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54話
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信じられないような話を聞いたその夜、ティーナたちは部屋に戻り俺はアンジェロを撫でるニエを眺めていた。
「……なぁ、ニエ。一つ聞き忘れたんだが、あの少年に何を言われた?」
「穢れは人から生まれ地に落ちる、ならば混沌の世こそ真実ではないのか――彼はそう言っていました」
ニエはアンジェロと一緒に遊び始める。
全然頭の整理が追いつかないな……。
「なぁ…………俺はどうしたらいいと思う?」
心で思っていたことが口に出てしまったように、弱弱しく放った俺にニエは笑顔を向けた。
「ご自身の思うように進めばいいのです。リッツ様が神獣に選ばれたとしてもそれは使命ではありません。変化していく運命のなかでそうなっただけ、ならばこれからの運命をどうするかはこれからのリッツ様が選択し作っていくのです」
ニエはアンジェロを一通り撫でると立ち上がる。
「こんなときはお風呂に入りましょう! お風呂で汗をかけばほら……えっと、デラックス効果? でしたっけ……ありますから! なんなら私もご一緒します!」
「……ふ、なんだよデラックスって。デトックス効果だ、それに宿屋の風呂で混浴なんかしたら追い出される」
「あら、そうでしたっけ?」
わざとらしく首を傾げるニエはいつもと変わらない調子だった。
「……ニエ、ありがとう。ちょっと風呂でさっぱりしてくる」
「はい、ごゆっくりお入りください」
俺は風呂に入るとその日はすぐに眠りについた。
◇
「…………」
目が覚めると隣でニエがすやすやと寝息を立てておりアンジェロは隣のベッドで寝ていた。
「……おい」
「……んっ……」
「起きろ、そして自分のベッドに行け」
ニエはゆっくりと目をあけ、俺をジッとみると目を閉じた。
「昨日は大変疲れたので今日は一人で起きられそうにありません」
「そのわりにはアンジェロと元気いっぱいに遊んでた気がするんだが」
「……乙女には別腹というものがあるのです」
乙女は自分のことを乙女と呼ばないし、別腹の意味も間違っているぞ……。
「まったく……」
俺はベッドを出るとニエを寝やすいようにベッドの真ん中に降ろし布団を掛け直した。
「まだ早いからもう少し寝ていろ。俺は朝日でも浴びてくる」
「何か悪いモノでも食べましたか?」
「…………」
「うふふ、冗談です。リッツ様の温もりがあるうちにもう一眠りさせて頂きます」
しばらく太陽に当たり体を伸ばす。頭がすっきりしたところで部屋に戻ると、着替え終わったニエとティーナたちがいた。
「あ、リッツさん! これから朝食にいこうと思うんですがご一緒にどうですか」
「ちょうどいい、俺も腹が減ったところだ」
みんなで朝食を済ませると全員で部屋に集まる。
「リッツさん、一晩考えたんですが私……エレナと共に身体を鍛えようと思います!」
「……はっ?」
「ほら、昨日話を聞きましたが何かが解決したわけじゃありません。いつかリッツさんとニエさんの力になれるようにする必要があるじゃないですか!」
「さすがに危険すぎるよ、エレナさんも止めたほうが」
「最近のお嬢様の逃げ足の速さときたらどうしたものかと考えていたのです。これを機に体力だけでなく精神面も同時に鍛えられれば、令嬢としてさらにステップアップできます」
「エ、エレナさん?」
「冗談はさておき、リッツさんは私たちがどれだけあなたに救われたかお分かりですか」
「成り行きでそうなったことが多いだけだって……」
「すべて偶然だったとしましょう。ですが、私たちに救いの手を伸べてくれたのはほかでもないリッツさんなんです。あなたがいたから今のお嬢様、ひいては私がここにいることができるのです」
「だから、今度は私たちがリッツさんとニエさんを助けるんです! 戦うことはできませんが、何かあればすぐに駆け付けることはできます! 頑張って囮になれるくらいには体力もつけますので!!」
おいおい、令嬢を囮にして逃げたなんて知れたらヤバいって……。
「なるほど、つまり私がリッツ様と一緒になれるようご協力を頂けるということですね」
「ニエ、そういう意味じゃ――」
「はい! リッツさんは少し手強いですが、ニエさんならきっと大丈夫です!」
手強いってどういうことよ……。
盛り上がるティーナをよそにエレナさんは声を掛けてきた。
「何はともあれ、そういうことですので私は馬車の手配をしてきます」
「え、あ、ちょっと!」
俺たちは急いで帰り支度をすると馬車に乗り込んだ。
「……なぁ、ニエ。一つ聞き忘れたんだが、あの少年に何を言われた?」
「穢れは人から生まれ地に落ちる、ならば混沌の世こそ真実ではないのか――彼はそう言っていました」
ニエはアンジェロと一緒に遊び始める。
全然頭の整理が追いつかないな……。
「なぁ…………俺はどうしたらいいと思う?」
心で思っていたことが口に出てしまったように、弱弱しく放った俺にニエは笑顔を向けた。
「ご自身の思うように進めばいいのです。リッツ様が神獣に選ばれたとしてもそれは使命ではありません。変化していく運命のなかでそうなっただけ、ならばこれからの運命をどうするかはこれからのリッツ様が選択し作っていくのです」
ニエはアンジェロを一通り撫でると立ち上がる。
「こんなときはお風呂に入りましょう! お風呂で汗をかけばほら……えっと、デラックス効果? でしたっけ……ありますから! なんなら私もご一緒します!」
「……ふ、なんだよデラックスって。デトックス効果だ、それに宿屋の風呂で混浴なんかしたら追い出される」
「あら、そうでしたっけ?」
わざとらしく首を傾げるニエはいつもと変わらない調子だった。
「……ニエ、ありがとう。ちょっと風呂でさっぱりしてくる」
「はい、ごゆっくりお入りください」
俺は風呂に入るとその日はすぐに眠りについた。
◇
「…………」
目が覚めると隣でニエがすやすやと寝息を立てておりアンジェロは隣のベッドで寝ていた。
「……おい」
「……んっ……」
「起きろ、そして自分のベッドに行け」
ニエはゆっくりと目をあけ、俺をジッとみると目を閉じた。
「昨日は大変疲れたので今日は一人で起きられそうにありません」
「そのわりにはアンジェロと元気いっぱいに遊んでた気がするんだが」
「……乙女には別腹というものがあるのです」
乙女は自分のことを乙女と呼ばないし、別腹の意味も間違っているぞ……。
「まったく……」
俺はベッドを出るとニエを寝やすいようにベッドの真ん中に降ろし布団を掛け直した。
「まだ早いからもう少し寝ていろ。俺は朝日でも浴びてくる」
「何か悪いモノでも食べましたか?」
「…………」
「うふふ、冗談です。リッツ様の温もりがあるうちにもう一眠りさせて頂きます」
しばらく太陽に当たり体を伸ばす。頭がすっきりしたところで部屋に戻ると、着替え終わったニエとティーナたちがいた。
「あ、リッツさん! これから朝食にいこうと思うんですがご一緒にどうですか」
「ちょうどいい、俺も腹が減ったところだ」
みんなで朝食を済ませると全員で部屋に集まる。
「リッツさん、一晩考えたんですが私……エレナと共に身体を鍛えようと思います!」
「……はっ?」
「ほら、昨日話を聞きましたが何かが解決したわけじゃありません。いつかリッツさんとニエさんの力になれるようにする必要があるじゃないですか!」
「さすがに危険すぎるよ、エレナさんも止めたほうが」
「最近のお嬢様の逃げ足の速さときたらどうしたものかと考えていたのです。これを機に体力だけでなく精神面も同時に鍛えられれば、令嬢としてさらにステップアップできます」
「エ、エレナさん?」
「冗談はさておき、リッツさんは私たちがどれだけあなたに救われたかお分かりですか」
「成り行きでそうなったことが多いだけだって……」
「すべて偶然だったとしましょう。ですが、私たちに救いの手を伸べてくれたのはほかでもないリッツさんなんです。あなたがいたから今のお嬢様、ひいては私がここにいることができるのです」
「だから、今度は私たちがリッツさんとニエさんを助けるんです! 戦うことはできませんが、何かあればすぐに駆け付けることはできます! 頑張って囮になれるくらいには体力もつけますので!!」
おいおい、令嬢を囮にして逃げたなんて知れたらヤバいって……。
「なるほど、つまり私がリッツ様と一緒になれるようご協力を頂けるということですね」
「ニエ、そういう意味じゃ――」
「はい! リッツさんは少し手強いですが、ニエさんならきっと大丈夫です!」
手強いってどういうことよ……。
盛り上がるティーナをよそにエレナさんは声を掛けてきた。
「何はともあれ、そういうことですので私は馬車の手配をしてきます」
「え、あ、ちょっと!」
俺たちは急いで帰り支度をすると馬車に乗り込んだ。
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