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20 夜会1

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 婚礼衣装を着せつけられた衣裳部屋で、エステルは夜会用のドレスに着替えた。アルベルトの瞳の色と同じ、深い青のドレスだ。

 こちらも婚礼衣装と同じく、同色の様々なサイズやデザインのドレスが揃っていた。



「……あー、なんというか……よく似合っている」



 社交辞令なのだろう。

 衣裳部屋までエステルを迎えに来たアルベルトは、こちらを一目見るなりソワソワと目を彷徨わせると、気まずそうに咳払いをして言った。



「ありがとうございます。殿下こそ素敵です」



 表面だけだとしても優しい言葉をもらえたのが嬉しく、エステルは顔を綻ばせた。



「そ、そうか? それならよかった。民の前で無様な姿を見せるわけにはいかないからな」



 まだ視線を彷徨わせて、アルベルトがぶっきらぼうに答える。

 実際、白い婚礼衣装から黒い夜会服に着替えたアルベルトは、相変わらず目も眩みそうな美しさだ。

 そして彼のクラヴァットには、エステルの瞳の色によく似たエメラルドのピンが煌めいている。

 結婚式の後の宴で、こうして結婚相手の色を身に着けるのは昔からの風習だが、アルベルトがエステルのことを知ったのは今朝だ。

 きっと、どんな瞳の色の女性が結婚相手になってもいいように、様々な色の宝石のピンを用意していたのだろう。



(当然だけれど、本当に殿下は呪いが解ける結婚を心待ちにしていたのよね……)



 エステルとの結婚式で本当に呪いが解けていれば、望まない女を妻にしたとしても、少しは晴れやかな気分で夜会に望めたかもしれないのに。

 気の毒にと思うが、エステルには今の所どうすることもできない。

 気まずい沈黙のまま、アルベルトにエスコートをされて大広間に着く。

 夜会は既に始まっていたが、エステル達が大広間に入ると楽団の演奏が止み、人々の目が一斉にこちらへ向いた。



「ああ、二人ともよく似合っているね」



 玉座についていた国王が立ちあがり、エステルたちのところまで来る。



「お待たせいたしました」



 恭しく礼をしたアルベルトを、国王が優しい表情で見つめて頷いた。



「きっと解決策はある。何はともあれ、今夜は夫婦で宴を楽しむように」



「はい」



 アルベルトが答え、国王が玉座に戻るやいな、辺りで様子を窺っていた貴族たちが、一斉にエステルたちの所に押し寄せて来た。



「殿下。せっかく運命の相手が見つかったというのに、この度のことは誠に残念でございました」



「本当に。これでようやく呪いが解けるかと思いましたが、運命の相手というのもあてにならないかもしれませんな」



「それにしても、殿下は猫に変化なさってもあのように高貴で美しい姿なのかと感服いたしました。我が娘などもあの姿にすっかり夢中になってしまいましてな」



「我が家の娘とて、昔から猫が大好きなのですが、殿下の変身した姿ほど美しい子猫は見たことがないといっておりました。しかし、呪いが解けなくて残念でした」



 アルベルトの言った通りだった。

 貴族たちは口々にアルベルトの子猫姿を褒めたたえつつ、自分の娘がその姿に夢中だったと主張し、かつ運命の相手がいたのに呪いが解けなかったと言いながらエステルへ非難めいた視線を送ってくる。



「……皆、私の呪いにかかった姿が気に入ったようで何よりだ」



 ひとしきり、好き勝手に喋る貴族たちの言葉を聞いてから、アルベルトが冷ややかな笑みを浮かべた。



「もしや私の呪いが解けなかったのは、皆があの姿を望んでいたせいかもしれないな?」



 皮肉たっぷりの声に、取り囲んでいた貴族たちがサッと青褪める。

 何しろ、今まで散々アルベルトの子猫姿を褒めちぎっていたのだ。」

 そして彼は不意にエステルの腰を抱き寄せる。



「しかし今日、呪いが解けなかったのは不本意でも、私は良い妃を得たと思っている。彼女が運命で良かった」



「っ⁉」



 思わずエステルは驚愕の声をあげそうになったのを堪えた。

 良い妃だなんて。運命の相手がエステルで良かった、だなんて。

 信じられない言葉に一瞬ギョッとしたけれど、アルベルトはきっと、貴族たちの好戦的な態度からエステルを庇ってくれようとしたのだろう。



(殿下はやっぱり、お優しいところもちゃんとあるのね)



 内心で感激していると、不意に視界に入った人物がいた。

 ドキリと心臓が不穏に跳ねる。



「エステル……いや、王太子妃殿下。おめでとうございます」



 夜会用に着飾った叔父夫妻とアンネリーが、満面の笑みでこちらに近寄ってきた。
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