7 / 57
一章
強面さまと訓練です
しおりを挟む
初対面から2日後、見た人が確実に遠近感を疑うような2人が、早くも訓練を始めようとしていた。
「……お、おいあれ」
「…………訓練中だよな。え、合意の上?助けた方がいいのか……?」
「でもちっさい方も反撃してるっぽいし……大丈夫じゃないか?それに俺、怖くて声かけらんない」
「……そうだな。行こう」
見られていることに気づかない二人は、なおも戦闘を続けている。しかしこれを戦闘と言ってよいのかと思う程に、ロゼの攻撃はゼルドに効いていなかった。ゼルドもある程度は力を調整しているようだが、誰かに教えることなどなかったのだろう、容赦がない。
「手合わせをするぞ」
「は、はい。宜しくお願いします」
会って最初に、ゼルドはそう言った。ロゼは手合わせで自分の実力を測り、そこから共闘訓練をしてくれるのだろう、と足りない言葉を補って解釈した。リリーからの情報では、ゼルドはロゼの3つ上の20歳で、その世代の中では最も強いと言われている、らしい。支部にいる現役の火使いを合わせたとしても、上位の実力だそうだ。
それを聞いた時、そんな人と共闘なんて自分には荷が重すぎやしないかとロゼは自嘲気味に笑ったが、こうやって対面すると笑う余裕なんて微塵もない。
物凄い爆発音と同時に爆風によって吹き飛ばされたロゼは、壁にぶつかる直前に自身の背中側に半球体状の風壁を張り、身を守る。しかしゼルドによる爆発によって髪の先端が少し焦げてしまっており、身体もそこら中擦り傷だらけだ。
自身の神力を用いて術を発動する際、必ず詠唱が必要ということはない。しかし詠唱しないにしてもいくらかのタイムラグが生じてしまうのが普通だ。しかしゼルドにはそれがなかった。
円状に窪んだ訓練場の壁から身を起こしたロゼが見たのは、自身の手を開いたり握ったりして、加減を調整しようとしているゼルドの姿だった。
――まるで相手にならないじゃないですか!これで実力の一割とか言われたら、私は泣く自信があります!!
悔しいやらなにやら、ロゼは複雑な気持ちだったが、こちらの実力をはかるために相手をしてもらっている以上は全力でいかなければならない。
ロゼは走り出した。手に持った長剣を振って複数の風刃をつくり出し、そのままゼルドの懐に入り込もうと走り続ける。風刃が避けられても、接近戦に持ち込めると判断したのだ。
しかし予想に反してゼルドは攻撃を避けることなく、手に持った柄の長い武器を構え、そして目に見えない速さで横に薙ぎ払った。
「ぅえっ!?」
ロゼは仰天した。見た限り神力を使った様子もなかったのに、その一閃でロゼの放った刃が全て切り込まれ周りに吹き飛んでしまったのだ。煙が立ち込める中、何もなかったように無表情で立っているゼルドは、ロゼにとってはまるで得体のしれない魔物、いや鬼神だった。
――――神力を使った様子がないということはまさか、風圧で!?ええええええ、風使いのいる意味ないじゃないですか!
ごもっともである。
ならば接近戦で、と思い跳躍して剣を振り下ろすが、それさえも右手首を掴まれて封じられてしまう。結果、方手首を掴まれたままぶらーんと吊るされてしまった。なにせ身長差が二倍近くあるので、今の状態はいたずらをして捕まえらた子猫と、その子猫をどうしてやろうかと吟味している魔王、いや男にしか見えない。
ちなみに今、ゼルドは柄の長い、いかにも切り刻む、殴る、断ち切るのにふさわしいような武器を持っているので怖さはいつもの倍である。睨まれたらどんな悪党も失禁して気を失うだろう。
「終いか?」
「………………………他にも見てもらいたい技はあったんですけど、まあ、はい」
「そうか。改善点は大いにありそうだ」
「……はい。あ、あの、すみません。下ろしてもらえませんか」
そう、ロゼは先程からずっと左手首を掴まれ持ち上げられた状態のままだった。血が上ることによって生じた独特の痺れが少し痛い。
おずおずと言ったロゼに対し、ああ、と今思い出したようにこぼしたゼルドはロゼの左腕を離した……………が。
「に、にゃんで!?」
それと同時に反対側の腕に持ち替え、ロゼの首根っこを掴んだではないか!これで、吊られた猫状態は継続、いや悪化してしまった。
哀れロゼ、まさに猫の扱い。
「下ろしたら顔を合わせるのが難しくなるだろう」
確かにえげつない身長差のせいで、ゼルドと話す際ロゼは首を痛めながら話さなければならない。それを考慮してくれたのは分かる。
だがしかし。
「心配の方向性が間違ってます!これはおかしいでしょう!!」
「…………そうか?別に重くないぞ」
「――そぉゆうことじゃないんですよ!と、とにかく、下ろしてください」
「……分かった」
よくわからん奴だな、という顔で下ろされる。
――いやいや、私は正常ですよ!怖い顔顰めて首傾げないでください、可愛くないです!……なんかもう、疲れた……
ロゼは普段、誰かに対して声を荒らげることは滅多にない。だのに、みんなから恐れられるゼルドに言い返しているのだから不思議だ。案外肝が座っているのか、それともゼルドの行動が異常なせいなのか。
ロゼは気づいていないが、最初あんなに怖がっていたゼルドの顔も今は普通に見れるようになっていた。自分の何倍もでかい体の男に、どもりながらもきーきーと言い返す。その様はまさに可愛らしい子猫だ。
「それじゃあ」
「り、両手で持ち上げるのもダメです」
両手を広げてロゼの両脇に差し込もうとしたゼルドは、ロゼの拒絶にあい、腕を下ろす。
「面白いやつだな」
――――私は正常です!
少しむくれたロゼは気が付かなかった。
鋭いゼルドの目が、少しだけ緩んでいることに。
「……お、おいあれ」
「…………訓練中だよな。え、合意の上?助けた方がいいのか……?」
「でもちっさい方も反撃してるっぽいし……大丈夫じゃないか?それに俺、怖くて声かけらんない」
「……そうだな。行こう」
見られていることに気づかない二人は、なおも戦闘を続けている。しかしこれを戦闘と言ってよいのかと思う程に、ロゼの攻撃はゼルドに効いていなかった。ゼルドもある程度は力を調整しているようだが、誰かに教えることなどなかったのだろう、容赦がない。
「手合わせをするぞ」
「は、はい。宜しくお願いします」
会って最初に、ゼルドはそう言った。ロゼは手合わせで自分の実力を測り、そこから共闘訓練をしてくれるのだろう、と足りない言葉を補って解釈した。リリーからの情報では、ゼルドはロゼの3つ上の20歳で、その世代の中では最も強いと言われている、らしい。支部にいる現役の火使いを合わせたとしても、上位の実力だそうだ。
それを聞いた時、そんな人と共闘なんて自分には荷が重すぎやしないかとロゼは自嘲気味に笑ったが、こうやって対面すると笑う余裕なんて微塵もない。
物凄い爆発音と同時に爆風によって吹き飛ばされたロゼは、壁にぶつかる直前に自身の背中側に半球体状の風壁を張り、身を守る。しかしゼルドによる爆発によって髪の先端が少し焦げてしまっており、身体もそこら中擦り傷だらけだ。
自身の神力を用いて術を発動する際、必ず詠唱が必要ということはない。しかし詠唱しないにしてもいくらかのタイムラグが生じてしまうのが普通だ。しかしゼルドにはそれがなかった。
円状に窪んだ訓練場の壁から身を起こしたロゼが見たのは、自身の手を開いたり握ったりして、加減を調整しようとしているゼルドの姿だった。
――まるで相手にならないじゃないですか!これで実力の一割とか言われたら、私は泣く自信があります!!
悔しいやらなにやら、ロゼは複雑な気持ちだったが、こちらの実力をはかるために相手をしてもらっている以上は全力でいかなければならない。
ロゼは走り出した。手に持った長剣を振って複数の風刃をつくり出し、そのままゼルドの懐に入り込もうと走り続ける。風刃が避けられても、接近戦に持ち込めると判断したのだ。
しかし予想に反してゼルドは攻撃を避けることなく、手に持った柄の長い武器を構え、そして目に見えない速さで横に薙ぎ払った。
「ぅえっ!?」
ロゼは仰天した。見た限り神力を使った様子もなかったのに、その一閃でロゼの放った刃が全て切り込まれ周りに吹き飛んでしまったのだ。煙が立ち込める中、何もなかったように無表情で立っているゼルドは、ロゼにとってはまるで得体のしれない魔物、いや鬼神だった。
――――神力を使った様子がないということはまさか、風圧で!?ええええええ、風使いのいる意味ないじゃないですか!
ごもっともである。
ならば接近戦で、と思い跳躍して剣を振り下ろすが、それさえも右手首を掴まれて封じられてしまう。結果、方手首を掴まれたままぶらーんと吊るされてしまった。なにせ身長差が二倍近くあるので、今の状態はいたずらをして捕まえらた子猫と、その子猫をどうしてやろうかと吟味している魔王、いや男にしか見えない。
ちなみに今、ゼルドは柄の長い、いかにも切り刻む、殴る、断ち切るのにふさわしいような武器を持っているので怖さはいつもの倍である。睨まれたらどんな悪党も失禁して気を失うだろう。
「終いか?」
「………………………他にも見てもらいたい技はあったんですけど、まあ、はい」
「そうか。改善点は大いにありそうだ」
「……はい。あ、あの、すみません。下ろしてもらえませんか」
そう、ロゼは先程からずっと左手首を掴まれ持ち上げられた状態のままだった。血が上ることによって生じた独特の痺れが少し痛い。
おずおずと言ったロゼに対し、ああ、と今思い出したようにこぼしたゼルドはロゼの左腕を離した……………が。
「に、にゃんで!?」
それと同時に反対側の腕に持ち替え、ロゼの首根っこを掴んだではないか!これで、吊られた猫状態は継続、いや悪化してしまった。
哀れロゼ、まさに猫の扱い。
「下ろしたら顔を合わせるのが難しくなるだろう」
確かにえげつない身長差のせいで、ゼルドと話す際ロゼは首を痛めながら話さなければならない。それを考慮してくれたのは分かる。
だがしかし。
「心配の方向性が間違ってます!これはおかしいでしょう!!」
「…………そうか?別に重くないぞ」
「――そぉゆうことじゃないんですよ!と、とにかく、下ろしてください」
「……分かった」
よくわからん奴だな、という顔で下ろされる。
――いやいや、私は正常ですよ!怖い顔顰めて首傾げないでください、可愛くないです!……なんかもう、疲れた……
ロゼは普段、誰かに対して声を荒らげることは滅多にない。だのに、みんなから恐れられるゼルドに言い返しているのだから不思議だ。案外肝が座っているのか、それともゼルドの行動が異常なせいなのか。
ロゼは気づいていないが、最初あんなに怖がっていたゼルドの顔も今は普通に見れるようになっていた。自分の何倍もでかい体の男に、どもりながらもきーきーと言い返す。その様はまさに可愛らしい子猫だ。
「それじゃあ」
「り、両手で持ち上げるのもダメです」
両手を広げてロゼの両脇に差し込もうとしたゼルドは、ロゼの拒絶にあい、腕を下ろす。
「面白いやつだな」
――――私は正常です!
少しむくれたロゼは気が付かなかった。
鋭いゼルドの目が、少しだけ緩んでいることに。
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!!
高福あさひ
恋愛
とある日、自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知ってしまったユーフェミア。そこは前世でハマっていたとはいえ、実際に生きるのにはとんでもなく痛々しい設定がモリモリな世界で羞恥心的な意味で地獄だった!!そんな世界で羞恥心さえ我慢すればモブとして平穏無事に生活できると思っていたのだけれど…?※カクヨム様、ムーンライトノベルズ様でも公開しています。不定期更新です。タイトル回収はだいぶ後半になると思います。前半はただのシリアスです。
年下の彼氏には同い年の女性の方がお似合いなので、別れ話をしようと思います!
ほったげな
恋愛
私には年下の彼氏がいる。その彼氏が同い年くらいの女性と街を歩いていた。同じくらいの年の女性の方が彼には似合う。だから、私は彼に別れ話をしようと思う。
ヤンデレ幼馴染が帰ってきたので大人しく溺愛されます
下菊みこと
恋愛
私はブーゼ・ターフェルルンデ。侯爵令嬢。公爵令息で幼馴染、婚約者のベゼッセンハイト・ザンクトゥアーリウムにうっとおしいほど溺愛されています。ここ数年はハイトが留学に行ってくれていたのでやっと離れられて落ち着いていたのですが、とうとうハイトが帰ってきてしまいました。まあ、仕方がないので大人しく溺愛されておきます。
婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~
扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。
公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。
はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。
しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。
拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。
▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる