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9話
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ノックの音に目を覚ます。
んー……もう朝か――。
「リッツさん、エレナです。起きてますか?」
「あーちょっと待ってくれ」
寝起きのアンジェロを軽く撫で、急いで身支度を整えるとエレナさんを招き入れる。
「何か問題でも起きた?」
「いえ、お願いがあって……お嬢様を、助けてほしいんです」
「どういうことだ」
「ここだけの話ですが、お嬢様のご家族は古くから有名な軍事家系の一族で、代々武勲を立てその地位を確立してきました。しかし、争いを好まないお嬢様はご家族に疎まれ、令嬢として必要とされる作法は習うことが許されず、本を通して学ばれてきました」
もしかして付き人がエレナしかいないのも……そういうことだったのか。
「ですが、お嬢様にも唯一の救いはありました。お持ちだったスキルがとても珍しいものだったのです」
「珍しい? そのスキルはいったい何なんだ?」
「……大変申し訳ございません、私の口からは……。ご両親はそのスキルを――お嬢様を貴族たちに売りました。ですが珍しいだけで利用価値がないと思われたらしく、やっと見つかった嫁ぎ先というのがこちらというわけなんです」
「なるほど……話はわかったが、それで俺に何をしろと?」
「もし、今回の騒動をうまく収められることができたら、お嬢様に手柄を譲って頂きたいのです。疫病を止めたという功績があれば少しはお嬢様の立場も良くなるはず……もちろんこれは私の勝手なお願い、断られたとしても最後までご協力は致しますのではっきりと仰ってください」
ふーん、なるほどねぇ。
「それなら――」
そのとき、勢いよく扉が開かれた。
「探してもいないと思ったら、やっぱりここにいたのね!」
綺麗に髪を整えたティーナが部屋へ入る。
「……お嬢様、私がいるとわかっていてもノックの一つをするのが礼儀というものです。それにここはリッツさんの部屋、淑女たるもの堂々と入っていいものではありません」
「で、でもエレナだって入って……うぅ、リッツさん失礼しました……」
「ははは、別に構わないよ」
「ワン! ワン!」
「おはよう、アンジェロ」
ティーナはアンジェロを撫でると顔をあげた。
「そういえばリッツさん、ご一緒に朝食でもいかがですか?」
「それはありがたい。まともに食べれてなかったから腹ペコだ」
「そうだ、せっかくだしエレナも一緒に食べましょう! ねっ、たまにはいいでしょ?」
「……仕方ありませんね。それではご準備ができましたら移動致しましょう」
◇
「では、私たちは村の方々へ呼びかけてきますので、リッツさんは薬の準備をお願いします」
「わかった。それじゃあまたあとでな」
宿に戻り鞄の中身をチェックする。
アンジェロが瓶で遊んでるなか、大慌てでティーナが戻ってきた。
「リッツさん! た、大変です!」
「そんなに慌ててどうした?」
「と、とにかく来てください!」
薬をしまいティーナの後をついていくと、そこでは村人が集まっており、エレナさんがそれをまとめていた。
「こ、こんなに集まってくれたの?」
「そ、それが……」
見慣れた少女が俺の元に走ってくる。
「おにいちゃん! きのうね、おとうさんといっしょにみんなにこえをかけたの!」
「失礼ながら昨夜のお二人のお言葉に心を動かされまして! 私にも何かできないかと思い、皆の者に声をかけておりました!」
「ほ、本当に疫病を止められるのかい? そ、その……疑ってるわけじゃないんだが……」
まさかこんなことがあるとは――これを利用する手はないな。
「ティーナ、君の出番だ。胸を張って」
「えっ!?」
ティーナの背中を押すとみんなの前に出ていく。
「わ、私は……自分に何ができるかなんてわかりません。だけど、せめて疫病に苦しむ人を一人でも多く救いたい……だから、皆さんの力を貸してください! お願いします!!」
ティーナは深く頭を下げる。
「ご貴族様が頭を下げるなんて……」
「あの子、小さいのによく頑張ってるじゃないの」
「よっしゃ、嬢ちゃん! 俺たちもやれるだけ力を貸すぜ!」
村に歓声があがる。
「それでは役割を決めたいと思います。薬がある今、疫病は恐れるものではありません。一人でも多くの命を救えるようにご協力をお願いします」
エレナさんが村人をまとめ指示を出す。
準備が整うと俺たちは馬車に乗り街へと向かった。
んー……もう朝か――。
「リッツさん、エレナです。起きてますか?」
「あーちょっと待ってくれ」
寝起きのアンジェロを軽く撫で、急いで身支度を整えるとエレナさんを招き入れる。
「何か問題でも起きた?」
「いえ、お願いがあって……お嬢様を、助けてほしいんです」
「どういうことだ」
「ここだけの話ですが、お嬢様のご家族は古くから有名な軍事家系の一族で、代々武勲を立てその地位を確立してきました。しかし、争いを好まないお嬢様はご家族に疎まれ、令嬢として必要とされる作法は習うことが許されず、本を通して学ばれてきました」
もしかして付き人がエレナしかいないのも……そういうことだったのか。
「ですが、お嬢様にも唯一の救いはありました。お持ちだったスキルがとても珍しいものだったのです」
「珍しい? そのスキルはいったい何なんだ?」
「……大変申し訳ございません、私の口からは……。ご両親はそのスキルを――お嬢様を貴族たちに売りました。ですが珍しいだけで利用価値がないと思われたらしく、やっと見つかった嫁ぎ先というのがこちらというわけなんです」
「なるほど……話はわかったが、それで俺に何をしろと?」
「もし、今回の騒動をうまく収められることができたら、お嬢様に手柄を譲って頂きたいのです。疫病を止めたという功績があれば少しはお嬢様の立場も良くなるはず……もちろんこれは私の勝手なお願い、断られたとしても最後までご協力は致しますのではっきりと仰ってください」
ふーん、なるほどねぇ。
「それなら――」
そのとき、勢いよく扉が開かれた。
「探してもいないと思ったら、やっぱりここにいたのね!」
綺麗に髪を整えたティーナが部屋へ入る。
「……お嬢様、私がいるとわかっていてもノックの一つをするのが礼儀というものです。それにここはリッツさんの部屋、淑女たるもの堂々と入っていいものではありません」
「で、でもエレナだって入って……うぅ、リッツさん失礼しました……」
「ははは、別に構わないよ」
「ワン! ワン!」
「おはよう、アンジェロ」
ティーナはアンジェロを撫でると顔をあげた。
「そういえばリッツさん、ご一緒に朝食でもいかがですか?」
「それはありがたい。まともに食べれてなかったから腹ペコだ」
「そうだ、せっかくだしエレナも一緒に食べましょう! ねっ、たまにはいいでしょ?」
「……仕方ありませんね。それではご準備ができましたら移動致しましょう」
◇
「では、私たちは村の方々へ呼びかけてきますので、リッツさんは薬の準備をお願いします」
「わかった。それじゃあまたあとでな」
宿に戻り鞄の中身をチェックする。
アンジェロが瓶で遊んでるなか、大慌てでティーナが戻ってきた。
「リッツさん! た、大変です!」
「そんなに慌ててどうした?」
「と、とにかく来てください!」
薬をしまいティーナの後をついていくと、そこでは村人が集まっており、エレナさんがそれをまとめていた。
「こ、こんなに集まってくれたの?」
「そ、それが……」
見慣れた少女が俺の元に走ってくる。
「おにいちゃん! きのうね、おとうさんといっしょにみんなにこえをかけたの!」
「失礼ながら昨夜のお二人のお言葉に心を動かされまして! 私にも何かできないかと思い、皆の者に声をかけておりました!」
「ほ、本当に疫病を止められるのかい? そ、その……疑ってるわけじゃないんだが……」
まさかこんなことがあるとは――これを利用する手はないな。
「ティーナ、君の出番だ。胸を張って」
「えっ!?」
ティーナの背中を押すとみんなの前に出ていく。
「わ、私は……自分に何ができるかなんてわかりません。だけど、せめて疫病に苦しむ人を一人でも多く救いたい……だから、皆さんの力を貸してください! お願いします!!」
ティーナは深く頭を下げる。
「ご貴族様が頭を下げるなんて……」
「あの子、小さいのによく頑張ってるじゃないの」
「よっしゃ、嬢ちゃん! 俺たちもやれるだけ力を貸すぜ!」
村に歓声があがる。
「それでは役割を決めたいと思います。薬がある今、疫病は恐れるものではありません。一人でも多くの命を救えるようにご協力をお願いします」
エレナさんが村人をまとめ指示を出す。
準備が整うと俺たちは馬車に乗り街へと向かった。
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