エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬

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117話 ミレイユサイド

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 数年前、ミレイユは情報が錯綜するなか胸騒ぎがしてある村へと走っていた。

 何事もなければそれでいい。【紅蓮の風】はそこらの連中よりも強い、自分一人がいって無駄足だったで済めばそれ以上のことはないだろう。

 ミレイユは森の中を一人走り続け、開けた場所へ出た瞬間息を呑んだ。

 小さな村だが家は全て破壊され、道端や畑に人が倒れている。長年戦いの場に身を置いてきた勘が生き残りはいないことを知らせていた。

 何か手掛かりの一つでも……そう思い辺りを探っていると、全壊した家の前で一人の少年が座り込んでいた。

 倒れたまま動かない女の子を抱き、手には一握りの薬草を持っている。

 そこで初めてミレイユはあるべきものがないことに気付いた。

 薬が全て奪われている……。この少年が持っている薬草も偶然どこかで見つけたものだったのだろう。

 静かに声をかけると、まだ女の子には体温が残っており、この少年が見つけたときはまだ生きていた可能性を物語っていた。

 幸いにも少年は傷を一つも負っておらず、ミレイユは村人の墓を作り少年を保護することにした。

 ――――

 ――

「村の唯一の生き残り、それがリッツよ」

「…………ようやくわかりました。父と母が最後まで言っていた「辛くなったら逃げなさい。使命も役目もすべて捨ててどこか遠くへ」という言葉……リッツ様は無理に受け止めようとした、だから壊れたんですね」

 ニエの言葉にミレイユは深く溜め息をつく。

「その通りよ。私が異変に気づいたのはリッツを保護して数ヵ月後、街に行ったときだった。定時報告を受けていると強盗に襲われた少女を庇って少年が刺されたって聞いてね。大急ぎで向かってみたら、短剣を持った強盗の前にリッツが血まみれで立っていたの。服には何ヶ所も刺された跡があったわ」

「リッツ様の身体にはほとんど古傷がなかったように見えましたが……」

「リッツは、私が念のためにと渡しておいた回復薬を飲みながら少女を守っていたのよ。なんでこんなことをしたのか聞いたらなんて言ったと思う? 傷は治りますからって、きっと本人は死のうと思ってるわけじゃない、だけどこのままだと死んでしまう。だから私はリッツを鍛えることにしたの。壊れた心は治せない、ならばそれに負けない心と身体を作ろうと」

「リッツ様はとても素晴らしい師匠に出会えたんですね」

「初めはあのとき間に合っていればという罪悪感からだったわ。心配になった私はリッツに復讐したいか聞いたときもあったけど、師匠が悲しむから俺はやりませんって、ちょっと強くなって調子に乗ってた頃ね」

「ふふふ、昔からあまり変わってないのかもしれません」

 しばらく話が続くとミレイユは座っているニエの手を取り自分の手を重ねた。

「遅くなったけど、死ぬはずだったリッツを助けてくれてありがとう」

「あれは【予知夢】で視えてただけなんです」

「独りでも使命に立ち向かったからこそ、リッツが助かる未来を視ることができた。そう捉えてもいいんじゃない? そして、あなたには自分自身のためだけに生きる権利もある」

「権利……ですか?」

「そ、あなたにはあなたの人生があって、本気になれば使命なんて放棄できたのよ。あなたは使命に付き合ってあげてるだけ、これからは少しくらい自分の道を歩んでも罰は当たらないわ。これからの人生でやりたいこと、何か考えてることはある?」

「…………私、リッツ様ともっと一緒にいたいんです。ずっと、ずーっと一緒にいて、いろんなことをして……でも恐いんです。いつか、いなくなる日が視えたらって思うと恐くて……それが不安で……」

 ミレイユはニエの眼から流れる涙を拭くと頭を撫でる。

「今まで頑張ったわね。これからはみんなついてる、あなたはもう一人じゃないわ」

 顔を覆って涙を流すニエをミレイユはそっと慰めた。





「師匠~そろそろご飯……ってニエ、どうしたんだ!? 師匠にいじめられたのか!?」

「リッツ様、これは、そのっ」

「リッツ、ニエちゃんのファーストキスを奪っておいてどういうつもりよ?」

「へっ? 俺そんなことした覚えないんですけど、いつも襲われそうになってるし」

「リッツ様、あんなに激しかったのに覚えてないんですか。まぁ瀕死でしたから覚えていないのも仕方ありませんけど」

「瀕死……ってあのときかよ! あれは違――うのか? いや、でもキスといえばそうなっちゃうような……ていうかそうなると俺の初めても……」

「さてと、そろそろご飯に行きましょう。ここは美味しいから期待していいわよ」

「やったー! アンジェロ、いっぱい食べよー!」

「ワフッ!」

「えっ、あ、ちょっと俺の初めてってぇ!?」
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