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31 誕生日パーティー 1
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アンネリーの誕生日パーティーの晩。
アルベルトのエスコートで馬車を降りたエステルは、久しぶりに戻った屋敷を懐かしく見上げた。
寒い季節の夜なので、庭はそれなりに灯りで飾られているものの、宴の会場は室内だ。
温かな外套を羽織っているものの、着ている夜会ドレスは胸元の大きく開いた流行のデザインのせいか、冷気にブルリとエステルは身を震わせた。
「……使うと良い」
それを見たらしく、アルベルトが自分のストールを外して、エステルの首周りにかけてくれる。
「あ、ありがとうございます……」
微かに香るアルベルトの香水の残り香に、ギュッと胸を締め付けられた。
とても紳士的で優しい彼だから、エスコートの相手が誰であれ同じことをしただろうと思うのに。
特別に優しくされているような気がしてしまい、うっかり浮かれそうになる。
(殿下が私を娶ったのは、呪いを解く為だけ!)
そんな自分に言い聞かせながら屋敷に入り、玄関の侍従に、名残惜しい気持ちで外套と一緒にストールを預ける。
案内された大広間は、冬花と絹のリボンや光を発する魔道具の球で華やかに飾り付けられ、既に多くの招待客が談笑していた。
エステルとアルベルトが会場に入ると、気づいた叔父夫婦とアンネリーが駆け寄って来て、招待客たちの視線もいっせいにこちらへ向く。
「よくぞおいでくださいました、王太子殿下!」
見るからに上機嫌の叔父が、ニコニコと愛想よく挨拶をする。
「娘の為に王太子殿下が来て下さるなど、光栄の極みですわ」
叔母も満面の笑みでお辞儀をし、真新しいドレスを身に着けたアンネリーが両親の間から進み出た。
「王太子殿下! 本日は私の為にわざわざお越しいただいて感激です!」
感極まった様子の三人を前に、アルベルトはどこか冷ややかな笑みを浮かべると、エステルの腰を抱いて自分に寄せた。
「招待を頂き感謝する。だが、しそもそもの招待を受けたのは我が妃エステルで、私はその付き添いできただけだ」
「っ!」
一瞬、アンネリーからキッと睨まれたような気がしたが、彼女はすぐに天使のような笑顔になって、エステルに向き直る。
「エステル……いいえ、王太子妃殿下。本日はどうぞ我が家にお越しくださいました」
他人行儀な態度に動揺しかけるも、チラリと横目でアルベルトをみれば、それで良いとばかりに小さく頷かれた。
エステルの心情がどうであれ、王太子妃という立場になったからには、あまり甘く見られてはいけない。
私的な空間にいる時に、親しい相手と気安く接するのまでは咎めないけれど、公の場では相応の態度をとって欲しいとアルベルトには言われている。
「こちらこそ、お招きいただき感謝します。アンネリー様」
だからエステルは、精一杯にすました顔でお辞儀をし、持参した小箱をアンネリーに差し出した。
「殿下と私からのお誕生日プレゼントです。どうぞ」
王室御用達アクセサリー店のロゴ入りリボンで飾られた小箱を見たアンネリーは、嬉しそうに頬を染めて受け取ってくれた。
「まぁ、ありがとうございます。開けてみても?」
「ええ」
エステルが頷くと、アンネリーはいそいそと包みを開く。そして……。
「素敵!」
小箱の中に入っていたブレスレットを一目見た瞬間、アンネリーが歓声をあげた。
金細工にアンネリーの瞳の色と同じ宝石をちりばめたそれは、エステルが一目見て彼女に似合うと思ったものだ。
王室御用達のアクセサリー店も、いつかあの店のアクセサリーが欲しいとアンネリーが以前に言っていたのを思い出し、アルベルトに相談して入手することができた。
この数日、悩みに悩んで選び抜いたものだったから、気に入ってもらえたようでホッとする。
「さっそく身につけさせて頂きますわ」
そう言って、アンネリーが空の箱を侍従に渡し、ブレスレットを身に着けた時だった。
「旦那様、失礼いたします」
後ろからそっと叔父に声をかけてきた人物がいた。
アルベルトのエスコートで馬車を降りたエステルは、久しぶりに戻った屋敷を懐かしく見上げた。
寒い季節の夜なので、庭はそれなりに灯りで飾られているものの、宴の会場は室内だ。
温かな外套を羽織っているものの、着ている夜会ドレスは胸元の大きく開いた流行のデザインのせいか、冷気にブルリとエステルは身を震わせた。
「……使うと良い」
それを見たらしく、アルベルトが自分のストールを外して、エステルの首周りにかけてくれる。
「あ、ありがとうございます……」
微かに香るアルベルトの香水の残り香に、ギュッと胸を締め付けられた。
とても紳士的で優しい彼だから、エスコートの相手が誰であれ同じことをしただろうと思うのに。
特別に優しくされているような気がしてしまい、うっかり浮かれそうになる。
(殿下が私を娶ったのは、呪いを解く為だけ!)
そんな自分に言い聞かせながら屋敷に入り、玄関の侍従に、名残惜しい気持ちで外套と一緒にストールを預ける。
案内された大広間は、冬花と絹のリボンや光を発する魔道具の球で華やかに飾り付けられ、既に多くの招待客が談笑していた。
エステルとアルベルトが会場に入ると、気づいた叔父夫婦とアンネリーが駆け寄って来て、招待客たちの視線もいっせいにこちらへ向く。
「よくぞおいでくださいました、王太子殿下!」
見るからに上機嫌の叔父が、ニコニコと愛想よく挨拶をする。
「娘の為に王太子殿下が来て下さるなど、光栄の極みですわ」
叔母も満面の笑みでお辞儀をし、真新しいドレスを身に着けたアンネリーが両親の間から進み出た。
「王太子殿下! 本日は私の為にわざわざお越しいただいて感激です!」
感極まった様子の三人を前に、アルベルトはどこか冷ややかな笑みを浮かべると、エステルの腰を抱いて自分に寄せた。
「招待を頂き感謝する。だが、しそもそもの招待を受けたのは我が妃エステルで、私はその付き添いできただけだ」
「っ!」
一瞬、アンネリーからキッと睨まれたような気がしたが、彼女はすぐに天使のような笑顔になって、エステルに向き直る。
「エステル……いいえ、王太子妃殿下。本日はどうぞ我が家にお越しくださいました」
他人行儀な態度に動揺しかけるも、チラリと横目でアルベルトをみれば、それで良いとばかりに小さく頷かれた。
エステルの心情がどうであれ、王太子妃という立場になったからには、あまり甘く見られてはいけない。
私的な空間にいる時に、親しい相手と気安く接するのまでは咎めないけれど、公の場では相応の態度をとって欲しいとアルベルトには言われている。
「こちらこそ、お招きいただき感謝します。アンネリー様」
だからエステルは、精一杯にすました顔でお辞儀をし、持参した小箱をアンネリーに差し出した。
「殿下と私からのお誕生日プレゼントです。どうぞ」
王室御用達アクセサリー店のロゴ入りリボンで飾られた小箱を見たアンネリーは、嬉しそうに頬を染めて受け取ってくれた。
「まぁ、ありがとうございます。開けてみても?」
「ええ」
エステルが頷くと、アンネリーはいそいそと包みを開く。そして……。
「素敵!」
小箱の中に入っていたブレスレットを一目見た瞬間、アンネリーが歓声をあげた。
金細工にアンネリーの瞳の色と同じ宝石をちりばめたそれは、エステルが一目見て彼女に似合うと思ったものだ。
王室御用達のアクセサリー店も、いつかあの店のアクセサリーが欲しいとアンネリーが以前に言っていたのを思い出し、アルベルトに相談して入手することができた。
この数日、悩みに悩んで選び抜いたものだったから、気に入ってもらえたようでホッとする。
「さっそく身につけさせて頂きますわ」
そう言って、アンネリーが空の箱を侍従に渡し、ブレスレットを身に着けた時だった。
「旦那様、失礼いたします」
後ろからそっと叔父に声をかけてきた人物がいた。
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