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148話
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時間を持て余した俺はあることを計画した。
草の魅力をもっとみんなに伝えたい。
そのためにはまず草について知ってもらう必要がある。
「リッツ様、何をしてるんですか?」
「お、ニエ。これは推し草といって樹脂で草を固めたものでな、色々な種類があるから自分のお気に入りをみつけられるぞ。それをアクセサリーや栞として使うわけだ」
「毒草や珍しい草まで混ざってるようですが大丈夫なんですか?」
「ここにあるのは全部クサモドキさ。間違えて口にしてしまったとしても影響はないから安全性もばっちり、とりあえず今からこのサンプルを教会に持っていく予定だ」
そして評判がいいようなら教会から商品化してもらう。
これで毒草でも雑草でも愛されることが可能になるわけだ。
「あ、それなら私もご一緒していいでしょうか?」
「今日の予定はないのか? 忙しいなら無理について来なくてもいいんだぞ」
皮肉っぽくなってしまったが仕方ないだろう。
なんだかんだちょっと寂しかったからな……。
「いえ、代わりにそれが終わったらリッツ様に来てほしい場所があるんです」
「いいけど、どこに行く気だ?」
「それはお楽しみということで!」
友達でも紹介されるんだろうか。
……もしや男か?
まぁ使命だってもう終わったようなもんだしニエは自由なんだ。
俺がどうこう言うもんじゃない。
「わかった、とりあえず話が終わったらな」
「はいっ!」
◇
用事も終わりニエに連れてこられたのはファーデン家だった。
バトラさんに案内され庭へ進む。
「ミレイユさん、連れてきました!」
「ニエちゃんありがとう」
「あれ、師匠がなんでここに?」
師匠がファーデン家にいるのなんていつ以来だろう。
よっぽどなことがなければ用事もないと思うんだが。
師匠の顔は至極まじめだ。
何かあるのだろうと意識を集中する。
「リッツ、私の養子にならない?」
「……へっ?」
何かの冗談だろう。
まったく、師匠も人が悪い。
「俺は師匠の弟子ですよ。いつだって話はできますし、俺なんか養子にとったら師匠にますます迷惑かけちゃいますって」
「ふふっ、それもそうね」
師匠は軽く笑うとバトラさんと共に屋敷へ入っていった。
「リッツ様……本当にいいんですか」
「ニエ、師匠は俺のために気を遣ったんだよ。嬉しいけど育ててもらった恩があるのにこれ以上は返せないからな」
「リッツ様自身はどうなんです?」
確かにブレーオアで暮らしていたときはみんなが家族のように接してくれた。
とても楽しく、本当にいい思い出……。
だけどそれもいつかは辛い過去となる。
だから一線だけは越えない。
越えちゃいけない。
「俺のことはいいんだよ」
「よくないです! また、失うのが恐いんですか?」
ニエの瞳はまっすぐに俺をみていた。
ニエは予知夢のせいで抗えない死を何度も味わっている。
迫りくる死を知るということ。
常人だったら普通じゃいられないのは明白、それこそ俺の比じゃないだろう。
……だからこそだ。
「ニエもわかるだろ? あんな思いは二度とごめんだ」
「はい、わかります。大切な人と一度過ごした時間はどうやったって消えません。それがどれだけ小さくてもやがては大きくなり、付いて回ってこういうんです。あのときは幸せだったなって」
「だけどそのときはもうこの世にはいない。二度と手には入らない――」
「――かわりに新しい幸せをまたみつけることができる。私はそう思います」
「それだっていつかは消えてしまうんだぞ」
「そんなことを気にしてる暇なんてありません」
「……どういうことだ」
「私たちは過去に戻ることはできません。ですが進む未来を決めることはできます。それこそ幸せを求め続けることも、諦めることも」
ニエのいうことは一理ある。
もしこの先、俺が求めるならきっと新しい家族だって……。
「……ニエは、もし俺が死ぬ未来を視たらどうするつもりだ」
「一緒に死ぬかもしれませんが、そのときになってみないとわかりませんね。頑張れ、未来の私っ!」
「今から頑張れよ」
相変わらず行き当たりばったりだな。
しかしニエの満面の笑みは失うことへの恐怖を和らげてくれた気がした。
草の魅力をもっとみんなに伝えたい。
そのためにはまず草について知ってもらう必要がある。
「リッツ様、何をしてるんですか?」
「お、ニエ。これは推し草といって樹脂で草を固めたものでな、色々な種類があるから自分のお気に入りをみつけられるぞ。それをアクセサリーや栞として使うわけだ」
「毒草や珍しい草まで混ざってるようですが大丈夫なんですか?」
「ここにあるのは全部クサモドキさ。間違えて口にしてしまったとしても影響はないから安全性もばっちり、とりあえず今からこのサンプルを教会に持っていく予定だ」
そして評判がいいようなら教会から商品化してもらう。
これで毒草でも雑草でも愛されることが可能になるわけだ。
「あ、それなら私もご一緒していいでしょうか?」
「今日の予定はないのか? 忙しいなら無理について来なくてもいいんだぞ」
皮肉っぽくなってしまったが仕方ないだろう。
なんだかんだちょっと寂しかったからな……。
「いえ、代わりにそれが終わったらリッツ様に来てほしい場所があるんです」
「いいけど、どこに行く気だ?」
「それはお楽しみということで!」
友達でも紹介されるんだろうか。
……もしや男か?
まぁ使命だってもう終わったようなもんだしニエは自由なんだ。
俺がどうこう言うもんじゃない。
「わかった、とりあえず話が終わったらな」
「はいっ!」
◇
用事も終わりニエに連れてこられたのはファーデン家だった。
バトラさんに案内され庭へ進む。
「ミレイユさん、連れてきました!」
「ニエちゃんありがとう」
「あれ、師匠がなんでここに?」
師匠がファーデン家にいるのなんていつ以来だろう。
よっぽどなことがなければ用事もないと思うんだが。
師匠の顔は至極まじめだ。
何かあるのだろうと意識を集中する。
「リッツ、私の養子にならない?」
「……へっ?」
何かの冗談だろう。
まったく、師匠も人が悪い。
「俺は師匠の弟子ですよ。いつだって話はできますし、俺なんか養子にとったら師匠にますます迷惑かけちゃいますって」
「ふふっ、それもそうね」
師匠は軽く笑うとバトラさんと共に屋敷へ入っていった。
「リッツ様……本当にいいんですか」
「ニエ、師匠は俺のために気を遣ったんだよ。嬉しいけど育ててもらった恩があるのにこれ以上は返せないからな」
「リッツ様自身はどうなんです?」
確かにブレーオアで暮らしていたときはみんなが家族のように接してくれた。
とても楽しく、本当にいい思い出……。
だけどそれもいつかは辛い過去となる。
だから一線だけは越えない。
越えちゃいけない。
「俺のことはいいんだよ」
「よくないです! また、失うのが恐いんですか?」
ニエの瞳はまっすぐに俺をみていた。
ニエは予知夢のせいで抗えない死を何度も味わっている。
迫りくる死を知るということ。
常人だったら普通じゃいられないのは明白、それこそ俺の比じゃないだろう。
……だからこそだ。
「ニエもわかるだろ? あんな思いは二度とごめんだ」
「はい、わかります。大切な人と一度過ごした時間はどうやったって消えません。それがどれだけ小さくてもやがては大きくなり、付いて回ってこういうんです。あのときは幸せだったなって」
「だけどそのときはもうこの世にはいない。二度と手には入らない――」
「――かわりに新しい幸せをまたみつけることができる。私はそう思います」
「それだっていつかは消えてしまうんだぞ」
「そんなことを気にしてる暇なんてありません」
「……どういうことだ」
「私たちは過去に戻ることはできません。ですが進む未来を決めることはできます。それこそ幸せを求め続けることも、諦めることも」
ニエのいうことは一理ある。
もしこの先、俺が求めるならきっと新しい家族だって……。
「……ニエは、もし俺が死ぬ未来を視たらどうするつもりだ」
「一緒に死ぬかもしれませんが、そのときになってみないとわかりませんね。頑張れ、未来の私っ!」
「今から頑張れよ」
相変わらず行き当たりばったりだな。
しかしニエの満面の笑みは失うことへの恐怖を和らげてくれた気がした。
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