」

「私も感じておりました。しかし竜の巫女は未だ行方知らず……あれから数十年、あの頃とは姿も変わってるはずです」

「そうじゃな……儂らではドラゴン相手にできることなど限られている。せめて彼らが何か掴んでくれることを祈ろう」



 * * * * * * * * * * * *


 昼食を済ませた俺たちは王都周辺にある平原に来た。タイラーさんは周りに人がいないことを確認する。


「この辺りでいいか、それじゃあ頼んだぞ」

「あ、あんまり期待しないでくださいね……」

「リリアちゃん自信を持って、失敗したっていいんだから」


 意を決したのかリリアは杖を地面に立て深呼吸すると一気に魔法陣を描いていく。完成し現れたのは……ブラッドベアーをマスコットにしたようなクマだった。
 歩きなれていないのかふらふらしている。


「な、なんかでてきたぞ。本当に魔法なのかこれは……嬢ちゃん、こいつはなんだ?」

「えっと、たぶんですが魔力を追ってくれる……のかな?」

「可愛いわね。あ、転んだ」


 クマは立ち上がると慣れてきたのか、ぽてぽて歩きだした。そしてなぜか俺の足元へとやってくる。


「とりあえずドラゴンの鱗を嗅がせればいいのか?」


 俺は鱗を出すとクマの顔へと近づけた。


「なぁお前、これと同じ魔力って探せる?」

「クマー……クマッ」

「なんか喋ってるみたいだが」

「追えるよって言っているみたいです。意思が伝わってくるというか……例えがよくわからないんですが」

「召喚魔法と似たようなものかしら、でもこれならいけそうね」


 全員が頷き出発しようというとき――クマはなぜか俺の足からよじ登ってきた。


「あっ! こ、こら! おりなさい!」


 だが引きはがされそうになったクマは首を振って全力で拒否した。魔力の塊だからか、感覚というかモフモフした感触はあるがそれほど重さは感じない。


「制御できていないのかな? まぁ重さもないし大丈夫だよ」

「ご、ごめんね……も~上手くいったと思ったのに……」

「うふふ、仕方ないわよ」

「とりあえず位置はそこでいいのか?」

「クマッ!」


 ばっちりだと言わんばかりに頭の上から声が聞こえてくる。


「ふふっふっ…………レニ君、似合ってるわよ」

「ソフィアさん、声が笑ってますよ?」

「それなら人に見られても大丈夫だろ」

「タイラーさん逆に俺が見られません?」

「レニ君ごめんね……もっとかっこいいのがだせればよかったんだけど」

「いや、これで十分だよ」


 かっこよさじゃないんだ、クマを頭に乗せている時点で普通じゃないんだ。まぁ、仕方ないか……リリアの魔法はまだ安定していないだろうからな。
 準備が整うと、ソフィアさんとタイラーさんは旅人が着るような外装パーカーを取り出し羽織る。


「よし、行くか」

「なんでそんな恰好をしてるんですか?」

「俺たちは裏の連中に人気者だからな」

「万が一、ばれたりするといけないから顔を隠しておくのよ」

「なるほど……でも俺が目立ってませんか?」

「さぁ出発だ」

「おー! クマちゃん案内よろしくね」

「クマッ!」

 こうして俺たちはクマが示す方向へと歩いたが、俺はできるだけ人のいないところに向かうよう心の中で祈った。
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