エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬

文字の大きさ
上 下
113 / 150

113話

しおりを挟む
 宝石を預けてから数日間、俺と親方は黙々と作業をしていた。

 聖人という立場である俺からの依頼のせいか、通常の業務はほかの鍛冶師たちでなんとか回しており、親方は一人完全に集中して作業をしている。

 それに触発され、俺も髪飾りを仕上げていく。

「ふぅ……やっとできた……」

 アンジェロの特徴的な耳に少し間の抜けたような顔――日を跨いでみたときは、なんだこれはと思ったが、完成してみれば立派なアンジェロだ。

 鍛冶体験という初めての挑戦だったがどうにか形にすることはできた。しかし、ここまで大変だったとはな。

 繊細な力加減に集中力、そして大事なのが圧倒的センス、芸術に関してはまったくダメな俺にはこれ以上無理だ。

 俺が作ってくれたという意味では喜んでくれるだろうが、いざプレゼントということを考えてしまうと落ち着かないものだな。

 ソワソワした気分でもう少し手を加えようか悩んでいると親方が手を止めた。

「おい、できたぞ」

「ッ!!」

 俺は親方の下へ走った。

 置かれていたネックレスの中心には、小さな球体に包まれた宝石があり、決して派手ではない。だがよく見ると宝石を包んでいる部分や細部に至るまで草花が描かれている。まるでその草花の代表が世界樹の葉となってるような感じだ。

「ど、どうだ? ちょっと地味すぎるか? もう少し派手にしたほうがいいとも思ったんだがそうすると――」

「完璧ですよ、これならいいプレゼントになります!」

「本当か? それならよかったんだが……」

 やはり親方の腕は間違いなかった。ただ単にここまでの技術を必要とするよりも、目に見えて手軽な宝石をとるというのが流行ってしまっていただけなのだ。

「これから忙しくなるかもしれませんけど大丈夫ですか? もっと自信ある振る舞いをしないといけませんよ」

「いくら聖人様の依頼っていっても、そんな急に客が増えるわけないだろ」

「言ってませんでしたけど、これは俺の師匠でもある『紅蓮の風』の団長に送るんです」

「なっ、嘘だろ!?」

「聖人の依頼で『紅蓮の風』の団長へのプレゼントを製作、いやーこれで親方も有名人ですね!」

「お、おめぇハメやがったな……」

「お爺さんもきっとこうなるってわかってたんですよ。さて、値段ですけどこのくらいでどうでしょうか?」

 俺は金貨十枚を出すと親方は大慌てで両手を振った。

「と、とんでもねぇ! こんな料金、どこの店でも取らねぇよ!」

「だからです、親方の腕は間違いない。だけどそれを安売りしてしまえばこの国一番は名乗れない。これからは親方が客を選び、腕を振るってその期待に応えるんです。これはそれまでの下準備金だとでも思ってください」

 せっかくのチャンスをものにしてほしいからな、少し強引だがこれで大丈夫だろう。

 なんとか説得させるとネックレスと髪留めをしまい親方に礼をいって鍛冶場を後にした。







「リッツ様、おかえりなさい!」

「ただいま~って、また一人で待ってたのか?」

「今は屋敷に誰もいませんから。リッツ様を出迎えるのがお仕事です!」

「そりゃあ助かるが何もこんなところにいなくても……」

 屋敷の中にでも入ってればいいのにと思っているとハリスがやってくる。

「これはリッツ様、おかえりなさいませ」

「ハリスさん、ちょうど今リッツ様が帰ってきたところです! ほかには何もありませんでした!」

「ニエ様、ありがとうございました。別棟もほぼ完成に近づいてきたのであとは大丈夫です」

「ん? ニエに何か頼んでたのか?」

「えぇ、ニエ様が何か力になれることがあればと仰られまして、私が裏に行ってる間の番をお願い致しておりました。おかげで大変作業も捗りまして」

 ニエが自分からとは珍しいが、まぁ外に目を向け始めたというのはいいことだ。

「リッツ様、今日は冷えるので温かいお茶を準備してます。いかがですか?」

「お、そりゃあいい。ハリスも一緒にどうだ?」

「それは是非ともご一緒致します。こう冷え込むとなかなか骨身に沁みましてねぇ」

「はっはっは、まだまだハリスには元気でいてもらわなくちゃな」

 屋敷に入りゆっくりと三人でお茶を飲んでいるとリヤンたちが戻ってくる。なんだかんだみんなでお茶飲みを始めてしまったため少し遅めの夕食となった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

魔王

覧都
ファンタジー
勇者は、もう一人の勇者と、教団の策略により人間の世界では不遇だった。 不遇の勇者は、人生のリセットすることを選び、魔王となる。 魔王になったあとは、静かに家族と暮らします。 静かに暮らす魔王に、再び教団の魔の手が伸びます。 家族として暮らしていた娘を、教団に拉致されたのです。 魔王はその救出を決意し……。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

処理中です...