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90話
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「そんじゃ俺たちは戻るからな」
「お前らの手柄だってことも伝えてやるから安心しろ」
二台の馬車が積み荷を替え終えると男は【ブレーオア】から来た馬車に乗り出発した。取り残された男性は恐る恐る男たちに声を掛ける。
「あ、あの……私はこれで解放されるんですか。妻と娘は――」
「あー!? んなこと知るかよ!」
「くそ、イライラしてきたぜ……。もうこいつは用済みだ。殺してもいいんじゃねぇのか」
「リモン様は逃げるようなら殺せっていったんだ」
「逃げたから仕方なく殺したってことにすりゃバレねぇよ!」
男がそういうと男性を見てナイフを取り出す。
「や、やめろッ! 私は逃げる気なんてない!」
「仕方ねぇ、お前の家族は俺たちが可愛がってやる」
「――それは無理だ。お前らが行くのは牢屋だからな」
「ッ!? てめぇ、なぜここにいる!」
俺の後に続きニエが出てくると男の一人が指差した。
「後ろの女、あのガキと同じ髪だ。聖人に女がいたとはな」
「噂には聞いてたが、こりゃあガキと同じで上玉じゃねぇか!」
「あーすまんがお前らに付き合ってる暇はないんだ。アンジェロ、やれ」
影が差すと上からアンジェロが降ってくる。男たちがアンジェロに倒されると俺は気絶した二人を手早く縛り馬車の中に放り込む。
「よし、これで完了っと」
「あの……家族は無事なんでしょうか」
「帰る頃には『リモン商会』は無くなってるよ。家族も護衛がついてるから安心してくれ」
「よかった……戻ったらすぐに自首します。聖人様、本当にありがとうございました」
「あぁ、こいつらを出すのも忘れずにな。それと――いや、なんでもない。気を付けてな」
男性は馬車を走らせ戻っていった。
「リッツ様、サプライズですね」
「彼だってある意味被害者だったんだ。少しくらい良いことがあっても罰は当たらないだろ。さ、俺たちも先を急ごう」
ここへ来る前、男性の奥さんが病と聞いていた俺は護衛に向かった『紅蓮の風』の団員にエリクサーを渡しておいた。
それにシリウスは真実を知ることができる。無罪とは言わないが、きっと刑も軽くしてくれるはずだ。
俺たちはアンジェロに乗ると【ブレーオア】に向かった馬車を追った。
◇
「お~なんだか懐かしいなぁ」
この国は城に続く街道すべてが整備され城下町もなかなかの規模がある。それもこれも先代の国王が残した素晴らしい功績なのだが、現国王はいったい何をしているのやら……。
「リッツ様はここで生まれ育ったのですね」
「…………俺は師匠に拾われてここへ来た。だから、生まれは違うんだ」
「そうだったのですか、失礼しました」
俺の気を察したのかニエは笑顔を残したままほんの少しだけ表情を曇らせた。
「悪いな、今度時間があったときにでも話すよ」
「無理に聞こうとは思っていません。リッツ様はリッツ様ですから――それより馬車が街道に入りました。どうやら城下町には行かないようですね」
森から街道に抜けた馬車は城とは真逆のほうへ走っていく。
「おっとそうだった。ここからは追う前に……これを上に着てくれ」
あらかじめ準備しておいた外装を取り出しニエに渡す。
「俺は追放された身だからどう噂されてるかわからない。注意して行動してくれ」
「でしたら呼ぶときの名も変えた方がよろしいでしょうか」
「それもそうだな、念のため変えておこう。なんでもいいから決めてくれ」
「うーん――それじゃあゴードンさんでいきましょう!」
……なんかすごいのがでてきたな。
「ちなみにそれは誰の名前?」
「リッツ様を探していたとき食事を分けてくださった旅の方がいたんです。その方がゴードンさんという名でした!」
めっちゃいい人じゃん、見直したぞゴードンさん。
「よし、それでいこう。アンジェロもその姿のときは人目につかないようにな」
「ワフッ」
さぁ、俺は今からゴードンさんだ!
「お前らの手柄だってことも伝えてやるから安心しろ」
二台の馬車が積み荷を替え終えると男は【ブレーオア】から来た馬車に乗り出発した。取り残された男性は恐る恐る男たちに声を掛ける。
「あ、あの……私はこれで解放されるんですか。妻と娘は――」
「あー!? んなこと知るかよ!」
「くそ、イライラしてきたぜ……。もうこいつは用済みだ。殺してもいいんじゃねぇのか」
「リモン様は逃げるようなら殺せっていったんだ」
「逃げたから仕方なく殺したってことにすりゃバレねぇよ!」
男がそういうと男性を見てナイフを取り出す。
「や、やめろッ! 私は逃げる気なんてない!」
「仕方ねぇ、お前の家族は俺たちが可愛がってやる」
「――それは無理だ。お前らが行くのは牢屋だからな」
「ッ!? てめぇ、なぜここにいる!」
俺の後に続きニエが出てくると男の一人が指差した。
「後ろの女、あのガキと同じ髪だ。聖人に女がいたとはな」
「噂には聞いてたが、こりゃあガキと同じで上玉じゃねぇか!」
「あーすまんがお前らに付き合ってる暇はないんだ。アンジェロ、やれ」
影が差すと上からアンジェロが降ってくる。男たちがアンジェロに倒されると俺は気絶した二人を手早く縛り馬車の中に放り込む。
「よし、これで完了っと」
「あの……家族は無事なんでしょうか」
「帰る頃には『リモン商会』は無くなってるよ。家族も護衛がついてるから安心してくれ」
「よかった……戻ったらすぐに自首します。聖人様、本当にありがとうございました」
「あぁ、こいつらを出すのも忘れずにな。それと――いや、なんでもない。気を付けてな」
男性は馬車を走らせ戻っていった。
「リッツ様、サプライズですね」
「彼だってある意味被害者だったんだ。少しくらい良いことがあっても罰は当たらないだろ。さ、俺たちも先を急ごう」
ここへ来る前、男性の奥さんが病と聞いていた俺は護衛に向かった『紅蓮の風』の団員にエリクサーを渡しておいた。
それにシリウスは真実を知ることができる。無罪とは言わないが、きっと刑も軽くしてくれるはずだ。
俺たちはアンジェロに乗ると【ブレーオア】に向かった馬車を追った。
◇
「お~なんだか懐かしいなぁ」
この国は城に続く街道すべてが整備され城下町もなかなかの規模がある。それもこれも先代の国王が残した素晴らしい功績なのだが、現国王はいったい何をしているのやら……。
「リッツ様はここで生まれ育ったのですね」
「…………俺は師匠に拾われてここへ来た。だから、生まれは違うんだ」
「そうだったのですか、失礼しました」
俺の気を察したのかニエは笑顔を残したままほんの少しだけ表情を曇らせた。
「悪いな、今度時間があったときにでも話すよ」
「無理に聞こうとは思っていません。リッツ様はリッツ様ですから――それより馬車が街道に入りました。どうやら城下町には行かないようですね」
森から街道に抜けた馬車は城とは真逆のほうへ走っていく。
「おっとそうだった。ここからは追う前に……これを上に着てくれ」
あらかじめ準備しておいた外装を取り出しニエに渡す。
「俺は追放された身だからどう噂されてるかわからない。注意して行動してくれ」
「でしたら呼ぶときの名も変えた方がよろしいでしょうか」
「それもそうだな、念のため変えておこう。なんでもいいから決めてくれ」
「うーん――それじゃあゴードンさんでいきましょう!」
……なんかすごいのがでてきたな。
「ちなみにそれは誰の名前?」
「リッツ様を探していたとき食事を分けてくださった旅の方がいたんです。その方がゴードンさんという名でした!」
めっちゃいい人じゃん、見直したぞゴードンさん。
「よし、それでいこう。アンジェロもその姿のときは人目につかないようにな」
「ワフッ」
さぁ、俺は今からゴードンさんだ!
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