エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬

文字の大きさ
上 下
9 / 150

9話

しおりを挟む
 ノックの音に目を覚ます。

 んー……もう朝か――。

「リッツさん、エレナです。起きてますか?」

「あーちょっと待ってくれ」

 寝起きのアンジェロを軽く撫で、急いで身支度を整えるとエレナさんを招き入れる。

「何か問題でも起きた?」

「いえ、お願いがあって……お嬢様を、助けてほしいんです」

「どういうことだ」

「ここだけの話ですが、お嬢様のご家族は古くから有名な軍事家系の一族で、代々武勲を立てその地位を確立してきました。しかし、争いを好まないお嬢様はご家族に疎まれ、令嬢として必要とされる作法は習うことが許されず、本を通して学ばれてきました」

 もしかして付き人がエレナしかいないのも……そういうことだったのか。

「ですが、お嬢様にも唯一の救いはありました。お持ちだったスキルがとても珍しいものだったのです」

「珍しい? そのスキルはいったい何なんだ?」

「……大変申し訳ございません、私の口からは……。ご両親はそのスキルを――お嬢様を貴族たちに売りました。ですが珍しいだけで利用価値がないと思われたらしく、やっと見つかった嫁ぎ先というのがこちらというわけなんです」

「なるほど……話はわかったが、それで俺に何をしろと?」

「もし、今回の騒動をうまく収められることができたら、お嬢様に手柄を譲って頂きたいのです。疫病を止めたという功績があれば少しはお嬢様の立場も良くなるはず……もちろんこれは私の勝手なお願い、断られたとしても最後までご協力は致しますのではっきりと仰ってください」

 ふーん、なるほどねぇ。

「それなら――」

 そのとき、勢いよく扉が開かれた。

「探してもいないと思ったら、やっぱりここにいたのね!」

 綺麗に髪を整えたティーナが部屋へ入る。

「……お嬢様、私がいるとわかっていてもノックの一つをするのが礼儀というものです。それにここはリッツさんの部屋、淑女たるもの堂々と入っていいものではありません」

「で、でもエレナだって入って……うぅ、リッツさん失礼しました……」

「ははは、別に構わないよ」

「ワン! ワン!」

「おはよう、アンジェロ」

 ティーナはアンジェロを撫でると顔をあげた。

「そういえばリッツさん、ご一緒に朝食でもいかがですか?」

「それはありがたい。まともに食べれてなかったから腹ペコだ」

「そうだ、せっかくだしエレナも一緒に食べましょう! ねっ、たまにはいいでしょ?」

「……仕方ありませんね。それではご準備ができましたら移動致しましょう」







「では、私たちは村の方々へ呼びかけてきますので、リッツさんは薬の準備をお願いします」

「わかった。それじゃあまたあとでな」

 宿に戻り鞄の中身をチェックする。

 アンジェロが瓶で遊んでるなか、大慌てでティーナが戻ってきた。

「リッツさん! た、大変です!」

「そんなに慌ててどうした?」

「と、とにかく来てください!」

 薬をしまいティーナの後をついていくと、そこでは村人が集まっており、エレナさんがそれをまとめていた。

「こ、こんなに集まってくれたの?」

「そ、それが……」

 見慣れた少女が俺の元に走ってくる。

「おにいちゃん! きのうね、おとうさんといっしょにみんなにこえをかけたの!」

「失礼ながら昨夜のお二人のお言葉に心を動かされまして! 私にも何かできないかと思い、皆の者に声をかけておりました!」

「ほ、本当に疫病を止められるのかい? そ、その……疑ってるわけじゃないんだが……」

 まさかこんなことがあるとは――これを利用する手はないな。

「ティーナ、君の出番だ。胸を張って」

「えっ!?」

 ティーナの背中を押すとみんなの前に出ていく。

「わ、私は……自分に何ができるかなんてわかりません。だけど、せめて疫病に苦しむ人を一人でも多く救いたい……だから、皆さんの力を貸してください! お願いします!!」

 ティーナは深く頭を下げる。

「ご貴族様が頭を下げるなんて……」

「あの子、小さいのによく頑張ってるじゃないの」

「よっしゃ、嬢ちゃん! 俺たちもやれるだけ力を貸すぜ!」

 村に歓声があがる。

「それでは役割を決めたいと思います。薬がある今、疫病は恐れるものではありません。一人でも多くの命を救えるようにご協力をお願いします」

 エレナさんが村人をまとめ指示を出す。

 準備が整うと俺たちは馬車に乗り街へと向かった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは―― ※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。 1~4巻発売中です。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

【完結】四ばあちゃん、二度目の人生

大江山 悠真
ファンタジー
63歳、高校時代の仲間4人のおばあちゃんが異世界転生。せっかくの二度目悔いなく生きたいとシズ・セリ・ヤエ・マリ奮戦中。現在はセリを中心に展開中。シズ・セリ・ヤエと登場し、最後のマリのお話です。シズ・セリ・ヤエの子供たちも登場するかもしれません。初めての作品でなかなか思うように登場人物が動いてくれませんが完結まで進めていこうと思っています。

処理中です...