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24話
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「はぁっはぁっはぁ……せ、先生待ってくださぁ~い!」
「ほらどうした! 苦しいときこそ呼吸をしっかりするんだと何回も言ってるだろ!」
屋敷の入り口で息を切らしたユリウスに声をかける。
「ぜぇ……ぜぇ……せ、先生、速すぎです……」
「そんなんじゃ馬に追いつけないぞ」
「……う、馬?」
師匠はいつも走るときは馬を目標にしろと言ってたからな。馬より速く、そして長く走られればよほどの相手でなければ逃げ切れると、おかげで体力も随分ついた。
ユリウスは深呼吸し呼吸を落ち着かせる。
「あの、先生は一人で五人を相手にしたと聞いたのですがどうやって戦ったのですか」
「俺の師匠の教えでな。いくら敵がいても一発で倒せば何人いようが一緒だって」
「な、なんか……無茶苦茶な師匠ですね……」
あの地獄の修行をすれば君もすぐに強くなれると思うよ。
「みなさ~ん、そろそろ休憩にしませんか~?」
「ワンワン!」
振り返るとタオルを持ったティーナとアンジェロが走ってくる。
「よし、今日はこのくらいにしよう。俺は王様に呼ばれてるから後は自分で復習してくれ」
「はい、ありがとうございました!」
元気満々なアンジェロを撫で一息つけると俺は城に向かった。
「リッツよ、先日の働き見事であった」
「滅相もございません」
「聞くところによれば賊どもを相手に孤軍奮闘したらしいな。薬師としてだけでなく武も心得ているとは、騎士団にほしいものだ」
「ははっはっ……ご冗談を……」
シリウスの顔は心なしか笑っているようにみえる。
この野郎……絶対遊んでるだろ。
「お主は他の国を出たばかりだったな。先走ってしまった、許せ」
やはりシリウスの顔は笑っているようにみえる。
お前がいうと洒落になんないんだって、誰かこいつに教えてやれよ。
「さて、褒美についてだがお主は今ファーデン家に世話になってると聞く。そこでだ、お主へ屋敷を与えようと思うのだが異論はあるか?」
言われてみればティーナたちにずっと世話になるわけにもいかないしな……。
「いえ、こちらとしてもいずれはと思っていましたので助かります」
「うむ、すぐというわけにはいかぬが候補地が決まり次第通達を出そう」
シリウスが目を配ると側近たちは動き出した。
「さて、要件は以上だ。そういえば教会の者が先日の礼を言いたいと申しておったな……後にでも行ってみるとよい」
「わかりました。それでは私はこれで、失礼致します」
城を出ると俺はそのまま教会へ向かう。
「あの失礼ですが……聖人様でしょうか?」
道すがら声をかけられ振り向くとシスターが紙袋を持ち立っていた。
どこかで見たような――。
「…………あ、君はあのときの!」
「はい! あのとき聖人様がいなければ私はこうしていることはできませんでした。神獣様もお元気でしょうか?」
「毎日走り回ってるよ。それでお願いなんだけどアンジェロが神獣ってこと、みんなには黙っててもらえないかな?」
「何か問題でも――いえ、聖人様の頼みとあれば神に誓って口外致しません!」
神に誓うほどではないと思うんだけど……教会の人ってみんなこうなのかな。
「あと俺はリッツ、できれば聖人じゃなくて名前で呼んでほしい」
「お、お名前など恐れ多い……ですがご希望であるのならばそうさせていただきます」
「うん、そのほうが俺も気が楽だしね」
話をしていると教会がみえてくる。
「そういえば何か御用でしょうか?」
「王様に教会に行ってみろって言われてさ」
「え、なんでしょうか……ほかに何かお伺いしておりませんか?」
「俺がいうのもなんだけど教会で礼を言いたいからって……まさか、何も言ってない?」
「王様にはリッツ様のことを申しましたが、お伝えしておくと言われただけで何も……あっ、もしかして!」
シスターは何か思い出したようにハッとした。
「王様は子供の頃よく教会にいらしてたんです。その際、城を出るときに使う言い訳というのが教会で呼ばれている、とおっしゃられてたんですよ」
「ってことはまさか用があるから待ってろと……」
「ふふふ、あのお方のことですからありえますね」
「ったく王様にもなって……悪いけど少し長居させてもらっていいかな」
「えぇ構いません。礼拝も終わっておりますのでどうぞごゆっくりしていってください」
お言葉に甘え、俺はシリウスが来るまで教会の庭で草を堪能することにした。
「ほらどうした! 苦しいときこそ呼吸をしっかりするんだと何回も言ってるだろ!」
屋敷の入り口で息を切らしたユリウスに声をかける。
「ぜぇ……ぜぇ……せ、先生、速すぎです……」
「そんなんじゃ馬に追いつけないぞ」
「……う、馬?」
師匠はいつも走るときは馬を目標にしろと言ってたからな。馬より速く、そして長く走られればよほどの相手でなければ逃げ切れると、おかげで体力も随分ついた。
ユリウスは深呼吸し呼吸を落ち着かせる。
「あの、先生は一人で五人を相手にしたと聞いたのですがどうやって戦ったのですか」
「俺の師匠の教えでな。いくら敵がいても一発で倒せば何人いようが一緒だって」
「な、なんか……無茶苦茶な師匠ですね……」
あの地獄の修行をすれば君もすぐに強くなれると思うよ。
「みなさ~ん、そろそろ休憩にしませんか~?」
「ワンワン!」
振り返るとタオルを持ったティーナとアンジェロが走ってくる。
「よし、今日はこのくらいにしよう。俺は王様に呼ばれてるから後は自分で復習してくれ」
「はい、ありがとうございました!」
元気満々なアンジェロを撫で一息つけると俺は城に向かった。
「リッツよ、先日の働き見事であった」
「滅相もございません」
「聞くところによれば賊どもを相手に孤軍奮闘したらしいな。薬師としてだけでなく武も心得ているとは、騎士団にほしいものだ」
「ははっはっ……ご冗談を……」
シリウスの顔は心なしか笑っているようにみえる。
この野郎……絶対遊んでるだろ。
「お主は他の国を出たばかりだったな。先走ってしまった、許せ」
やはりシリウスの顔は笑っているようにみえる。
お前がいうと洒落になんないんだって、誰かこいつに教えてやれよ。
「さて、褒美についてだがお主は今ファーデン家に世話になってると聞く。そこでだ、お主へ屋敷を与えようと思うのだが異論はあるか?」
言われてみればティーナたちにずっと世話になるわけにもいかないしな……。
「いえ、こちらとしてもいずれはと思っていましたので助かります」
「うむ、すぐというわけにはいかぬが候補地が決まり次第通達を出そう」
シリウスが目を配ると側近たちは動き出した。
「さて、要件は以上だ。そういえば教会の者が先日の礼を言いたいと申しておったな……後にでも行ってみるとよい」
「わかりました。それでは私はこれで、失礼致します」
城を出ると俺はそのまま教会へ向かう。
「あの失礼ですが……聖人様でしょうか?」
道すがら声をかけられ振り向くとシスターが紙袋を持ち立っていた。
どこかで見たような――。
「…………あ、君はあのときの!」
「はい! あのとき聖人様がいなければ私はこうしていることはできませんでした。神獣様もお元気でしょうか?」
「毎日走り回ってるよ。それでお願いなんだけどアンジェロが神獣ってこと、みんなには黙っててもらえないかな?」
「何か問題でも――いえ、聖人様の頼みとあれば神に誓って口外致しません!」
神に誓うほどではないと思うんだけど……教会の人ってみんなこうなのかな。
「あと俺はリッツ、できれば聖人じゃなくて名前で呼んでほしい」
「お、お名前など恐れ多い……ですがご希望であるのならばそうさせていただきます」
「うん、そのほうが俺も気が楽だしね」
話をしていると教会がみえてくる。
「そういえば何か御用でしょうか?」
「王様に教会に行ってみろって言われてさ」
「え、なんでしょうか……ほかに何かお伺いしておりませんか?」
「俺がいうのもなんだけど教会で礼を言いたいからって……まさか、何も言ってない?」
「王様にはリッツ様のことを申しましたが、お伝えしておくと言われただけで何も……あっ、もしかして!」
シスターは何か思い出したようにハッとした。
「王様は子供の頃よく教会にいらしてたんです。その際、城を出るときに使う言い訳というのが教会で呼ばれている、とおっしゃられてたんですよ」
「ってことはまさか用があるから待ってろと……」
「ふふふ、あのお方のことですからありえますね」
「ったく王様にもなって……悪いけど少し長居させてもらっていいかな」
「えぇ構いません。礼拝も終わっておりますのでどうぞごゆっくりしていってください」
お言葉に甘え、俺はシリウスが来るまで教会の庭で草を堪能することにした。
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