32 / 42
31 誕生日パーティー 1
しおりを挟む
アンネリーの誕生日パーティーの晩。
アルベルトのエスコートで馬車を降りたエステルは、久しぶりに戻った屋敷を懐かしく見上げた。
寒い季節の夜なので、庭はそれなりに灯りで飾られているものの、宴の会場は室内だ。
温かな外套を羽織っているものの、着ている夜会ドレスは胸元の大きく開いた流行のデザインのせいか、冷気にブルリとエステルは身を震わせた。
「……使うと良い」
それを見たらしく、アルベルトが自分のストールを外して、エステルの首周りにかけてくれる。
「あ、ありがとうございます……」
微かに香るアルベルトの香水の残り香に、ギュッと胸を締め付けられた。
とても紳士的で優しい彼だから、エスコートの相手が誰であれ同じことをしただろうと思うのに。
特別に優しくされているような気がしてしまい、うっかり浮かれそうになる。
(殿下が私を娶ったのは、呪いを解く為だけ!)
そんな自分に言い聞かせながら屋敷に入り、玄関の侍従に、名残惜しい気持ちで外套と一緒にストールを預ける。
案内された大広間は、冬花と絹のリボンや光を発する魔道具の球で華やかに飾り付けられ、既に多くの招待客が談笑していた。
エステルとアルベルトが会場に入ると、気づいた叔父夫婦とアンネリーが駆け寄って来て、招待客たちの視線もいっせいにこちらへ向く。
「よくぞおいでくださいました、王太子殿下!」
見るからに上機嫌の叔父が、ニコニコと愛想よく挨拶をする。
「娘の為に王太子殿下が来て下さるなど、光栄の極みですわ」
叔母も満面の笑みでお辞儀をし、真新しいドレスを身に着けたアンネリーが両親の間から進み出た。
「王太子殿下! 本日は私の為にわざわざお越しいただいて感激です!」
感極まった様子の三人を前に、アルベルトはどこか冷ややかな笑みを浮かべると、エステルの腰を抱いて自分に寄せた。
「招待を頂き感謝する。だが、しそもそもの招待を受けたのは我が妃エステルで、私はその付き添いできただけだ」
「っ!」
一瞬、アンネリーからキッと睨まれたような気がしたが、彼女はすぐに天使のような笑顔になって、エステルに向き直る。
「エステル……いいえ、王太子妃殿下。本日はどうぞ我が家にお越しくださいました」
他人行儀な態度に動揺しかけるも、チラリと横目でアルベルトをみれば、それで良いとばかりに小さく頷かれた。
エステルの心情がどうであれ、王太子妃という立場になったからには、あまり甘く見られてはいけない。
私的な空間にいる時に、親しい相手と気安く接するのまでは咎めないけれど、公の場では相応の態度をとって欲しいとアルベルトには言われている。
「こちらこそ、お招きいただき感謝します。アンネリー様」
だからエステルは、精一杯にすました顔でお辞儀をし、持参した小箱をアンネリーに差し出した。
「殿下と私からのお誕生日プレゼントです。どうぞ」
王室御用達アクセサリー店のロゴ入りリボンで飾られた小箱を見たアンネリーは、嬉しそうに頬を染めて受け取ってくれた。
「まぁ、ありがとうございます。開けてみても?」
「ええ」
エステルが頷くと、アンネリーはいそいそと包みを開く。そして……。
「素敵!」
小箱の中に入っていたブレスレットを一目見た瞬間、アンネリーが歓声をあげた。
金細工にアンネリーの瞳の色と同じ宝石をちりばめたそれは、エステルが一目見て彼女に似合うと思ったものだ。
王室御用達のアクセサリー店も、いつかあの店のアクセサリーが欲しいとアンネリーが以前に言っていたのを思い出し、アルベルトに相談して入手することができた。
この数日、悩みに悩んで選び抜いたものだったから、気に入ってもらえたようでホッとする。
「さっそく身につけさせて頂きますわ」
そう言って、アンネリーが空の箱を侍従に渡し、ブレスレットを身に着けた時だった。
「旦那様、失礼いたします」
後ろからそっと叔父に声をかけてきた人物がいた。
アルベルトのエスコートで馬車を降りたエステルは、久しぶりに戻った屋敷を懐かしく見上げた。
寒い季節の夜なので、庭はそれなりに灯りで飾られているものの、宴の会場は室内だ。
温かな外套を羽織っているものの、着ている夜会ドレスは胸元の大きく開いた流行のデザインのせいか、冷気にブルリとエステルは身を震わせた。
「……使うと良い」
それを見たらしく、アルベルトが自分のストールを外して、エステルの首周りにかけてくれる。
「あ、ありがとうございます……」
微かに香るアルベルトの香水の残り香に、ギュッと胸を締め付けられた。
とても紳士的で優しい彼だから、エスコートの相手が誰であれ同じことをしただろうと思うのに。
特別に優しくされているような気がしてしまい、うっかり浮かれそうになる。
(殿下が私を娶ったのは、呪いを解く為だけ!)
そんな自分に言い聞かせながら屋敷に入り、玄関の侍従に、名残惜しい気持ちで外套と一緒にストールを預ける。
案内された大広間は、冬花と絹のリボンや光を発する魔道具の球で華やかに飾り付けられ、既に多くの招待客が談笑していた。
エステルとアルベルトが会場に入ると、気づいた叔父夫婦とアンネリーが駆け寄って来て、招待客たちの視線もいっせいにこちらへ向く。
「よくぞおいでくださいました、王太子殿下!」
見るからに上機嫌の叔父が、ニコニコと愛想よく挨拶をする。
「娘の為に王太子殿下が来て下さるなど、光栄の極みですわ」
叔母も満面の笑みでお辞儀をし、真新しいドレスを身に着けたアンネリーが両親の間から進み出た。
「王太子殿下! 本日は私の為にわざわざお越しいただいて感激です!」
感極まった様子の三人を前に、アルベルトはどこか冷ややかな笑みを浮かべると、エステルの腰を抱いて自分に寄せた。
「招待を頂き感謝する。だが、しそもそもの招待を受けたのは我が妃エステルで、私はその付き添いできただけだ」
「っ!」
一瞬、アンネリーからキッと睨まれたような気がしたが、彼女はすぐに天使のような笑顔になって、エステルに向き直る。
「エステル……いいえ、王太子妃殿下。本日はどうぞ我が家にお越しくださいました」
他人行儀な態度に動揺しかけるも、チラリと横目でアルベルトをみれば、それで良いとばかりに小さく頷かれた。
エステルの心情がどうであれ、王太子妃という立場になったからには、あまり甘く見られてはいけない。
私的な空間にいる時に、親しい相手と気安く接するのまでは咎めないけれど、公の場では相応の態度をとって欲しいとアルベルトには言われている。
「こちらこそ、お招きいただき感謝します。アンネリー様」
だからエステルは、精一杯にすました顔でお辞儀をし、持参した小箱をアンネリーに差し出した。
「殿下と私からのお誕生日プレゼントです。どうぞ」
王室御用達アクセサリー店のロゴ入りリボンで飾られた小箱を見たアンネリーは、嬉しそうに頬を染めて受け取ってくれた。
「まぁ、ありがとうございます。開けてみても?」
「ええ」
エステルが頷くと、アンネリーはいそいそと包みを開く。そして……。
「素敵!」
小箱の中に入っていたブレスレットを一目見た瞬間、アンネリーが歓声をあげた。
金細工にアンネリーの瞳の色と同じ宝石をちりばめたそれは、エステルが一目見て彼女に似合うと思ったものだ。
王室御用達のアクセサリー店も、いつかあの店のアクセサリーが欲しいとアンネリーが以前に言っていたのを思い出し、アルベルトに相談して入手することができた。
この数日、悩みに悩んで選び抜いたものだったから、気に入ってもらえたようでホッとする。
「さっそく身につけさせて頂きますわ」
そう言って、アンネリーが空の箱を侍従に渡し、ブレスレットを身に着けた時だった。
「旦那様、失礼いたします」
後ろからそっと叔父に声をかけてきた人物がいた。
17
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる