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一章
〈空の兵隊〉(4)
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(ラッキーと言えばラッキーなのだが……)
女騎士は、ガッと私の横の席を引きガンッと音を立てて座った。
(わわぁー、ど~しよー、助けてマリーン!)
マリンは某青ダヌキではない、今頃は城でエドガーに魔法を教えているだろう。
「エールを一つ頼む」
「は、はい!」
(流石のガルム(酒場の店員)も慌てているか……私は、パニックになり過ぎて逆に冷静になって来たぞ。)
何をいっているかわからないと思うが大丈夫、私も分からない。
「「「「「……」」」」」
(きっまず!)
アガット・セリーヌと言えば結構有名な女騎士で、兵士からすれば憧れの的であり、民衆からすれば尊敬の的である。
皆、彼女の前でとても緊張しているのだ。
(ここは何とかして場の空気を取り戻さなければ。)
最早、当初の情報収集という目標を忘れている。
(ここは、いたって自然に盛り上がりそうな事を。)
「あんたが赤い獅子と名高いアガット・セリーヌか、近くで見ると更に別品だな」
(自分で言っててなんだけど恥ずかしいー!!)
女騎士は少し目を見開くと、ふっと笑って私に言った。
「そういう貴殿の顔もなかなか男前だぞ、名前を聞いてもよろしいかな?」
私は今ガタイの良い身体、茶色の瞳、茶色の長髪を後ろで一回括っている、まあまあのイケメンである。
「アベル・レイフォード、漁師をやっている」
私は握手しようと右手を差し出す。
(普通に握手したら一発で子供の手だってバレるから、ちゃんと土魔法・火魔法・魔法操作により、男性の大きい、暖かい手を演出しております、フッフッフッ)
女騎士が右手を掴んでぐっと手前に引っ張る。
身体が引っ張られて手前に少し倒れかける……様に見せる。
(?!)
女騎士が耳元(幻影の方)で囁く。
「この後、ちょっといいかな?」
酒場から歓声が上がる。
「ヒューーやるなぁ~あんちゃん!」
|ガルム(酒場の店員)が盛り立てる。
「けっ他所でやれってんだ!」
別のテーブルの兵士が、ヤジを飛ばす。
「まあまあ、いいじゃねえか」
知り合いの船長が、それを宥める。
「なんだと~やるってんのか」
「いい度胸だな~漁師舐めんなよ!」
「グビッグビッグビッっぷはー!」
取っ組み合いの喧嘩が始まる。
(はぁ、何やっとんだあの二人は…まあ船長が相手だから上手くやってくれるとは思うけど……というか常連のおっちゃん! よく飲むな~。)
私はポケットから銀貨の沢山入った袋を取り出すと、ドンッとテーブルに置いた。
「足りなかったら付けで、多かったらチップで、兎に角また後で、てめぇら! 今日は存分に楽しみやがれ‼︎」
「「「「ウェーーーイ!!」」」」
(なんとかまた盛り上がってくれた様だ、さーて……)
「アベル! 受け取れ!」
私は風魔法と重力魔法を使ってガルムが投げたワインのボトルを受け取る。
「これは……」
(コニャック村(酒の名産地)のピンクシャンパン!! こんな物どこで手に入れたんだ! 王宮にもなかったぞ!)
ガルムは手でサムズアップをして、ウィンクする。
(ガルム……私は本当に良い友人を持った。)
「後で払えよ~!」
(おい!! まあ良いけど! いいんだけどね!)
若干在庫処分の為に回された様な気もするが、そんな気分を振り払って女騎士をエスコートする。
「何処へでもエスコートするぜ?何処へ行きたい?」
「別に、宴会が終わってからでも良かったんだけどな……良かったのか?抜けてきてしまって」
私は、あ~あいつらね……という顔になって言った。
「そんなことより、こんな美人をあんなむさ苦しい所に置いておく方が問題だっての……っと、夜景の綺麗な場所とか、星が綺麗に見える場所とかなら案内できるが、何分夜だからな、あんまりいい観光スポットはねーぜ?」
(女性だと分かっていないと、偶にとんでもない下ネタが飛んできたりするのだ、慣れて無い女性があそこに居るのはきついだろ……っと問題はそこじゃなくてだな。)
「いつもあんな感じなのか? 結構……財布にされてなかったか?」
(聞きにくい事をザックリ聞くなぁ、でもまぁ……)
「いいんだよ、あいつらには結構世話になってるし、来たばっかん時は結構助けて貰ったりもしたしな……それに、今回は多分特別だろ」
「……特別?」
「帰ってこない兵士とか……居たろ、それに帰って来た長らく会って居なかった息子に、なんかお祝いをしてやりたいって気持ちは分からなくも無いからな」
アガットは目を見開いて、びっくりしている。
「……その、貴殿は、もっとこう、ガサツなイメージだったのだが……その、優しいのだな」
(お、私はガサツに見えるのか…それは兎も角として。)
「言葉だけって奴も結構いるぜ?あんまころっと引っかかんなよ、っと……で、あんたの方からなんかあったんじゃねーの?」
アガットは、スッと真剣な顔になる。
「どうしてそう思ったんだ?」
私は至って普通に答える。
「だって俺に声かけただろ? こんな美人だぜ、引く手数多だろってのに、な~んで俺なんかにって思うだろ普通ー?」
私は肩をすくめて見せる。
アガットはまた目を見開いて、目をパチパチさせて驚いている。
「普通そう思うのか?」
「普通そー思うだろうな」
アガットはちょっとムッとした感じで言う。
「それは、聞くだけ野暮ってものでは無いのか?それとも口説いているのか?」
「残念ながら俺は美人でも旦那のいる美人には手~ださねぇ主義なんでね。奥がいるならそいつだけ愛する一途な男なんだぜ?」
私は両手の手のひらを上に向けてやれやれといったポーズを取る。
「奥方がいるのか?」
「いや、まだ誰も居ね~な」
「いないのか? その容姿なら居そうなものだが……それともそれは……」
アガットが言い淀む、真剣な顔でこっちを向く。
「それは……?」
私にはちょっとだけ予想がついて居た。それは……
「貴殿が、魔法で自身の姿を誤魔化しているからなのか?」
アガットが剣を抜いてこちらに向けながら、そう言った。
女騎士は、ガッと私の横の席を引きガンッと音を立てて座った。
(わわぁー、ど~しよー、助けてマリーン!)
マリンは某青ダヌキではない、今頃は城でエドガーに魔法を教えているだろう。
「エールを一つ頼む」
「は、はい!」
(流石のガルム(酒場の店員)も慌てているか……私は、パニックになり過ぎて逆に冷静になって来たぞ。)
何をいっているかわからないと思うが大丈夫、私も分からない。
「「「「「……」」」」」
(きっまず!)
アガット・セリーヌと言えば結構有名な女騎士で、兵士からすれば憧れの的であり、民衆からすれば尊敬の的である。
皆、彼女の前でとても緊張しているのだ。
(ここは何とかして場の空気を取り戻さなければ。)
最早、当初の情報収集という目標を忘れている。
(ここは、いたって自然に盛り上がりそうな事を。)
「あんたが赤い獅子と名高いアガット・セリーヌか、近くで見ると更に別品だな」
(自分で言っててなんだけど恥ずかしいー!!)
女騎士は少し目を見開くと、ふっと笑って私に言った。
「そういう貴殿の顔もなかなか男前だぞ、名前を聞いてもよろしいかな?」
私は今ガタイの良い身体、茶色の瞳、茶色の長髪を後ろで一回括っている、まあまあのイケメンである。
「アベル・レイフォード、漁師をやっている」
私は握手しようと右手を差し出す。
(普通に握手したら一発で子供の手だってバレるから、ちゃんと土魔法・火魔法・魔法操作により、男性の大きい、暖かい手を演出しております、フッフッフッ)
女騎士が右手を掴んでぐっと手前に引っ張る。
身体が引っ張られて手前に少し倒れかける……様に見せる。
(?!)
女騎士が耳元(幻影の方)で囁く。
「この後、ちょっといいかな?」
酒場から歓声が上がる。
「ヒューーやるなぁ~あんちゃん!」
|ガルム(酒場の店員)が盛り立てる。
「けっ他所でやれってんだ!」
別のテーブルの兵士が、ヤジを飛ばす。
「まあまあ、いいじゃねえか」
知り合いの船長が、それを宥める。
「なんだと~やるってんのか」
「いい度胸だな~漁師舐めんなよ!」
「グビッグビッグビッっぷはー!」
取っ組み合いの喧嘩が始まる。
(はぁ、何やっとんだあの二人は…まあ船長が相手だから上手くやってくれるとは思うけど……というか常連のおっちゃん! よく飲むな~。)
私はポケットから銀貨の沢山入った袋を取り出すと、ドンッとテーブルに置いた。
「足りなかったら付けで、多かったらチップで、兎に角また後で、てめぇら! 今日は存分に楽しみやがれ‼︎」
「「「「ウェーーーイ!!」」」」
(なんとかまた盛り上がってくれた様だ、さーて……)
「アベル! 受け取れ!」
私は風魔法と重力魔法を使ってガルムが投げたワインのボトルを受け取る。
「これは……」
(コニャック村(酒の名産地)のピンクシャンパン!! こんな物どこで手に入れたんだ! 王宮にもなかったぞ!)
ガルムは手でサムズアップをして、ウィンクする。
(ガルム……私は本当に良い友人を持った。)
「後で払えよ~!」
(おい!! まあ良いけど! いいんだけどね!)
若干在庫処分の為に回された様な気もするが、そんな気分を振り払って女騎士をエスコートする。
「何処へでもエスコートするぜ?何処へ行きたい?」
「別に、宴会が終わってからでも良かったんだけどな……良かったのか?抜けてきてしまって」
私は、あ~あいつらね……という顔になって言った。
「そんなことより、こんな美人をあんなむさ苦しい所に置いておく方が問題だっての……っと、夜景の綺麗な場所とか、星が綺麗に見える場所とかなら案内できるが、何分夜だからな、あんまりいい観光スポットはねーぜ?」
(女性だと分かっていないと、偶にとんでもない下ネタが飛んできたりするのだ、慣れて無い女性があそこに居るのはきついだろ……っと問題はそこじゃなくてだな。)
「いつもあんな感じなのか? 結構……財布にされてなかったか?」
(聞きにくい事をザックリ聞くなぁ、でもまぁ……)
「いいんだよ、あいつらには結構世話になってるし、来たばっかん時は結構助けて貰ったりもしたしな……それに、今回は多分特別だろ」
「……特別?」
「帰ってこない兵士とか……居たろ、それに帰って来た長らく会って居なかった息子に、なんかお祝いをしてやりたいって気持ちは分からなくも無いからな」
アガットは目を見開いて、びっくりしている。
「……その、貴殿は、もっとこう、ガサツなイメージだったのだが……その、優しいのだな」
(お、私はガサツに見えるのか…それは兎も角として。)
「言葉だけって奴も結構いるぜ?あんまころっと引っかかんなよ、っと……で、あんたの方からなんかあったんじゃねーの?」
アガットは、スッと真剣な顔になる。
「どうしてそう思ったんだ?」
私は至って普通に答える。
「だって俺に声かけただろ? こんな美人だぜ、引く手数多だろってのに、な~んで俺なんかにって思うだろ普通ー?」
私は肩をすくめて見せる。
アガットはまた目を見開いて、目をパチパチさせて驚いている。
「普通そう思うのか?」
「普通そー思うだろうな」
アガットはちょっとムッとした感じで言う。
「それは、聞くだけ野暮ってものでは無いのか?それとも口説いているのか?」
「残念ながら俺は美人でも旦那のいる美人には手~ださねぇ主義なんでね。奥がいるならそいつだけ愛する一途な男なんだぜ?」
私は両手の手のひらを上に向けてやれやれといったポーズを取る。
「奥方がいるのか?」
「いや、まだ誰も居ね~な」
「いないのか? その容姿なら居そうなものだが……それともそれは……」
アガットが言い淀む、真剣な顔でこっちを向く。
「それは……?」
私にはちょっとだけ予想がついて居た。それは……
「貴殿が、魔法で自身の姿を誤魔化しているからなのか?」
アガットが剣を抜いてこちらに向けながら、そう言った。
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