111 / 150
111話
しおりを挟む
小さな丸い髪留めが出来上がると掲げて光に当てる。反射した面にはニコニコ顔、それに可愛らしい犬の耳、アンジェロをイメージしただけあってなかなかの力作だ。
「親方、どうでしょうか!」
「あ、あぁ、いいんじゃないか。犬……だよな?」
さすが親方の指導だけあって素人だった俺もここまで腕を上げることができた。
最初は力加減がわからず土台ごと破壊してしまったり色々と迷惑をかけたが、鍛冶体験という名目のため親方は許してくれた。
ちゃんと弁償はさせてもらったけどね。
あれから色々調べてみたがこの国一番の鍛冶師というのは間違いなくこの人だった。『紅蓮の風』のみんなにも親方が作ったものを見てもらったが、ほかの店の量産品と違ってすべて手作りのためか精度が高いと評判が良かった。
そもそも軍事国家でもないこの国でここまでの物を作り上げられるのがすごいのだ。
あとはどうやって自信を持たせるかだが――。
「親方、一つ聞きますけどこの国で一番の鍛冶師って、何をもって一番なんでしょう」
「そりゃあ――なんだろうな……」
「そもそも一番ってのは誰かが決めた基準だと思うんです。例えばこの髪留め、言うのもなんですが俺が作った時点で連れは一番だと言ってくれるでしょう。親方がどれほどいいものを作ったとしてもです」
「それは、仕方ないだろう。誰にとっても一番ってのはあるもんだ」
「それですよ、お爺さんにとっては親方が一番の鍛冶師なんです。だからもっと自信を持ってください。それとも、いちいちお爺さんに聞かなきゃダメなんですか?」
半ば強引に、少し子供扱いするようにいうと親方は少しムッとして口を開いた。
「そ、そんなことはねぇよ!」
「じゃあ宝石の件は任せます。俺はこの髪留めを仕上げるのでもう少し通いますから!」
俺は親方に宝石を渡して屋敷に戻った。
◇
「リッツ様、おかえりなさい!」
「ただいま~裏のほうはどう?」
「結局みんな手を出したくなっちゃったみたいで、予定よりも早くできそうですよ」
「なんだかんだジッとしてられない人たちばかりだからなぁ。ま、ハリスが見てくれてるし大丈夫だろう。完成を楽しみに待つとするよ」
別棟に関しては完全にハリスに任せている。人も雇ってはいるが、配置やサイズに関しては知識が多いウェッジさんが担当している。
師匠が忙しくて鍛錬ができない分、団員は木材運搬など建築の手伝いをしろと言われたが、全員大喜びだった。
もちろん建築の仕事を奪うわけにはいかないのであくまで手伝い、しかし一番時間のかかる力仕事の大半を解決したため作業は驚くほど早く進んでいた。
「あの、まだ出かけるときはご一緒してはいけませんか?」
「師匠へのプレゼントが出来上がれば終わりだから、もう少し待っててくれ」
「わかりました。最近あまり一緒にいられないのが寂しいですね」
「人も増えてきたしアンジェロも友達ができたからな。ニエも俺だけじゃなくてみんなと話でもしたらどうだ? 教会にいけば子供たちやシスターも歓迎してくれるぞ」
「私は…………。そうですね、もう少し周りの方々ともお話してみようと思います」
ニエは笑顔をつくったがほんの少しだけ目を伏せた。
少し冷たいようだが少しは俺から離れてもいいと思う。いくら使命だと言ってもニエにだって自由になってほしい。
もっと広い視野で世界を見ることができれば、恋をしたりやりたいこともみつかると思う。
「なぁ、ニエはもう少し自由に生きていいと思うぞ。使命があると言いたいんだろうけど、俺は協力するし別にずっと一緒である必要だってないんだ。もっと自分の人生を生きてみたらどうだ?」
「……そうですね……。そうだ、今日の夕食当番は私ですが、何か希望はありますか」
「お、それなら久しぶりにおにぎりを頼む。食べやすいし好きなんだよな」
「それなら少し変わった焼きおにぎりというのがあります。リッツ様もきっと気に入るかと!」
「あれを焼くのか? よくわからないが、ニエがいうなら美味いんだろうな~」
「はい、間違いありません!」
俺たちはみんなが戻ってくるまで夕飯の準備を進めることにした。
「親方、どうでしょうか!」
「あ、あぁ、いいんじゃないか。犬……だよな?」
さすが親方の指導だけあって素人だった俺もここまで腕を上げることができた。
最初は力加減がわからず土台ごと破壊してしまったり色々と迷惑をかけたが、鍛冶体験という名目のため親方は許してくれた。
ちゃんと弁償はさせてもらったけどね。
あれから色々調べてみたがこの国一番の鍛冶師というのは間違いなくこの人だった。『紅蓮の風』のみんなにも親方が作ったものを見てもらったが、ほかの店の量産品と違ってすべて手作りのためか精度が高いと評判が良かった。
そもそも軍事国家でもないこの国でここまでの物を作り上げられるのがすごいのだ。
あとはどうやって自信を持たせるかだが――。
「親方、一つ聞きますけどこの国で一番の鍛冶師って、何をもって一番なんでしょう」
「そりゃあ――なんだろうな……」
「そもそも一番ってのは誰かが決めた基準だと思うんです。例えばこの髪留め、言うのもなんですが俺が作った時点で連れは一番だと言ってくれるでしょう。親方がどれほどいいものを作ったとしてもです」
「それは、仕方ないだろう。誰にとっても一番ってのはあるもんだ」
「それですよ、お爺さんにとっては親方が一番の鍛冶師なんです。だからもっと自信を持ってください。それとも、いちいちお爺さんに聞かなきゃダメなんですか?」
半ば強引に、少し子供扱いするようにいうと親方は少しムッとして口を開いた。
「そ、そんなことはねぇよ!」
「じゃあ宝石の件は任せます。俺はこの髪留めを仕上げるのでもう少し通いますから!」
俺は親方に宝石を渡して屋敷に戻った。
◇
「リッツ様、おかえりなさい!」
「ただいま~裏のほうはどう?」
「結局みんな手を出したくなっちゃったみたいで、予定よりも早くできそうですよ」
「なんだかんだジッとしてられない人たちばかりだからなぁ。ま、ハリスが見てくれてるし大丈夫だろう。完成を楽しみに待つとするよ」
別棟に関しては完全にハリスに任せている。人も雇ってはいるが、配置やサイズに関しては知識が多いウェッジさんが担当している。
師匠が忙しくて鍛錬ができない分、団員は木材運搬など建築の手伝いをしろと言われたが、全員大喜びだった。
もちろん建築の仕事を奪うわけにはいかないのであくまで手伝い、しかし一番時間のかかる力仕事の大半を解決したため作業は驚くほど早く進んでいた。
「あの、まだ出かけるときはご一緒してはいけませんか?」
「師匠へのプレゼントが出来上がれば終わりだから、もう少し待っててくれ」
「わかりました。最近あまり一緒にいられないのが寂しいですね」
「人も増えてきたしアンジェロも友達ができたからな。ニエも俺だけじゃなくてみんなと話でもしたらどうだ? 教会にいけば子供たちやシスターも歓迎してくれるぞ」
「私は…………。そうですね、もう少し周りの方々ともお話してみようと思います」
ニエは笑顔をつくったがほんの少しだけ目を伏せた。
少し冷たいようだが少しは俺から離れてもいいと思う。いくら使命だと言ってもニエにだって自由になってほしい。
もっと広い視野で世界を見ることができれば、恋をしたりやりたいこともみつかると思う。
「なぁ、ニエはもう少し自由に生きていいと思うぞ。使命があると言いたいんだろうけど、俺は協力するし別にずっと一緒である必要だってないんだ。もっと自分の人生を生きてみたらどうだ?」
「……そうですね……。そうだ、今日の夕食当番は私ですが、何か希望はありますか」
「お、それなら久しぶりにおにぎりを頼む。食べやすいし好きなんだよな」
「それなら少し変わった焼きおにぎりというのがあります。リッツ様もきっと気に入るかと!」
「あれを焼くのか? よくわからないが、ニエがいうなら美味いんだろうな~」
「はい、間違いありません!」
俺たちはみんなが戻ってくるまで夕飯の準備を進めることにした。
21
お気に入りに追加
1,441
あなたにおすすめの小説
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる