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二章

〈アガット vs 魔王〉(2)

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「ヒィィッ! お許し下さい魔王様っ!!」

 魔人の首根っこを掴んだ魔王が、グッと魔人を自分の方へ引き寄せる。

「後で遊んでやる」

 魔王に耳元でそう宣言された魔人が、顔を更に真っ青にする。

 アガットが素早く飛翔し、真後ろから魔王の首目掛けて素早く切りつけた。
 魔王は、片腕一本・・・・でその剣を受け止めると、風魔法を使用して、軽くアガットを吹き飛ばした。

「ゴフッ!」

 見た目に反してその威力は強力で、アガットは直線状の軌道を描き、地面へ吹き飛ばされる。
 ギリギリのところで風魔法を使い、くるりと一回転して体制を立て直すが、その時には既に魔王が目の前まで迫っていた。

「っっ!!」

 追撃として強力な打撃をアガットの腹に打ち込む魔王。
 アガットも自身の腹部を強化して防御しようとするが――

「ガッフッッ!!」

 魔王の一撃には見た目以上の威力があり、体からミシミシという異音いおんを上げたアガットは、そのまま凄いスピードで地面を削り、木々に激突した。
 砂埃が上がる中、肩に魔人を抱えた魔王が、準備運動をする様に軽く手を回す。

炎髪えんぱつの騎士……ドラゴンスレイヤーか」

 魔王が自身の感触を確かめる様に、手を開いたり閉じたりする。
 ニヤッと口角を上げた魔王が、愉快そうに笑った。


「クックック……いいだろう、軽く揉んでやる」



 ――――その頃、セスとレオンは――――


「へぇ、こんな次元もあるんですね」

 セスがレオンと共に歩んでいるのは、元の次元の上空100メートルに、地面がある次元。
 探索用の次元だ。

 その次元では、1歩が元の次元でのおおよそ10メートルになり、また、その次元の地面から、元の次元を覗くと、上空100メートルから地上を覗いている事になる。
 空から歩いて人を探すには、うってつけの次元なのだ。

 セスが地図を広げる。

「アガットが、真っ直ぐ城に向かうなら、恐らくこの道を通り、こっちへ向かう筈です」
「ここら辺一帯に、人気ひとけはない。前の宿場街をアガット達が通ったのが大分だいぶ前で、次の宿場町をアガットが通っていないから、足留めを食っているなら、ここら辺になるんじゃない?」
「ここを通らないと遠回りになってしまいますからね……」

 ある程度探索の範囲が狭まったところで、私達はその次元を出た。
 もう飛び回って探した方が早いと考えたのだ。

 飛行は私が担当し、私達の姿を消す光魔法はレオンが担当する。

 私達が平和的に探索たんさく、兼空中散歩を始めた、その時だった。

『ガガガガガガッドーーンッッ!!』

 視界の先で、盛大に砂煙が上がった。


 ――――sideアガット――――


 魔王は、自分の部下をポイッとゴミでも捨てるかの様に地面に落とすと、待つ様にそこから動かなかった。
「ガハッ!」と、口から血を吐き出したアガットは、剣を杖代わりにして何とか立ち上がった。
 途端に、魔王がアガットへ向かって一直線に飛びかかる。
 立っているのがやっとなアガットは、反応出来ずに吹っ飛ばされた。
 もう一度地面を削り、木に激突する。

(ここで……ここで負ける訳には。)

 アガットは、ここから逃げる事も出来る。
 成功する確率は限り無く低いが、それでも魔王に立ち向かい、勝つ事よりもまだ見込みがある。
 だが、彼女は騎士隊長である。

(部下を見捨て、ここで逃げる事など出来ないっ!!)

 アガットは歯を食いしばり、自分の部下達が転がっている方へ目を向ける。
 アガットが目を見開く。

(さっき転がって居た部下達が居ない!)

 アガットの脚に、そっと小さな手が触れた。



「ベルゼビュートよ。逃げる準備をしておけ」
「は?」

 砂煙が上がる方向を睨みつける魔王に、何を言っているんだという顔の魔人ベルゼビュートが反論する。

「何故ですか魔王様っ! 今こそ奴らを叩きのめ――」

『キィィィィン!!』

 黄金の強烈な光が、森の中から放たれる。
 その雷光は一本の筋となって、一直線に魔王が居る場所まで放たれた。

「ま、魔王様っ!!」

『シュゥゥゥ……』という音を立てて、地面から白い煙が上がる。
 周辺の木々に穴が空き、魔王が居た場所から弧を描く様に地面が黒く焼け、溶けている。

 風が吹き、蒸気が揺れる。

 そこには、電撃が来た方向に向かって手をかざし、傷一つない魔王が、愉快そうに立っていた。


「ほぅ、やるではないか」



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