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32話

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 進み出した馬車でカーラにもらった手紙を読む。

 実験が成功したら一番に知らせます――か。

「あの愛しい彼女からか?」

 青年の姿をしたシルエが馬を進めながらチラリと俺をみる。あれから数日、組織の一件が収まるまで大分かかってしまったが、かなりの情報を得られたため俺たちは戻ることにした。

「はははっ、そんなんじゃないよ。絶華石が出来たら知らせるって」

「前に見たやつか、貴族たちが偉く気に入ってて王も対応してたから援助がもらえると思うぞ」

「そりゃあよかった。【カルサス】でも近いうちに見れるかも知れないな」

 草に寝そべりながら空に花を見る……考えただけで素晴らしい。

 アンジェロと寝そべっていると気持ちいい風が吹き瞼を閉じる。







「起きろ、そろそろ到着するぞ」

「ふぁ~……」

 城に着きそのまま謁見の間へと向かう。

「王様、こちらが報告書になります」

「うむ、ご苦労であった。何かあれば呼ばせてもらう。今日のところはゆっくりと休んでくれ」

 帰り際に報酬としてお金の入った袋をもらい城を出ると、まだ日が高く街は賑わっていた。

 ちょうど昼時か、腹が減ったな。

「なぁシルエ、せっかくだし飯でも行かないか」

「私はシリウス様へ詳細を伝えねばならない、すまないな」

「帰って早々大変だなぁ……。それじゃここでお別れか」

「ふふふ、君には手を焼いたがなかなか楽しませてもらったよ」

「こちらこそ、次会うときは争いのない場所がいいな」

 握手を終えるとシルエは城へ戻っていった。

「ワフッ」

「ん-……そうだな。みんなのところに戻るか!」

 人気のない森に入るとアンジェロに乗りファーデン家に向かう。







「これはリッツ様、いつお戻りになられたので?」

 入り口ではちょうどバトラさんが門番と話をしていた。

「さっきついたばかりで、街で何か食べようと思ったんですが先に戻ってきちゃいました」

「左様でございましたか。私はリッツ様が来たらすぐ報告するようにと、こうして定期的に見に来ておりました」

「苦労掛けたみたいですみません、みんなはどうしてます?」

「旦那様と奥様はティーナお嬢様を連れてドレスを買いに行かれました。ユリウス様は稽古のため道場へ行かれてます」

「入れ違いになっちゃったか。んー……バトラさん、軽食でいいから何かないかな」

「それならばこれから私たち使用人の食事なので、ご一緒で良ければすぐにご準備できますよ」

「お、そりゃあちょうどいい。俺も一緒に行っていいかな」

「えぇ構いません。ではご案内致しますね」

 使用人の食堂に着くと一斉に視線が集まる。

「俺たち、飯がまだでしてご一緒させてもらうことになりました」

「ワン!」

 バトラさんはニコニコしながら奥へ進んでいく。

「聖人様がこんなところに……?」

「余りもんしかねぇのに、旦那様に怒られねぇか……」

「せ、聖人様! 今すぐちゃんとしたもんを作りますのでお待ちを――」

「そんなの面倒だ、皆と同じものでいいよ。一人だけ違うなんて嫌だし……あ、アンジェロに関しては質より量が多めのほうがいいかも、お願いできます?」

 静かになるとバトラさんが手を叩いた。

「ほら何をしてますか、時間は有限、食事は取れるうちに取らないと働けませんよ!」

 その声で全員がハッとして動き出す。

 アンジェロの分もあるし俺も手伝おっと。

「それじゃ、いただきま~す!」

「ワフーッ」

 目の前に並ぶ料理は見た目よりも食べやすさが優先してあった。

 うん、美味い! 面倒な作法もいらないし楽でいいな。

「あ、あのーお味のほうはいかがで……?」

「とっても美味しいよ! たまにはここで食べにくるのもいいかもな、なぁアンジェロ?」

 皿に顔を突っ込み、夢中で食べていたアンジェロがこちらに振り向く。

「ワフッ?」

「もう少し綺麗に……まぁいっか、あとで洗おう」

 毛の色が変わったアンジェロから目を離すとみんなが見ていた。

「あれ、どうしたのみんな?」

「あ、いえ……」

「ぷっ……あの神獣様のお顔、とっても可愛いわ」

「聖人様ってもっと偉そうかと思ったが……随分と庶民的なんだな……」

 むっ? どういうことだ?

「俺は別に貴族でもなんでもないからな、普通に接してくれていいぞ」

 静かな食堂に俺の声が響く。

「……なぁ聖人様、これも美味いから食ってみないか」

 出されたのは何かを葉で包んだ食べ物だった。俺は包んである葉ごと口に入れる。

「これは香草の一種か。旨味が引き出されていてとても美味いよ!」

「こりゃあたまげた……葉ごと食うとは……旦那様方以外のお偉いさんは草だと馬鹿にして食わないってのに……気に入ったぜ!」

「聖人様! こっちの料理も食ってみな!」

 次々と持ち出される料理を堪能していく。

「いや~食った、ご馳走様でした!」

「おう、またいつでも来てくれよ!」

「神獣様も待ってますよー!」

 気づけば使用人のみんなに見送られ俺たちは食堂を出る。アンジェロの顔を洗っていると屋敷のみんなも帰ってきたため出迎えたが、真っ先におかえりと言われてしまった。

 おかえりにおかえりと返すのも変な気分だな……ふふっ。
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