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1巻
1-2
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学務省に所属する、壮年の文官が手を上げた。
「質問を許します」
アナスタシアが頷くと、やせぎすの文官は咳払いをして、ライナーをじろじろ眺める。
「君の報告は魔道具研究に関する事ばかりだったが、フロッケンベルクでの生活環境はどうだったかね? 異国の暮らしは、何かと不便も多かったと思うが」
何か含むような目つきで文官は尋ねる。
きっと他の留学生と同じく、ライナーにも留学中に酷い扱いを受けたと言わせたいのだろう。
この文官は、旧時代を代表するような隣国嫌いだった。表向きはおべっかを使ってくるものの、陰では女王のせいでフロッケンベルクとの交流が始まったと文句を言っている。
ただ、自分の仕事はそこそここなすし、大した妨害ができる男でもないので、放ってあるのだ。反発する者を全て除去しては、単なる暴君になってしまう。
期待を籠めた視線を向けられて、ライナーは記憶をたどるように少し考えたあと、口を開いた。
「皆様もご存じの通り、フロッケンベルクとは言語もほぼ同じですし、料理もロクサリスと似たものが多くありましたから、特に不便は感じませんでした。ただ……」
「何か、不満があったのだね!?」
明らかに文官の声が弾んだ。
だが、文官の思惑などまるで気づかないかのように、ライナーは穏やかに首を振る。
「いえ、不満というほどではありませんが、寒さはかなり厳しかったです。山を一つ挟んだだけで、こうも気候が違うのかと驚きました。かの国の防寒設備が素晴らしく発達しているのも頷けます」
「あ、いや……私が聞きたいのは、そういう事ではなくてだね……」
平然と斜め上の返答をしたライナーと声を引き攣らせている文官を前に、アナスタシアは笑いを噛み殺すのに必死だった。
この青年は鈍いのか、それともわざとやっているのだろうか。
「つまりだね、人間関係の面で困った事はなかったかと、聞きたかったのだ!」
苛立たしげに文官が言うと、ライナーは「ああ」と、納得したように軽く目を見開いた。
「失礼しました。あちらのギルドでは友人もたくさんできましたし、職場外でも多くの方から親切にしていただきました」
「なるほど……それは結構。しかし、他の留学生たちは皆、錬金術師ギルドで不愉快な目に遭わされたと言っているが。君には、まったくなかったというのかね?」
もはや、婉曲な言葉を選ぶ余裕もなくなったらしい文官に、ライナーがニコリと微笑んだ。
「錬金術師ギルドにも様々な方がいますので、あまり気の合わない方もおりました。ですが、意見の食い違いも大抵は上手く折り合いをつけられましたし、私の力が至らない部分ではあちらの友人たちに手助けをしていただきました。総じて、順調だったのではないかと思います」
「……わかった、もう結構。貴殿ならどこでも快適に暮らせそうだ」
力なくうな垂れた文官が下がり、アナスタシアは広げた扇の陰で、噴き出すのを懸命に堪えた。
十八年の在位期間中で、間違いなく一番愉快な謁見だ。
(これは、期待できそうね)
退室するライナーを眺めつつ、アナスタシアは胸中でニンマリと笑った。
ライナーはかなり使えそうな男だから、宮廷魔術師に登用すれば何かと便利な手駒になるだろう。だが、今のところ有能な宮廷魔術師は必要な数が揃っている。だから、そちらはいらない。
アナスタシアが現在、最も必要としている求人は鬱陶しい男たちの目を逸らさせるための防波堤――見せかけだけの、偽の愛人である。
アナスタシアは去年まで、とても良い防波堤を持っていた。
宮廷魔術師の一人であるフレデリク・クロイツ――通称『牙の魔術師』だ。
花形職業の宮廷魔術師で容姿も良いフレデリクに寄ってくる女は多かったが、彼は誰かと恋愛する気なんて欠片もなかった。おまけに彼はアナスタシアの密偵も務めており、しつこい女にまとわりつかれると仕事がやりにくくて困ると辟易していた。だから互いに利害が一致した訳だ。
二人で示し合わせ、アナスタシアが誰よりも彼を寵愛しているように見せかけていた。
傍からはどれほど親密に見えても、二人が互いを異性として愛する事は決してない。
何しろフレデリクは、公式には存在すら知られていないが、前王の第三子。つまり、アナスタシアの異母兄なのだ。もっとも、その真実を知る者は極僅かで、表向きフレデリクはアナスタシアと仲の良い幼馴染となっている。そのため、自然に恋仲と見せかける事ができた。
加えて、彼は顔だけの男ではなく、自分の身を危険から守るだけの能力も十分にある。
アナスタシアは心置きなく『弱い男は嫌いなの。私を口説きたければ、まずフレデリクを倒してから来なさい』と、他の男たちをけしかけられたのだ。
その途端、フレデリクは魔法での決闘を次々と申し込まれるようになり、それを全て正面から撃退した。すると、今度は夜道や人気のない場所で連日、襲撃されたらしい。
凄まじい騒ぎは三ヶ月ほどで落ち着いた。アナスタシアがフレデリクを愛人と見せかけながら一切の特別待遇をせず、むしろ積極的にこき使ったからだ。
『お互いに身の回りが片づくのは結構ですが、俺の負担だけ大きい気がします』と、愚痴を言いつつも偽の愛人役をしていたフレデリクだが、彼はある貴族令嬢に恋をしてその役を降りた。
人生にすっかり不貞腐れていたフレデリクが誰かに恋をするなんて最初は信じられなかったが、驚いた事に彼は本気だった。それはもう呆れるほどの浮かれぶりだったのだ。
だからアナスタシアは、彼に偽の愛人役を続けさせようとはしなかった。
それに彼が愛人役を務めていたせいでその令嬢との結婚に支障が出たため、アナスタシアとの恋仲は周囲が勝手に思い込んでいただけで、本当は何もなかったとも明かした。
よって、フレデリクが無事に愛妻とイチャイチャ新婚生活を送りはじめると、アナスタシアのもとには邪魔者がいなくなったと大喜びする男たちが再び押し寄せるようになったのである。
むしろ以前より増えた気がする。
フレデリクを愛人だと思わせていた頃、彼を酷使する事でどんな相手も特別待遇はしないと意思表示をしていたが、彼が本当の愛人ではなかったと知り、また愚かな期待を抱きはじめたらしい。
ここ一年ばかりは、寄ってくる男たちを辛抱強くあしらっていたが、もう我慢の限界だ。
今日みたいな良い天気の日にうっかり中庭を散策しようものなら、たちまち気味の悪い男につきまとわれる。お陰で休憩時間もずっと執務室に籠もりっぱなし。
女王だって、宮廷内だけでもいいから、たまには一人で気ままに歩きたいのだ。
ちなみにフレデリク以外の宮廷魔術師たちは、アナスタシアへ言い寄るような真似はしない。
そのため未婚の宮廷魔術師に新しい偽の愛人役を頼もうと思った事もあったが、上手くいかなかった。
非常に優秀なうえに女王と行動を共にする事が多い宮廷魔術師の面々は、世間で思われているよりずっとアナスタシアが狡猾だと知っているし、慎重に隠している恐ろしさまでも薄々感じ取っているのだろう。彼女が『個人的なお願い』をしようとすると不穏な気配を素早く察知して、全力で逃げる。
文武両道な猛者揃いなだけあり、彼らは逃げ足も実に一流であった。
女王に忠誠を誓い真面目に職務をこなしてくれるが、個人的に深くかかわるのは怖すぎるので勘弁願いますと、切実な思いをヒシヒシと伝えてくる。
仕方なく宮廷魔術師は諦めて、使えそうな相手を見つけたら警戒心を抱かれる前にすみやかに捕獲しようと決意していたのだ。
(ライナー。貴方が執務室に来るのが楽しみだわ……)
アナスタシアは謁見の間をあとにし、次の会議に向かいながら、楽しい計画を練りはじめた。
その日の午後いっぱい、アナスタシアはとてもご機嫌で執務を片づけた。
夕食を済ませてから自室に引っ込み、湯浴みの代わりに浄化魔法で身を清める。
浄化魔法は術者と相性が合わねば使えない使用者が限定される魔法だが、一瞬で身体と衣服の汚れが落とせるので、とても便利だ。
もっとも、手間こそかからず汚れも隅々まで落ちるが、身体を擦って洗うようなさっぱりした感覚はまるでない。普通に入浴した方が身体も温まるし、香油や花を入れて楽しんだりもできるので、浄化魔法を自在に使いこなせる魔法使いも普段は入浴を好む。
裕福な女性貴族は特に、美容目的で召使にマッサージをさせながら入浴する者が多い。
アナスタシアとて美容にまるで無関心ではないし、専用の浴室を持っている。
ただ、それほど暇がないので、浄化魔法で済ませる事が多い。
そして仮にゆっくり湯に浸かる事があっても、侍女に洗うのを手伝わせはしなかった。
言い寄ってくる男に感じる壮絶な不快感ほどではないが、無防備な入浴時に素肌を他人に触られるのは、あまり落ち着かない。
権力を巡る骨肉の争いがドロドロと渦巻き、気を抜けばすぐ暗殺されかねなかった王家に生まれたせいかもしれない。
今は亡きアナスタシアの異母兄二人と彼らの母親は、それぞれ魔術師ギルドの幹部と親族で、特殊な毒薬を手に入れる事ができた。送り主を偽って部屋に届けられた菓子やほんの少し無人になった部屋に置かれていた水差しの中身など、あらゆるところに毒が仕込まれていたのだ。互いに隙あらば相手やその息子を殺して王位を奪おうと、毒殺を企み合っていた。
あの頃の王宮はまるで、おぞましい毒虫たちが生き残りをかけて互いを貪り殺し合う、蠱毒という呪術の壷のようだった。
他人に気を許す事などできない。
アナスタシアは寝室に入り、最低限だけ侍女に手伝わせながら豪奢な重いドレスを脱ぐ。
寝衣ではなく、薄手の室内用ドレスに着替え、それから複雑に結い上げた髪を解いた。葡萄酒色のドレスの背中が波打つ黄金色の髪で隠される。
「あとは自分でやるから、もう下がって良いわ」
アナスタシアが声をかけ、侍女はドレスと髪飾りを持って退室する。
扉が閉まると、身軽な姿で一人きりになった女王は軽く息を吐き、鏡台の前で髪を自分で梳いた。
女王らしい威厳を出すためにと少し濃くしている化粧を浄化魔法で落とし、宝石の髪飾りを全て外すと、鏡に映る自分は記憶にある母親にかなり似て見えた。
そう似てもいないはずなのだが、アナスタシアと二人きりの時の母は大抵、化粧を落とし髪も解いた気楽な姿だったし、ちょうど年齢も今のアナスタシアと同じくらいだったからだろう。
側妃の一人だった母はアナスタシアが一歳の時に毒殺されたが、その顔も声もはっきり覚えている。
(お母様、今日はとても面白い男と会ったわ。好ましいかどうかは、これから判断するけれど)
鏡に向かい、心の中で母に話しかける。
アナスタシアが生き残って王座につけたのは、一般的な人間よりもかなり賢く生まれたお陰だ。
運の良い事に彼女は、魔法使いの家系に時おり生まれる『異能者』というものだったらしい。
生まれてすぐに言葉と周囲の状況を理解し、普通なら一から学ばねばならぬ魔法の数々を極自然に使えていたのだ。
いち早くそれに気づいた母は、慎重に力を隠すよう娘に教えた。
凄まじい魔力と異様なほど高い知性を持っていても、アナスタシアの身体は普通の赤子だったからだ。魔法を駆使すれば様々な事ができるが、自分の足ではまだ歩く事もできず、すぐに眠くなってしまう。この状態で異母兄やその母后たちに目をつけられたら、きっと殺される。
確実に相手を噛み砕ける牙を手に入れるまで弱くて可愛い子猫を装いなさいと、母は言ったのだ。
アナスタシアも自分を愛してくれる母の事が大好きだった。
その母が何者かに毒殺されたのは、自分の力が足りなかったせいだと今も痛感している。
第一王子、第二王子と彼らの母たちの誰が首謀者かはわからなかった。
ならば、全員に償わせようと決めた。
彼らの手先だった魔術師ギルドの幹部、そして側妃が明らかに不審な死を遂げたのにロクに調査もせず、新しい女に夢中だった王も含めて。
毒壷の王宮に巣食う毒虫共を残らず食い殺し、蠱毒の勝者になってやると誓ったのだ。
多くの寵妃を持つのはロクサリス国王としての義務だと、父はのたまっていたそうだが……
(ふざけるな。節操なく女漁りをした結果が、あの毒壷と化した王宮だろうが)
勝ち残った最強の毒虫である自分の唇が、鏡の中で皮肉たっぷりに歪む。
こうして見ると、やっぱり母には全然似ていない。あの人は、こんなに毒々しくはなかった。
敵の多い王宮で、気位が高く狡猾な女性のように振る舞っていたけれど、アナスタシアと二人きりでお喋りする時は、少女みたいに明るく笑って冗談を言ったりし……今思えばとても『可愛い』本性を持つ人だった。娘とは、正反対だ。
櫛を置き立ち上がったアナスタシアは、続き部屋に繋がる扉を開いた。
隣室は安楽椅子や長椅子に低いテーブルなどが設置された女王の私室となっている。
そのさらに向こう隣の部屋は、アナスタシアの執務室だ。
アナスタシアは執務室の机に着く。
壁にかけられた精巧なねじまき式の時計は、そろそろ夜の九時を指そうとしていた。
ちょうど時間通りに扉が叩かれ、よく通る衛兵の声が響いた。
「失礼いたします、陛下。ライナー魔術師が入室許可を求めておりますが」
アナスタシアは「入りなさい」と、機嫌良く答える。
「失礼いたします」
深緑のローブを着た青年魔術師は、アナスタシアのくつろいだ装いに一瞬驚いたような表情となったが、すぐに神妙な顔つきに戻った。
アナスタシアはまず部屋に防音の魔法をかけ、執務机の向かいに立った彼をあらためて見上げる。
「では、エルヴァスティ伯爵家の次期継承者であるライナー一等魔術師。貴方の行動に幾つか疑問を感じましたので、処遇を決める前に質問をします」
あえて家名まで交えた長々しい呼び方をすると、ライナーが僅かに身構えた。
それには触れず、アナスタシアは彼に微笑みかける。
「謁見の間で貴方がエルヴァスティ伯にかけた魔法は、とても興味深いものでした。強い効果を発揮できるように練習する人は多いけど、その逆はあまり一般的ではないわ。誰に教わったのかしら?」
視線を上げて返事を促すと、ライナーはやや躊躇いがちに口を開いた。
「独自に練習いたしました」
「何か、必要でもあったの?」
ほがらかな口調で突っ込めば、彼は先ほどよりも言いづらそうに答えた。
「陛下もご存じの通り、父の評判は良くありません。私が昔、魔術師ギルドに入った際にも、我が家を快く思わない人と何度か諍いが起こり……自衛のために身につけました」
「まぁ」
アナスタシアは口元に手を当ててさも驚いたような仕草をして見せたが、彼の返答はだいたい予想していた通りだ。
優れた能力を持つ者は、嫉まれる事が多い。
ライナーは高い魔力と優秀な頭脳を持つだけでなく、周囲の人間と上手くやれそうな性格に見える。そんなに色々と備え持つ彼を、かえって疎む者もいただろう。
そういう輩にとって、不正で王宮を追われた父親は、格好の攻撃材料となったに違いない。
「あれでは足止め程度にしかならないでしょうに。あれほど高度な魔法を使いこなせる貴方なら、もっと別の手段があったのではなくて? 相手が手出しを控えてくれるような、効率の良い手段が」
暗に『二度と手出しをする気が起きないほど徹底的に叩き潰して、思い知らせてやればいい』と言うと、ライナーは微苦笑した。
「父が不正を働いたのは事実ですし、暴力で強引に口を噤ませても、我が家の評判がさらに下がるだけです」
「それもそうね」
「周囲と良好な関係を築きたければ、最初は拒絶されても相手との信頼を地道に積み重ねていく方が良いと考えました。ただ、多人数で来た場合は、話し合いの余地がない時もありますので、こうした手段で逃げていたのです」
どこまでも柔和で辛抱強い返答に、今度はアナスタシアが微笑した。
「貴方が錬金術師ギルドで上手くやっていけた理由がよくわかったわ。でも、もう一つ気になる事があるのよね……」
彼女はライナーの目を見据え、本命の質問に入った。
「家思いのご立派な貴方が、なぜ謁見の間に入る前に父親を止めなかったのかしら? エルヴァスティ家は今度こそ、爵位も領地も完全に剥奪されてもおかしくなかったのに。父親が騒ぎを起こして不興を買うのを待っていたようにしか思えなかったわ」
辛辣な指摘をすると、ライナーが僅かに顔を強張らせ、息を呑んだ。
アナスタシアは彼のローブに刺繍されている一等魔術師の階級章を片手で示し、ニコリと笑う。
「貴方自身は一等魔術師ですもの。愚かな父親と汚名にまみれた家に見切りをつけ叩き潰したかったというなら、理解できなくもないわ。苦労話も聞いた事だし、少しなら同情してあげてよ」
黙りこくっているライナーに、アナスタシアは皮肉たっぷりな笑顔を向けた。
魔力の量に限らず魔法を使える素質を持つ者は全て「魔法使い」と称され、その中でも魔法を専門とする職業についていれば「魔術師」と呼ばれる。
魔術師の中でも細かくランクづけはされているが、一等魔術師なら爵位相応の身分とみなされる。
ライナーは伯爵家の跡取り息子といっても、その爵位は父親の悪評にまみれた不良物件だ。
一等魔術師は爵位と違い子孫に引き継げない一代限りの地位であっても、魔法の才が極めて重視されるこの国なら、そんな家を継ぐよりも魔術師ギルドで地位を高める方が遥かに良いだろう。
「否定はしません。父は陛下にお目通り願う事に夢中で冷静な判断を欠いておりましたが、私はこうなるだろうと予想しながら、父を止めませんでした。ですからどうか、個人的な処罰は父ではなく、騒ぎを仕組んだ私にお願いいたします」
ライナーは表情も変えずに淡々と答えたが、そんな表面だけの言葉で許してやるつもりはない。
「あっさり認めるのね。けれど、それならなぜ今さら父親を庇うの? 貴方の言葉や行動は矛盾だらけ。これ以上の誤魔化しは許しませんよ。洗いざらい全て白状なさい」
ワクワクしながら畳みかけると、彼は観念したように一瞬目を瞑り、苦しげな声を吐き出した。
「申し訳ございません。この騒ぎで家が潰され、私も陛下から処罰されれば、さすがに父も自身の行いを反省して、王宮官吏に返り咲く野心など諦めてくれるかと思ったものですから……」
ため息をつかんばかりのライナーを前に、アナスタシアは媚びへつらっていたエルヴァスティ伯爵の様子を思い出した。
幾ら昔より人数が少ないとはいえ、全ての謁見が許可される訳ではない。伯爵は以前にも何度か謁見願いを出していたが、どれも意味のない挨拶や役所からの対応で十分な内容だったため、却下していた。
それでも、あそこまで強引にライナーについて謁見の間へ来たのは、単なるご機嫌とりが目的という訳でもなさそうだ。欲深い伯爵なら、息子をもっと利用するはず。
「もしかして貴方の謁見について来たのは、自慢の息子を宮廷魔術師へ引き抜くよう私へ売り込み、あわよくば自分も王宮勤めに復帰するためかしら?」
アナスタシアは自信満々に尋ねた。
魔術師の職の最高峰ならば、魔術師ギルドの幹部である『老師』だ。しかし、宮廷魔術師の方が高官の知り合いが多くできる。宮廷に繋がりを持ちたい伯爵なら、息子をそこに据えたがるだろう。
「え、ええ。それもそうなのですが……」
ライナーは言葉尻を濁し、やけに気まずそうな顔になる。
「まだ他にあるのなら、はっきりおっしゃい」
アナスタシアが促すと、ライナーは躊躇いがちに視線をさまよわせたものの、すぐに観念したらしい。意を決したように拳を握り締め、口を開いた。
「父は、ぜひとも宮廷魔術師に志願しろと私に命じ、それが叶ったら……その、なんとしても陛下を口説き落とせと……」
一瞬、部屋の中がシンと静まりかえった。
「なるほど。私の愛人希望という訳ね。それにしても大した自信だこと。貴方は、私を落とせると思っていたの?」
アナスタシアが冷ややかな目を向けると、ライナーの顔が見る見るうちに赤くなる。
「まさか! ただ父は、牙の魔術師の結婚で陛下が受けた傷が治らぬうちに、皆もお声をかけているのだからと言って……」
「え? 待ちなさい! 私が、フレデリクの結婚で傷心ですって?」
その言葉は、本日で一番アナスタシアを驚かせた。
「っ! あ……いえ、その……そういうお話が、一部で流れていると……」
ライナーが、しまったとばかりに片手で口を押さえる。
「……あら、そう」
腹立たしさに、アナスタシアの声が三段階ばかり低くなった。
フレデリクを愛人と周囲に思わせながら、彼もアナスタシアも自分の口からはっきりとその噂を肯定した事はない。
だからこそ彼の結婚の時に、ロクサリスの結婚事情――女王は伝統的に王配を持たず、反して高い魔力を持つ男は妻帯義務がある事――から、アナスタシアがフレデリクに名目だけの妻を持つよう命じたなどというバカげた話を否定できたのだ。
それに、フレデリクが妻を溺愛しまくるので、その件は無事に解決した。
……はずだったが、さらにそこから突拍子もない邪推をする者がいたらしい。
(フレデリクの結婚以来、以前にも増して大勢の男からしつこく声をかけられたのは、失恋の傷につけ込もうと狙われていたからだったのか! つまり私は、本当は好きだった男の結婚を、強がって泣く泣く祝福したフラレ女だと思われていた!?)
ヒクヒクと頬が引き攣りそうになったが、アナスタシアは気を取りなおし、咳払いをする。
「フレデリク魔術師が一年前に結婚したのは事実だけれど、私がそれを祝福しているのも本当よ。どこからそんなデタラメが出回ったのかしら」
「そうでしたか、大変申し訳ございません」
「いいわ。貴方がここ数年の出来事に疎いのは無理もない事ですしね。話を続けなさい」
ライナーは恐縮した様子で頭を下げたが、俯いたまま言葉を続けた。
「……私が一人で謁見の申し込みをした事を知ると、父は謁見の直前に兵に賄賂を渡してまで押しかけてきました。陛下のおっしゃる通り、家の存続を考えるならば力ずくでも止めるべきだったのでしょうが……」
彼の声は、僅かに震えていた。
謁見の直前に父親が不正な手段を使った事で、ライナーは苦渋の決断をしたのだろう。
息子の帰国を機にまた野心を芽吹かせてしまった父は、この先何度でも手段を選ばぬ行動に出ると目に見えていたから、自らの手で父に煮え湯を飲ませたのだ。
野心だけ殺して父の身柄を守るために、彼自身も火傷を負うのを承知で。
彼はとても強く、そして優しい……なんて呆れるほどにお人よしだと、アナスタシアは内心でニタリとほくそ笑んだ。
(宜しい。貴方は、非常に理想的な逸材だわ)
失恋女に認定云々はともかくとして、ライナーの事情はアナスタシアにとって都合の良い話だ。
すっかり気を取り直したアナスタシアは、机に肘をついてゆったりと組み合わせた両手に顎を乗せる。そして肝心な点を聞く事にした。
「よくわかったわ。……ところで貴方は、恋人か好きな相手でもいるのかしら? 父親の要望を真っ向から拒否したのは、その相手を捨てて私に言い寄れと強制されたから?」
唐突な話題の転換と、打って変わって砕けた調子になった女王に驚いたのだろうか。
ライナーは一瞬、意味を掴み損ねたように目を見開いたが、すぐにかぶりを振った。
「いえ。そのような相手はおりません。ただ、父の意図があまりにも透けて見えましたので……陛下を不愉快にさせる結果となってしまい、申し訳ございません」
生真面目な青年はまた丁寧に頭を下げたが、アナスタシアは内心ニヤニヤが止まらなくなっていた。
(ますますもって宜しい。完璧だ。これで、この男が断る理由は全てなくなった)
アナスタシアはわざと表情を引き締め、ライナーの神妙な顔を見上げる。
「そうね、謁見に乱入した理由がよりによってそんな下心だったなど不愉快だわ。ライナー魔術師、貴方に科す処罰を決めました」
「はい。いかようにも覚悟はできております」
「貴方には今日から一年間、私のために、偽の愛人役を演じる事を命じます」
「質問を許します」
アナスタシアが頷くと、やせぎすの文官は咳払いをして、ライナーをじろじろ眺める。
「君の報告は魔道具研究に関する事ばかりだったが、フロッケンベルクでの生活環境はどうだったかね? 異国の暮らしは、何かと不便も多かったと思うが」
何か含むような目つきで文官は尋ねる。
きっと他の留学生と同じく、ライナーにも留学中に酷い扱いを受けたと言わせたいのだろう。
この文官は、旧時代を代表するような隣国嫌いだった。表向きはおべっかを使ってくるものの、陰では女王のせいでフロッケンベルクとの交流が始まったと文句を言っている。
ただ、自分の仕事はそこそここなすし、大した妨害ができる男でもないので、放ってあるのだ。反発する者を全て除去しては、単なる暴君になってしまう。
期待を籠めた視線を向けられて、ライナーは記憶をたどるように少し考えたあと、口を開いた。
「皆様もご存じの通り、フロッケンベルクとは言語もほぼ同じですし、料理もロクサリスと似たものが多くありましたから、特に不便は感じませんでした。ただ……」
「何か、不満があったのだね!?」
明らかに文官の声が弾んだ。
だが、文官の思惑などまるで気づかないかのように、ライナーは穏やかに首を振る。
「いえ、不満というほどではありませんが、寒さはかなり厳しかったです。山を一つ挟んだだけで、こうも気候が違うのかと驚きました。かの国の防寒設備が素晴らしく発達しているのも頷けます」
「あ、いや……私が聞きたいのは、そういう事ではなくてだね……」
平然と斜め上の返答をしたライナーと声を引き攣らせている文官を前に、アナスタシアは笑いを噛み殺すのに必死だった。
この青年は鈍いのか、それともわざとやっているのだろうか。
「つまりだね、人間関係の面で困った事はなかったかと、聞きたかったのだ!」
苛立たしげに文官が言うと、ライナーは「ああ」と、納得したように軽く目を見開いた。
「失礼しました。あちらのギルドでは友人もたくさんできましたし、職場外でも多くの方から親切にしていただきました」
「なるほど……それは結構。しかし、他の留学生たちは皆、錬金術師ギルドで不愉快な目に遭わされたと言っているが。君には、まったくなかったというのかね?」
もはや、婉曲な言葉を選ぶ余裕もなくなったらしい文官に、ライナーがニコリと微笑んだ。
「錬金術師ギルドにも様々な方がいますので、あまり気の合わない方もおりました。ですが、意見の食い違いも大抵は上手く折り合いをつけられましたし、私の力が至らない部分ではあちらの友人たちに手助けをしていただきました。総じて、順調だったのではないかと思います」
「……わかった、もう結構。貴殿ならどこでも快適に暮らせそうだ」
力なくうな垂れた文官が下がり、アナスタシアは広げた扇の陰で、噴き出すのを懸命に堪えた。
十八年の在位期間中で、間違いなく一番愉快な謁見だ。
(これは、期待できそうね)
退室するライナーを眺めつつ、アナスタシアは胸中でニンマリと笑った。
ライナーはかなり使えそうな男だから、宮廷魔術師に登用すれば何かと便利な手駒になるだろう。だが、今のところ有能な宮廷魔術師は必要な数が揃っている。だから、そちらはいらない。
アナスタシアが現在、最も必要としている求人は鬱陶しい男たちの目を逸らさせるための防波堤――見せかけだけの、偽の愛人である。
アナスタシアは去年まで、とても良い防波堤を持っていた。
宮廷魔術師の一人であるフレデリク・クロイツ――通称『牙の魔術師』だ。
花形職業の宮廷魔術師で容姿も良いフレデリクに寄ってくる女は多かったが、彼は誰かと恋愛する気なんて欠片もなかった。おまけに彼はアナスタシアの密偵も務めており、しつこい女にまとわりつかれると仕事がやりにくくて困ると辟易していた。だから互いに利害が一致した訳だ。
二人で示し合わせ、アナスタシアが誰よりも彼を寵愛しているように見せかけていた。
傍からはどれほど親密に見えても、二人が互いを異性として愛する事は決してない。
何しろフレデリクは、公式には存在すら知られていないが、前王の第三子。つまり、アナスタシアの異母兄なのだ。もっとも、その真実を知る者は極僅かで、表向きフレデリクはアナスタシアと仲の良い幼馴染となっている。そのため、自然に恋仲と見せかける事ができた。
加えて、彼は顔だけの男ではなく、自分の身を危険から守るだけの能力も十分にある。
アナスタシアは心置きなく『弱い男は嫌いなの。私を口説きたければ、まずフレデリクを倒してから来なさい』と、他の男たちをけしかけられたのだ。
その途端、フレデリクは魔法での決闘を次々と申し込まれるようになり、それを全て正面から撃退した。すると、今度は夜道や人気のない場所で連日、襲撃されたらしい。
凄まじい騒ぎは三ヶ月ほどで落ち着いた。アナスタシアがフレデリクを愛人と見せかけながら一切の特別待遇をせず、むしろ積極的にこき使ったからだ。
『お互いに身の回りが片づくのは結構ですが、俺の負担だけ大きい気がします』と、愚痴を言いつつも偽の愛人役をしていたフレデリクだが、彼はある貴族令嬢に恋をしてその役を降りた。
人生にすっかり不貞腐れていたフレデリクが誰かに恋をするなんて最初は信じられなかったが、驚いた事に彼は本気だった。それはもう呆れるほどの浮かれぶりだったのだ。
だからアナスタシアは、彼に偽の愛人役を続けさせようとはしなかった。
それに彼が愛人役を務めていたせいでその令嬢との結婚に支障が出たため、アナスタシアとの恋仲は周囲が勝手に思い込んでいただけで、本当は何もなかったとも明かした。
よって、フレデリクが無事に愛妻とイチャイチャ新婚生活を送りはじめると、アナスタシアのもとには邪魔者がいなくなったと大喜びする男たちが再び押し寄せるようになったのである。
むしろ以前より増えた気がする。
フレデリクを愛人だと思わせていた頃、彼を酷使する事でどんな相手も特別待遇はしないと意思表示をしていたが、彼が本当の愛人ではなかったと知り、また愚かな期待を抱きはじめたらしい。
ここ一年ばかりは、寄ってくる男たちを辛抱強くあしらっていたが、もう我慢の限界だ。
今日みたいな良い天気の日にうっかり中庭を散策しようものなら、たちまち気味の悪い男につきまとわれる。お陰で休憩時間もずっと執務室に籠もりっぱなし。
女王だって、宮廷内だけでもいいから、たまには一人で気ままに歩きたいのだ。
ちなみにフレデリク以外の宮廷魔術師たちは、アナスタシアへ言い寄るような真似はしない。
そのため未婚の宮廷魔術師に新しい偽の愛人役を頼もうと思った事もあったが、上手くいかなかった。
非常に優秀なうえに女王と行動を共にする事が多い宮廷魔術師の面々は、世間で思われているよりずっとアナスタシアが狡猾だと知っているし、慎重に隠している恐ろしさまでも薄々感じ取っているのだろう。彼女が『個人的なお願い』をしようとすると不穏な気配を素早く察知して、全力で逃げる。
文武両道な猛者揃いなだけあり、彼らは逃げ足も実に一流であった。
女王に忠誠を誓い真面目に職務をこなしてくれるが、個人的に深くかかわるのは怖すぎるので勘弁願いますと、切実な思いをヒシヒシと伝えてくる。
仕方なく宮廷魔術師は諦めて、使えそうな相手を見つけたら警戒心を抱かれる前にすみやかに捕獲しようと決意していたのだ。
(ライナー。貴方が執務室に来るのが楽しみだわ……)
アナスタシアは謁見の間をあとにし、次の会議に向かいながら、楽しい計画を練りはじめた。
その日の午後いっぱい、アナスタシアはとてもご機嫌で執務を片づけた。
夕食を済ませてから自室に引っ込み、湯浴みの代わりに浄化魔法で身を清める。
浄化魔法は術者と相性が合わねば使えない使用者が限定される魔法だが、一瞬で身体と衣服の汚れが落とせるので、とても便利だ。
もっとも、手間こそかからず汚れも隅々まで落ちるが、身体を擦って洗うようなさっぱりした感覚はまるでない。普通に入浴した方が身体も温まるし、香油や花を入れて楽しんだりもできるので、浄化魔法を自在に使いこなせる魔法使いも普段は入浴を好む。
裕福な女性貴族は特に、美容目的で召使にマッサージをさせながら入浴する者が多い。
アナスタシアとて美容にまるで無関心ではないし、専用の浴室を持っている。
ただ、それほど暇がないので、浄化魔法で済ませる事が多い。
そして仮にゆっくり湯に浸かる事があっても、侍女に洗うのを手伝わせはしなかった。
言い寄ってくる男に感じる壮絶な不快感ほどではないが、無防備な入浴時に素肌を他人に触られるのは、あまり落ち着かない。
権力を巡る骨肉の争いがドロドロと渦巻き、気を抜けばすぐ暗殺されかねなかった王家に生まれたせいかもしれない。
今は亡きアナスタシアの異母兄二人と彼らの母親は、それぞれ魔術師ギルドの幹部と親族で、特殊な毒薬を手に入れる事ができた。送り主を偽って部屋に届けられた菓子やほんの少し無人になった部屋に置かれていた水差しの中身など、あらゆるところに毒が仕込まれていたのだ。互いに隙あらば相手やその息子を殺して王位を奪おうと、毒殺を企み合っていた。
あの頃の王宮はまるで、おぞましい毒虫たちが生き残りをかけて互いを貪り殺し合う、蠱毒という呪術の壷のようだった。
他人に気を許す事などできない。
アナスタシアは寝室に入り、最低限だけ侍女に手伝わせながら豪奢な重いドレスを脱ぐ。
寝衣ではなく、薄手の室内用ドレスに着替え、それから複雑に結い上げた髪を解いた。葡萄酒色のドレスの背中が波打つ黄金色の髪で隠される。
「あとは自分でやるから、もう下がって良いわ」
アナスタシアが声をかけ、侍女はドレスと髪飾りを持って退室する。
扉が閉まると、身軽な姿で一人きりになった女王は軽く息を吐き、鏡台の前で髪を自分で梳いた。
女王らしい威厳を出すためにと少し濃くしている化粧を浄化魔法で落とし、宝石の髪飾りを全て外すと、鏡に映る自分は記憶にある母親にかなり似て見えた。
そう似てもいないはずなのだが、アナスタシアと二人きりの時の母は大抵、化粧を落とし髪も解いた気楽な姿だったし、ちょうど年齢も今のアナスタシアと同じくらいだったからだろう。
側妃の一人だった母はアナスタシアが一歳の時に毒殺されたが、その顔も声もはっきり覚えている。
(お母様、今日はとても面白い男と会ったわ。好ましいかどうかは、これから判断するけれど)
鏡に向かい、心の中で母に話しかける。
アナスタシアが生き残って王座につけたのは、一般的な人間よりもかなり賢く生まれたお陰だ。
運の良い事に彼女は、魔法使いの家系に時おり生まれる『異能者』というものだったらしい。
生まれてすぐに言葉と周囲の状況を理解し、普通なら一から学ばねばならぬ魔法の数々を極自然に使えていたのだ。
いち早くそれに気づいた母は、慎重に力を隠すよう娘に教えた。
凄まじい魔力と異様なほど高い知性を持っていても、アナスタシアの身体は普通の赤子だったからだ。魔法を駆使すれば様々な事ができるが、自分の足ではまだ歩く事もできず、すぐに眠くなってしまう。この状態で異母兄やその母后たちに目をつけられたら、きっと殺される。
確実に相手を噛み砕ける牙を手に入れるまで弱くて可愛い子猫を装いなさいと、母は言ったのだ。
アナスタシアも自分を愛してくれる母の事が大好きだった。
その母が何者かに毒殺されたのは、自分の力が足りなかったせいだと今も痛感している。
第一王子、第二王子と彼らの母たちの誰が首謀者かはわからなかった。
ならば、全員に償わせようと決めた。
彼らの手先だった魔術師ギルドの幹部、そして側妃が明らかに不審な死を遂げたのにロクに調査もせず、新しい女に夢中だった王も含めて。
毒壷の王宮に巣食う毒虫共を残らず食い殺し、蠱毒の勝者になってやると誓ったのだ。
多くの寵妃を持つのはロクサリス国王としての義務だと、父はのたまっていたそうだが……
(ふざけるな。節操なく女漁りをした結果が、あの毒壷と化した王宮だろうが)
勝ち残った最強の毒虫である自分の唇が、鏡の中で皮肉たっぷりに歪む。
こうして見ると、やっぱり母には全然似ていない。あの人は、こんなに毒々しくはなかった。
敵の多い王宮で、気位が高く狡猾な女性のように振る舞っていたけれど、アナスタシアと二人きりでお喋りする時は、少女みたいに明るく笑って冗談を言ったりし……今思えばとても『可愛い』本性を持つ人だった。娘とは、正反対だ。
櫛を置き立ち上がったアナスタシアは、続き部屋に繋がる扉を開いた。
隣室は安楽椅子や長椅子に低いテーブルなどが設置された女王の私室となっている。
そのさらに向こう隣の部屋は、アナスタシアの執務室だ。
アナスタシアは執務室の机に着く。
壁にかけられた精巧なねじまき式の時計は、そろそろ夜の九時を指そうとしていた。
ちょうど時間通りに扉が叩かれ、よく通る衛兵の声が響いた。
「失礼いたします、陛下。ライナー魔術師が入室許可を求めておりますが」
アナスタシアは「入りなさい」と、機嫌良く答える。
「失礼いたします」
深緑のローブを着た青年魔術師は、アナスタシアのくつろいだ装いに一瞬驚いたような表情となったが、すぐに神妙な顔つきに戻った。
アナスタシアはまず部屋に防音の魔法をかけ、執務机の向かいに立った彼をあらためて見上げる。
「では、エルヴァスティ伯爵家の次期継承者であるライナー一等魔術師。貴方の行動に幾つか疑問を感じましたので、処遇を決める前に質問をします」
あえて家名まで交えた長々しい呼び方をすると、ライナーが僅かに身構えた。
それには触れず、アナスタシアは彼に微笑みかける。
「謁見の間で貴方がエルヴァスティ伯にかけた魔法は、とても興味深いものでした。強い効果を発揮できるように練習する人は多いけど、その逆はあまり一般的ではないわ。誰に教わったのかしら?」
視線を上げて返事を促すと、ライナーはやや躊躇いがちに口を開いた。
「独自に練習いたしました」
「何か、必要でもあったの?」
ほがらかな口調で突っ込めば、彼は先ほどよりも言いづらそうに答えた。
「陛下もご存じの通り、父の評判は良くありません。私が昔、魔術師ギルドに入った際にも、我が家を快く思わない人と何度か諍いが起こり……自衛のために身につけました」
「まぁ」
アナスタシアは口元に手を当ててさも驚いたような仕草をして見せたが、彼の返答はだいたい予想していた通りだ。
優れた能力を持つ者は、嫉まれる事が多い。
ライナーは高い魔力と優秀な頭脳を持つだけでなく、周囲の人間と上手くやれそうな性格に見える。そんなに色々と備え持つ彼を、かえって疎む者もいただろう。
そういう輩にとって、不正で王宮を追われた父親は、格好の攻撃材料となったに違いない。
「あれでは足止め程度にしかならないでしょうに。あれほど高度な魔法を使いこなせる貴方なら、もっと別の手段があったのではなくて? 相手が手出しを控えてくれるような、効率の良い手段が」
暗に『二度と手出しをする気が起きないほど徹底的に叩き潰して、思い知らせてやればいい』と言うと、ライナーは微苦笑した。
「父が不正を働いたのは事実ですし、暴力で強引に口を噤ませても、我が家の評判がさらに下がるだけです」
「それもそうね」
「周囲と良好な関係を築きたければ、最初は拒絶されても相手との信頼を地道に積み重ねていく方が良いと考えました。ただ、多人数で来た場合は、話し合いの余地がない時もありますので、こうした手段で逃げていたのです」
どこまでも柔和で辛抱強い返答に、今度はアナスタシアが微笑した。
「貴方が錬金術師ギルドで上手くやっていけた理由がよくわかったわ。でも、もう一つ気になる事があるのよね……」
彼女はライナーの目を見据え、本命の質問に入った。
「家思いのご立派な貴方が、なぜ謁見の間に入る前に父親を止めなかったのかしら? エルヴァスティ家は今度こそ、爵位も領地も完全に剥奪されてもおかしくなかったのに。父親が騒ぎを起こして不興を買うのを待っていたようにしか思えなかったわ」
辛辣な指摘をすると、ライナーが僅かに顔を強張らせ、息を呑んだ。
アナスタシアは彼のローブに刺繍されている一等魔術師の階級章を片手で示し、ニコリと笑う。
「貴方自身は一等魔術師ですもの。愚かな父親と汚名にまみれた家に見切りをつけ叩き潰したかったというなら、理解できなくもないわ。苦労話も聞いた事だし、少しなら同情してあげてよ」
黙りこくっているライナーに、アナスタシアは皮肉たっぷりな笑顔を向けた。
魔力の量に限らず魔法を使える素質を持つ者は全て「魔法使い」と称され、その中でも魔法を専門とする職業についていれば「魔術師」と呼ばれる。
魔術師の中でも細かくランクづけはされているが、一等魔術師なら爵位相応の身分とみなされる。
ライナーは伯爵家の跡取り息子といっても、その爵位は父親の悪評にまみれた不良物件だ。
一等魔術師は爵位と違い子孫に引き継げない一代限りの地位であっても、魔法の才が極めて重視されるこの国なら、そんな家を継ぐよりも魔術師ギルドで地位を高める方が遥かに良いだろう。
「否定はしません。父は陛下にお目通り願う事に夢中で冷静な判断を欠いておりましたが、私はこうなるだろうと予想しながら、父を止めませんでした。ですからどうか、個人的な処罰は父ではなく、騒ぎを仕組んだ私にお願いいたします」
ライナーは表情も変えずに淡々と答えたが、そんな表面だけの言葉で許してやるつもりはない。
「あっさり認めるのね。けれど、それならなぜ今さら父親を庇うの? 貴方の言葉や行動は矛盾だらけ。これ以上の誤魔化しは許しませんよ。洗いざらい全て白状なさい」
ワクワクしながら畳みかけると、彼は観念したように一瞬目を瞑り、苦しげな声を吐き出した。
「申し訳ございません。この騒ぎで家が潰され、私も陛下から処罰されれば、さすがに父も自身の行いを反省して、王宮官吏に返り咲く野心など諦めてくれるかと思ったものですから……」
ため息をつかんばかりのライナーを前に、アナスタシアは媚びへつらっていたエルヴァスティ伯爵の様子を思い出した。
幾ら昔より人数が少ないとはいえ、全ての謁見が許可される訳ではない。伯爵は以前にも何度か謁見願いを出していたが、どれも意味のない挨拶や役所からの対応で十分な内容だったため、却下していた。
それでも、あそこまで強引にライナーについて謁見の間へ来たのは、単なるご機嫌とりが目的という訳でもなさそうだ。欲深い伯爵なら、息子をもっと利用するはず。
「もしかして貴方の謁見について来たのは、自慢の息子を宮廷魔術師へ引き抜くよう私へ売り込み、あわよくば自分も王宮勤めに復帰するためかしら?」
アナスタシアは自信満々に尋ねた。
魔術師の職の最高峰ならば、魔術師ギルドの幹部である『老師』だ。しかし、宮廷魔術師の方が高官の知り合いが多くできる。宮廷に繋がりを持ちたい伯爵なら、息子をそこに据えたがるだろう。
「え、ええ。それもそうなのですが……」
ライナーは言葉尻を濁し、やけに気まずそうな顔になる。
「まだ他にあるのなら、はっきりおっしゃい」
アナスタシアが促すと、ライナーは躊躇いがちに視線をさまよわせたものの、すぐに観念したらしい。意を決したように拳を握り締め、口を開いた。
「父は、ぜひとも宮廷魔術師に志願しろと私に命じ、それが叶ったら……その、なんとしても陛下を口説き落とせと……」
一瞬、部屋の中がシンと静まりかえった。
「なるほど。私の愛人希望という訳ね。それにしても大した自信だこと。貴方は、私を落とせると思っていたの?」
アナスタシアが冷ややかな目を向けると、ライナーの顔が見る見るうちに赤くなる。
「まさか! ただ父は、牙の魔術師の結婚で陛下が受けた傷が治らぬうちに、皆もお声をかけているのだからと言って……」
「え? 待ちなさい! 私が、フレデリクの結婚で傷心ですって?」
その言葉は、本日で一番アナスタシアを驚かせた。
「っ! あ……いえ、その……そういうお話が、一部で流れていると……」
ライナーが、しまったとばかりに片手で口を押さえる。
「……あら、そう」
腹立たしさに、アナスタシアの声が三段階ばかり低くなった。
フレデリクを愛人と周囲に思わせながら、彼もアナスタシアも自分の口からはっきりとその噂を肯定した事はない。
だからこそ彼の結婚の時に、ロクサリスの結婚事情――女王は伝統的に王配を持たず、反して高い魔力を持つ男は妻帯義務がある事――から、アナスタシアがフレデリクに名目だけの妻を持つよう命じたなどというバカげた話を否定できたのだ。
それに、フレデリクが妻を溺愛しまくるので、その件は無事に解決した。
……はずだったが、さらにそこから突拍子もない邪推をする者がいたらしい。
(フレデリクの結婚以来、以前にも増して大勢の男からしつこく声をかけられたのは、失恋の傷につけ込もうと狙われていたからだったのか! つまり私は、本当は好きだった男の結婚を、強がって泣く泣く祝福したフラレ女だと思われていた!?)
ヒクヒクと頬が引き攣りそうになったが、アナスタシアは気を取りなおし、咳払いをする。
「フレデリク魔術師が一年前に結婚したのは事実だけれど、私がそれを祝福しているのも本当よ。どこからそんなデタラメが出回ったのかしら」
「そうでしたか、大変申し訳ございません」
「いいわ。貴方がここ数年の出来事に疎いのは無理もない事ですしね。話を続けなさい」
ライナーは恐縮した様子で頭を下げたが、俯いたまま言葉を続けた。
「……私が一人で謁見の申し込みをした事を知ると、父は謁見の直前に兵に賄賂を渡してまで押しかけてきました。陛下のおっしゃる通り、家の存続を考えるならば力ずくでも止めるべきだったのでしょうが……」
彼の声は、僅かに震えていた。
謁見の直前に父親が不正な手段を使った事で、ライナーは苦渋の決断をしたのだろう。
息子の帰国を機にまた野心を芽吹かせてしまった父は、この先何度でも手段を選ばぬ行動に出ると目に見えていたから、自らの手で父に煮え湯を飲ませたのだ。
野心だけ殺して父の身柄を守るために、彼自身も火傷を負うのを承知で。
彼はとても強く、そして優しい……なんて呆れるほどにお人よしだと、アナスタシアは内心でニタリとほくそ笑んだ。
(宜しい。貴方は、非常に理想的な逸材だわ)
失恋女に認定云々はともかくとして、ライナーの事情はアナスタシアにとって都合の良い話だ。
すっかり気を取り直したアナスタシアは、机に肘をついてゆったりと組み合わせた両手に顎を乗せる。そして肝心な点を聞く事にした。
「よくわかったわ。……ところで貴方は、恋人か好きな相手でもいるのかしら? 父親の要望を真っ向から拒否したのは、その相手を捨てて私に言い寄れと強制されたから?」
唐突な話題の転換と、打って変わって砕けた調子になった女王に驚いたのだろうか。
ライナーは一瞬、意味を掴み損ねたように目を見開いたが、すぐにかぶりを振った。
「いえ。そのような相手はおりません。ただ、父の意図があまりにも透けて見えましたので……陛下を不愉快にさせる結果となってしまい、申し訳ございません」
生真面目な青年はまた丁寧に頭を下げたが、アナスタシアは内心ニヤニヤが止まらなくなっていた。
(ますますもって宜しい。完璧だ。これで、この男が断る理由は全てなくなった)
アナスタシアはわざと表情を引き締め、ライナーの神妙な顔を見上げる。
「そうね、謁見に乱入した理由がよりによってそんな下心だったなど不愉快だわ。ライナー魔術師、貴方に科す処罰を決めました」
「はい。いかようにも覚悟はできております」
「貴方には今日から一年間、私のために、偽の愛人役を演じる事を命じます」
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