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5 女性不信の王子2
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勝手な呪いで押し付けられた運命の相手なんて、たとえ誰であろうと、アルベルトは愛せると思えない。
かといって呪いを解かないまま、王太子妃にしてくれるなら愛玩動物として可愛がってあげますよという女も好きになれない。
それなら王命で強制的に形だけの婚姻をし、呪いを解いてしまえばいい。
形だけの婚姻だと、はっきりと最初から念を押し、相手と一線を引くのだ。
もちろん、虐げるつもりなどはないが、慣れ合ったり愛を育んだりするつもりはない。
あくまでも、こちらは呪いを解き、相手は王太子妃の地位を手に入れるという利益つきで、絶対である王命に従っただけなのだという形にしたかった。
王命とあらば相手が誰だろうと断れないし、それを受けたからといって、他者に多少はひがまれても王太子妃になるのを妨害はされないだろう。
そんなわけで、この一年近くをかけてじっくり色々と考え準備をし、今朝ついにアルベルトは緊張しながら赤い糸を辿ったのだが……。
(――な、なんなんだ、あの女は! あの女も魔女なのか⁉)
今朝に会ったエステルという少女を思い出し、アルベルトは動揺を覆い隠すように頭を抱える。
糸を辿るのに夢中になり、いつのまにか高い木の上にいるのに気づいた時は焦った。
生まれながらの身軽な猫ならばともかく、こちらはまだ猫一年生。猫初心者だ。
おまけに少し離れてついてくるはずのコスティの姿も見えない。
他人の屋敷で迂闊に声をだすわけにもいかず、仕方なく猫の鳴き声を発していると、みるからにみすぼらしい感じのメイドに見つかった。
するとアルベルトが降りられないと察したのか、メイドは急にスカートをたくしあげ、スルスルと登ってきたのだ。
その大胆な行動にも驚いたが、さらに驚いたのは、長くずるずると伸びていた赤い糸が急に縮まり、彼女の手首に巻き付いた赤い糸と短く繋がったこと。
この女だったのかと、いざ相手を目の前にすると動揺し、同時にムクムクとやりばのない怒りが湧いてきた。
アルベルトが呪いのとばっちり被害者だというのなら、彼女とてまた同じように呪いでアルベルトの運命の相手にされたわけだ。
どちらかといえば彼女の方が王族でも何でもなく、ランダムで選ばれた、よりとばっちりの被害者だろう。
それは解っていたけれど、同じ呪いの被害者でありながら彼女の方は今まで呪いの対象者だと周囲に知られることもなく、身体に変化もない。
どうしようもないイライラがこみ上げて、つい近づくなと思い切り威嚇していた。
だが、悲しいかな今のアルベルトは無力な子猫である。
彼女は臆するでもなく、ただの子猫と認識したアルベルトを根気強く宥めてくる。
その落ち着いた声が妙に心地よく、気づけばアルベルトは威嚇するのを止め、フラフラと彼女に近づいていた。
まだ子猫の身体で長距離を移動するのには慣れていなかったから、疲れもあったのだろう。
彼女の背を撫でる手が妙に心地よく、いけないと思いながらも抗えなかった。
半分……いや、すっかり思考が蕩け、コスティの声を聴くまでタラタラと彼女――エステルの膝の上でうっとりと過ごしてしまったのである。
「急いで調べましたが、件の女性はエステル・リスラッキ様。数年前に亡くなった前リスラッキ伯爵の一人娘だそうです」
「本当に伯爵家の娘だったのか……」
アルベルトは首を傾げた。
エステルを見た時、服装でこそメイドだと判明したものの、どこか品のある佇まいに違和感をもった。
そして後から現れた、もっと本物らしいメイドの少女に『エステルお嬢様』と呼ばれていたのがどうも気になっていたのだ。
「詳しいことはまた後々調べるとして、とにかく父上に報告だ。そしてリスラッキ家に迎えの準備を」
なぜか、エステルの手のぬくもりや子猫のアルベルトを呼び寄せた時の柔らかな笑みを思い出すと、胸が妙にザワザワする。
今まで覚えのない感覚にアルベルトは顔を顰めつつ、父王の許へと向かった。
かといって呪いを解かないまま、王太子妃にしてくれるなら愛玩動物として可愛がってあげますよという女も好きになれない。
それなら王命で強制的に形だけの婚姻をし、呪いを解いてしまえばいい。
形だけの婚姻だと、はっきりと最初から念を押し、相手と一線を引くのだ。
もちろん、虐げるつもりなどはないが、慣れ合ったり愛を育んだりするつもりはない。
あくまでも、こちらは呪いを解き、相手は王太子妃の地位を手に入れるという利益つきで、絶対である王命に従っただけなのだという形にしたかった。
王命とあらば相手が誰だろうと断れないし、それを受けたからといって、他者に多少はひがまれても王太子妃になるのを妨害はされないだろう。
そんなわけで、この一年近くをかけてじっくり色々と考え準備をし、今朝ついにアルベルトは緊張しながら赤い糸を辿ったのだが……。
(――な、なんなんだ、あの女は! あの女も魔女なのか⁉)
今朝に会ったエステルという少女を思い出し、アルベルトは動揺を覆い隠すように頭を抱える。
糸を辿るのに夢中になり、いつのまにか高い木の上にいるのに気づいた時は焦った。
生まれながらの身軽な猫ならばともかく、こちらはまだ猫一年生。猫初心者だ。
おまけに少し離れてついてくるはずのコスティの姿も見えない。
他人の屋敷で迂闊に声をだすわけにもいかず、仕方なく猫の鳴き声を発していると、みるからにみすぼらしい感じのメイドに見つかった。
するとアルベルトが降りられないと察したのか、メイドは急にスカートをたくしあげ、スルスルと登ってきたのだ。
その大胆な行動にも驚いたが、さらに驚いたのは、長くずるずると伸びていた赤い糸が急に縮まり、彼女の手首に巻き付いた赤い糸と短く繋がったこと。
この女だったのかと、いざ相手を目の前にすると動揺し、同時にムクムクとやりばのない怒りが湧いてきた。
アルベルトが呪いのとばっちり被害者だというのなら、彼女とてまた同じように呪いでアルベルトの運命の相手にされたわけだ。
どちらかといえば彼女の方が王族でも何でもなく、ランダムで選ばれた、よりとばっちりの被害者だろう。
それは解っていたけれど、同じ呪いの被害者でありながら彼女の方は今まで呪いの対象者だと周囲に知られることもなく、身体に変化もない。
どうしようもないイライラがこみ上げて、つい近づくなと思い切り威嚇していた。
だが、悲しいかな今のアルベルトは無力な子猫である。
彼女は臆するでもなく、ただの子猫と認識したアルベルトを根気強く宥めてくる。
その落ち着いた声が妙に心地よく、気づけばアルベルトは威嚇するのを止め、フラフラと彼女に近づいていた。
まだ子猫の身体で長距離を移動するのには慣れていなかったから、疲れもあったのだろう。
彼女の背を撫でる手が妙に心地よく、いけないと思いながらも抗えなかった。
半分……いや、すっかり思考が蕩け、コスティの声を聴くまでタラタラと彼女――エステルの膝の上でうっとりと過ごしてしまったのである。
「急いで調べましたが、件の女性はエステル・リスラッキ様。数年前に亡くなった前リスラッキ伯爵の一人娘だそうです」
「本当に伯爵家の娘だったのか……」
アルベルトは首を傾げた。
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そして後から現れた、もっと本物らしいメイドの少女に『エステルお嬢様』と呼ばれていたのがどうも気になっていたのだ。
「詳しいことはまた後々調べるとして、とにかく父上に報告だ。そしてリスラッキ家に迎えの準備を」
なぜか、エステルの手のぬくもりや子猫のアルベルトを呼び寄せた時の柔らかな笑みを思い出すと、胸が妙にザワザワする。
今まで覚えのない感覚にアルベルトは顔を顰めつつ、父王の許へと向かった。
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