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第十二話

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 とりあえず現状では問題はないとのことだったので今日はゆっくり休んで明日からまた訓練に励むことになるそうだ。正直かなり疲れていたので助かったと思っている。ちなみにラティ姉さんとは先程別れを済ませて今は一人自室に戻っているところである。明日に備えてしっかり体を休めるつもりなのだが…………

コンッ コツン ドンガラガッシャーン!!(何かが崩れ落ちた音)

『キャハハッ!』

部屋に入るなりいきなりベッドの下へと潜り込んだ何者かがいたのである。よく見てみればそれは幼女化したサリアであった。一体何をしているのかと思って声を掛けようとしたところで突然僕の足元に矢のようなものが迫ってきてギリギリの所で回避に成功した。

危ないな!危うく刺さるところだったぞ!? その後も立て続けに飛んでくるものの全てを回避しながら何とか落ち着かせようと説得を試みる。

「ちょっ!ちょっと落ち着いてください!!」

必死に声をかけるが一向に止める気配がないどころかさらに激しさを増していった。

(これって完全に遊ばれてるよな?)

こうなった以上あまり時間をかける訳にはいかないと判断して強行手段を取ることにする。素早く近づくとそのまま抱き上げて捕獲することに成功したのである。しかし暴れまわるため落っことしそうになったので慌てて抱え直したところ、今度は胸に顔を埋めながらすり寄ってくるという予想外の行動に出た。

(えぇー……この状況ってどういう反応すればいいんだ?)

困惑しながらもどうにか引き剥がそうとするも離れようとせず、さらには尻尾まで巻き付けてきておりますます混乱してしまう。

「おぉ……我が息子よ。ついに童貞を卒業したか……」

その様子を見ていた父が憐れむような目でこちらを見ており、母に至ってはもはや言葉すら出ず唖然としていたのだった。……っておいこら待てい!!!

「父上!いったい何を言い出しているんですか!」

「隠さずとも分かっておる……男なら誰でも通る道じゃ。何も恥じることではない!」

「そういう事じゃないですよ!そもそも何でここに居るんですか!?」

「ん?もちろんお前に会いに来たんじゃよ」……そんな満面の笑みで言われても全然嬉しくないしむしろ迷惑極まりないのですが……。

とにかくこのまま放置しておく訳にもいかなかったので仕方なく客室に案内することにしたのだった。すると最初は渋っていたのだが観念したらしく大人しくついてきたのでひとまず安心することが出来た。

それからしばらく話をしてみたが結局この人が何のために来たのか分からなかった。一応目的を聞いてみると意外な答えが返ってきたので驚いたものである。

なんと彼女は僕に剣を教えてくれるためにわざわざここまで来てくれたのだった! 聞けば以前から興味があったようで機会があればぜひ教えてほしいと頼まれていたらしい。

「でも何故今頃になって急に剣術を学びたいと思ったのですか?」

ふと疑問に思い尋ねてみると少し困った表情を浮かべて話してくれたのだがその内容というのがとても信じられないものばかりであり僕は驚愕することになる。……どうやら彼女曰く最近巷で有名な魔導剣士に憧れを抱いたようで自分もあんな風になりたいと思い始めたのだというのだ。そしてその方法について考えていた時にちょうど良く今回の事件が起きたためそれを利用して実力を付けることにしたとの事でした。

「なるほど、事情は分かりました。ただ一つだけ確認させてください」……正直言って不安しかなかったのですが聞かずには居られなかったので尋ねることにしました。

「あなたは自分の立場を理解していますよね?つまり王族の一員であるという自覚はありますよね?だから仮に怪我をすることがあった場合最悪命に関わることもあり得るんですよ?」

はっきり言えば余計なことはしないで欲しいという思いがあり嫌味を込めて言ったつもりだったが何故か逆に褒められてしまった。しかも笑顔付きである。意味が分からないがなぜか怒られることはなかった為ホッとした反面戸惑うことになったのだった。

---翌日、訓練場にてルシア様の指導を受けることになった私は緊張しつつも気合いを入れていました。というのも指導を受けるにあたり私以外の方々は別の場所で行うことになっているためここには二人きりという状況になっているからです。本来ならばもっと大勢いるはずなのですが今回は特別ということで許可を頂き二人で特訓することになった次第です。それにしてもまさかこんな日が来るなんて夢みたいだなぁ~っと感動に浸っているとその視線に気付いた彼女が優しく微笑んでくれて思わず胸の奥がきゅぅ~っと締め付けられる感覚に襲われた。

(あぁ~やっぱり素敵だなぁ~)

「どうしたの?」……っといけない。見惚れすぎて変な態度を取ってしまったかもしれない。

慌てて誤魔化そうとしたけどうまく言い繕える自信がなくなってきた。だってしょうがないじゃん。本当に綺麗なんだもん! そうこうしているうちに時間がきたので早速訓練が始まった。

「よし、始める前にいくつか質問があるんだけどいいかな?」

「はい!何でも聞いてください!」

「ありがとう。じゃあさっそくだけど君は魔法を使う時はどうやって発動させているのかい?」…………あれ?普通に考えてみれば分かることだった。私が今まで使っていた魔法の使い方といえば詠唱によるイメージの構築と魔力コントロールによって発生させるというものだった。でもこれはあくまでも一般的なやり方であって個人差があるとはいえ必ずしも当てはまるとは限らないと思う。だからこそ試しに自分がいつも使っている方法でやってみることにした。

「えーっとですね。基本的に私の場合は体の中で循環させた後に外に放出するようにしていますね」

「へぇーそうなんだ!ちなみにどうしてそれが一番やりやすいと感じたのか理由とかはあるの?」……うん、これってもしかしなくても馬鹿にされてるわけじゃないよね?まあいっか。別に気にすることじゃないか。

「それは多分慣れているからだと思いますよ?」

「えっ、それだけ?」

「はい。それ以外に特に理由はありませんよ。というより他に何かあるんですか?」

「いや……ごめん。ちょっと意地悪だったかも……」

すると申し訳なさそうにしている姿を見た途端心の底から罪悪感のようなものを感じた。

「あの!もしかして今のって私のことを思ってわざと聞いたんですか!?」

「んーどうかしら?さっきの言い方だとよく分からなかったから勝手に解釈しただけだよ」……もうずるいなぁ。そんなこと言われたらますます好きになってしまうじゃないですか!

「じゃあそろそろいいかなって思ったところで本題に入ろうか」

「あっ!はい!」

……いよいよ始まるんだ。頑張らないと!!

「まず最初に聞くけれど君って自分の才能についてはどの程度把握できているの?」……突然何を言っているのだろう?そんなの考えたことも無かったので答えようがなかった。

「……すみません、全く分かりませんでした」

「謝る必要は無いよ。むしろ当然のことだと思うから……」

どういうことなのか分からず首を傾げていると詳しく説明してくれたのだがそれによると普通の人というのはそもそも適性というものが存在しないらしい。そしてその人の素質に応じて最適な属性が決まるとのことだが稀に例外が存在するらしいのだ。例えば僕の場合は全属性持ちなのだがそのせいで逆に判断が難しいらしく場合によっては複数の適正を持っている可能性もあるそうだ。……正直あまりピンと来ない話だったのでいまいち理解できなかったが要するに適性のあるものが無い代わりにあらゆるものを使える可能性があるということだけは分かった気がします。

「そういう事ならとりあえず君の得意なものを見つけるところから始めましょうかね」

そして始まったのですが結果は散々たるものになってしまいました。というのもまず最初の段階で失敗してしまったのです。

「ねえ、あなたは何が得意なの?」……いきなり聞かれても困ります。でも何も答えられないのは駄目ですよね……。

仕方がないので手当たり次第に色々とやって見たのですがやはり上手くいきませんでした。結局この日は何の成果もなく終わってしまいましたが、それでも彼女は諦めずに何度も教えてくれると言ってくれたことが嬉しかったです。

------次の日もまた訓練場で彼女と会う約束をしていましたが昨日のこともあって少し不安になりながらも足を運ぶことにしたのです。

------結果から言えばこの日以降毎日のように彼女の元に通い続けることとなり徐々にではありますが上達していくことができ最終的には自分なりの戦い方を確立させることにも成功しました。

その結果として今では模擬戦形式の試合を行っていますが何度挑んでみても彼女には勝てる見込みが全くありませんでした。それどころか一度も攻撃を当てることすらできない始末です。もちろん悔しく無いと言えば嘘になるでしょう。ですが初めて会った時の彼女に比べるとだいぶ成長できたと思っており今はそのことを素直に喜ぶことにしています。

また同時に思うことがあります。何故これほどまでに強いのかという疑問についてなのですが今となっては考えるまでも無いことです。なぜなら彼女が誰よりも努力してきたことは傍から見ていても明らかだからです。だからこそ私は少しでも追いつきたいと思い今日も明日もこれからもずっと練習に励むつもりでいるのです 。
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