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第十七話

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 私は今年で二十歳になる大学生なのですが、去年の夏休みに、友達と一緒にとある心霊スポットへ行ってきました。そこは、山奥にある小さな村で、昔から村の人たちに恐れられていた場所でした。
私たちはそこで肝試しをしようということになったのです。場所は廃病院の中。私たちが中に入ると、そこには誰もいませんでした。
「どうせ噂なんてただの噂だよ」
私は余裕たっぷりに笑っていましたが、本当は怖くてたまりませんでした。
「大丈夫だって! そんなにビクビクしないでも!」
「でもさぁ……」
「もう……、しょうがないなぁ……」
「えっ……?」
「じゃあ俺が手を繋いであげるから」
「あ……、うん……」
そうして私たちは、二人で一緒に院内を歩き回ることになってしまったのです。
「ねぇ……。何か聞こえない?」
「えっ? 何かって?」
「うーん……。よくわかんないけど……」
その時でした。突然どこからか、シューッという空気が漏れるような音が聞こえてきたんです。
「何の音だろう?」
「わからん……」
その音は次第に大きくなっていきました。
「ねえ……。何か嫌な予感がするんだけど……」
「ああ……」
私と彼は、慌てて病室を飛び出しました。廊下に出ると、さらに大きな音が聞こえてきました。
「何だよこいつら!?」
「こっち来るなよ!!」
「ぎゃあっ!!!」
「きゃあああっ!! 助けてぇ!!」
「逃げろぉおおおっ!!」
私は思わず悲鳴を上げてしまいました。彼らはまるでゾンビのような姿をしていたのです。顔は青白く、体は腐っていて、手足には骨のようなものが見えていました。
「早くここから出よう!!」「うん!!」
私たちは出口に向かって必死に走りました。しかし、そこにはたくさんの人がいて、なかなか通り抜けられません。それでも何とか前に進んで行くと、目の前に壁が立ちはだかりました。
「行き止まりじゃん!」
「どけよお前ら!!」
私たちは必死になってそこを通り抜ける方法を考えました。でもいくら考えても、何も思い浮かびません。とうとうその人たちは、こちら側にまで迫って来ました。
「ちくしょーっ!! こうなったら……」
「おい、まさか……」
「こうなりゃもうヤケクソだぜ!!」
「待ってよ! やめてよっ!!」
私と彼は、その人を押しのけて先に進みました。そしてそのまま階段を駆け上がりました。
「ハァッ、ハアッ、ここまでくればもう安心……」
ところが、その瞬間、後ろで物凄い爆発が起こりました。私と彼は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられてしまいました。見ると、さっきの人の姿はなく、そこには一人の女が立っていました。
「やった……、ついに成功したんだ……」
その女の人は、全身血まみれで、手に大きな包丁を持っていました。私は恐ろしくなって、その場から動けなくなってしまいました。すると彼女はゆっくりと近づいて来て、私を見下ろしながら言いました。
「これで……、やっと殺せる……」
「ひっ……!」私は恐怖で声も出ませんでした。
「ずっとこの日を待ってたんだ……、あんたが死ぬ日をね……」
その言葉を聞いた途端、私はようやく我に返りました。そして、持っていた鞄を思い切り彼女の顔面めがけて投げつけました。すると彼女がひるんでいる隙に、私は一目散に逃げました。
なんとか外に出られたものの、もう体力の限界です。私はその場に倒れ込んでしまいました。しばらくそうしていると、ふと誰かの足が目に入りました。見上げると、そこにはさっきの女がいました。
「よくもやってくれたわね……、覚悟しなさい……」
私は殺されると思いました。でも、その時です。突然背後から男の声がしました。
「やめるんだ!!」
その男は警察官でした。
「何なのあなたたち……? 邪魔しないでくれる……?」
「やめないなら公務執行妨害で逮捕するぞ……」
「そんな……、困るわ……、せっかく殺したかった人を……」
「君はいったい何を言ってるんだ!?」
「あの子は私の夫を殺したの……。だから私が復讐してあげようとしただけなのに……」
「君、いったいどういうことだ?」
「あの子が悪いのよ……。私のこと裏切って、他の女と逃げたりして……。私はあの子に殺されそうになったのよ……」
「あの子が君のことをそんな風に思っていたとは知らなかった……。すまない……。許してくれ……。本当にすまなかった……」
警官は泣き崩れました。
「いいえ、あの子はきっと反省なんかしてないわ。私がこんな目に遭わされてることを知らないもの」
「それは違う。君の夫はそんなことをするような人間じゃない」
「そんなはずない!! だってあいつは、いつも私のことバカにしてたもん!!」
「いい加減にしろ!!」
私は思わず叫んでいました。
「あなただって、あなたの奥さんが浮気したらどう思う? 相手の男が憎いでしょ?」
「当たり前じゃないか!! でもそれとこれとは別問題だ!!」
「どうして……? 同じことでしょう……?」
「全然違う!! もし君が奥さんの気持ちをわかった上で、その男のことも悪く言うというのであれば、僕は何も言わない。でも、今の言葉だけは絶対に認めるわけにはいかない!!」
「どうして……? 私の方が愛してるのよ……。私の方こそ、あいつを恨んでもいいでしょう?」
「確かにそうだ……。でも、それだけじゃダメなんだ……。憎しみで人を殺すことは、もっといけないんだよ……」
「じゃあ、私にはもう何もできないっていうの!?」
「ああ……。今は辛いかもしれないけど、これからの人生で、そのことをしっかり考えて欲しい……。それが無理だというのなら、せめて罪を償ってくれ……。頼む……」
「……」
彼女は黙って去っていきました。
それから数日後、私は彼のお墓参りに行きました。そこで私は彼に謝ったのです。
「ごめんね……。あんな酷いこと言って……」
「ううん、気にすることなんてないさ……」
「えっ……?」
「俺はちゃんとわかってるからさ……」
「何のこと……?」
「ほら、俺が言っただろ?
『どんなに辛くても、生きている限り希望はある』って……」
「うん……」
「あれは嘘じゃない。たとえ絶望的な状況でも、最後まで生き抜いていれば、必ず光は見える。だから諦めずに生きて欲しいんだ。そしていつか、自分の人生が幸せだったって思える日が来るまで……」
「……」
「それにな、人間は死んだら終わりだけど、思い出は永遠に残るんだ。記憶の中の俺たちが消えない限り、本当の意味で死ぬことはない。だから大丈夫だよ。安心して、前を向いて歩いていこうぜ!」
「ありがとう……」
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