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第七十話

　夜も深まるある晩、山奥の一軒家で一人暮らしをしている村上さんは、孤独と静寂に包まれた部屋で読書にふけっていた。急に電話が鳴り、彼は驚きながらも受話器を取った。受話器の向こう側からは、ぼそぼそとした声が聞こえた。

「村上さん、最後の電話です。」

声はやけに冷たく、不気味な響きを持っていた。村上さんは声がどこから来ているのかを確かめようと、周囲を見回したが、電話の他に特別な音は何も聞こえなかった。

「誰だ？」と村上さんが訊ねると、相手は無言でいる。彼は不安になり、電話を切ろうとしたが、受話器がまるで引っかかっているかのように切れなかった。次第にその声は少しずつ大きくなり、村上さんの名前を繰り返すようになった。

「村上さん…村上さん…」

その声が聞こえてくるたびに、村上さんの心臓は速く鼓動し、体が震えた。彼は急いで電話線を引き抜こうとしたが、その瞬間、電話が突然ガチャリと鳴り、受話器が一気に切られた。

村上さんは冷や汗をかきながら部屋の中を見渡し、恐る恐る外に出てみたが、周囲には誰もいなかった。家の中に戻り、ほっとしたのも束の間、また電話が鳴り始めた。今度はもっと恐ろしい音が響いてきた。

「村上さん、あなたが最後です。」

その声はまるで耳の中でささやくように聞こえ、村上さんは息を呑んだ。彼がすぐに電話を取り外しに行こうとしたその時、部屋の電気が一瞬で消え、暗闇に包まれた。

電気が戻ると、受話器は見当たらず、部屋の真ん中には、ぼろぼろになった電話帳が落ちていた。電話帳を開くと、ページには彼の名前だけが書かれていた。その他のページには一切の文字がなく、ただ空白が広がっていた。

村上さんはそれを見て、心臓が止まりそうになった。彼が最後の電話を受けたのは、自分がそのまま消えてしまうための前兆だったのかもしれないと、彼は恐怖に震えながら気づいた。

その夜、村上さんは家から消えた。誰も彼の行方を知らず、ただ空虚な家だけが残されていた。そして、誰もがその電話の最後の声を耳にしたという噂が広がり、その家は再び誰も近づかない場所となった。