9 / 76
第二章:あっくんは貴族となり、平和な生活を城塞都市で営む
第09話「評価とようじょ」
しおりを挟む
体中を地味に苛む筋肉痛に顔をしかめながら、粗末な建物から姿を表した僕を最初に出迎えたのは、直立不動の姿勢を取るトリスターノだった。
その後ろでは、地面に座ったりんちゃんとチコラにルーチェさんが加わり、「せっせっせ~のよいよいよい♪」と、手を繋いで唄っていた。
この世界にもせっせっせってあるのかな? それともりんちゃんが教えたのかな?
そんなどうでもいいことを考えながら、僕はトリスターノの前で足を止め、手をとった。
「ご……ごめん。あの、さっきは攻撃しちゃって……」
「いえっ! 戦闘直後の狂戦士に不用意に近づいた自分にも不備はありました。お気になさらずに」
「いや、えっと……バーサーカーじゃないんだけど……」
トリスターノの肩に目が行く。
僕が斬りつけたであろう肩口の鎧の継ぎ目には包帯が巻かれ、周囲の布の部分は血で赤黒く汚れていたものの、彼の動きによどみはない。
不思議に思って僕はそっと肩へ指を伸ばした。
「……怪我は?」
「はっ! ルーチェに治癒魔法をかけさせたので、問題ありません」
「そ……そうなんだ。ほんとごめん」
怖がってこんな言葉遣いと態度になってるのかと思ったら、トリスターノの目には意外なことに恐怖は全く見えなかった。それどころか、お菓子を見た時のりんちゃんのようにキラキラと輝いているようにも見える。
まぁコミュ障の僕の見立てだから間違っている可能性も高いけど、もしかしたら、単純に僕の強さに尊敬とか憧れに近い感情を抱いているだけなのかもしれない。
頭を下げてから、今度はチコラの元へ向かう。
「お~て~ら~の~和~尚~さんが~か~ぼ~ちゃ~の~タ~ネ~を~……♪」
「あの、チコラ。さっきはごめん。……それから、ありがとう」
「あ~? なんや~? 前にも聞いたことあったなぁそんなん」
え? と思ったけど、そう言えば最初に合った日に、りんちゃんを助けてくれたチコラに向かって同じ言葉を言った気がする。
「お前にその時言うたよな~? 今はできなくても、りんちゃんのために頑張ればええて。なぁお前、成長……しとらんのと違うか?」
返す言葉もない。
ぼくはやっぱりあの時と同じように、頭を下げたまま涙を堪えることしかできなかった。
「なんや~? 泣くんかぁ? また泣くんかぁ? 成長せんなぁ。泣き虫あっくん? ほれほれ! 泣くんかぁ?」
「チコラちゃん! あっくんいじめちゃダメでしょ~!」
がばっ、と。
深く下げていた僕の頭が抱きしめられた。
「あっくんは、りんちゃんの怖~いのをやっつけてくれたの! 怖~い『ワルモン』を懲らしめてくれたの! トリくんとチコラちゃんには間違って痛いのしちゃったけど、『ごめんね』ってしたら、『いいよ~』ってして仲直りしなくちゃダメなの!」
ワルモンって、あれだよね。りんちゃんの好きなTVアニメ『プリヒール』に出てくる悪役だったよね、確か。
そうか、りんちゃんは赤ん坊のホブゴブリンまで無条件に殺す僕の事を怖がっていたわけじゃないんだな。
それを聞いただけで、僕の心は8割方軽くなった。
「ねっ? チコラちゃんはお兄ちゃんなんだから、あっくんが『ごめんね』ってしたら『いいよ~』ってするの! わかった?」
「えっ? お兄……? もちろんや……ぶふっ……もちろんええで」
チコラが笑いをこらえて震えながら答える。トリスターノやルーチェさんまでが「っく」と小さく息を詰めたような声を発するのが聞こえた。
りんちゃんの中で、僕が弟でチコラがお兄ちゃんの設定だったのか……。
少なくない心理的ダメージを受けながらも、僕はりんちゃんに手を引かれるようにしてチコラと対峙する。
「あっくん、はい」
「ご……ごめん」
「ええで! 気にすんなや! お兄ちゃんは許すで!」
こげ茶色のクマのぬいぐるみ。天使のような羽根をゆっくりと動かしながら宙に浮かぶそれは、尊大に胸をそらしながらそう宣言する。
頭を下げる僕の背後で、たまらずトリスターノが「ぼふぅっ!」と盛大に吹き出す声と、それを「わ……笑っちゃ悪いですよぉ」と震えながら諌めるルーチェさんの声が聞こえてきた。
振り返ると、涙を流さんばかりのトリスターノが直立不動で顔を紅潮させている。そのとなりで両手で口を抑えていたルーチェさんは、僕と目が合うと「っふぅっ」と変な声を出して顔を背ける。
その後ろ、少し離れた場所では、オルコが壁に両手をついてドンドンと叩きながら、ぷるぷると震えていた。
満足気に僕とチコラを見回して「うん」と笑うりんちゃんと一緒に、僕とチコラはそれぞれ違う意味の涙目で握手をかわした。
◇ ◇ ◇ ◇
帰りの馬車は、朝にもましてのんびりとした旅だった。
僕はりんちゃんを抱っこして、頭の上に座ったチコラと話をしながら、まだ日も高い街道をゆっくりと進む。
トリスターノが何度か僕に「何処で鎌術を学んだのか」「何流なのか」「その巨大な鎌は流派独自のものなのか」などなど、色々と聞いてきたけど、そもそも答えを持たない僕が持ち前のコミュ障を発揮して「いや……」とか「とくには……」とか答えていたら、なんとなく勝手に『秘密の流派』的なものを想像したらしく、大いに納得した様子で御者の仕事に戻った。
まぁ幌馬車の中にある大量の魔宝珠――売ればゴード金貨50枚は下らない――の事を考えれば、些細な事など気にならないのだろう。
4人で分けたとしても、一人につきゴード金貨12~3枚にはなるのだから。
「りんちゃん。チコラは僕のお兄ちゃんだって言ってたよね?」
「うん、そうだよ。チコラちゃんはあっくんのお兄ちゃんなの」
まぁ外見はともかく、今までの実績や相談してる時の上下関係から考えれば、それはそう思っても仕方がない。
特にりんちゃんは外見にこだわらず、内面を見抜く力があるみたいだから。
「じゃあ、りんちゃんは? 僕のなに?」
「りんちゃんはー、あっくんのー、子供!」
「じゃあ、チコラはりんちゃんのお父さんのお兄ちゃんだから、おじさんだね」
なんとか一矢報いようと、僕はそんな事を言い出す。
慌てたチコラは僕の白い髪の毛を一本プツッと抜いた。
「おっちゃんちゃうわ!」
「ちがうよ! チコラちゃんはおじさんじゃなくてー、おともだちなの! おじさんはトリくん!」
「え? 俺?」
いきなり話を振られたトリスターノが驚いて振り向く。
ルーチェさんがまた口を両手で覆って顔を伏せたのが見えた。
なんかルーチェさんのイメージ変わったな。もっと落ち着いた大人の女性っぽい人かと思ったのに、笑いのツボが思ったより全然浅い。
まぁ実際20歳前後だろうし、歳相応って事だろうか。
「俺よりオルコの方が全然年上だよ? おじさんはオルコでしょ?」
「オルコくん? あー、オルコくんはー……? ……知り合い?」
今まで全く会話や接点のなかったオルコに対するりんちゃんの評価は厳しい。
僕の膝の上に立ち上がって、後方に居るオルコの顔を顰め面で確認したりんちゃんの言葉に、ルーチェさんは「っぷふぁふ」とおかしな音をたてて、床に突っ伏した。
肩がぷるぷると揺れている。笑ってるんだろう。やっぱり案外ヒドいというか、我慢できない人みたいだ。
「あとね、ルーチェちゃんは、りんちゃんの、おばぁちゃんの、でいけやの人!」
「でいけやの人?」
「でいけやの人はね、おばぁちゃんをね、お風呂に入らせてくれるの! やさしいの!」
「……あー! デイケアの人かー。りんちゃん難しい言葉知ってるね」
僕の言葉を聞いたルーチェさんが突然体を起こし「デイケアの人ってなんですか?」と真顔になる。
なんですかって聞かれても、この世界には存在しない概念だろうしなぁ。
どう説明しようか悩んだ末に僕は「お年寄りとか子供とかのお世話をするメイドさんみたいな仕事です」と答えた。
それを聞いたルーチェさんは、すごく微妙な表情をしていた。
「……俺、おじさんでいいや」
相対的に言えば悪いポジションではないと気付いたトリスターノがぽつりとつぶやく。
こんな他愛もない会話のおかげで少し打ち解けられた気がした僕は、その後、彼らとも割と普通に会話することが出来るようになった。
りんちゃんのパワーはすごい。何しろ僕のコミュ障を軽減してくれるんだから。
◇ ◇ ◇ ◇
「アマミオ殿、数日中に面会の算段をつけますので、ある御方と会って欲しいのですが」
国からホブゴブリンの王国討伐のお触れが発表されるまでと言う事で、僕たちが預かることになった魔宝珠を部屋まで運んだ後、トリスターノが改まってそう僕に告げた。
正直、聞きたくなかった。『国家諜報局員』としてのセリフだろうと予想がつくこんな言葉。
せっかく僕にとってすごく貴重な『わりと普通に話ができる友達』になれたと思ったのに。
「……悪い話ではありません。面倒だと思うかもしれませんが、ここは俺の顔をたててもらえませんか」
「あ……うん。わかった」
ずるい。友達にそんなこと言われたら断れないじゃないか。
たぶん僕はすごく不機嫌な顔をしてたと思うけど、表情を作る経験がまだ3日しかない僕には、それを隠すのはまだ難しかったので許して欲しい。
まぁ口に出してそう言った訳じゃないから、きっとトリスターノには伝わっていないだろうけど。
「それでは、また。アマミオ殿」
「うん、また」
「あっくん、トリくんも帰っちゃうの?」
手を洗い終わってぱたぱたと駆け寄ってきたりんちゃんが、僕の腰に体当りするように抱きつき、トリスターノを見上げながらそう言った。
なにげに寂しそうだ。
「今日は帰るけど、またすぐ会えるよ。じゃありんちゃん、またな」
「……うん! トリくんバイバイ!」
りんちゃんに手を振られ、トリスターノはドアをくぐる。
悪い話ではないってトリスターノが……僕の友だちがそう言ってるんだ。何も心配なんか要らない。
彼の閉じたドアを見ながら、僕は自分にそう言い聞かせた。
その後ろでは、地面に座ったりんちゃんとチコラにルーチェさんが加わり、「せっせっせ~のよいよいよい♪」と、手を繋いで唄っていた。
この世界にもせっせっせってあるのかな? それともりんちゃんが教えたのかな?
そんなどうでもいいことを考えながら、僕はトリスターノの前で足を止め、手をとった。
「ご……ごめん。あの、さっきは攻撃しちゃって……」
「いえっ! 戦闘直後の狂戦士に不用意に近づいた自分にも不備はありました。お気になさらずに」
「いや、えっと……バーサーカーじゃないんだけど……」
トリスターノの肩に目が行く。
僕が斬りつけたであろう肩口の鎧の継ぎ目には包帯が巻かれ、周囲の布の部分は血で赤黒く汚れていたものの、彼の動きによどみはない。
不思議に思って僕はそっと肩へ指を伸ばした。
「……怪我は?」
「はっ! ルーチェに治癒魔法をかけさせたので、問題ありません」
「そ……そうなんだ。ほんとごめん」
怖がってこんな言葉遣いと態度になってるのかと思ったら、トリスターノの目には意外なことに恐怖は全く見えなかった。それどころか、お菓子を見た時のりんちゃんのようにキラキラと輝いているようにも見える。
まぁコミュ障の僕の見立てだから間違っている可能性も高いけど、もしかしたら、単純に僕の強さに尊敬とか憧れに近い感情を抱いているだけなのかもしれない。
頭を下げてから、今度はチコラの元へ向かう。
「お~て~ら~の~和~尚~さんが~か~ぼ~ちゃ~の~タ~ネ~を~……♪」
「あの、チコラ。さっきはごめん。……それから、ありがとう」
「あ~? なんや~? 前にも聞いたことあったなぁそんなん」
え? と思ったけど、そう言えば最初に合った日に、りんちゃんを助けてくれたチコラに向かって同じ言葉を言った気がする。
「お前にその時言うたよな~? 今はできなくても、りんちゃんのために頑張ればええて。なぁお前、成長……しとらんのと違うか?」
返す言葉もない。
ぼくはやっぱりあの時と同じように、頭を下げたまま涙を堪えることしかできなかった。
「なんや~? 泣くんかぁ? また泣くんかぁ? 成長せんなぁ。泣き虫あっくん? ほれほれ! 泣くんかぁ?」
「チコラちゃん! あっくんいじめちゃダメでしょ~!」
がばっ、と。
深く下げていた僕の頭が抱きしめられた。
「あっくんは、りんちゃんの怖~いのをやっつけてくれたの! 怖~い『ワルモン』を懲らしめてくれたの! トリくんとチコラちゃんには間違って痛いのしちゃったけど、『ごめんね』ってしたら、『いいよ~』ってして仲直りしなくちゃダメなの!」
ワルモンって、あれだよね。りんちゃんの好きなTVアニメ『プリヒール』に出てくる悪役だったよね、確か。
そうか、りんちゃんは赤ん坊のホブゴブリンまで無条件に殺す僕の事を怖がっていたわけじゃないんだな。
それを聞いただけで、僕の心は8割方軽くなった。
「ねっ? チコラちゃんはお兄ちゃんなんだから、あっくんが『ごめんね』ってしたら『いいよ~』ってするの! わかった?」
「えっ? お兄……? もちろんや……ぶふっ……もちろんええで」
チコラが笑いをこらえて震えながら答える。トリスターノやルーチェさんまでが「っく」と小さく息を詰めたような声を発するのが聞こえた。
りんちゃんの中で、僕が弟でチコラがお兄ちゃんの設定だったのか……。
少なくない心理的ダメージを受けながらも、僕はりんちゃんに手を引かれるようにしてチコラと対峙する。
「あっくん、はい」
「ご……ごめん」
「ええで! 気にすんなや! お兄ちゃんは許すで!」
こげ茶色のクマのぬいぐるみ。天使のような羽根をゆっくりと動かしながら宙に浮かぶそれは、尊大に胸をそらしながらそう宣言する。
頭を下げる僕の背後で、たまらずトリスターノが「ぼふぅっ!」と盛大に吹き出す声と、それを「わ……笑っちゃ悪いですよぉ」と震えながら諌めるルーチェさんの声が聞こえてきた。
振り返ると、涙を流さんばかりのトリスターノが直立不動で顔を紅潮させている。そのとなりで両手で口を抑えていたルーチェさんは、僕と目が合うと「っふぅっ」と変な声を出して顔を背ける。
その後ろ、少し離れた場所では、オルコが壁に両手をついてドンドンと叩きながら、ぷるぷると震えていた。
満足気に僕とチコラを見回して「うん」と笑うりんちゃんと一緒に、僕とチコラはそれぞれ違う意味の涙目で握手をかわした。
◇ ◇ ◇ ◇
帰りの馬車は、朝にもましてのんびりとした旅だった。
僕はりんちゃんを抱っこして、頭の上に座ったチコラと話をしながら、まだ日も高い街道をゆっくりと進む。
トリスターノが何度か僕に「何処で鎌術を学んだのか」「何流なのか」「その巨大な鎌は流派独自のものなのか」などなど、色々と聞いてきたけど、そもそも答えを持たない僕が持ち前のコミュ障を発揮して「いや……」とか「とくには……」とか答えていたら、なんとなく勝手に『秘密の流派』的なものを想像したらしく、大いに納得した様子で御者の仕事に戻った。
まぁ幌馬車の中にある大量の魔宝珠――売ればゴード金貨50枚は下らない――の事を考えれば、些細な事など気にならないのだろう。
4人で分けたとしても、一人につきゴード金貨12~3枚にはなるのだから。
「りんちゃん。チコラは僕のお兄ちゃんだって言ってたよね?」
「うん、そうだよ。チコラちゃんはあっくんのお兄ちゃんなの」
まぁ外見はともかく、今までの実績や相談してる時の上下関係から考えれば、それはそう思っても仕方がない。
特にりんちゃんは外見にこだわらず、内面を見抜く力があるみたいだから。
「じゃあ、りんちゃんは? 僕のなに?」
「りんちゃんはー、あっくんのー、子供!」
「じゃあ、チコラはりんちゃんのお父さんのお兄ちゃんだから、おじさんだね」
なんとか一矢報いようと、僕はそんな事を言い出す。
慌てたチコラは僕の白い髪の毛を一本プツッと抜いた。
「おっちゃんちゃうわ!」
「ちがうよ! チコラちゃんはおじさんじゃなくてー、おともだちなの! おじさんはトリくん!」
「え? 俺?」
いきなり話を振られたトリスターノが驚いて振り向く。
ルーチェさんがまた口を両手で覆って顔を伏せたのが見えた。
なんかルーチェさんのイメージ変わったな。もっと落ち着いた大人の女性っぽい人かと思ったのに、笑いのツボが思ったより全然浅い。
まぁ実際20歳前後だろうし、歳相応って事だろうか。
「俺よりオルコの方が全然年上だよ? おじさんはオルコでしょ?」
「オルコくん? あー、オルコくんはー……? ……知り合い?」
今まで全く会話や接点のなかったオルコに対するりんちゃんの評価は厳しい。
僕の膝の上に立ち上がって、後方に居るオルコの顔を顰め面で確認したりんちゃんの言葉に、ルーチェさんは「っぷふぁふ」とおかしな音をたてて、床に突っ伏した。
肩がぷるぷると揺れている。笑ってるんだろう。やっぱり案外ヒドいというか、我慢できない人みたいだ。
「あとね、ルーチェちゃんは、りんちゃんの、おばぁちゃんの、でいけやの人!」
「でいけやの人?」
「でいけやの人はね、おばぁちゃんをね、お風呂に入らせてくれるの! やさしいの!」
「……あー! デイケアの人かー。りんちゃん難しい言葉知ってるね」
僕の言葉を聞いたルーチェさんが突然体を起こし「デイケアの人ってなんですか?」と真顔になる。
なんですかって聞かれても、この世界には存在しない概念だろうしなぁ。
どう説明しようか悩んだ末に僕は「お年寄りとか子供とかのお世話をするメイドさんみたいな仕事です」と答えた。
それを聞いたルーチェさんは、すごく微妙な表情をしていた。
「……俺、おじさんでいいや」
相対的に言えば悪いポジションではないと気付いたトリスターノがぽつりとつぶやく。
こんな他愛もない会話のおかげで少し打ち解けられた気がした僕は、その後、彼らとも割と普通に会話することが出来るようになった。
りんちゃんのパワーはすごい。何しろ僕のコミュ障を軽減してくれるんだから。
◇ ◇ ◇ ◇
「アマミオ殿、数日中に面会の算段をつけますので、ある御方と会って欲しいのですが」
国からホブゴブリンの王国討伐のお触れが発表されるまでと言う事で、僕たちが預かることになった魔宝珠を部屋まで運んだ後、トリスターノが改まってそう僕に告げた。
正直、聞きたくなかった。『国家諜報局員』としてのセリフだろうと予想がつくこんな言葉。
せっかく僕にとってすごく貴重な『わりと普通に話ができる友達』になれたと思ったのに。
「……悪い話ではありません。面倒だと思うかもしれませんが、ここは俺の顔をたててもらえませんか」
「あ……うん。わかった」
ずるい。友達にそんなこと言われたら断れないじゃないか。
たぶん僕はすごく不機嫌な顔をしてたと思うけど、表情を作る経験がまだ3日しかない僕には、それを隠すのはまだ難しかったので許して欲しい。
まぁ口に出してそう言った訳じゃないから、きっとトリスターノには伝わっていないだろうけど。
「それでは、また。アマミオ殿」
「うん、また」
「あっくん、トリくんも帰っちゃうの?」
手を洗い終わってぱたぱたと駆け寄ってきたりんちゃんが、僕の腰に体当りするように抱きつき、トリスターノを見上げながらそう言った。
なにげに寂しそうだ。
「今日は帰るけど、またすぐ会えるよ。じゃありんちゃん、またな」
「……うん! トリくんバイバイ!」
りんちゃんに手を振られ、トリスターノはドアをくぐる。
悪い話ではないってトリスターノが……僕の友だちがそう言ってるんだ。何も心配なんか要らない。
彼の閉じたドアを見ながら、僕は自分にそう言い聞かせた。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?
あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」
結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。
それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。
不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました)
※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。
※小説家になろうにも掲載しております
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました
ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。
大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。
ー---
全5章、最終話まで執筆済み。
第1章 6歳の聖女
第2章 8歳の大聖女
第3章 12歳の公爵令嬢
第4章 15歳の辺境聖女
第5章 17歳の愛し子
権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。
おまけの後日談投稿します(6/26)。
番外編投稿します(12/30-1/1)。
作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる