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第十五話

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 目の前にいるこいつが憎くて堪らない!! それが今のわたしにとって偽ることなき本心だった。

もちろん理由もなく憎しみを抱いているわけではない。むしろ逆だと言い切ってもいいだろう。

何故ならばわたしはこの男のことを誰よりも愛しているからこそこの感情を抱くようになったのだ。

だがいくら好意を抱いたとしても好き嫌いというものには限度があるものだ。当然の話ではあるが人は皆違う生き物なのだから当たり前のことである。しかしわたしの場合に限って言えば例外と言えよう。何せ初めて出会った時からずっと想い続けてきたのだ。そしてようやく結ばれることが出来た喜びは今でも忘れることが出来ないほど強烈なものだったと言えるだろう。だがそれと同時に恐怖も抱いていたのだ。もしも彼に拒絶されてしまったらと……。

理由は簡単である。彼があまりにも優しかったからだった。それゆえに自分が彼にとって重荷になっているのではないかと考えてしまったのだ。実際当時のわたしはまだ幼かったため力もなかったこともありいつも守られていたのは事実である。また彼の仕事柄危険な目に遭うことも多かったことから心配をかけることも多くなっていたのもまた否定できない現実でもあったのだ。だからといって彼を責めるのはお門違いだということは理解していたつもりだったがそれでも申し訳ないという気持ちがあったのは紛れもない真実である。

そんなある日のこと事件が起きた。その時たまたま外にいたのだがそこで見たものは地獄のような有様だった。というのも普段なら絶対に近づくことがないはずの魔物達が街を襲い人々を襲っていたからである。しかも運の悪いことに近くにいた騎士達は突然現れた化け物に苦戦しており救援が来る気配は全くなかった。本来であれば即座に逃げるべき場面ではあったのだが何故か体が動かなかった。おそらく本能的に察知できたのかもしれない。このままここにいれば殺されると……。

結果わたしはその判断が間違っていなかったことを知ることになった。突如として背後に現れた巨大な影によって襲われたのである。咄嵯の判断でなんとか逃げ出すことに成功したものの体中からは血が流れ出ておりもはや限界であることを悟った。そんな状態のまま必死に逃げ続けたがその甲斐あってか何とか逃げることに成功し命拾いすることになったのだが問題はこの後どうするかという問題が発生したことである。とはいえ選択肢などないに等しい状況だったため覚悟を決めて立ち向かうことにした。幸いなことに武器になるようなものを持っていたためそれを片手に立ち向かうことを決めた直後不意打ち気味の攻撃を食らう羽目になってしまった上にそのまま意識を失ってしまった。その結果次に目を覚ました時にはベッドの上に寝かされていたことに気づくこととなった。当然ながら最初は混乱するしかなかった。一体誰が助けてくれたのかわからないという状況では警戒せざるを得ないからである。ところがそんな疑問はすぐに解決することとなった。なぜなら部屋の中に入ってきた人物を見て驚愕したからである。それは他でもない愛する人だったからだ。彼は安堵のため息を漏らした後優しく抱きしめてきた。その後しばらくして落ち着いてきた頃を見計らい事情を説明してくれることになったのだがその内容を聞いた瞬間頭が真っ白になった。なんと彼以外の人達は全て殺されてしまっていたのだという。さらに両親に至っては遺体すら残っておらず行方不明だというのだから驚きを禁じ得ないだろう。だからこそすぐにわかったことがある。恐らくこれはあの時起きたことと同じなのだろうと……つまり何者かによる襲撃を受けたせいで亡くなったということに違いないと確信したと同時に激しい怒りを覚えたのは決しておかしなことではなかったはずだ。なぜならその時に思ったからだ……必ず犯人を見つけ出し復讐してみせるということを。そのためにもまずは生き延びなければならないと思った私は密かに鍛錬を積み始めた。

それからしばらくの月日が流れたある日のことだった。ついにこの時が訪れたのである。

あの忌まわしき男を殺す機会を得ることができたのだ。

それもこれも全ては彼の協力のおかげと言っても過言ではない。なにしろ偶然にも奴が現れるという情報を掴んだおかげでこうして行動を起こすことができるようになったわけだから。

そうして準備を整えた上で決行することにした。事前に調べておいた情報を元に作戦を立てることに決めた。そして遂に実行に移すことにしたのである。

------

-side???- ---

---目の前に広がる光景を見た俺は思わず言葉を失った。

何故ならばそこには無惨に殺された人々の姿があり更には見覚えのある顔を見つけたからであった。そう、そこに居たのは俺の妹であり婚約者でもあるレインフォードだったのである。

彼女は全身傷だらけの状態になっており既に虫の息と言った状態だった。慌てて駆け寄ろうとしたところで彼女が口を開いたことで動きを止める結果となったわけだがそこから放たれた一言に衝撃を受けることになる。

---信じられないことではあったが彼女の口から発せられた名前は間違いなく自分のものであった。いやそれだけではなかった。まるで別人のように振る舞いながら語り出した内容を聞いていくうちにどんどんと記憶が蘇ってきたのである。確かに思い返せば彼女に対して行った仕打ちの数々を思い出してしまい罪悪感を覚えずにはいられなかった。しかし同時に納得してしまった部分もあった。なぜあそこまで憎悪を抱いていたのかという理由を知ることが出来てしまったからである。それ故に心の底からの謝罪の言葉を口にすることしかできなかったが残念なことに手遅れだったことを理解するに至ると共に途方もない絶望に襲われることになりその場に立ち尽くすほか無かった。

やがて我に帰るとその状況をどうにかするために必死になって考えることにするが妙案は浮かんでこなかった。そこでふとあることに気づいた。

(待ってくれよ……。じゃああの偽物は誰なんだ?)

冷静になり考えてみればそもそもあんな人間が存在するはずがないのだ。仮に他人の空似だとしてもここまでそっくりになることなんてあり得ない話だし何より名前まで同じというのは不自然すぎるしあまりにも都合が良すぎている。だとすれば考えられる可能性としてはあれ自体が幻術の一種だったということだ。しかもただの幻覚ではなく本物と見間違えるほど精巧なものとなるとかなり高度かつ特殊な魔法によるものであろうことは想像に難くない。そうなると非常に厄介なことになってしまう。というのももしこの場にいる者達を殺した上で姿を消してしまうと証拠隠滅されてしまう恐れがあったからである。しかも問題なのは目撃者の存在の有無についてなのだ。下手したら隠蔽される可能性があることを考えれば今すぐ行動するべきだったが果たしてこの状況でどう動くべきか迷うところではあるが悩んだ末に決断を下すことにした。

(こうなったらもう仕方ない。今は一刻も早くこの場所から離れるべきだ)

結局の所今の自分にできることといったらこれくらいしかないと考えた結果逃げることを優先させることを決めると即座に転移を発動させるべく詠唱を開始した。すると次の瞬間には別の場所へと移動していたのだった。

「……ふう」

とりあえず危機的状況は脱したことを確認して安堵したのだがすぐに気を引き締め直すとこれからどうするかを考えることにしたのである。

(さて、ひとまず助かったみたいだけどここから先は本当に慎重に考えないとマズいな……特にあの魔族に関しては情報が少なすぎて対策しようが無いというのが正直な感想なんだよなぁ……まあいざとなったら全力を出す必要があるかもしれないけどね……)

そんな風に考えていたその時突然背筋を走るような感覚に襲われた。咄嵯に身を屈めたその直後何かが通過していく音が聞こえてきたかと思うとそれとほぼ同時に先程いた場所に穴が出来上がっており冷や汗が流れるのを感じていた。

「あら、避けられちゃったわねぇ……」

そんな声が響いてそちらへ目を向けるといつの間に近づいてきていたのか知らない女性が立っていた。しかしその外見を見て驚いたことには相手もまた自分と同じように黒い髪を持っていたからである。まさかと思いながらもすぐに鑑定をかけてみると案の定予想通りの結果が表示されたため内心動揺してしまうことになったのだがなんとか平静を保つことに成功した。そして改めてその姿を確認すると見た目は完全に20代前半の女性にしか見えず一瞬混乱したもののよく見ると耳の形が違うことに気づくと同時に相手がエルフであることを悟った。

------

-side イリス- ---私は目の前に現れた女性をじっくり観察しながら警戒を強めることにした。

何故なら明らかに只者ではなさそうだと感じ取ったからだ。

そんな私の様子を察しているのかどうかは不明だが相変わらず笑みを浮かべたままこちらを見つめてくるその瞳からは感情を読み取ることができなかったため油断ならない人物だということだけははっきりしているため最大限注意を払うことにした。

ちなみに私の直感は結構当たることが多い。

それは今までの経験上身に染みて理解していることなので今回も同様だと考えるべきだろうと判断した私は相手の出方を伺うことにして沈黙を守ることにした。

そのまましばらく睨めっこが続いたものの一向に動きを見せようとしない相手に焦れて痺れを切らすことになる。

---流石にこのまま何もせずに時間だけ浪費するのは得策ではないと考え直した結果意を決して口を開くことにした。

「貴方は一体何者で何をしに来たんです?」

そう問いかけてみたが反応はなく黙り込んだままだ。しかしそれでも構わず続けることにした。

「それに答えないというのであれば力づくでも聞かせてもらうことになりますがよろしいでしょうか?一応言っておきますが抵抗すると言うのならば容赦するつもりはないですよ」

はっきりと宣言してから剣を抜き放つと殺気が漏れ出すように溢れ出し周囲に広がっていく。しかしそれを向けられているはずの女性は何故か余裕な態度のまま微笑んでいた。それがますます不気味さを際立たせており嫌な雰囲気を感じずにはいられなかったがここで引くわけにもいかないのでさらに言葉を続けることにする。

「もう一度聞きましょう。あなたは何をしに来てここを訪れたのですか?」

それに対してようやく口を開いたと思ったが返ってきた返事は全く予想外のものであった。

「ふむ、なるほどねぇ~あんたもそういう存在ってことかい。これは面白いものを見た気分だよ」

「……はい!?ちょっ!ちょっと待ってください!!私がいったいどういうものだというのですか!!」

思わず素で叫んでしまった。だがそれも無理からぬことであると言いたい。なぜならいきなり意味不明な発言をされた挙句に勝手に納得されてしまったからである。いくらなんでもこんな展開になるなんて想定外もいいところだ。というかさっきまでの緊張感返してくださいよ。お願いしますから……。

(っていうかなんでここに来てまた訳のわからない状況に陥ってるんだろう……そろそろいいかげん泣きたくなってきたんだけど……)

もはや色々と諦めの境地に達しつつあった時になってようやく事態の進展がありそうな気配を感じたのである。なんとなくではあるがこの人が次にどんな行動をとるのか予想がついたためいつでも動けるように身構えると案の定とんでもない提案を持ちかけられたのだった。

「それじゃあ取引といこうじゃないか」

「…………はいぃいいいっ!!!!」

あまりにも唐突すぎる内容に驚きの声を上げるとつい大声でツッコミを入れてしまった。そして同時に後悔したがもう後の祭りであった。

(ああ、やっちゃったなぁ……これ完全に警戒されて余計に手を出しづらくさせちゃうパターンじゃないの?)

自分の間抜けさに頭を抱えそうになったがその前に相手の方が動きを見せたことでハッと我に帰ると慌てて意識を切り替えることに集中したのである。

「それで結局のところ要求は何なのかしら」

努めて冷静になるように心掛けながら続きを促すと彼女はあっさりと要望を口にしたのだった。

「単刀直入に言うとお前さんの持ってるものと交換したいものがあるんだよ」

「……」

(はい、やっぱり来ましたー。うん知ってた、絶対こう来ると思っていましたとも)

「どうだい、悪い話ではないはずだけどねぇ~」

そんな風に言い募ってくる彼女に対して内心溜息をつくとさすがに見過ごすことはできないと思い仕方なく条件を突きつけることにした。

「わかりました、とりあえずあなたの話を最後まで聞くことにしましょう。ただしまずは私の質問に答えることが先です!」

すると相手は少し考えるような仕草を見せた後すぐに了承の意を示したのでひと安心したところで再び会話を再開することになった。

「えっと確か名前はイリス・アーウィックさんで種族はハイエルフ族で間違いないよね?」

そう問われたので特に隠す必要もないと思い正直に打ち明けることにした。

「はいその通りですよ。それと今更かもしれないけれど私の名前はイリスだからよろしくね。あと出来れば敬語とかなしで普通に接してもらえたら嬉しいわ。いちおう年上のようだし呼び捨てで構わないわよ。まあそっちの呼び方次第ではあるのだけれども……」

後半はやや小声になりつつも希望を伝えることに成功しホッとしたのだがそのせいか若干緊張していたらしく軽く咳払いをした後気持ちを整えるために深呼吸をして心を落ち着かせることにした。それから改めて相手の方へ視線を向けるとその表情からは相変わらず感情を読み取ることはできなかったが何故か満足げにしているように見えたため不思議に思っているとある事に気づきまさかとは思いながらも尋ねてみることにした。

「あのぉ~つかぬことをお伺いするのですが何歳くらいの方なのでしょうかね?見た感じでは二十代前半に見えるのだけど実際の年齢はもっと上だと予想してるのでどうか教えていただけませんでしょうか?」

何故そんな事を聞いたかというと実は目の前にいる彼女の容姿がとても若々しく見えたのに加えて雰囲気的にも自分と同年代もしくは下だと感じたからだ。だからこそこうして確認を取る必要があると判断した結果このような手段を取ったわけなのだがまだ確定ではないもののおそらく正解だろうと踏んでいる。なぜならこちらを見つめてくる瞳にはどこか懐かしさと親しみが込められているように見えてまるで旧知の仲の人物と接しているかのような錯覚を覚えたからである。もちろん根拠があるわけではないのであくまでも直感に過ぎないのでまだ断言はできないがもしそうだとすればこれまでの疑問点が解消されることになるのも事実でありそのためにも是非ともはっきりさせておきたかったのである。
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