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106話
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「リ、リッツさん、こちらの方々は……」
「ウムトと、妹のリヤンだ。話せば長くなるが【ザーフニーゼン】に行ったときリヤンと偶然出会ってね。色々話を聞いてみたら、実は二人が兄妹だったことがわかって、先日ウムトとも会って仲良くなったんだ」
「あのときのー……方ですよね?」
そうですね、俺を殺しにきた方々です。
二人に手のひらを向け笑顔を引き攣らせているティーナに笑顔で返すと、ウムトとリヤンは頭を下げた。
「その節は大変ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。リッツさんのおかげで妹と再会できたとはいえ、僕がしてしまったことを許してもらおうなどとは思っていません。気分を害したのであればすぐに出て行きます」
「えっ、あ、いや――」
ウムトの丁寧な謝罪にティーナがあたふたしているとエレナさんが静かに溜め息をつく。
「お嬢様、船以上のことはないだろうとお伝えしましたが、どうやら外れたみたいです」
「そ、そうですね……リッツさんは常に予想を超えてくるというか……。と、とりあえず皆さんお座りください」
いずれはティーナにも呪いを解く手伝いをしてもらう必要がある。少し長くなるがちゃんと説明しておこう。
――――
――
「正直、俺は二人の過去についてとやかく言うつもりはないし、今回の騒動だってすべてがウムト一人のせいだとは思わない。被害がなかったとは言えないが、逆にいえばこれで済んでよかったともいえるんじゃないかと思う」
「それはそうですが……もしニエさんがいなければ死んでいたんですよ? 結果的に助かったとはいえ、さすがにそれだけで相手を信用するのは……」
「それを言ったら元も子もないよ。すべてを水に流せというつもりはないけど、こうしてみんなで顔を合わせることができたんだ。これを教訓にしていくしかないと俺は思うんだ」
ティーナは口を尖らせたがこればかりはしょうがないだろう。
「お嬢様、リッツさんは過去に縛られたままでは視野が狭くなると仰っているのです。お気持ちもわかりますが、今は事が良い方向に進みだしたと考えてもよろしいのでは?」
「……そうですね。私たちがこうして暮らせているのもリッツさんのおかげですし」
ティーナが自分に言い聞かせるように何度も頷くとエレナさんは微笑んだ。
「それとな、ティーナにもう一人紹介したい奴がいるんだ」
「えっ、どなたでしょうか?」
「いきなり部屋に入れる訳にもいかなかったから庭でニエと待ってるよ」
庭に出るとニエとアンジェロが遊んでおり、片隅ではあの真っ黒な神獣が礼儀正しく座っていた。
ウムトが呼ぶと神獣はこちらに来て手前で止まった。
「ティーナさんはアンジェロの名づけ親だと聞きました。よろしければこの子にも名を付けてやってはくれませんか?」
「ええぇっ!? わ、私がですか!?」
「どうやらアンジェロをみてこいつも名前がほしくなったみたいなんだよ。是非とも名前をつけてやってくれ。今後の友好の証にもなるし、ほら、こいつだって楽しみにしてるぞ」
神獣の顔はキリッとしたままだが尻尾はぶんぶんだ。
「わ、わかりました。少し考えさせてください」
「急がなくていいからな、俺たちはその辺でのんびりしてるよ」
ティーナは俺に応えることなく握った手を顎に当てた。大丈夫ですというようにエレナさんが頷くと俺たちはニエとアンジェロの下に向かった。
「みなさーん、決まりましたー!」
アンジェロのときもそうだったがティーナは動物に好かれやすいようだ。
こちらに走るティーナの横では神獣が小まめにティーナのほうを見ながら走っていた。
「なんていう名前にしたんだ?」
「トリスタンです! 騎士という意味があって、もしかしたらずっとウムトさんを守り続けてきたんじゃないかなと思い……どうでしょうか?」
ティーナの横にいた神獣はウムトの下に行くとジッと見つめた。
「トリスタンか、素敵な名前をもらったね。これからもよろしく頼むよ」
「ワンッ!」
アンジェロに続きトリスタン、なかなか癖のある名前のような気もするが、意味もちゃんと考えてくれてるしさすがだな。
おかげでティーナ自身もウムトたちに対する警戒がだいぶ薄れたようだし、あとは時間を掛けてゆっくり仲良くなってもらおう。
「ウムトと、妹のリヤンだ。話せば長くなるが【ザーフニーゼン】に行ったときリヤンと偶然出会ってね。色々話を聞いてみたら、実は二人が兄妹だったことがわかって、先日ウムトとも会って仲良くなったんだ」
「あのときのー……方ですよね?」
そうですね、俺を殺しにきた方々です。
二人に手のひらを向け笑顔を引き攣らせているティーナに笑顔で返すと、ウムトとリヤンは頭を下げた。
「その節は大変ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。リッツさんのおかげで妹と再会できたとはいえ、僕がしてしまったことを許してもらおうなどとは思っていません。気分を害したのであればすぐに出て行きます」
「えっ、あ、いや――」
ウムトの丁寧な謝罪にティーナがあたふたしているとエレナさんが静かに溜め息をつく。
「お嬢様、船以上のことはないだろうとお伝えしましたが、どうやら外れたみたいです」
「そ、そうですね……リッツさんは常に予想を超えてくるというか……。と、とりあえず皆さんお座りください」
いずれはティーナにも呪いを解く手伝いをしてもらう必要がある。少し長くなるがちゃんと説明しておこう。
――――
――
「正直、俺は二人の過去についてとやかく言うつもりはないし、今回の騒動だってすべてがウムト一人のせいだとは思わない。被害がなかったとは言えないが、逆にいえばこれで済んでよかったともいえるんじゃないかと思う」
「それはそうですが……もしニエさんがいなければ死んでいたんですよ? 結果的に助かったとはいえ、さすがにそれだけで相手を信用するのは……」
「それを言ったら元も子もないよ。すべてを水に流せというつもりはないけど、こうしてみんなで顔を合わせることができたんだ。これを教訓にしていくしかないと俺は思うんだ」
ティーナは口を尖らせたがこればかりはしょうがないだろう。
「お嬢様、リッツさんは過去に縛られたままでは視野が狭くなると仰っているのです。お気持ちもわかりますが、今は事が良い方向に進みだしたと考えてもよろしいのでは?」
「……そうですね。私たちがこうして暮らせているのもリッツさんのおかげですし」
ティーナが自分に言い聞かせるように何度も頷くとエレナさんは微笑んだ。
「それとな、ティーナにもう一人紹介したい奴がいるんだ」
「えっ、どなたでしょうか?」
「いきなり部屋に入れる訳にもいかなかったから庭でニエと待ってるよ」
庭に出るとニエとアンジェロが遊んでおり、片隅ではあの真っ黒な神獣が礼儀正しく座っていた。
ウムトが呼ぶと神獣はこちらに来て手前で止まった。
「ティーナさんはアンジェロの名づけ親だと聞きました。よろしければこの子にも名を付けてやってはくれませんか?」
「ええぇっ!? わ、私がですか!?」
「どうやらアンジェロをみてこいつも名前がほしくなったみたいなんだよ。是非とも名前をつけてやってくれ。今後の友好の証にもなるし、ほら、こいつだって楽しみにしてるぞ」
神獣の顔はキリッとしたままだが尻尾はぶんぶんだ。
「わ、わかりました。少し考えさせてください」
「急がなくていいからな、俺たちはその辺でのんびりしてるよ」
ティーナは俺に応えることなく握った手を顎に当てた。大丈夫ですというようにエレナさんが頷くと俺たちはニエとアンジェロの下に向かった。
「みなさーん、決まりましたー!」
アンジェロのときもそうだったがティーナは動物に好かれやすいようだ。
こちらに走るティーナの横では神獣が小まめにティーナのほうを見ながら走っていた。
「なんていう名前にしたんだ?」
「トリスタンです! 騎士という意味があって、もしかしたらずっとウムトさんを守り続けてきたんじゃないかなと思い……どうでしょうか?」
ティーナの横にいた神獣はウムトの下に行くとジッと見つめた。
「トリスタンか、素敵な名前をもらったね。これからもよろしく頼むよ」
「ワンッ!」
アンジェロに続きトリスタン、なかなか癖のある名前のような気もするが、意味もちゃんと考えてくれてるしさすがだな。
おかげでティーナ自身もウムトたちに対する警戒がだいぶ薄れたようだし、あとは時間を掛けてゆっくり仲良くなってもらおう。
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