上 下
122 / 150

122話

しおりを挟む
 ハリスから報告を受けた俺達は教会に向かった。いつも通り裏口から入りシスターに案内され扉の隙間から中を覗く。

 そこには、椅子に座らず背筋を伸ばしたままの、巨躯の女性が立っていた。使用人と同じエプロン姿だがしわ一つなく、長距離を歩いてきたとはいえないほど綺麗だ。

 師匠……いや、俺くらいあるな。

「リッツ様、なんだか強そうな方ですね」

「ワフッ」

「あぁ、これなら期待できそうだ」

「しかしリッツよ、必要なのは掃除や家事の能力だろう」

「そこはみてみないとわからないけどギルバートさんの紹介なら間違いないはずだ。リヤンの負担も減ればそれで充分だしな」

 みんなで話をしていると女性はこちらに目を向けた。

「突然お声掛けして申し訳ありません、私はキャレットと申します。こちらで使用人の募集をしているとお聞きしたのですがどなたか存じておりませんか」

「俺が受付を担当させてもらっているリッツだ。ほかにいるのは――気にしないでくれ」

「かしこまりました。ところで、雇用試験はすでに始まっておりましたか?」

「いいや、今日は確認だけだ。試験は後日担当者をつける。今日は宿を借りて休んでくれ」

 俺は金貨を取り出すとキャレットに渡す。

「まだ雇用もしていない使用人に金貨とは。随分と余裕のあるお方なのですね」

「単に使い道がないだけさ、受け取ってくれると俺としても報告しやすいからな」

「かしこまりました。それでは私は宿にてご連絡をお待ちしております」

 キャレットは地面に置かれている自分の荷物を持つと静かに教会を出て行く。

 俺たちはファーデン家にいきキャレットさんと出会ったことを報告した。翌日、すぐにエレナさんから手紙が届いた。







「ご無沙汰しておりました。ギルバート様、メリシャ様」

「久しいな、キャレットよ。元気にしておったか」

「しばらく見ない間に綺麗になったわね~」

「長らくお会いしていなかった私に推薦状を頂き感謝しております。ですが……今度は私でも、仕えることができるお方なのでしょうか」

「はっはっはっはっは! それは自分の眼で確かめてみるといい!」

「そうね、それが一番よね。さ、みんなが待ってるわ。行きましょう」

 お昼前にファーデン家についた俺たちは庭へ向かうと、机が並べられ使用人たちに混じって、ティーナが椅子に座っていた。

 俺たちに気付いたティーナは手を振る。

「皆さん、こちらでーす!」

「ワン!」

「やぁみんな、元気にしてた?」

「もちろん! 聖人様も随分と忙しかったようですな!」

「あら、ニエさん――そのなんともいえない表情の髪飾り、もしかしてアンジェロですか?」

「ふふふ、リッツ様の力作です! 初めてもらったプレゼントなんですよー!」

「きゃー! ついに進展があったんですね! そういえば髪飾りの意味って――――」

 わいわい騒いでいるとエレナさんがやってくる。

「お待たせ致しました。キャレットさんの試験をこれから始めたいと思います」

「試験って、いったい何をするつもりなんだ?」

「家事や掃除などの基本はもちろん、対応力をみます。とりあえず皆様にはお食事をいつも通り召し上がって頂ければ結構です」

 なるほど、前にやっていた食事会みたいなもんだな。

 簡単な説明が終わるとエレナさんはキャレットさんを連れ、バトラさんと共に食事を運んできた。

「キャレットの来訪を祝し、乾杯!」

 ギルバートさんの合図によりキャレットさんの試験は開始された。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】底辺冒険者の相続 〜昔、助けたお爺さんが、実はS級冒険者で、その遺言で七つの伝説級最強アイテムを相続しました〜

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 試験雇用中の冒険者パーティー【ブレイブソード】のリーダーに呼び出されたウィルは、クビを宣言されてしまう。その理由は同じ三ヶ月の試験雇用を受けていたコナーを雇うと決めたからだった。  ウィルは冒険者になって一年と一ヶ月、対してコナーは冒険者になって一ヶ月のド新人である。納得の出来ないウィルはコナーと一対一の決闘を申し込む。  その後、なんやかんやとあって、ウィルはシェフィールドの町を出て、実家の農家を継ぐ為に乗り合い馬車に乗ることになった。道中、魔物と遭遇するも、なんやかんやとあって、無事に生まれ故郷のサークス村に到着した。  無事に到着した村で農家として、再出発しようと考えるウィルの前に、両親は半年前にウィル宛てに届いた一通の手紙を渡してきた。  手紙内容は数年前にウィルが落とし物を探すのを手伝った、お爺さんが亡くなったことを知らせるものだった。そして、そのお爺さんの遺言でウィルに渡したい物があるから屋敷があるアポンタインの町に来て欲しいというものだった。  屋敷に到着したウィルだったが、彼はそこでお爺さんがS級冒険者だったことを知らされる。そんな驚く彼の前に、伝説級最強アイテムが次々と並べられていく。 【聖龍剣・死喰】【邪龍剣・命喰】【無限収納袋】【透明マント】【神速ブーツ】【賢者の壺】【神眼の指輪】  だが、ウィルはもう冒険者を辞めるつもりでいた。そんな彼の前に、お爺さんの孫娘であり、S級冒険者であるアシュリーが現れ、遺産の相続を放棄するように要求してきた。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪
ファンタジー
 平凡な商人の息子として生まれたレオスは、無限収納できるカバンを持つという理由で、悪逆非道な大魔王を倒すべく旅をしている勇者パーティに半ば拉致されるように同行させられてしまう。  いよいよ大魔王との決戦。しかし大魔王の力は脅威で、勇者も苦戦しあわや全滅かというその時、レオスは前世が悪神であったことを思い出す――  そしてめでたく大魔王を倒したものの「商人が大魔王を倒したというのはちょっと……」という理由で、功績を与えられず、お金と骨董品をいくつか貰うことで決着する。だが、そのお金は勇者装備を押し付けられ巻き上げられる始末に……  「はあ……とりあえず家に帰ろう……この力がバレたらどうなるか分からないし、なるべく目立たず、ひっそりしないとね……」  悪神の力を取り戻した彼は無事、実家へ帰ることができるのか?  八神 凪、作家人生二周年記念作、始動!  ※表紙絵は「茜328」様からいただいたファンアートを使用させていただきました! 素敵なイラストをありがとうございます!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ

ボケ猫
ファンタジー
日々、異世界などの妄想をする、アラフォーのテツ。 ある日突然、この世界のシステムが、魔法やレベルのある世界へと変化。 夢にまで見たシステムに大喜びのテツ。 そんな中、アラフォーのおっさんがレベルを上げながら家族とともに新しい世界を生きていく。 そして、世界変化の一因であろう異世界人の転移者との出会い。 新しい世界で、新たな出会い、関係を構築していこうとする物語・・・のはず・・。

処理中です...