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第四章:新しい街での暮らしが始まる
第41話「転移者とようじょ」
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白い石壁の部屋、その高い天井の部屋の真ん中に、一人の青年が横たわっていた。
身長は僕よりもちょっと低いくらいだろうか?
引き締まった体を装飾過多の鎧に包み、腰には幅広の両刃剣を履いている。
ツンツンと逆立った黒髪は、サイドと後頭部を短く刈り込んである。
眉は濃く短く、吊り上っていて、今は瞑られている瞳も同じように厳しく吊り上っている。
意志の強さが溢れているようなその顔は、スポーツマンか、マイルドヤンキーか、とにかく僕とはあまり接点のなさそうな顔だった。
「動かないですわね」
アンジェリカがひょいと僕の背中から顔を出して、青年を覗きこむ。
「転移に失敗して死んじゃったかな~?」
反対側からマリアステラも顔を出し、同じように覗き込んだ。
僕を挟んで顔を見合わせた2人は、しばし考える。
小さくメニューを操作して、現れた総レースの日傘を手に持つと、マリアステラは青年の顔をつつき始めた。
「ちょっとやめなよマリア。……そういえば、さっき女の人の声で『転移者、エドアルド』って言ってたよね。この人の事かな?」
「でしょうねぇ。これでこの人が転移者じゃなかったら、それこそびっくりだよ~」
話しながら、マリアは顔をぐりぐりとつつき回す。
いつの間にか色違いで同じデザインの日傘をマリアステラから受け取っていたアンジェリカも、同じようにぐいぐいとエドアルドのお腹をつついていた。
「……あふん」
……どんな夢を見ているのか、エドアルドは眠ったまま鼻の下を伸ばして声を上げる。
反応があったことに気をよくした2人は、嵩にかかって激しくエドアルドをつついた。
「……んふふ……やめろよぉ~う」
ぐりぐり、ぐいぐい。
日傘は容赦なくエドアルドをつつく。
それでも「んふ……うひ……」と身をよじっていた彼だったが、日傘の先端が鼻の穴と股間に突き刺さるに至って、とうとう両手で日傘をつかんでガバッと立ち上がった。
「てめーらいい加減にしろ! 殺す気かっ!」
「あら、生きてたですわ」
「そうね、良かった~」
日傘を手放して、2人はサッと僕の後ろに隠れる。
必然的に、日傘を両手に持って仁王立ちになっているエドアルドと、死神の鎌を構えた僕が、至近距離でにらみ合う格好になった。
「……こ……」
「こ?」
「こ……こんにちわ。えっと……僕……アクナレート・アマミオと言います。キ……キミと同じ……あの……転移者です。です」
自分としては及第点をあげてもいいと思えるほど、とりあえず敵意のないのが良くわかる挨拶。
ついでに何とか表情を動かして、僕はりんちゃんみたいに人の気持ちを和ませる笑顔を作ってみた。
僕の挨拶と笑顔を見て、エドアルドは日傘を取り落す。
ずずっ……ずずっとすり足で後ずさり、僕から目を離さないまま自分の体を両手でペタペタ確認した彼は、腰にぶら下がっている両刃剣に気づき、それを抜き放った。
「てめぇコラァ! 何をたくらんでやがる?! あぁん?! さてはてめぇだな?! 災厄の魔王ってのは!」
どうしてこうなった?
精一杯のフレンドリーさを込めたつもりだったのに、エドアルドは怯えているように見える。
僕は少し後ずさり、アンジェリカとマリアステラに背中がぶつかった。
2人は僕のローブを掴み、小さく震えている。両手で持ったローブに顔をつけ、目の前で剣を抜き放ったエドアルドに怯え……てる訳では無いようだった。
むしろ笑っている。
「ぷーくすくすー! あっくんが災厄の魔王だって~」
「こんな御しやすい魔王なら、あたくしも苦労しませんわ」
「……ねぇ2人とも、笑いごとじゃないよ?」
とりあえず隠れている2人はほっといて、僕はごくりとつばを飲み込むと、何がエドアルドを怯えさせてしまったのかを考える。
挨拶……は大丈夫。僕としては上出来だった。
笑顔……は、鏡で確認出来ないから分からないけど、りんちゃんのあの笑顔を参考にしているんだ、たぶん大丈夫。
じゃあ何だろう?
この黒いローブが魔王っぽかったかな?
それとも……。
「おいてめぇ! その美しい女性たちを解放しろ! 2人とも! 俺様が来たからには大丈夫だ! すぐに魔王から助け出してやっからな!」
考え込む僕に向かって、エドアルドは唾を飛ばしてそう叫ぶ。
僕の背中で「美しい女性だって~」「当然ですわ」と会話をする2人に、彼に状況を説明してあげてと頼もうとした僕は、不意に頭上から襲い掛かってきた剣を間一髪で弾き飛ばした。
デスサイズが無意識に動いてくれた。
しかし、そのランクSSS+++のチート武器であるはずのデスサイズに小さな傷がついているのに気付いて、僕は戦慄した。
「さすが魔王、やるじゃねぇか……でも、分かってきたぜ、チート武器の使い方」
先ほどまでの怯えた姿はどこへやら、エドアルドは不敵な笑顔を浮かべ、剣を斜めに構える。
刀身の一部が青く輝き、そこに『速度重視モード』の文字が流れているのが見えた。
何かをチャージするような甲高いモーター音が部屋に響き、エドアルドが身を低くする。
次の瞬間、僕のデスサイズに、グリュプスの体当たりと同じくらいの衝撃が連続で走った。
「ちょっ! エドっ! アルドっ! やめっ! ねぇっ! 話しっ! 聞いてっ!」
アンジェリカとマリアステラを守るために、僕はその場から動けない。
ほとんど目に見えない速度で襲い掛かるエドアルドの剣戟を、デスサイズの力と勘だけで弾きながら、僕は説得を続けた。
「るっせー! 問答無用だコラァ!」
たぶん、初めてのチート武器での戦い、その強大な力に酔っているのだろう。
エドアルドは「ひゃっはぁーー!」と叫びながら何度も僕を斬り付ける。
何十度目かの剣戟を僕が思いっきり弾いたのをきっかけに、彼は大きく肩で息をしながら部屋の反対側で剣を構えなおした。
「はぁー、はぁー、くっそ魔王が! これじゃ埒があかねぇ!」
「だから、魔王じゃないよ! 僕はキミと同じ転移者で――」
「どうせ受け止められるならよぉ! 受け止めた武器ごとぶった切ってやるぜぇ!」
エドアルドの剣の表示が青から赤に変わる。
『斬撃重視モード』
そう表示された剣は、ウーハーから流れるような重低音を僕らの体にビリビリと響かせ、剣の周囲の空気をぐにゃりと曲げた。
「ヤッバ。あっくんあれヤバそうだよ~」
「あたくしも、かなりヤバい雰囲気を感じるですわ」
「そんなの僕だってわかるよ……」
速度重視モードですら僕のデスサイズに傷をつけた剣戟だ。
斬撃重視モードってのがどのくらい違うのかは分からないけど、あれを受けたらヤバいことになると言うのは感覚的に分かった。
どうする?
攻撃される前に反撃するか?
でも僕は手加減とかできないから、デスサイズで斬り付けたらエドアルドが死んじゃうかもしれない。
じゃあ受け止めないで避けるか?
速度重視モードより遅い剣戟なら、避けられるかも知れない。
でも、僕の後ろに居る戦闘に向かないチートしか持っていない2人は、避けることは出来ないだろう。
まぁマリアステラは不老不死だから死にはしないんだろうけど、女の子がぶった切られるのなんか絶対に見たくない。それに、外見チートしか持たないアンジェリカは簡単に死んじゃうだろう。
あぁ、こんな時にチコラがいてくれたらなぁ。
僕はとりあえず、剣戟を受け止めずに、受け流す方向で方針を決め、エドアルドの攻撃に対して身構えた。
「行くぜ魔王! 俺様の最強の攻撃! 受けてみやが――!」
――コンコン
ノックの音がした。
「あ、お入りなさいですわ」
反射的に、アンジェリカがそう答える。
いや、ヤバいって。アンジェリカやマリアステラだけでも庇うのに精いっぱいなのに、チートも持たないジョゼフが来たら……。
そんな僕の心配をよそに、ジョゼフの「失礼いたします」と言う声と共にドアが開く。そこからなだれ込むように部屋に現れたのは、ルカ、りんちゃん、そしてルーチェの3人だった。
「あっくん、お着替えを……え?」
珍しく先頭を切って入ってきたルカが、この状況の異常さに気づいて絶句する。
その後ろからぴょんと顔を出したりんちゃんが、僕を見つけてにぱっと笑った。
「あっくん、アンジェちゃん、マリアちゃん、おはよーございます!」
「あ、おはよう、りんちゃん」
「おっはよー」
「おはようですわ」
3人同時に普通に挨拶を返してしまう。
異常事態だと思ったのに、僕らの挨拶が至って普通だったのを聞いたルカは、状況が呑み込めずに「……おはようございます」と小さく頭を下げた。
その後ろでもっと混乱していたのはルーチェとジョゼフだ。
ジョゼフはルカと同じように状況を飲み込めずにおり、そしてこう言う変な状況にもルカより慣れていない様子で、ドアノブに手をかけたまま硬直している。
ルーチェはまず僕の後ろでローブにしがみついているアンジェリカとマリアステラを見、次にデスサイズを構えて立っている僕の顔を見、そして部屋の奥で赤く輝く剣を持っているエドアルドを一瞥すると、最後にまたアンジェリカとマリアステラへ視線を戻した。
「……こ……こんな誰も居ない地下室で、そんなにくっついて……な……なにをしてたんですか?!」
「そ……そうです! アマミオ殿! アンジェリカ様からお離れなさい!」
ルーチェの叫びにハッと我に返ったジョゼフが、とりあえず言葉尻に乗っかる。
その他のことを考えるのをやめ、とにかく何らかの行動を起こすことによって、落ち着こうとしている様子だった。
「いや、ルーチェもジョゼフも……話をややこしくしないでくれるかな……?」
「ごまかさないでください! 何をしてたんですか?!」
「そうだ! ごまかすな! アマミオ殿!」
「あっくん、お着替えと軽食をお持ちしたんですが、どうなさいますか?」
「あっくん、おみやげは?!」
……たぶん『混沌』と言うのはこういう状況のことを言うのだろうと思う。
僕はデスサイズを構えてエドアルドから目を離さずにいたけど、他の人たちはなぜかゆるんだ雰囲気に流されて、もう自分勝手にそれぞれの事をやりはじめた。
僕の足にまとわりついて「ねー、おみやげはー?」と催促するりんちゃん。
僕の背中から離れ、ジョゼフとルーチェを説教するアンジェリカ。
ルカの持ってきた卵のサンドイッチをパクつき始めたマリアステラ。
そんな状況に、ついにブチギレたのはエドアルドだった。
「……おい」
僕は注意深くデスサイズを構えるが、他の誰もエドアルドを見ない。
「……おい!!」
デスサイズの角度を変えて、「僕は見てるよ」と言う意思表示をするが、やはり他の誰もエドアルドを見ない。
「聞けよ!! おぉい!!! なんだよ!! 異世界に転移したばかりの主人公を無視すんじゃねぇ!! フザけんなクソ魔王ぉぉ!!!」
「え? 僕?」
聞いてた。僕はちゃんと聞いてた。それに何度も言うけど僕は魔王じゃない。
それでも彼の怒りの矛先は僕に向けられ、そのチート武器は輝きを増して振りかざされた。
「もうダメだてめぇ! なんだよ美人のねーちゃんばっかり連れやがって! ゆるせねぇ! もうキレたぞ! もうやっちゃうかんな! 死ねぇぇぇぇ!!!!」
いけない。僕の足にはりんちゃんがセミのように掴まっている。
それに、エドアルドと僕をつなぐ延長上には、足の悪いルカが居る。
みんなが散らばっているから、受け流したり弾いたりするのも危ない。
なんだかわからないうちに一層の窮地に陥っていた僕は、覚悟を決めて、デスサイズをエドアルドに向けた。
身長は僕よりもちょっと低いくらいだろうか?
引き締まった体を装飾過多の鎧に包み、腰には幅広の両刃剣を履いている。
ツンツンと逆立った黒髪は、サイドと後頭部を短く刈り込んである。
眉は濃く短く、吊り上っていて、今は瞑られている瞳も同じように厳しく吊り上っている。
意志の強さが溢れているようなその顔は、スポーツマンか、マイルドヤンキーか、とにかく僕とはあまり接点のなさそうな顔だった。
「動かないですわね」
アンジェリカがひょいと僕の背中から顔を出して、青年を覗きこむ。
「転移に失敗して死んじゃったかな~?」
反対側からマリアステラも顔を出し、同じように覗き込んだ。
僕を挟んで顔を見合わせた2人は、しばし考える。
小さくメニューを操作して、現れた総レースの日傘を手に持つと、マリアステラは青年の顔をつつき始めた。
「ちょっとやめなよマリア。……そういえば、さっき女の人の声で『転移者、エドアルド』って言ってたよね。この人の事かな?」
「でしょうねぇ。これでこの人が転移者じゃなかったら、それこそびっくりだよ~」
話しながら、マリアは顔をぐりぐりとつつき回す。
いつの間にか色違いで同じデザインの日傘をマリアステラから受け取っていたアンジェリカも、同じようにぐいぐいとエドアルドのお腹をつついていた。
「……あふん」
……どんな夢を見ているのか、エドアルドは眠ったまま鼻の下を伸ばして声を上げる。
反応があったことに気をよくした2人は、嵩にかかって激しくエドアルドをつついた。
「……んふふ……やめろよぉ~う」
ぐりぐり、ぐいぐい。
日傘は容赦なくエドアルドをつつく。
それでも「んふ……うひ……」と身をよじっていた彼だったが、日傘の先端が鼻の穴と股間に突き刺さるに至って、とうとう両手で日傘をつかんでガバッと立ち上がった。
「てめーらいい加減にしろ! 殺す気かっ!」
「あら、生きてたですわ」
「そうね、良かった~」
日傘を手放して、2人はサッと僕の後ろに隠れる。
必然的に、日傘を両手に持って仁王立ちになっているエドアルドと、死神の鎌を構えた僕が、至近距離でにらみ合う格好になった。
「……こ……」
「こ?」
「こ……こんにちわ。えっと……僕……アクナレート・アマミオと言います。キ……キミと同じ……あの……転移者です。です」
自分としては及第点をあげてもいいと思えるほど、とりあえず敵意のないのが良くわかる挨拶。
ついでに何とか表情を動かして、僕はりんちゃんみたいに人の気持ちを和ませる笑顔を作ってみた。
僕の挨拶と笑顔を見て、エドアルドは日傘を取り落す。
ずずっ……ずずっとすり足で後ずさり、僕から目を離さないまま自分の体を両手でペタペタ確認した彼は、腰にぶら下がっている両刃剣に気づき、それを抜き放った。
「てめぇコラァ! 何をたくらんでやがる?! あぁん?! さてはてめぇだな?! 災厄の魔王ってのは!」
どうしてこうなった?
精一杯のフレンドリーさを込めたつもりだったのに、エドアルドは怯えているように見える。
僕は少し後ずさり、アンジェリカとマリアステラに背中がぶつかった。
2人は僕のローブを掴み、小さく震えている。両手で持ったローブに顔をつけ、目の前で剣を抜き放ったエドアルドに怯え……てる訳では無いようだった。
むしろ笑っている。
「ぷーくすくすー! あっくんが災厄の魔王だって~」
「こんな御しやすい魔王なら、あたくしも苦労しませんわ」
「……ねぇ2人とも、笑いごとじゃないよ?」
とりあえず隠れている2人はほっといて、僕はごくりとつばを飲み込むと、何がエドアルドを怯えさせてしまったのかを考える。
挨拶……は大丈夫。僕としては上出来だった。
笑顔……は、鏡で確認出来ないから分からないけど、りんちゃんのあの笑顔を参考にしているんだ、たぶん大丈夫。
じゃあ何だろう?
この黒いローブが魔王っぽかったかな?
それとも……。
「おいてめぇ! その美しい女性たちを解放しろ! 2人とも! 俺様が来たからには大丈夫だ! すぐに魔王から助け出してやっからな!」
考え込む僕に向かって、エドアルドは唾を飛ばしてそう叫ぶ。
僕の背中で「美しい女性だって~」「当然ですわ」と会話をする2人に、彼に状況を説明してあげてと頼もうとした僕は、不意に頭上から襲い掛かってきた剣を間一髪で弾き飛ばした。
デスサイズが無意識に動いてくれた。
しかし、そのランクSSS+++のチート武器であるはずのデスサイズに小さな傷がついているのに気付いて、僕は戦慄した。
「さすが魔王、やるじゃねぇか……でも、分かってきたぜ、チート武器の使い方」
先ほどまでの怯えた姿はどこへやら、エドアルドは不敵な笑顔を浮かべ、剣を斜めに構える。
刀身の一部が青く輝き、そこに『速度重視モード』の文字が流れているのが見えた。
何かをチャージするような甲高いモーター音が部屋に響き、エドアルドが身を低くする。
次の瞬間、僕のデスサイズに、グリュプスの体当たりと同じくらいの衝撃が連続で走った。
「ちょっ! エドっ! アルドっ! やめっ! ねぇっ! 話しっ! 聞いてっ!」
アンジェリカとマリアステラを守るために、僕はその場から動けない。
ほとんど目に見えない速度で襲い掛かるエドアルドの剣戟を、デスサイズの力と勘だけで弾きながら、僕は説得を続けた。
「るっせー! 問答無用だコラァ!」
たぶん、初めてのチート武器での戦い、その強大な力に酔っているのだろう。
エドアルドは「ひゃっはぁーー!」と叫びながら何度も僕を斬り付ける。
何十度目かの剣戟を僕が思いっきり弾いたのをきっかけに、彼は大きく肩で息をしながら部屋の反対側で剣を構えなおした。
「はぁー、はぁー、くっそ魔王が! これじゃ埒があかねぇ!」
「だから、魔王じゃないよ! 僕はキミと同じ転移者で――」
「どうせ受け止められるならよぉ! 受け止めた武器ごとぶった切ってやるぜぇ!」
エドアルドの剣の表示が青から赤に変わる。
『斬撃重視モード』
そう表示された剣は、ウーハーから流れるような重低音を僕らの体にビリビリと響かせ、剣の周囲の空気をぐにゃりと曲げた。
「ヤッバ。あっくんあれヤバそうだよ~」
「あたくしも、かなりヤバい雰囲気を感じるですわ」
「そんなの僕だってわかるよ……」
速度重視モードですら僕のデスサイズに傷をつけた剣戟だ。
斬撃重視モードってのがどのくらい違うのかは分からないけど、あれを受けたらヤバいことになると言うのは感覚的に分かった。
どうする?
攻撃される前に反撃するか?
でも僕は手加減とかできないから、デスサイズで斬り付けたらエドアルドが死んじゃうかもしれない。
じゃあ受け止めないで避けるか?
速度重視モードより遅い剣戟なら、避けられるかも知れない。
でも、僕の後ろに居る戦闘に向かないチートしか持っていない2人は、避けることは出来ないだろう。
まぁマリアステラは不老不死だから死にはしないんだろうけど、女の子がぶった切られるのなんか絶対に見たくない。それに、外見チートしか持たないアンジェリカは簡単に死んじゃうだろう。
あぁ、こんな時にチコラがいてくれたらなぁ。
僕はとりあえず、剣戟を受け止めずに、受け流す方向で方針を決め、エドアルドの攻撃に対して身構えた。
「行くぜ魔王! 俺様の最強の攻撃! 受けてみやが――!」
――コンコン
ノックの音がした。
「あ、お入りなさいですわ」
反射的に、アンジェリカがそう答える。
いや、ヤバいって。アンジェリカやマリアステラだけでも庇うのに精いっぱいなのに、チートも持たないジョゼフが来たら……。
そんな僕の心配をよそに、ジョゼフの「失礼いたします」と言う声と共にドアが開く。そこからなだれ込むように部屋に現れたのは、ルカ、りんちゃん、そしてルーチェの3人だった。
「あっくん、お着替えを……え?」
珍しく先頭を切って入ってきたルカが、この状況の異常さに気づいて絶句する。
その後ろからぴょんと顔を出したりんちゃんが、僕を見つけてにぱっと笑った。
「あっくん、アンジェちゃん、マリアちゃん、おはよーございます!」
「あ、おはよう、りんちゃん」
「おっはよー」
「おはようですわ」
3人同時に普通に挨拶を返してしまう。
異常事態だと思ったのに、僕らの挨拶が至って普通だったのを聞いたルカは、状況が呑み込めずに「……おはようございます」と小さく頭を下げた。
その後ろでもっと混乱していたのはルーチェとジョゼフだ。
ジョゼフはルカと同じように状況を飲み込めずにおり、そしてこう言う変な状況にもルカより慣れていない様子で、ドアノブに手をかけたまま硬直している。
ルーチェはまず僕の後ろでローブにしがみついているアンジェリカとマリアステラを見、次にデスサイズを構えて立っている僕の顔を見、そして部屋の奥で赤く輝く剣を持っているエドアルドを一瞥すると、最後にまたアンジェリカとマリアステラへ視線を戻した。
「……こ……こんな誰も居ない地下室で、そんなにくっついて……な……なにをしてたんですか?!」
「そ……そうです! アマミオ殿! アンジェリカ様からお離れなさい!」
ルーチェの叫びにハッと我に返ったジョゼフが、とりあえず言葉尻に乗っかる。
その他のことを考えるのをやめ、とにかく何らかの行動を起こすことによって、落ち着こうとしている様子だった。
「いや、ルーチェもジョゼフも……話をややこしくしないでくれるかな……?」
「ごまかさないでください! 何をしてたんですか?!」
「そうだ! ごまかすな! アマミオ殿!」
「あっくん、お着替えと軽食をお持ちしたんですが、どうなさいますか?」
「あっくん、おみやげは?!」
……たぶん『混沌』と言うのはこういう状況のことを言うのだろうと思う。
僕はデスサイズを構えてエドアルドから目を離さずにいたけど、他の人たちはなぜかゆるんだ雰囲気に流されて、もう自分勝手にそれぞれの事をやりはじめた。
僕の足にまとわりついて「ねー、おみやげはー?」と催促するりんちゃん。
僕の背中から離れ、ジョゼフとルーチェを説教するアンジェリカ。
ルカの持ってきた卵のサンドイッチをパクつき始めたマリアステラ。
そんな状況に、ついにブチギレたのはエドアルドだった。
「……おい」
僕は注意深くデスサイズを構えるが、他の誰もエドアルドを見ない。
「……おい!!」
デスサイズの角度を変えて、「僕は見てるよ」と言う意思表示をするが、やはり他の誰もエドアルドを見ない。
「聞けよ!! おぉい!!! なんだよ!! 異世界に転移したばかりの主人公を無視すんじゃねぇ!! フザけんなクソ魔王ぉぉ!!!」
「え? 僕?」
聞いてた。僕はちゃんと聞いてた。それに何度も言うけど僕は魔王じゃない。
それでも彼の怒りの矛先は僕に向けられ、そのチート武器は輝きを増して振りかざされた。
「もうダメだてめぇ! なんだよ美人のねーちゃんばっかり連れやがって! ゆるせねぇ! もうキレたぞ! もうやっちゃうかんな! 死ねぇぇぇぇ!!!!」
いけない。僕の足にはりんちゃんがセミのように掴まっている。
それに、エドアルドと僕をつなぐ延長上には、足の悪いルカが居る。
みんなが散らばっているから、受け流したり弾いたりするのも危ない。
なんだかわからないうちに一層の窮地に陥っていた僕は、覚悟を決めて、デスサイズをエドアルドに向けた。
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