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一章
〈事件の裏で〉
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城の廊下に、ヒールの高い靴が歩く時の硬質な音が響く。
王妃アシュリーは、レオンが王の代わりに仕事をしている王の執務室のドアを開いた。
「どうしましたか、アシュリー王妃殿下」
レオンが静かに笑みを浮かべる。
アシュリーはドアを閉じ、部屋に他に人が居ないのを確認する。
「他に此処に人は?」
「クロード大臣なら今は居ませんよ。不安なら、呼んでみればいい」
「いいえ、貴方が言うならそうなのでしょう」
「……どうなされました?」
アシュリーがそっと手紙の封筒を差し出す。
「セスが、犯行声明を出すのに使った手紙?」
「そう、私の娘、セスが私に送った手紙。実はこの手紙は……」
アシュリーが、上の封筒をずらす。
「二通ありました」
レオンが目を見開く。
「私の体には、異常な重力の負荷は掛からなかった。代わりに私の部屋には魔法がかかっていて、中から開かなかった。そしてこの封筒には、私がいる場所でしか開かない様に魔法が掛かっていた……城の中の人達が異常な重力で動けない間、私は私の部屋でこの手紙を読みました」
「何が、書かれていたのですか?」
レオンが、動揺を隠しながら言う。
「まずは、謝らせて下さい。レオン、私の夫がしてしまったこと。私の夫は、貴方に酷いことをしたわ」
アシュリーが静かに頭を下げる。
レオンは少し空けてから言った。
「……非礼を承知で申し上げるなら、簡単に許すとは言えない」
「ええ、わかっています」
「目が私にとって、どれほど大切な物かは、ご存知でしょう」
「……はい」
アシュリーは、眉間に皺を寄せ、とても苦々しい顔をした。
しばしの沈黙が流れた後、レオンは言った。
「はぁ、いいでしょう。許します。その件については、セスにも散々謝られてしまったので」
レオンがやれやれという顔をして、仕方なさそうに笑う。
アシュリーが、呆気に取られる。
「セスが?」
「まぁ、色々考えさせられることがあったんですよ……それで? 手紙には他に何が書かれていたんですか?」
嘘の無い笑顔で、レオンが尋ねる。
しかしアシュリーは、ハッとした顔をした。
「それが……」
ーーー会議室にてーーー
軽くカールの掛かったブラウンの髪の男が、会議室のドアを開ける。
「チャールズ!」
丸渕(まるぶち)の眼鏡を掛け、厚いローブを羽織った、如何(いか)にも教授らしい男が声をかける。
「アルノー! 君も呼ばれたのか!」
アルノーとは、アルノルト・ブラウンの愛称である。
ここにいるチャールズ・レーヴェとアルノルト・ブラウンは、クロードが、玉座の間で起こった誘拐事件を解決する為に呼び寄せた人物達だ。
チャールズ・レーヴェは、今は国が運営する貴族が学習する為の学園の講師をして居るが、元は諜報機関の人間で、犯罪者の追跡や確保に関わっていた経歴を持っている。
アルノルト・ブラウンは国の研究機関で使われる魔力の種類や、魔力を探知する方法について、幅広く研究をしている研究者だ。
二人は古くからの友人であるが、会うのは久しぶりであり、軽いハグを交わした。
「城での噂は聞いているか?」
「あぁ、城で大規模な重力異常が起こり、王が忽然と玉座の間から消えたという……」
「そこに、魔力検知の専門家の私と、元スパイの、追跡のプロの君が呼ばれたということはつまり……」
「ご推測の通りです」
二人の横から一人の老人が現れる。
「わっ! 驚かさないで下さいよ、クロード大臣、心臓に悪い」
「諦めろチャールズ。クロード大臣が突然現れるのは、最早この城の風物詩だ」
「風物詩って……」
チャールズは、どんな風物詩だよという顔をしてアルノルトを見る。
「照れますねぇ」
三人の間に微妙な空気が流れる。
アルノルトは咳を一つして、話を切り出す。
「それで、私達が呼ばれた訳というのは……」
「貴方達には、誘拐された陛下の行方を探して頂きたい」
「誘拐された?!」
チャールズが驚いて声を上げる。
「ええ、そうです。表向きは、大規模な魔力磁場の発生によって、城の重力に異常が生じ、事故で非常用の魔方陣が発動、磁場に巻き込まれ陛下が姿を消した……となっておりますが、これらは全て人為な物」
「人為的な物? これだけ大規模な魔法を使うとなると、相手は魔王か何かですかね?」
チャールズが、やれやれと頭を掻く。
クロードが少し渋い顔をする。
「いいえ、|厄介な事に(・・・・・)魔王ではありません。実は、この話は少しややこしく……国王陛下には、第一王子カミーユ様、第二王子エドガー様の他にもう一人、姫君がいらっしゃるのです」
「姫君?」
アルノルトが首を傾げる。
「んん? 国王陛下の御子(みこ)はエドガー様とカミーユ様だけでは? それとも私の情報違いでしょうか?」
チャールズが尋ねる。
「残念ながらその情報は、間違っています。ただし、彼女の存在は隠匿されているので、側近と一部の大臣以外には知られておりません。まぁ、仕方ないですな」
アルノルトが目を丸くし、チャールズが『フュー』口笛を吹く。
「国王陛下の誘拐に、彼女が関わっていることは間違いない。ただ、彼女は今日で丁度7歳。使用された膨大な魔力といい、この用意周到さといい、とても一人でことの全てを行ったとは思えません」
「つまり、主犯は別にいると」
「そうです。そしてそれは恐らく……」
突然、会議室のドアが開く。
長い銀髪の男が、有無を言わさず入ってきた。
「クロード大臣、セス……いや、私の姪っ子を探すのを手伝って欲しい」
クロードは内心、軽く舌打ちをしつつ、全く顔に出さずに言った。
「もちろんでございます」
王妃アシュリーは、レオンが王の代わりに仕事をしている王の執務室のドアを開いた。
「どうしましたか、アシュリー王妃殿下」
レオンが静かに笑みを浮かべる。
アシュリーはドアを閉じ、部屋に他に人が居ないのを確認する。
「他に此処に人は?」
「クロード大臣なら今は居ませんよ。不安なら、呼んでみればいい」
「いいえ、貴方が言うならそうなのでしょう」
「……どうなされました?」
アシュリーがそっと手紙の封筒を差し出す。
「セスが、犯行声明を出すのに使った手紙?」
「そう、私の娘、セスが私に送った手紙。実はこの手紙は……」
アシュリーが、上の封筒をずらす。
「二通ありました」
レオンが目を見開く。
「私の体には、異常な重力の負荷は掛からなかった。代わりに私の部屋には魔法がかかっていて、中から開かなかった。そしてこの封筒には、私がいる場所でしか開かない様に魔法が掛かっていた……城の中の人達が異常な重力で動けない間、私は私の部屋でこの手紙を読みました」
「何が、書かれていたのですか?」
レオンが、動揺を隠しながら言う。
「まずは、謝らせて下さい。レオン、私の夫がしてしまったこと。私の夫は、貴方に酷いことをしたわ」
アシュリーが静かに頭を下げる。
レオンは少し空けてから言った。
「……非礼を承知で申し上げるなら、簡単に許すとは言えない」
「ええ、わかっています」
「目が私にとって、どれほど大切な物かは、ご存知でしょう」
「……はい」
アシュリーは、眉間に皺を寄せ、とても苦々しい顔をした。
しばしの沈黙が流れた後、レオンは言った。
「はぁ、いいでしょう。許します。その件については、セスにも散々謝られてしまったので」
レオンがやれやれという顔をして、仕方なさそうに笑う。
アシュリーが、呆気に取られる。
「セスが?」
「まぁ、色々考えさせられることがあったんですよ……それで? 手紙には他に何が書かれていたんですか?」
嘘の無い笑顔で、レオンが尋ねる。
しかしアシュリーは、ハッとした顔をした。
「それが……」
ーーー会議室にてーーー
軽くカールの掛かったブラウンの髪の男が、会議室のドアを開ける。
「チャールズ!」
丸渕(まるぶち)の眼鏡を掛け、厚いローブを羽織った、如何(いか)にも教授らしい男が声をかける。
「アルノー! 君も呼ばれたのか!」
アルノーとは、アルノルト・ブラウンの愛称である。
ここにいるチャールズ・レーヴェとアルノルト・ブラウンは、クロードが、玉座の間で起こった誘拐事件を解決する為に呼び寄せた人物達だ。
チャールズ・レーヴェは、今は国が運営する貴族が学習する為の学園の講師をして居るが、元は諜報機関の人間で、犯罪者の追跡や確保に関わっていた経歴を持っている。
アルノルト・ブラウンは国の研究機関で使われる魔力の種類や、魔力を探知する方法について、幅広く研究をしている研究者だ。
二人は古くからの友人であるが、会うのは久しぶりであり、軽いハグを交わした。
「城での噂は聞いているか?」
「あぁ、城で大規模な重力異常が起こり、王が忽然と玉座の間から消えたという……」
「そこに、魔力検知の専門家の私と、元スパイの、追跡のプロの君が呼ばれたということはつまり……」
「ご推測の通りです」
二人の横から一人の老人が現れる。
「わっ! 驚かさないで下さいよ、クロード大臣、心臓に悪い」
「諦めろチャールズ。クロード大臣が突然現れるのは、最早この城の風物詩だ」
「風物詩って……」
チャールズは、どんな風物詩だよという顔をしてアルノルトを見る。
「照れますねぇ」
三人の間に微妙な空気が流れる。
アルノルトは咳を一つして、話を切り出す。
「それで、私達が呼ばれた訳というのは……」
「貴方達には、誘拐された陛下の行方を探して頂きたい」
「誘拐された?!」
チャールズが驚いて声を上げる。
「ええ、そうです。表向きは、大規模な魔力磁場の発生によって、城の重力に異常が生じ、事故で非常用の魔方陣が発動、磁場に巻き込まれ陛下が姿を消した……となっておりますが、これらは全て人為な物」
「人為的な物? これだけ大規模な魔法を使うとなると、相手は魔王か何かですかね?」
チャールズが、やれやれと頭を掻く。
クロードが少し渋い顔をする。
「いいえ、|厄介な事に(・・・・・)魔王ではありません。実は、この話は少しややこしく……国王陛下には、第一王子カミーユ様、第二王子エドガー様の他にもう一人、姫君がいらっしゃるのです」
「姫君?」
アルノルトが首を傾げる。
「んん? 国王陛下の御子(みこ)はエドガー様とカミーユ様だけでは? それとも私の情報違いでしょうか?」
チャールズが尋ねる。
「残念ながらその情報は、間違っています。ただし、彼女の存在は隠匿されているので、側近と一部の大臣以外には知られておりません。まぁ、仕方ないですな」
アルノルトが目を丸くし、チャールズが『フュー』口笛を吹く。
「国王陛下の誘拐に、彼女が関わっていることは間違いない。ただ、彼女は今日で丁度7歳。使用された膨大な魔力といい、この用意周到さといい、とても一人でことの全てを行ったとは思えません」
「つまり、主犯は別にいると」
「そうです。そしてそれは恐らく……」
突然、会議室のドアが開く。
長い銀髪の男が、有無を言わさず入ってきた。
「クロード大臣、セス……いや、私の姪っ子を探すのを手伝って欲しい」
クロードは内心、軽く舌打ちをしつつ、全く顔に出さずに言った。
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