上 下
9 / 85

第八話

しおりを挟む
 幽霊なんて本当にいると思いますか?
私は信じていませんでした。あの日あんな体験をするまでは…………
「ねえ、そろそろ帰らない?」
「もうちょっとだけ! あと少しだから!」
私は友人の制止も聞かずに駆け出しました。
このトンネルには昔から噂がありました。
「夜中にトンネルに入ると二度と帰ってこれない」
と。
私はそれを確かめたくて友人を連れてきてしまったのです。
しばらくすると真っ暗な道が開けて、目の前に赤い光が見えてきました。
それはまるで満月のように綺麗でした。
でもその時の私にはそれがとても恐かったんです。だってその光の中に人影のようなものが見えたからです。
その瞬間、私の足はすくんでしまい動けなくなっていました。
どうしよう、引き返そうか迷っているうちにその人影はどんどん近づいてきて……
「あなたたちこんなところで何してるの?」
声をかけられた瞬間、思わず悲鳴をあげてしまいました。
だってそこには人間じゃなかったんですもの。
顔は青白く、目は赤く血走っていて、口元からは鋭い牙が覗いていました。
その姿を見たとき思い出しました。ここの噂のことを。そしてすぐに逃げ出せば良かったものを、私は怖くて動くこともできずに固まっていたのです。
そんな私を見て怪物はニヤリと笑いながら言いました。
「お嬢さん、今夜は満月だよ。早く家に帰らないと食べられてしまうよ」
そしてそのまま闇の中へ消えていきました。
私が正気に戻ったときには既に遅く、友達の姿はなく、私は一人で家に帰りました。
それ以来、私はまだあのトンネルを通ってはいません。
どうしてかって? それは決まっています。怖いからですよ。
もしもまたあそこに行ったら今度こそ食べられてしまうかもしれない。
いえ、きっとそうなります。だから私はもう行かないことに決めています。
それにしても不思議ですね。何故今まで忘れていたのでしょう。もし本当に吸血鬼がいるなら会ってみたいものです。
どんな姿をしているのか、そしてどこに住んでいるのか……
まぁ、多分無理でしょうけどね。
えっ? 最後に一つ聞きたいことがあるって? なんですか? 何でも答えてあげますよ。それでは質問をどうぞ。……はい、分かりました。ではその質問に答えましょう。
あなたの知りたかったことは「あの時、友達と一緒にトンネルに入った女の子は誰だったのか」ということですよね。
残念ながらそれは分かりません。でもひとつ言えることがあります。それはあの子もまた、この世界とは別の世界で生き続けているということだけです。
それでは皆さんさようなら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

婚約者とその幼なじみの距離感の近さに慣れてしまっていましたが、婚約解消することになって本当に良かったです

珠宮さくら
恋愛
アナスターシャは婚約者とその幼なじみの距離感に何か言う気も失せてしまっていた。そんな二人によってアナスターシャの婚約が解消されることになったのだが……。 ※全4話。

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

婚約破棄されてしまった件ですが……

星天
恋愛
アリア・エルドラドは日々、王家に嫁ぐため、教育を受けていたが、婚約破棄を言い渡されてしまう。 はたして、彼女の運命とは……

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】公爵令嬢はただ静かにお茶が飲みたい

珊瑚
恋愛
穏やかな午後の中庭。 美味しいお茶とお菓子を堪能しながら他の令嬢や夫人たちと談笑していたシルヴィア。 そこに乱入してきたのはーー

処理中です...