上 下
32 / 150

32話

しおりを挟む
 進み出した馬車でカーラにもらった手紙を読む。

 実験が成功したら一番に知らせます――か。

「あの愛しい彼女からか?」

 青年の姿をしたシルエが馬を進めながらチラリと俺をみる。あれから数日、組織の一件が収まるまで大分かかってしまったが、かなりの情報を得られたため俺たちは戻ることにした。

「はははっ、そんなんじゃないよ。絶華石が出来たら知らせるって」

「前に見たやつか、貴族たちが偉く気に入ってて王も対応してたから援助がもらえると思うぞ」

「そりゃあよかった。【カルサス】でも近いうちに見れるかも知れないな」

 草に寝そべりながら空に花を見る……考えただけで素晴らしい。

 アンジェロと寝そべっていると気持ちいい風が吹き瞼を閉じる。







「起きろ、そろそろ到着するぞ」

「ふぁ~……」

 城に着きそのまま謁見の間へと向かう。

「王様、こちらが報告書になります」

「うむ、ご苦労であった。何かあれば呼ばせてもらう。今日のところはゆっくりと休んでくれ」

 帰り際に報酬としてお金の入った袋をもらい城を出ると、まだ日が高く街は賑わっていた。

 ちょうど昼時か、腹が減ったな。

「なぁシルエ、せっかくだし飯でも行かないか」

「私はシリウス様へ詳細を伝えねばならない、すまないな」

「帰って早々大変だなぁ……。それじゃここでお別れか」

「ふふふ、君には手を焼いたがなかなか楽しませてもらったよ」

「こちらこそ、次会うときは争いのない場所がいいな」

 握手を終えるとシルエは城へ戻っていった。

「ワフッ」

「ん-……そうだな。みんなのところに戻るか!」

 人気のない森に入るとアンジェロに乗りファーデン家に向かう。







「これはリッツ様、いつお戻りになられたので?」

 入り口ではちょうどバトラさんが門番と話をしていた。

「さっきついたばかりで、街で何か食べようと思ったんですが先に戻ってきちゃいました」

「左様でございましたか。私はリッツ様が来たらすぐ報告するようにと、こうして定期的に見に来ておりました」

「苦労掛けたみたいですみません、みんなはどうしてます?」

「旦那様と奥様はティーナお嬢様を連れてドレスを買いに行かれました。ユリウス様は稽古のため道場へ行かれてます」

「入れ違いになっちゃったか。んー……バトラさん、軽食でいいから何かないかな」

「それならばこれから私たち使用人の食事なので、ご一緒で良ければすぐにご準備できますよ」

「お、そりゃあちょうどいい。俺も一緒に行っていいかな」

「えぇ構いません。ではご案内致しますね」

 使用人の食堂に着くと一斉に視線が集まる。

「俺たち、飯がまだでしてご一緒させてもらうことになりました」

「ワン!」

 バトラさんはニコニコしながら奥へ進んでいく。

「聖人様がこんなところに……?」

「余りもんしかねぇのに、旦那様に怒られねぇか……」

「せ、聖人様! 今すぐちゃんとしたもんを作りますのでお待ちを――」

「そんなの面倒だ、皆と同じものでいいよ。一人だけ違うなんて嫌だし……あ、アンジェロに関しては質より量が多めのほうがいいかも、お願いできます?」

 静かになるとバトラさんが手を叩いた。

「ほら何をしてますか、時間は有限、食事は取れるうちに取らないと働けませんよ!」

 その声で全員がハッとして動き出す。

 アンジェロの分もあるし俺も手伝おっと。

「それじゃ、いただきま~す!」

「ワフーッ」

 目の前に並ぶ料理は見た目よりも食べやすさが優先してあった。

 うん、美味い! 面倒な作法もいらないし楽でいいな。

「あ、あのーお味のほうはいかがで……?」

「とっても美味しいよ! たまにはここで食べにくるのもいいかもな、なぁアンジェロ?」

 皿に顔を突っ込み、夢中で食べていたアンジェロがこちらに振り向く。

「ワフッ?」

「もう少し綺麗に……まぁいっか、あとで洗おう」

 毛の色が変わったアンジェロから目を離すとみんなが見ていた。

「あれ、どうしたのみんな?」

「あ、いえ……」

「ぷっ……あの神獣様のお顔、とっても可愛いわ」

「聖人様ってもっと偉そうかと思ったが……随分と庶民的なんだな……」

 むっ? どういうことだ?

「俺は別に貴族でもなんでもないからな、普通に接してくれていいぞ」

 静かな食堂に俺の声が響く。

「……なぁ聖人様、これも美味いから食ってみないか」

 出されたのは何かを葉で包んだ食べ物だった。俺は包んである葉ごと口に入れる。

「これは香草の一種か。旨味が引き出されていてとても美味いよ!」

「こりゃあたまげた……葉ごと食うとは……旦那様方以外のお偉いさんは草だと馬鹿にして食わないってのに……気に入ったぜ!」

「聖人様! こっちの料理も食ってみな!」

 次々と持ち出される料理を堪能していく。

「いや~食った、ご馳走様でした!」

「おう、またいつでも来てくれよ!」

「神獣様も待ってますよー!」

 気づけば使用人のみんなに見送られ俺たちは食堂を出る。アンジェロの顔を洗っていると屋敷のみんなも帰ってきたため出迎えたが、真っ先におかえりと言われてしまった。

 おかえりにおかえりと返すのも変な気分だな……ふふっ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...