106 / 150
106話
しおりを挟む
「リ、リッツさん、こちらの方々は……」
「ウムトと、妹のリヤンだ。話せば長くなるが【ザーフニーゼン】に行ったときリヤンと偶然出会ってね。色々話を聞いてみたら、実は二人が兄妹だったことがわかって、先日ウムトとも会って仲良くなったんだ」
「あのときのー……方ですよね?」
そうですね、俺を殺しにきた方々です。
二人に手のひらを向け笑顔を引き攣らせているティーナに笑顔で返すと、ウムトとリヤンは頭を下げた。
「その節は大変ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。リッツさんのおかげで妹と再会できたとはいえ、僕がしてしまったことを許してもらおうなどとは思っていません。気分を害したのであればすぐに出て行きます」
「えっ、あ、いや――」
ウムトの丁寧な謝罪にティーナがあたふたしているとエレナさんが静かに溜め息をつく。
「お嬢様、船以上のことはないだろうとお伝えしましたが、どうやら外れたみたいです」
「そ、そうですね……リッツさんは常に予想を超えてくるというか……。と、とりあえず皆さんお座りください」
いずれはティーナにも呪いを解く手伝いをしてもらう必要がある。少し長くなるがちゃんと説明しておこう。
――――
――
「正直、俺は二人の過去についてとやかく言うつもりはないし、今回の騒動だってすべてがウムト一人のせいだとは思わない。被害がなかったとは言えないが、逆にいえばこれで済んでよかったともいえるんじゃないかと思う」
「それはそうですが……もしニエさんがいなければ死んでいたんですよ? 結果的に助かったとはいえ、さすがにそれだけで相手を信用するのは……」
「それを言ったら元も子もないよ。すべてを水に流せというつもりはないけど、こうしてみんなで顔を合わせることができたんだ。これを教訓にしていくしかないと俺は思うんだ」
ティーナは口を尖らせたがこればかりはしょうがないだろう。
「お嬢様、リッツさんは過去に縛られたままでは視野が狭くなると仰っているのです。お気持ちもわかりますが、今は事が良い方向に進みだしたと考えてもよろしいのでは?」
「……そうですね。私たちがこうして暮らせているのもリッツさんのおかげですし」
ティーナが自分に言い聞かせるように何度も頷くとエレナさんは微笑んだ。
「それとな、ティーナにもう一人紹介したい奴がいるんだ」
「えっ、どなたでしょうか?」
「いきなり部屋に入れる訳にもいかなかったから庭でニエと待ってるよ」
庭に出るとニエとアンジェロが遊んでおり、片隅ではあの真っ黒な神獣が礼儀正しく座っていた。
ウムトが呼ぶと神獣はこちらに来て手前で止まった。
「ティーナさんはアンジェロの名づけ親だと聞きました。よろしければこの子にも名を付けてやってはくれませんか?」
「ええぇっ!? わ、私がですか!?」
「どうやらアンジェロをみてこいつも名前がほしくなったみたいなんだよ。是非とも名前をつけてやってくれ。今後の友好の証にもなるし、ほら、こいつだって楽しみにしてるぞ」
神獣の顔はキリッとしたままだが尻尾はぶんぶんだ。
「わ、わかりました。少し考えさせてください」
「急がなくていいからな、俺たちはその辺でのんびりしてるよ」
ティーナは俺に応えることなく握った手を顎に当てた。大丈夫ですというようにエレナさんが頷くと俺たちはニエとアンジェロの下に向かった。
「みなさーん、決まりましたー!」
アンジェロのときもそうだったがティーナは動物に好かれやすいようだ。
こちらに走るティーナの横では神獣が小まめにティーナのほうを見ながら走っていた。
「なんていう名前にしたんだ?」
「トリスタンです! 騎士という意味があって、もしかしたらずっとウムトさんを守り続けてきたんじゃないかなと思い……どうでしょうか?」
ティーナの横にいた神獣はウムトの下に行くとジッと見つめた。
「トリスタンか、素敵な名前をもらったね。これからもよろしく頼むよ」
「ワンッ!」
アンジェロに続きトリスタン、なかなか癖のある名前のような気もするが、意味もちゃんと考えてくれてるしさすがだな。
おかげでティーナ自身もウムトたちに対する警戒がだいぶ薄れたようだし、あとは時間を掛けてゆっくり仲良くなってもらおう。
「ウムトと、妹のリヤンだ。話せば長くなるが【ザーフニーゼン】に行ったときリヤンと偶然出会ってね。色々話を聞いてみたら、実は二人が兄妹だったことがわかって、先日ウムトとも会って仲良くなったんだ」
「あのときのー……方ですよね?」
そうですね、俺を殺しにきた方々です。
二人に手のひらを向け笑顔を引き攣らせているティーナに笑顔で返すと、ウムトとリヤンは頭を下げた。
「その節は大変ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。リッツさんのおかげで妹と再会できたとはいえ、僕がしてしまったことを許してもらおうなどとは思っていません。気分を害したのであればすぐに出て行きます」
「えっ、あ、いや――」
ウムトの丁寧な謝罪にティーナがあたふたしているとエレナさんが静かに溜め息をつく。
「お嬢様、船以上のことはないだろうとお伝えしましたが、どうやら外れたみたいです」
「そ、そうですね……リッツさんは常に予想を超えてくるというか……。と、とりあえず皆さんお座りください」
いずれはティーナにも呪いを解く手伝いをしてもらう必要がある。少し長くなるがちゃんと説明しておこう。
――――
――
「正直、俺は二人の過去についてとやかく言うつもりはないし、今回の騒動だってすべてがウムト一人のせいだとは思わない。被害がなかったとは言えないが、逆にいえばこれで済んでよかったともいえるんじゃないかと思う」
「それはそうですが……もしニエさんがいなければ死んでいたんですよ? 結果的に助かったとはいえ、さすがにそれだけで相手を信用するのは……」
「それを言ったら元も子もないよ。すべてを水に流せというつもりはないけど、こうしてみんなで顔を合わせることができたんだ。これを教訓にしていくしかないと俺は思うんだ」
ティーナは口を尖らせたがこればかりはしょうがないだろう。
「お嬢様、リッツさんは過去に縛られたままでは視野が狭くなると仰っているのです。お気持ちもわかりますが、今は事が良い方向に進みだしたと考えてもよろしいのでは?」
「……そうですね。私たちがこうして暮らせているのもリッツさんのおかげですし」
ティーナが自分に言い聞かせるように何度も頷くとエレナさんは微笑んだ。
「それとな、ティーナにもう一人紹介したい奴がいるんだ」
「えっ、どなたでしょうか?」
「いきなり部屋に入れる訳にもいかなかったから庭でニエと待ってるよ」
庭に出るとニエとアンジェロが遊んでおり、片隅ではあの真っ黒な神獣が礼儀正しく座っていた。
ウムトが呼ぶと神獣はこちらに来て手前で止まった。
「ティーナさんはアンジェロの名づけ親だと聞きました。よろしければこの子にも名を付けてやってはくれませんか?」
「ええぇっ!? わ、私がですか!?」
「どうやらアンジェロをみてこいつも名前がほしくなったみたいなんだよ。是非とも名前をつけてやってくれ。今後の友好の証にもなるし、ほら、こいつだって楽しみにしてるぞ」
神獣の顔はキリッとしたままだが尻尾はぶんぶんだ。
「わ、わかりました。少し考えさせてください」
「急がなくていいからな、俺たちはその辺でのんびりしてるよ」
ティーナは俺に応えることなく握った手を顎に当てた。大丈夫ですというようにエレナさんが頷くと俺たちはニエとアンジェロの下に向かった。
「みなさーん、決まりましたー!」
アンジェロのときもそうだったがティーナは動物に好かれやすいようだ。
こちらに走るティーナの横では神獣が小まめにティーナのほうを見ながら走っていた。
「なんていう名前にしたんだ?」
「トリスタンです! 騎士という意味があって、もしかしたらずっとウムトさんを守り続けてきたんじゃないかなと思い……どうでしょうか?」
ティーナの横にいた神獣はウムトの下に行くとジッと見つめた。
「トリスタンか、素敵な名前をもらったね。これからもよろしく頼むよ」
「ワンッ!」
アンジェロに続きトリスタン、なかなか癖のある名前のような気もするが、意味もちゃんと考えてくれてるしさすがだな。
おかげでティーナ自身もウムトたちに対する警戒がだいぶ薄れたようだし、あとは時間を掛けてゆっくり仲良くなってもらおう。
11
お気に入りに追加
1,440
あなたにおすすめの小説
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

最強の職業は付与魔術師かもしれない
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。
召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。
しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる――
※今月は毎日10時に投稿します。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる