40 / 150
40話
しおりを挟む
三日後、俺は師匠と謁見の間にいた。
「リッツ、そしてミレイユよ。魔物の群れを退けたこと、国を代表し感謝する」
「いえ、魔物はすべての人間にとって脅威です。国は違えど助けが必要であれば協力するのは当然のこと。むしろ我ら『紅蓮の風』を受け入れてくださり誠に感謝致します」
閃いた名案というのは、俺がやってしまった魔物討伐の功績を『紅蓮の風』に丸投げしてしまおうという作戦だった――というか、もうこれしかなかった。
偵察隊の皆さんには「国の間で問題になるといけないから黙っていた」というとても雑な嘘をついたが、奇跡的にも師匠たちは国を離れたということで見事な収まりをみせた。
日頃の行いが良かったのかもしれない、今度教会に行ってお祈りしよう。
「今回の活躍を評し、お主ら『紅蓮の風』に報酬を与えたいのだが希望はあるか?」
「もし我儘が許されるのであれば我らに鍛錬場の使用許可を頂きたい。流浪の身とはいえ、これでも元は騎士団、鍛錬を怠ってしまえば救える者も救えなくなってしまう」
「ふむ、素晴らしい心掛けだ。ならばお主たちにはすべての鍛錬場の使用許可を与える。あとは滞在場所だが」
「王様、そちらに関してはリッツがお屋敷を頂いたとお聞きしました。リッツは以前、我らと同じ屋根で過ごした仲間でもあるため、そこで厄介になろうと考えております」
「リッツよ。お主はそれで構わぬか?」
「はい。一人で住むには大きいですし、みんなとの生活は慣れたものがありますので」
「ならば『紅蓮の風』には屋敷の滞在を許可しよう。何か必要なものがあれば言うがいい、ある程度はこちらで揃えよう」
「ありがとうございます」
礼を言って城を出るとニエとアンジェロ、そしてウェッジさんがやってくる。
ほかのみんなはさすがに目立ちすぎるからファーデン家で留守番だ。
「リッツ様、どうでしたか」
「ばっちりだ。一時はどうなるかと思ったけど師匠がいてくれて助かったよ」
「まったく、やっと見つけたと思えば問題ばかりで……あんたは何にも変わってないわねぇ」
俺は師匠に会ってすぐに事情を聞いた。まさかとは思ったが、師匠たちは元々先代国王に仕えてたのであって、現国王は普段から気に入らなかったらしい。
その流れでレブラント家の長男、ティーナの兄と知り合いファーデン家へきたとのことだったが、これがとんでもない屑野郎だったらしく、ティーナを見た全員が彼女を絶賛していた。
同じ野郎共にすらここまで嫌われる男って逆に見てみたい気もするが……。
そして一番ヤバかったのは師匠だ。ニエが妻と言い出した瞬間――――やめておこう。思い出すだけでも背筋が凍る……。とにかく、なんとか説得して今に至るわけだ。
「そんじゃリッツの屋敷にみんなを集めるか。教会の裏手だったよな?」
「はい、ただし全員で移動すると目立ちすぎるので、別れてきてくださいね」
ウェッジさんはひらひらと手を振りながら去って行った。
「それじゃ俺たちも……っとその前に、師匠こっちにきてください」
森の中へ入るとアンジェロが大きくなる。
「こ、これは……!」
「実はこいつ、神獣でまだ謎だらけなんですけど、こうやって大きくなれるんです」
「素晴らしいもふ――毛並みをしているわね。撫でてもいいかしら?」
「えぇ、むしろ乗ってみます? 俺とニエが乗れるので師匠もいけますよ」
アンジェロに聞いてみると嬉しそうに姿勢を低くして師匠をみる。
「……いや、それは遠慮しておこう。獣だって選ぶ権利というものがある。神獣なら尚更何かありそうだしな。それに、私は走ったほうが速い。あとで抱かせてくれれば十分だ」
「ははは、確かにそうでしたね。それじゃ行きましょうか」
俺たちは教会裏にある屋敷へ向かう。ちょうど昨日、屋敷の掃除が終わったと連絡があって鍵をもらったばかりだった。
鍵を開け中に入ると綺麗に掃除されており、最低限必要なものも設置されていた。
「なかなかいいところじゃない。作りもしっかりしているし、住み手が出入りしやすいように配慮されている。畑もちょっと手入れすればすぐに使えそうね」
「部屋の割り当てはどうしましょう? さすがに全員分の部屋はないので相部屋をお願いするしかなさそうですが」
「あいつらは適当にまとめておけば大丈夫、あとはこの子の部屋をどうするかだけど」
「私はリッツ様と同じ部屋であればほかの方がいようと平気です。いつものように朝をご一緒に迎えられるだけで私は十分なのですから」
ニエは笑顔で応えると自分の頬に手を添えた。
「ちょっ!? 何言って――」
俺の頭に師匠の手が舞い降りる。
「……一緒に朝を迎えただって? どういうことかしら?」
「いや、これはその、間違いで! 着替えくらいしか……あぎゃーーーーーーーーーー!!」
結局アンジェロもいるということと、ニエなりの事情があるということを汲んで、俺とニエとアンジェロは一緒の部屋に決まった。
もちろん、すぐ隣の部屋に師匠が入るという条件付きだが。
「リッツ、そしてミレイユよ。魔物の群れを退けたこと、国を代表し感謝する」
「いえ、魔物はすべての人間にとって脅威です。国は違えど助けが必要であれば協力するのは当然のこと。むしろ我ら『紅蓮の風』を受け入れてくださり誠に感謝致します」
閃いた名案というのは、俺がやってしまった魔物討伐の功績を『紅蓮の風』に丸投げしてしまおうという作戦だった――というか、もうこれしかなかった。
偵察隊の皆さんには「国の間で問題になるといけないから黙っていた」というとても雑な嘘をついたが、奇跡的にも師匠たちは国を離れたということで見事な収まりをみせた。
日頃の行いが良かったのかもしれない、今度教会に行ってお祈りしよう。
「今回の活躍を評し、お主ら『紅蓮の風』に報酬を与えたいのだが希望はあるか?」
「もし我儘が許されるのであれば我らに鍛錬場の使用許可を頂きたい。流浪の身とはいえ、これでも元は騎士団、鍛錬を怠ってしまえば救える者も救えなくなってしまう」
「ふむ、素晴らしい心掛けだ。ならばお主たちにはすべての鍛錬場の使用許可を与える。あとは滞在場所だが」
「王様、そちらに関してはリッツがお屋敷を頂いたとお聞きしました。リッツは以前、我らと同じ屋根で過ごした仲間でもあるため、そこで厄介になろうと考えております」
「リッツよ。お主はそれで構わぬか?」
「はい。一人で住むには大きいですし、みんなとの生活は慣れたものがありますので」
「ならば『紅蓮の風』には屋敷の滞在を許可しよう。何か必要なものがあれば言うがいい、ある程度はこちらで揃えよう」
「ありがとうございます」
礼を言って城を出るとニエとアンジェロ、そしてウェッジさんがやってくる。
ほかのみんなはさすがに目立ちすぎるからファーデン家で留守番だ。
「リッツ様、どうでしたか」
「ばっちりだ。一時はどうなるかと思ったけど師匠がいてくれて助かったよ」
「まったく、やっと見つけたと思えば問題ばかりで……あんたは何にも変わってないわねぇ」
俺は師匠に会ってすぐに事情を聞いた。まさかとは思ったが、師匠たちは元々先代国王に仕えてたのであって、現国王は普段から気に入らなかったらしい。
その流れでレブラント家の長男、ティーナの兄と知り合いファーデン家へきたとのことだったが、これがとんでもない屑野郎だったらしく、ティーナを見た全員が彼女を絶賛していた。
同じ野郎共にすらここまで嫌われる男って逆に見てみたい気もするが……。
そして一番ヤバかったのは師匠だ。ニエが妻と言い出した瞬間――――やめておこう。思い出すだけでも背筋が凍る……。とにかく、なんとか説得して今に至るわけだ。
「そんじゃリッツの屋敷にみんなを集めるか。教会の裏手だったよな?」
「はい、ただし全員で移動すると目立ちすぎるので、別れてきてくださいね」
ウェッジさんはひらひらと手を振りながら去って行った。
「それじゃ俺たちも……っとその前に、師匠こっちにきてください」
森の中へ入るとアンジェロが大きくなる。
「こ、これは……!」
「実はこいつ、神獣でまだ謎だらけなんですけど、こうやって大きくなれるんです」
「素晴らしいもふ――毛並みをしているわね。撫でてもいいかしら?」
「えぇ、むしろ乗ってみます? 俺とニエが乗れるので師匠もいけますよ」
アンジェロに聞いてみると嬉しそうに姿勢を低くして師匠をみる。
「……いや、それは遠慮しておこう。獣だって選ぶ権利というものがある。神獣なら尚更何かありそうだしな。それに、私は走ったほうが速い。あとで抱かせてくれれば十分だ」
「ははは、確かにそうでしたね。それじゃ行きましょうか」
俺たちは教会裏にある屋敷へ向かう。ちょうど昨日、屋敷の掃除が終わったと連絡があって鍵をもらったばかりだった。
鍵を開け中に入ると綺麗に掃除されており、最低限必要なものも設置されていた。
「なかなかいいところじゃない。作りもしっかりしているし、住み手が出入りしやすいように配慮されている。畑もちょっと手入れすればすぐに使えそうね」
「部屋の割り当てはどうしましょう? さすがに全員分の部屋はないので相部屋をお願いするしかなさそうですが」
「あいつらは適当にまとめておけば大丈夫、あとはこの子の部屋をどうするかだけど」
「私はリッツ様と同じ部屋であればほかの方がいようと平気です。いつものように朝をご一緒に迎えられるだけで私は十分なのですから」
ニエは笑顔で応えると自分の頬に手を添えた。
「ちょっ!? 何言って――」
俺の頭に師匠の手が舞い降りる。
「……一緒に朝を迎えただって? どういうことかしら?」
「いや、これはその、間違いで! 着替えくらいしか……あぎゃーーーーーーーーーー!!」
結局アンジェロもいるということと、ニエなりの事情があるということを汲んで、俺とニエとアンジェロは一緒の部屋に決まった。
もちろん、すぐ隣の部屋に師匠が入るという条件付きだが。
22
お気に入りに追加
1,442
あなたにおすすめの小説
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。
嫌味なエリート治癒師は森の中で追放を宣言されて仲間に殺されかけるがギフト【痛いの痛いの飛んでいけぇ〜】には意外な使い方があり
竹井ゴールド
ファンタジー
森の中で突然、仲間に追放だと言われた治癒師は更に、
「追放出来ないなら死んだと報告するまでだ、へっへっへっ」
と殺されそうになる。
だが、【痛いの痛いの飛んでけぇ〜】には【無詠唱】、【怪我移植(移植後は自然回復のみ)】、【発動予約】等々の能力があり·······
【2023/1/3、出版申請、2023/2/3、慰めメール】
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる