35 / 150
35話
しおりを挟む
「妻のニエです!」
「――っと、この通りちょっと錯乱しているんだ。俺の屋敷が整うまで少し世話になるよ」
ギルバートさんには報告済みだったがみんなにはまだだったため、夕食前に一同が揃ったところでニエを紹介する。
「えっと……ニエさん。本当に部屋はリッツさんと同じでよろしいのですか? 遠慮なさらずとも空き部屋はまだありますよ」
「構いません、どこであろうと私はリッツ様と一緒ですから!」
「ティーナ、俺も説得したんだがニエがこの通りでな……。一応二人分のベッドを準備させてもらったから大目にみてくれ」
簡単な紹介も終わると料理が出揃う。ニエは作法を知っているわけではないようだが、食べる姿は自然体というか、どこか美しさがあった。
もっと野生児に近いかと思ったけど一般教養はあるみたいだ。
これならなんとかなるだろうと夕食も終わり、ニエが寝巻を取りに行ってる間に風呂に入る。
「よし、これでいいだろう」
「ワゥ」
泡まみれになったアンジェロを洗い流そうとすると風呂の扉が開かれた。
「リッツ様! お背中、お流しします!」
「!?」
ニエはタオルを手に持ち、体はギリギリ湯気で隠れていたが小走りで近寄ってくる。
「ちょ、タオル! 体を隠せ!」
俺はすぐに目を逸らしアンジェロ用に準備していた大きめのタオルを投げつけた。
「もうそんなに恥ずかしがらなくても。リッツ様がそういうなら――はい、もう大丈夫ですよ」
恐る恐るニエへ視線を向けると両手を広げた体にタオルが巻かれている。
「ほらばっちりです。さ、洗いますよ~」
「ま、待て、さすがに自分で……そうだ、ニエはアンジェロを頼む」
「わかりました、あとは私が洗い流しましょう」
ニエがアンジェロを洗ってるうちに俺は大急ぎで体を洗い慌てて浴槽に入った。続いて入ってきたアンジェロが悠々と前を泳ぎ、後ろではニエの鼻歌が聞こえる。
師匠もよく乱入してきてたがニエもそのタイプなんだろうか。女性ってわからんな……。
「ふぅ~お風呂はいつ入っても気持ちがいいものですね」
「……ニエはなんでそんなに俺に執着するんだ? 村で聖人って聞いたからか?」
ニエは人差し指を立てた。
「そういえば皆さん、リッツ様のことをそう呼んでいましたね」
「何か期待してるのであれば申し訳ないが俺は普通の人間なんだ。アンジェロもたまたま助けただけで、神獣だなんて知らなかったし選ばれたわけでもないんだよ」
ニエはニコニコと笑顔を崩さない。
「リッツ様、偶然というのはありません。たまたまだとしても過去の結果が今に繋がった。それを人は運命と呼ぶのです」
「それでもだ、ニエだって見ず知らずの俺を好きだなんておかしいだろ」
「あら、タイプではありませんでしたか?」
「そうじゃなくてニエのほうがだな……」
容姿だけならこれほど整ったニエをノーと言える男は少ないだろう。だが気になる点が多すぎる。
色々と話を聞こうとするとアンジェロが浴槽から跳び出てブルブルと体の水を払う。
「私もそろそろのぼせちゃいそうなので、お先に失礼しますね」
ニエとアンジェロが出ていくと静かになった浴槽で思い返す。ニエは先祖代々神獣と共にいたと言っていた。
アンジェロのこともあるし、神獣について調べればニエのことも何かわかるかもしれない。
あいつに頼ってみるか……。
「――っと、この通りちょっと錯乱しているんだ。俺の屋敷が整うまで少し世話になるよ」
ギルバートさんには報告済みだったがみんなにはまだだったため、夕食前に一同が揃ったところでニエを紹介する。
「えっと……ニエさん。本当に部屋はリッツさんと同じでよろしいのですか? 遠慮なさらずとも空き部屋はまだありますよ」
「構いません、どこであろうと私はリッツ様と一緒ですから!」
「ティーナ、俺も説得したんだがニエがこの通りでな……。一応二人分のベッドを準備させてもらったから大目にみてくれ」
簡単な紹介も終わると料理が出揃う。ニエは作法を知っているわけではないようだが、食べる姿は自然体というか、どこか美しさがあった。
もっと野生児に近いかと思ったけど一般教養はあるみたいだ。
これならなんとかなるだろうと夕食も終わり、ニエが寝巻を取りに行ってる間に風呂に入る。
「よし、これでいいだろう」
「ワゥ」
泡まみれになったアンジェロを洗い流そうとすると風呂の扉が開かれた。
「リッツ様! お背中、お流しします!」
「!?」
ニエはタオルを手に持ち、体はギリギリ湯気で隠れていたが小走りで近寄ってくる。
「ちょ、タオル! 体を隠せ!」
俺はすぐに目を逸らしアンジェロ用に準備していた大きめのタオルを投げつけた。
「もうそんなに恥ずかしがらなくても。リッツ様がそういうなら――はい、もう大丈夫ですよ」
恐る恐るニエへ視線を向けると両手を広げた体にタオルが巻かれている。
「ほらばっちりです。さ、洗いますよ~」
「ま、待て、さすがに自分で……そうだ、ニエはアンジェロを頼む」
「わかりました、あとは私が洗い流しましょう」
ニエがアンジェロを洗ってるうちに俺は大急ぎで体を洗い慌てて浴槽に入った。続いて入ってきたアンジェロが悠々と前を泳ぎ、後ろではニエの鼻歌が聞こえる。
師匠もよく乱入してきてたがニエもそのタイプなんだろうか。女性ってわからんな……。
「ふぅ~お風呂はいつ入っても気持ちがいいものですね」
「……ニエはなんでそんなに俺に執着するんだ? 村で聖人って聞いたからか?」
ニエは人差し指を立てた。
「そういえば皆さん、リッツ様のことをそう呼んでいましたね」
「何か期待してるのであれば申し訳ないが俺は普通の人間なんだ。アンジェロもたまたま助けただけで、神獣だなんて知らなかったし選ばれたわけでもないんだよ」
ニエはニコニコと笑顔を崩さない。
「リッツ様、偶然というのはありません。たまたまだとしても過去の結果が今に繋がった。それを人は運命と呼ぶのです」
「それでもだ、ニエだって見ず知らずの俺を好きだなんておかしいだろ」
「あら、タイプではありませんでしたか?」
「そうじゃなくてニエのほうがだな……」
容姿だけならこれほど整ったニエをノーと言える男は少ないだろう。だが気になる点が多すぎる。
色々と話を聞こうとするとアンジェロが浴槽から跳び出てブルブルと体の水を払う。
「私もそろそろのぼせちゃいそうなので、お先に失礼しますね」
ニエとアンジェロが出ていくと静かになった浴槽で思い返す。ニエは先祖代々神獣と共にいたと言っていた。
アンジェロのこともあるし、神獣について調べればニエのことも何かわかるかもしれない。
あいつに頼ってみるか……。
30
お気に入りに追加
1,441
あなたにおすすめの小説
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる