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一章

〈空の兵隊〉(5)

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(やーー……バレてましたね。予想してたけど、気付かれてましたね~、でもなんでだろ?)

 私は、一応自分の魔力がバレ無いように魔力操作をし、誤魔化している。

 その為昔叔父に気付かれた様に誰かに気付かれる事は無いと思っていたのだが……

「俺のこの姿が偽物だって、どうして気付いたんだ?」

 私は開き直って尋ねる。

「騎士の勘だ!!」

(騎士の勘……騎士のカン……キシノカン。)

 私は一瞬思考停止しかけるが、持ち直す。

(散々悩んだ答えが騎士の勘って……いやいやいやいや、叔父ではあるまいし、仮に本当にそうだとしたら私の人生で驚いた事ランキングベストスリーにランクインするわ!)

 私は土魔法で等身大アベルの身体を作りあげると、重力魔法・風魔法を使って、自身の身体をそっと浮き上がらせる。

(答えたく無い時の解答として騎士の勘と答えているんだろうな……これで目の前にいるのが私で無いと気づくかな?)

「魔族の者か?正体を現せ‼︎」

 女騎士が土人形(アベル)の首に剣を突きつける。

 一方私はふわふわと浮かび、空中で逆さまになっている。

(あれは血が流れる事を想定して剣を突きつけているんだろうか?力加減が微妙で分かりにくい…。)

 この状況で微妙に突っ込みどころのある感想ではあるが、安心してほしい私にも一応、少しは、危機感というものがある……おそらく。

「勘……って言われてもよぉ~、それもし外れてたら、あんた単なる殺人鬼だぜ?」

 私はアベルがやれやれといった感じで手を上にあげる風に見せる。

「むっ……確かにそうだが、私の勘が外れた事は無い、っとそれよりも質問に答えろ、お前は何者だ?」

 アガットが剣を土人形に強めに突きつける。

(勘外れた事ないのか‼︎最強系騎士の勘‼︎……っと多分嘘だとして。……これは普通なら出血してるな……多分。)

 私はアベルの首から一筋の血が流れる様に見せる。

(それにしても私(セス)の立ち位置に気づかないな…ここまでくれば一応安全……かな?)

 民家の屋根の上にそっと降り立つ。

「それこそ聞くだけ野暮ってもんじゃぁねぇのか?まぁ、魔族かどうか心配って気持ちはわかるけどよぉ。でもそしたら、自分の敵たる人間に対してあんなに仲良くなんてするか?」

 女騎士の顔が少しだけ険しくなる。

「それは……っと、随分と余裕だな、私を倒せる算段でもあるのか?」

 女騎士が持ち直す。

 正直に言ってしまうと、倒せる算段は無い。
 しかし逃げ切る算段ならある。

(彼女剣技+何らかの魔法のコンビネーションはどうなるか分からん。最悪重力魔法で押さえ込めばいける……かな?)

 私の実践経験といえば兄や叔父との喧嘩と海での漁ぐらいなものであり、まだまだ偏っている。
 そして実際彼女がどんな魔法を使うか、実際の剣豪というのはどんなものかなど、想像がつかない点も多い。

(出来ればこのまま戦闘は避けたいっ…避けられるかなぁ~?いや、ちょっと難しいかなぁ~?)

「算段は……正直ねぇな。ただ」
「ただ?」

 一瞬、叔父の事が思い浮かんだ。

「今は、一緒に居てやらなきゃならねぇ奴居るし、俺は別に、自分の正体偽ってねぇし、何より、あんたに殺される様な事した覚えはねぇな」

 しらを切る。
 自分の正体ばらす訳にはいかない。

 というのも私の目下の心配事は、自分の正体がバレてその話が王に伝わる事なのだ。
 叔父が居なくなったのと同時期に一年半行方不明の私がここに居たとなれば、何をされたものかわかったものではない。

(ここで駄目ならアベルという一人の人が死んだ事にでもしようかな?……でもなぁ……)

 正直、今の町の人との関係性が崩れるのに忌避感がある。
 私はこの町で結構皆と上手くやっているのだ。

「私に、殺される覚悟がある様だな」

 女騎士の目が本気になる。

(土人形をなんとかして逃すか……ん?)

 私は向かいの家の上に魔力の反応があるのに気づく。

(あれは……鴉(カラス)か、にしても様子がおかしい様な。)

 私は会話を伸ばしつつ、またふわりと屋根から空中へ浮かぶ。

「おい、アガット、人には秘密の一つやふたつあるもんだぜ?それをいちいち人殺してまで探すのが、騎士様の仕事だってのか?」

 カラスの後ろ側まで辿り着く、鴉は私に気づいて居ない。

「くっ……時と場合による。特に今の様な、戦況の厳しい戦時中にはな……おい!話す気がないなら話したいようにするまでだ。取り敢えず牢屋行きは覚悟しておくんだな、後ろを向け!」

 カラスを解析しようとした私の手が一瞬止まる。

(戦況の厳しい……戦時中?)

「それはどういう」

『カァ! バサバサバサッ!』

 急に鴉が反応する。

(なんだ?!)

 鴉の赤い目がこっちを向いている、気づかれた様だ。

(しまった!!)

「そこか!」

 女騎士が発言と同時にナイフを一本投げた。
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