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113話
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宝石を預けてから数日間、俺と親方は黙々と作業をしていた。
聖人という立場である俺からの依頼のせいか、通常の業務はほかの鍛冶師たちでなんとか回しており、親方は一人完全に集中して作業をしている。
それに触発され、俺も髪飾りを仕上げていく。
「ふぅ……やっとできた……」
アンジェロの特徴的な耳に少し間の抜けたような顔――日を跨いでみたときは、なんだこれはと思ったが、完成してみれば立派なアンジェロだ。
鍛冶体験という初めての挑戦だったがどうにか形にすることはできた。しかし、ここまで大変だったとはな。
繊細な力加減に集中力、そして大事なのが圧倒的センス、芸術に関してはまったくダメな俺にはこれ以上無理だ。
俺が作ってくれたという意味では喜んでくれるだろうが、いざプレゼントということを考えてしまうと落ち着かないものだな。
ソワソワした気分でもう少し手を加えようか悩んでいると親方が手を止めた。
「おい、できたぞ」
「ッ!!」
俺は親方の下へ走った。
置かれていたネックレスの中心には、小さな球体に包まれた宝石があり、決して派手ではない。だがよく見ると宝石を包んでいる部分や細部に至るまで草花が描かれている。まるでその草花の代表が世界樹の葉となってるような感じだ。
「ど、どうだ? ちょっと地味すぎるか? もう少し派手にしたほうがいいとも思ったんだがそうすると――」
「完璧ですよ、これならいいプレゼントになります!」
「本当か? それならよかったんだが……」
やはり親方の腕は間違いなかった。ただ単にここまでの技術を必要とするよりも、目に見えて手軽な宝石をとるというのが流行ってしまっていただけなのだ。
「これから忙しくなるかもしれませんけど大丈夫ですか? もっと自信ある振る舞いをしないといけませんよ」
「いくら聖人様の依頼っていっても、そんな急に客が増えるわけないだろ」
「言ってませんでしたけど、これは俺の師匠でもある『紅蓮の風』の団長に送るんです」
「なっ、嘘だろ!?」
「聖人の依頼で『紅蓮の風』の団長へのプレゼントを製作、いやーこれで親方も有名人ですね!」
「お、おめぇハメやがったな……」
「お爺さんもきっとこうなるってわかってたんですよ。さて、値段ですけどこのくらいでどうでしょうか?」
俺は金貨十枚を出すと親方は大慌てで両手を振った。
「と、とんでもねぇ! こんな料金、どこの店でも取らねぇよ!」
「だからです、親方の腕は間違いない。だけどそれを安売りしてしまえばこの国一番は名乗れない。これからは親方が客を選び、腕を振るってその期待に応えるんです。これはそれまでの下準備金だとでも思ってください」
せっかくのチャンスをものにしてほしいからな、少し強引だがこれで大丈夫だろう。
なんとか説得させるとネックレスと髪留めをしまい親方に礼をいって鍛冶場を後にした。
◇
「リッツ様、おかえりなさい!」
「ただいま~って、また一人で待ってたのか?」
「今は屋敷に誰もいませんから。リッツ様を出迎えるのがお仕事です!」
「そりゃあ助かるが何もこんなところにいなくても……」
屋敷の中にでも入ってればいいのにと思っているとハリスがやってくる。
「これはリッツ様、おかえりなさいませ」
「ハリスさん、ちょうど今リッツ様が帰ってきたところです! ほかには何もありませんでした!」
「ニエ様、ありがとうございました。別棟もほぼ完成に近づいてきたのであとは大丈夫です」
「ん? ニエに何か頼んでたのか?」
「えぇ、ニエ様が何か力になれることがあればと仰られまして、私が裏に行ってる間の番をお願い致しておりました。おかげで大変作業も捗りまして」
ニエが自分からとは珍しいが、まぁ外に目を向け始めたというのはいいことだ。
「リッツ様、今日は冷えるので温かいお茶を準備してます。いかがですか?」
「お、そりゃあいい。ハリスも一緒にどうだ?」
「それは是非ともご一緒致します。こう冷え込むとなかなか骨身に沁みましてねぇ」
「はっはっは、まだまだハリスには元気でいてもらわなくちゃな」
屋敷に入りゆっくりと三人でお茶を飲んでいるとリヤンたちが戻ってくる。なんだかんだみんなでお茶飲みを始めてしまったため少し遅めの夕食となった。
聖人という立場である俺からの依頼のせいか、通常の業務はほかの鍛冶師たちでなんとか回しており、親方は一人完全に集中して作業をしている。
それに触発され、俺も髪飾りを仕上げていく。
「ふぅ……やっとできた……」
アンジェロの特徴的な耳に少し間の抜けたような顔――日を跨いでみたときは、なんだこれはと思ったが、完成してみれば立派なアンジェロだ。
鍛冶体験という初めての挑戦だったがどうにか形にすることはできた。しかし、ここまで大変だったとはな。
繊細な力加減に集中力、そして大事なのが圧倒的センス、芸術に関してはまったくダメな俺にはこれ以上無理だ。
俺が作ってくれたという意味では喜んでくれるだろうが、いざプレゼントということを考えてしまうと落ち着かないものだな。
ソワソワした気分でもう少し手を加えようか悩んでいると親方が手を止めた。
「おい、できたぞ」
「ッ!!」
俺は親方の下へ走った。
置かれていたネックレスの中心には、小さな球体に包まれた宝石があり、決して派手ではない。だがよく見ると宝石を包んでいる部分や細部に至るまで草花が描かれている。まるでその草花の代表が世界樹の葉となってるような感じだ。
「ど、どうだ? ちょっと地味すぎるか? もう少し派手にしたほうがいいとも思ったんだがそうすると――」
「完璧ですよ、これならいいプレゼントになります!」
「本当か? それならよかったんだが……」
やはり親方の腕は間違いなかった。ただ単にここまでの技術を必要とするよりも、目に見えて手軽な宝石をとるというのが流行ってしまっていただけなのだ。
「これから忙しくなるかもしれませんけど大丈夫ですか? もっと自信ある振る舞いをしないといけませんよ」
「いくら聖人様の依頼っていっても、そんな急に客が増えるわけないだろ」
「言ってませんでしたけど、これは俺の師匠でもある『紅蓮の風』の団長に送るんです」
「なっ、嘘だろ!?」
「聖人の依頼で『紅蓮の風』の団長へのプレゼントを製作、いやーこれで親方も有名人ですね!」
「お、おめぇハメやがったな……」
「お爺さんもきっとこうなるってわかってたんですよ。さて、値段ですけどこのくらいでどうでしょうか?」
俺は金貨十枚を出すと親方は大慌てで両手を振った。
「と、とんでもねぇ! こんな料金、どこの店でも取らねぇよ!」
「だからです、親方の腕は間違いない。だけどそれを安売りしてしまえばこの国一番は名乗れない。これからは親方が客を選び、腕を振るってその期待に応えるんです。これはそれまでの下準備金だとでも思ってください」
せっかくのチャンスをものにしてほしいからな、少し強引だがこれで大丈夫だろう。
なんとか説得させるとネックレスと髪留めをしまい親方に礼をいって鍛冶場を後にした。
◇
「リッツ様、おかえりなさい!」
「ただいま~って、また一人で待ってたのか?」
「今は屋敷に誰もいませんから。リッツ様を出迎えるのがお仕事です!」
「そりゃあ助かるが何もこんなところにいなくても……」
屋敷の中にでも入ってればいいのにと思っているとハリスがやってくる。
「これはリッツ様、おかえりなさいませ」
「ハリスさん、ちょうど今リッツ様が帰ってきたところです! ほかには何もありませんでした!」
「ニエ様、ありがとうございました。別棟もほぼ完成に近づいてきたのであとは大丈夫です」
「ん? ニエに何か頼んでたのか?」
「えぇ、ニエ様が何か力になれることがあればと仰られまして、私が裏に行ってる間の番をお願い致しておりました。おかげで大変作業も捗りまして」
ニエが自分からとは珍しいが、まぁ外に目を向け始めたというのはいいことだ。
「リッツ様、今日は冷えるので温かいお茶を準備してます。いかがですか?」
「お、そりゃあいい。ハリスも一緒にどうだ?」
「それは是非ともご一緒致します。こう冷え込むとなかなか骨身に沁みましてねぇ」
「はっはっは、まだまだハリスには元気でいてもらわなくちゃな」
屋敷に入りゆっくりと三人でお茶を飲んでいるとリヤンたちが戻ってくる。なんだかんだみんなでお茶飲みを始めてしまったため少し遅めの夕食となった。
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