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第七十三話

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 都会の喧騒を逃れた小さな町の外れに、一軒の古びた家がひっそりと佇んでいた。その家は長年空き家で、周囲の人々はそこに近づくことを避けていた。町の人々の間では、その家には悪い噂が立っており、夜になると誰かが失踪すると言われていた。

ある日、大都会から訪れた若い女性、桐島由紀は、古い家のリノベーションを手掛ける仕事に従事していた。彼女はその町での仕事が終わった後、空き家の一つに興味を持ち、その家を調査することに決めた。リノベーションが進めば、町の活性化に貢献できると考えたからだ。

家に入ると、そこは予想以上に広々としており、木製の階段と大きな窓が特徴的だった。しかし、空気はどこかひんやりとしており、時折小さな音が耳に残るような気がした。由紀は仕事に取り掛かる前に、その家の歴史を調べることにしたが、地元の図書館でもほとんど情報は得られなかった。

ある晩、由紀は仕事の合間にその家で休むことにした。夜が深まると、家の中には奇妙な音が響き始めた。壁の中からかすかに物音が聞こえ、何かが歩き回るような感覚があった。由紀は気にせずに眠りにつこうとしたが、次第にその音が大きくなり、ついには部屋の中を歩き回るような感じがした。

目が覚めた由紀は、音の源を探しに家の中を歩き回った。そのうち、彼女は一枚の古い写真が落ちているのを見つけた。写真には、数人の人々が写っており、その中の一人が由紀に似ていることに気づいた。由紀は驚きながらも、その写真を調べることに決めた。

写真には、古い家の前で撮影されたもので、写真の中の女性は由紀の顔とそっくりだった。彼女はその写真の人物が誰なのか、そしてどうして自分と似ているのかを解明しようと決意した。家の歴史や過去の住人について調べるうちに、由紀はこの家には「失われた記憶」の伝説があることを知った。

その家に住んでいた人々は突然姿を消し、最後に残された住人も同様に失踪したという。村人たちはその家には強い呪いがかけられていると信じていた。

由紀はその話が単なる噂だと考えつつも、次第にその家に引き込まれていくような感覚に襲われた。家の中の物音がどんどん大きくなり、彼女は夜中に何度も目を覚まさなければならなくなった。ある晩、彼女は自分の名前を呼ぶ声を聞いた。その声は柔らかく、優しいが、どこか憂いを帯びていた。

声の主を探しながら家の中を歩き回っていると、由紀は地下室への扉を見つけた。扉は長年開けられていなかったが、好奇心から扉を開けると、地下室には古い家具とたくさんの箱が積まれていた。その中の一つの箱を開けると、古い日記が入っていた。

日記を開くと、そこには数十年前に住んでいた女性の日記が綴られており、その女性の名前が由紀と同じだった。日記には、家族や友人が次々と失踪していく恐怖が詳細に書かれており、最後には「この家に引き込まれてしまう」と書かれていた。

由紀は恐怖に震えながらも日記を読み進めた。日記の最後には、家族が失踪した理由や、家に何かが宿っていることが記されていた。その家は、住人の記憶を吸い取り、次々と新しい人々を引き込む呪われた場所であるというのだ。

その晩、由紀は自分の意識が朦朧としてきた。まるで誰かが自分を引き込もうとしているかのように、体が重く感じられた。恐怖と疲労で耐えられなくなり、彼女は日記を持って逃げ出そうとしたが、家の中の道がどんどん複雑に絡み合っていった。

ついに、彼女は部屋の中で迷子になり、ついには鏡の前に立ってしまった。その鏡には、彼女と同じ顔を持つ複数の影が映っていた。鏡の中の影は、由紀の方をじっと見つめており、まるで彼女を迎え入れようとしているかのようだった。

翌朝、家の外で目撃されたのは、開かれたままの扉と、散乱した日記だけだった。由紀の姿は完全に消えてしまい、彼女の失踪は町の伝説に新たに加わった。誰もその家に近づこうとはせず、その家は再び長い間放置されることとなった。

そして、その家は今でも、夜になると誰かが訪れるのを待っていると囁かれている。鏡の中に映る影が、次の「新しい住人」を待っているかのように。

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