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第十話

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 「えっ、あの日のこと?」
わたしが訊き返すと、真紀さんはこっくりとうなずいた。
「私もまだ信じられません。でも、たしかに見たんです。この目ではっきりと」
真紀さんの表情から嘘をついているようには見えなかった。しかし、わたしには彼女が何を見たのか想像することもできなかったし、そもそも幽霊などという非科学的なものの存在を信じることもできなかった。
「どんなことが起こったのですか?」
わたしはできるだけ冷静に訊ねてみた。「あの日、私はいつものように学校に行く準備をして、お化粧をしていました。そうすると突然窓の外が真っ暗になりました。カーテンを開けると外では雨が降っていて、雷まで鳴っていたのです。私はびっくりして部屋に戻り、電気をつけようとしました。だけど停電していてつかないんですよ。仕方がないから懐中電灯を持って外に出ると、玄関の前に男の子がいるじゃありませんか。その子は全身びしょ濡れで、髪からも水が滴っているんです。その子は何かを捜している様子でした。その子が誰かわかったとき、私の心臓は止まりそうになったんです」
真紀さんはそこで一度大きく息を吸い込んだ。「その子は死んだはずの美和だったんです」
「亡くなったってどういうことです?」
「そのままの意味です。その子は美和でしたけど、生きていた頃の美和ではありませんでした。だってその子は顔の半分以上がなくなっていたんですから」
わたしは自分の耳を疑った。真紀さんの言っていることがよく理解できないのだ。
「ちょっと待ってください。顔がなかったっていうのはどういう意味なんですか?」
「言葉どおりの意味です。美和の顔はその部分だけごっそり抜け落ちていたんです。まるでそこには何もないみたいに……」
真紀さんの言葉を聞いているうちに背筋に冷たいものが走った。それは単なる怪談話では済まされないような話だと思ったからだ。「それからどうなったんですか?」
「すぐに家の中に入ろうと思いました。でもその前に美和が捜していたものを確かめようと思って、私は辺りを見回しました。そのときふと視線を感じて振り返ると、さっきまで誰もいなかったはずの場所に女の子がいたんです。その子はおかっぱ頭で着物を着た小さな子でした。その子がこちらを見て笑っていたんです。そして言ったんです。『あたしの顔を返せ』
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