エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬

文字の大きさ
上 下
103 / 150

103話

しおりを挟む
「火急の用だと聞いたが……。『紅蓮の風』まで揃って何事だ?」

「オズワルド王、申し訳ないが人払いをお願いしたい」

 シリウスの姿をしたシルエが言うと事情を察した王様は兵を外に待機させた。

 シルエは事の発端から【ヴェーダ】の壊滅、残党を追ったところで魔物の暴走が起き、あの場で戦ってくれた小隊の協力によって事なきを得た――と説明した。

 だって不死の人がやりましたなんていっても絶対ろくなことにならないし。

 小隊には極々稀に起きる魔物の連鎖反応だったと師匠からのありがたい一言で納得してもらった。

 まぁ、なんだかんだいっても彼らは命を賭けて戦ってくれたのだ。王様からはたっぷりと報酬を貰って頂こう。もちろん、貴族たちの職場放棄もしっかり伝えておくが。

「ふぅむ……一度ならず二度、いや三度目になるか。こうしてお主たちに助けられるとはな」

「今や何が起こるかわからぬ時代、我が王もこれを機に【エナミナル】との関係を更に深いものにしたいとお考えだ」

「確かに【ブレーオア】の現状がわからぬ今【カルサス】との関係を見直してもよいかもしれん、事が落ち着き次第すぐに使者を出そう」

 細かい話が終わると俺たちは船に戻った。

「リッツ様おかえりなさい!」

「ワフッ!」

「彼の様子はどう?」

「徐々に昔のことを思い出してるようですが、詳しいことは屋敷に戻ってからにしようと」

「それがいいだろうな。どれ、とっとと帰って休むとしよう」

 船に乗るとみんなが揃っているのを確認する。ウムトと神獣は静かに座っていた。

 リヤンもだったが穢れがなくなると人が変わったように落ち着くな……。本来の性格に戻るといったほうがいいのかもしれない。

「リッツ、私が先にシリウス様へ報告しておく。後日呼び出しあるだろうから来てくれ」

「……今回は色々あったし師匠のほうがいいんじゃないかな」

「私は【ブレーオア】の内情を探る必要があるからいけないわよ」

 師匠は妙に畏まっている神獣を嬉しそうにもふもふしている。上下関係がすでにできているようだ。

 俺は壁に寄りかかっていたウェッジさんに目をやった。

「ウェッジさん、暇ですよね?」

「アホ、団長やお前ならまだしも一般人がそう易々と王様に会っていいわけないだろ」

「そ、そんなぁ……っ」

 シルエにできるだけ説明をしておいてくれと頼み俺たちは屋敷に帰った。――そして、さっそく問題が発生した。

「なぜだリヤン! 昔はいつも一緒に寝ていただろう!?」

「兄さん、それは昔の話! 私たちはもう大人なの!」

「お、大人だって……!? 会わないうちにいったいどうしちゃったんだ」

「だからその話はあとでゆっくり――」

 ただでさえニエと俺が一緒の部屋で『紅蓮の風』には一部、相部屋でお願いしている状況だ。そこにウムトと神獣が加われば、すでに部屋が足りていないのは明白だった。

「仕方ない、ここは男同士、ウムトは俺と同じ部屋にしよう。君もそれでいい?」

 真っ黒な神獣に声をかけるとジッと俺をみたまま頷いた。隣ではアンジェロがウロウロしており、触ろうとしたりスンスンと鼻を近づけて落ち着きがない。

 アンジェロがわんぱくだとするとこっちはクールだな。

「この子は名前とかないのか」

「本来、守護者とは神獣に選ばれる側なの、だから名前を付けることなどしなかったわ。意志も伝わるし、どれかわからないなんてこともないからね」

 リヤンが説明するとウムトは俺とアンジェロをみた。

「リッツさんは神獣に名を付けているようですが大丈夫なのですか?」

「本人も喜んでるみたいだし別にいいかなって。それにアンジェロを拾ったときは神獣のことなんて全然知らなかったんだ。小さかったのがこの大きさに変わったときは驚いたけどね。ほら、アンジェロ戻ってみて」

「ワフッ」

 アンジェロが元の大きさに戻り駆け寄ってくると抱き上げる。

 前よりちょっと重いな。太っ……いや、成長したんだろう。

「こんなことができるんですか!?」

「その子もできるんじゃないのか」

 視線が集まった神獣は無理だと言わんばかりに首を横に振った。

「神獣は浄化以外にも、それぞれの守護者に合わせて成長するって言われてるし、個体によるのかもしれないわね」

「なるほど、もしかして名前を付けたおかげとか……そんな訳ないか」

 みんなでアンジェロとウムトの神獣を見ているとハリスがやってくる。

「リッツ様、私の部屋を空けますのでお使い頂いて構いません」

「ハリス、ありがたいがこれはこっちの都合だから気にしないでいいよ。むしろ色々と手を焼かせるかもしれないけど協力を頼む」

「かしこまりました。それでは部屋の割り当てはいかがなさいますか?」

「そうだな……ニエ、悪いがウムトの部屋ができるまでリヤンと一緒の部屋でお願いできるか?」

「なっ!?」

 驚くリヤンとは逆にニエは笑顔でしっかり頷いた。

「リッツ様のお願いならば仕方ありません。リヤンさん、しばしの間、一緒に寝ましょう!」

「ぬぅっ……し、仕方あるまい。リッツ、私が言えた身じゃないが部屋の確保を急いでくれ」

「あぁ、すまないがそれまで我慢してくれ。さてと、今日の夕飯はどうしたもんかなぁ」

 ファーデン家のように使用人が多ければ問題ないんだが、今までハリスとニエがメインで夕飯の支度をしてくれていたからな……。

 悩んでいると師匠とウェッジさんがやってくる。

「リッツ、俺たちは街に残ってくれた連中と一杯やってくるから気にしないでくれ。つうかそれくらいしてやらねぇと後が恐ぇからな」

「ということで私たちのことは気にしないで大丈夫よ。元々自分たちのことはできるんだから、あなたの負担にはならないわ」

 師匠とウェッジさんはそう言い残し街へ出掛けていった。

 もう少し使用人を雇うべきかなぁ……みんなとご飯が食べれれば楽しいだろうし。

「食事であれば私も手伝うぞ。積もり積もった恩を少しづつでも返さねばな」

「そう言ってもらえると助かるよ。それじゃハリスとニエも一緒に食事の支度を頼む」

「リヤンさん、一緒に頑張りましょうね!」

「これでもルガータの面倒をみてたからな。私の腕をみるがいい!」

「リヤン、いつの間に料理ができるようになったんだ!? 昔は僕が作ってあげてたのに!」

 ニエたちの方はいざとなればハリスもいるし大丈夫だろう。

「よし、そうと決まればウムト、俺たちは風呂の準備だ!」

「風呂? リッツさんの屋敷にはお風呂があるんですか?」

「あぁ、形はどうあれ最近は簡単に入れる時代なんだ。君もせっかくだから綺麗にしよう」

 真っ黒な神獣は小さいアンジェロ相手に片手で遊びながら頷き、地面を転がり遊んでいるアンジェロは帰ってくる前よりも汚れていた。

 こいつも洗おう……。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~

猫野 にくきゅう
ファンタジー
国を追放された聖女が、隣国で幸せになる。 ――おそらくは、そんな内容の小説に出てくる 『嫌われ役』の王子に、転生してしまったようだ。 俺と俺の暮らすこの国の未来には、 惨めな破滅が待ち構えているだろう。 これは、そんな運命を変えるために、 足掻き続ける俺たちの物語。

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ

犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...