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Episode1

【Episode1(6)】

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「んんっ……」

 まぶしい光に、律が目をこする。
 まだ眠いとばかりに毛の中に顔を突っ込む律を、ノアが鼻で突いた。

「律、起きろ! いつまで私の上で寝ているつもりだ!」

 ノアの背中の上で丸くなる律に痺れを切らしたノアが、律を咥えようと口を開ける。
 律は、目覚まし時計のスイッチでも探す様に、ノアの鼻を触った。

「まだ、もうちょっと……」
「律、腹が減った。いい加減狩るぞ」

 律が眠たそうに「アイテムボックス」と唱えると、律の目の前にマッチと、導線に防水加工がされているダイナマイトが現れる。
 律は、おぼつかない手で火を付け、ふらふらとする腕でダイナマイトを湖に投げた。

『ドーン!!』という音を上げ、巨大な水柱が上がる。
 ノアが、ビーンと真上にがる。
 爆発が収まって少しすると、水面に死んだ魚が浮き上がってきた。

「おやすみ……」

 律が再び、ノアの毛の中に顔を突っ込む。
 ノアが、尻尾を立てたまま、律に軽く噛みついた。

ふぁふぃろ起きろ!」



 律は、どうにかこうにか目を覚ますと、まず服を脱いだ。
 体を湖の水で洗うと、アイテムボックスにしまってあった、血糊がべったりとついている、真っ黒なトレンチコートと大きめのベレー帽を湖の水で洗った。
 一方ノアは、湖に浮いてきた魚を咥えて、岸に集めた。
 律は、そのあと、岸に上がっている魚をナイフで捌き、内臓を取り出して串に刺し、適当な石と木を集めて焚火を作ると、魚を焼き始めた。
 お互い何も言わない、なんとも言えない空気が流れていた。
 律は、自分の分の魚を食べ終わると、そのまま立ち上がり、ノアに背を向けて歩き始る。
 ノアが、なんとなく律の後ろをついて歩く。
 律は、コルトパイソンを引き抜くと、ノアの足元に向けて銃弾を放った。

「お前はもう自由だ。好きなところへ行け」

 帽子を深く被り、目を伏せった律は、次の村への方角へと歩き始める。
 律の目の前が、急に暗くなった。
 振り返り際に、ノアが前足で律の肩を押す。
 そのまま後ろに倒れた律は、手にもっていたコルトパイソンを落とし、前足で両腕を抑えられた。

「こうなるとは、思っていなかったのか」

 ノアが、律の首に歯を当てる。
 律は答えず、静かに目を閉じる。
 ノアが苦々しい表情をし、毛がブワっと逆立てた。

「いい加減にしろっ! 私を飼うんだろ! だったら最後まで、責任もって面倒を見ろ!」

 ぽんっ! という音をたて、子犬程の大きさになったノアが、律に顔を押し付ける。
「キュー」と鳴きながら、自分にすり寄るノアに、律が瞠目する。

 律が、ノアを両手で抱き上げた。

「飼う」

 律の表情は真剣だった。



 散々体を撫で回され、耳を真っ赤にして元の姿に戻ったノアと律は、切り株で一休みしていた。
 律が、自分のステータスを開く。

「ステータス、オープン」


 いつき りつ:Lv.11 

 HP:60/60
 MP:2000/2000

【スキル】
 死神:Lv.Max
 言語理解
 幸運:Lv.3
 複製魔法:Lv.1
 読心術:Lv.1
 転移:Lv.1
 筋力強化:Lv.1
 水魔法:Lv.1
 魔法陣作成:Lv.1
 索敵:Lv.2

【加護】
 死神の加護
 転生の女神の加護


 律のステータスは、暗殺と、猟師たちと共に行った狩りにより、飛躍的に上昇していた。
 律は、死神の加護と書かれた文字をクリックする。
 すると、ステータスプレートの前に小ウィンドウが現れた。


<死神の加護>
 キヒヒ……ソウカンタンニシナセネェヨ。


 心強いのか、恐ろしいのかよくわからないメッセージだ……。

 全く解説になっていない加護の内容をスルーして、転生の女神の加護と書かれた部分をクリックする。
 すると、死神の加護と書かれた小ウィンドウが閉じ、転生の女神の加護と書かれたウィンドウが開いた。


<転生の女神の加護>
 律さん、魔王を復活させるとはどういう事ですか。


 全く加護になっている気がしない。

 律が、小ウィンドウを閉じ、ステータスプレートを開いたまま、近くの石を拾い上げる。
 複製魔法のスキルを用いて、石が増える様に念じると、石がもう一つ空中に現れた。

 律は、MPが5程減少しているのを確認し、アイテムボックスから銀のキャリーケースを取り出す。
 足りない銃弾や、消費したダイナマイトを複製しようとするが――

『スキルレベルが足りません』
「ふむ。もう少しスキルを使い込まないと、複製が難しいようだな。少し練習してから出発するか?」

 後ろから見ていたノアが、律に話しかける。
 律が、頷いた。



 律と離れた人々が、まだ村までの道中を歩く中、先に隣村まで着いている男が一人いた。
 高速移動のスキルの持ち主、ドンガだ。
 ドンガは、村にお忍びで足を運んでいた領主の前に跪く。

「それで、その村の人間はどうなったんだ?」
「全員、律とかいう、暗殺者を名乗る黒服の男に殺されてしまいまいまして」
「契約の書は」
「奪われました」

 領主が、髭を掻く。
 領主は立ち上がって、窓縁から村の様子を覗いた。

「その律という男に、一度会ってみなくてはならない様だな」
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