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19 お手並み拝見
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その後、エステルはしばらくアルベルトから質問攻めにあった。
質問内容は、叔父との会話や、提示された証書のことなどだ。
コスティが調べてきた内容と合っているかの確認だったようだが、驚くぐらいに詳しく調べられていた。
例えば、借入金の証言をした元家令のヨハンは叔父が家を継ぐとすぐに引退して田舎に引っ込み、出納係のダレルは現在叔父の経理を引き継いでいるというようなことまで。
「――これでだいたいのことは解った。後はひとまず、こちらに任せてくれ」
アルベルトが言い、コスティがエステルとのやりとりを書き留めていたノートをパタンと閉じた。
「そしてこの後だが……すまない。気が進まないだろうが、私と婚礼の夜会会場に行ってもらう」
とても言い辛そうに切り出され、エステルは目を瞬かせた。
式堂で国王が宣言した通り、今夜は王宮で王太子夫妻の婚礼を祝う夜会が開かれる。
アルベルトが愛してもいないエステルを、妃として夜会に伴うのに気が進まないと嘆くのなら解るが、なぜ謝られるのだろうか?
「殿下が謝罪なさる必要など……むしろ私などを同伴なさるのがご不満なのかと思っていました」
思わず正直に言うと、アルベルトが驚いたように目を見開いた
「いや、妃になったそなたを夜会に伴うのに、不満などはない」
「では問題はありませんね」
ホッとして、エステルは微笑んだ。
しかし、アルベルトは複雑そうな顔で首を横に振る。
「先ほどの結婚式で、呪いが解けなかったことが皆の前で露見してしまっただろう?」
「ええ。ですが皆様、国王陛下と殿下のご説明に納得していたようで安心しました」
「甘い!」
アルベルトが憤然と声をあげ、苛立ちを示すように大きく手を振った。
「う~ん。失礼ながら、確かにエステル様のお考えは甘すぎますね」
コスティもウンウンと頷いている。
「えっ⁉ あ、あの……」
戸惑うエステルを眺め、アルベルトが深い溜息を吐いた。
「確かにあの場は静まったが、あれで多くの貴族がこう思っただろう。『結局呪いが解けなかったのなら、運命の相手との結婚は破棄してもいいのではないだろうか?』とな。私がどう言おうと、夜会では自分の娘を売り込み、遠回しにそなたを非難する輩が大勢現れるだろう」
はぁ、ともう一度アルベルトは深く息を吐く。
「そなたも王命で定められて結婚式を行っただけなのに、私の呪いを解けなかったと……本当に理不尽なことだな」
そう言ったアルベルトはとても悲しそうで、エステルは胸が痛くなった。
彼は女性嫌いだと言われているように、エステルに初対面の時からツンケンしていたし、とても厳しくて怖い雰囲気さえある。
でも、こうしてエステルの身にふりかかる理不尽を悲しんでくれる、優しい心も持っているのだ。
だからエステルは腹に力を篭め、不自然にならないよう努めて明るい声を出した。
「大丈夫です! 世の中は理不尽な事で溢れていると、先ほど殿下も仰っていたではありませんか」
本当に世の中は理不尽だ。
エステルの両親は本当に良い人で、友人も多く、使用人や領民にも大勢から愛されていた。
そんな両親が唐突に残忍な殺され方をしたと聞いた時は信じられなかったし、良い人には神様のご加護があるはすなのではと混乱した。
そんな数多くの理不尽に慣れて、何も感じないなんてできないけれど……。
「そ、そうだが……」
「私はこれでも、そんなに弱くはないつもりです。王太子殿下から見れば全然頼りないかもしれませんが、多少の理不尽くらい上手くやり過ごすように頑張ります!」
勢い込んで言ったエステルを、アルベルトがポカンとした表情で見つめる。
そしてその表情がゆっくりと変わっていった。
エステルが初めて見る表情に。
「そうか。では、お手並みを拝見させてもらおう」
とてつもなく魅力的な表情で、アルベルトが微笑んだ。
質問内容は、叔父との会話や、提示された証書のことなどだ。
コスティが調べてきた内容と合っているかの確認だったようだが、驚くぐらいに詳しく調べられていた。
例えば、借入金の証言をした元家令のヨハンは叔父が家を継ぐとすぐに引退して田舎に引っ込み、出納係のダレルは現在叔父の経理を引き継いでいるというようなことまで。
「――これでだいたいのことは解った。後はひとまず、こちらに任せてくれ」
アルベルトが言い、コスティがエステルとのやりとりを書き留めていたノートをパタンと閉じた。
「そしてこの後だが……すまない。気が進まないだろうが、私と婚礼の夜会会場に行ってもらう」
とても言い辛そうに切り出され、エステルは目を瞬かせた。
式堂で国王が宣言した通り、今夜は王宮で王太子夫妻の婚礼を祝う夜会が開かれる。
アルベルトが愛してもいないエステルを、妃として夜会に伴うのに気が進まないと嘆くのなら解るが、なぜ謝られるのだろうか?
「殿下が謝罪なさる必要など……むしろ私などを同伴なさるのがご不満なのかと思っていました」
思わず正直に言うと、アルベルトが驚いたように目を見開いた
「いや、妃になったそなたを夜会に伴うのに、不満などはない」
「では問題はありませんね」
ホッとして、エステルは微笑んだ。
しかし、アルベルトは複雑そうな顔で首を横に振る。
「先ほどの結婚式で、呪いが解けなかったことが皆の前で露見してしまっただろう?」
「ええ。ですが皆様、国王陛下と殿下のご説明に納得していたようで安心しました」
「甘い!」
アルベルトが憤然と声をあげ、苛立ちを示すように大きく手を振った。
「う~ん。失礼ながら、確かにエステル様のお考えは甘すぎますね」
コスティもウンウンと頷いている。
「えっ⁉ あ、あの……」
戸惑うエステルを眺め、アルベルトが深い溜息を吐いた。
「確かにあの場は静まったが、あれで多くの貴族がこう思っただろう。『結局呪いが解けなかったのなら、運命の相手との結婚は破棄してもいいのではないだろうか?』とな。私がどう言おうと、夜会では自分の娘を売り込み、遠回しにそなたを非難する輩が大勢現れるだろう」
はぁ、ともう一度アルベルトは深く息を吐く。
「そなたも王命で定められて結婚式を行っただけなのに、私の呪いを解けなかったと……本当に理不尽なことだな」
そう言ったアルベルトはとても悲しそうで、エステルは胸が痛くなった。
彼は女性嫌いだと言われているように、エステルに初対面の時からツンケンしていたし、とても厳しくて怖い雰囲気さえある。
でも、こうしてエステルの身にふりかかる理不尽を悲しんでくれる、優しい心も持っているのだ。
だからエステルは腹に力を篭め、不自然にならないよう努めて明るい声を出した。
「大丈夫です! 世の中は理不尽な事で溢れていると、先ほど殿下も仰っていたではありませんか」
本当に世の中は理不尽だ。
エステルの両親は本当に良い人で、友人も多く、使用人や領民にも大勢から愛されていた。
そんな両親が唐突に残忍な殺され方をしたと聞いた時は信じられなかったし、良い人には神様のご加護があるはすなのではと混乱した。
そんな数多くの理不尽に慣れて、何も感じないなんてできないけれど……。
「そ、そうだが……」
「私はこれでも、そんなに弱くはないつもりです。王太子殿下から見れば全然頼りないかもしれませんが、多少の理不尽くらい上手くやり過ごすように頑張ります!」
勢い込んで言ったエステルを、アルベルトがポカンとした表情で見つめる。
そしてその表情がゆっくりと変わっていった。
エステルが初めて見る表情に。
「そうか。では、お手並みを拝見させてもらおう」
とてつもなく魅力的な表情で、アルベルトが微笑んだ。
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