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狂気と理性の狭間

春の呪い

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彼と最後に会ったのは、桜の咲きほこる春の夜だった。



他愛もない話をしながら一緒に歩いただけの穏やかで優しい時間だった。



あのときだけは、男女の仲になるまえのただのそこそこ仲の良い先輩と後輩の仲に戻れた気がした。



桜が綺麗、っておたがいに最後に言い合ったような気もする。





あのときのことは、泡沫の花火のような淡く儚く激しく燃え盛った夢だったのだと、そう思い込むことにしたい。








いまは、実家がお金持ちの年下の男性から口説かれている。
 

いつも、綺麗だ可愛いだ口説きにくるが、果たして私の過去を知ってもいえるの。


唇が綺麗だ、と口説かれたが、その唇で男の彼処をキスしたのを知っても綺麗だといえるの。 



彼との日々で女の子から身も心も女になった。





ほんとはもっとはやくになったほうがよかったのだろうけど、真面目で清純な文学少女だったもので。    





さいごに一緒に桜が見られたことで彼との激情の日々にも綺麗な思い出を一欠片残せてよかったな、と。



そしてまた来年も桜の花が咲くたびに彼を想い出すのだろう、それはかの川端康成の云った花の名前を教えたらかかる呪いを自らかけてしまった。



これからずっと桜の花が咲くたびに、いや、あの森を通るたびに、いや、あの公園を通るたびに、いや待ち合わせ場所だったところに行くたびに、自販機を見るたびに、彼に触れられた身体を見るたびに、私は、私は、呪いに侵されるのだろう。



彼を、忘れることなぞできぬ呪いに。
彼に触れられたところを見るたびに、こんなに苦しいと思い知らされるだけなら知らないままでいたほうが幸せだったのではないか。



それこそ彼を知ろうとせず、ただの先輩後輩だった頃のままでいたらずっと一緒にいられたのではないか。


恋は罪悪、そして破壊。


友情は不滅だけど、一度男女の仲になると壊れてしまう。


恋愛だ性欲だ、それは滅びまでのみちしるべ。


破滅の呪文なのだから。


好奇心は猫をも殺す、そう、自分自身も、愛する方も、死してなお生まれ変わる覚悟を持ってこそだれかと深く繋がれるのだ、と。


拝啓 高校生だった私へ
まだ知らなくていいよ、あのひとの本性を。


あのひとは、優しい振りをした羊の皮を被った狼であることには、まだ、知らなくてもいいよ。


だから、あなたは、ただ純粋にあのひとを先輩として慕っていてほしい。
それが、いまの私のたったひとつの願いです。





𝑭𝒊𝒏.
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