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4 女性不信の王子1
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王宮の自室に戻ると同時に、アルベルトの身体は人間へと戻った。
「まったく……」
舌打ちをしたくなるのを堪える。
せめてもの情けだろうか、それとも元からそういう魔法なのか。猫から人間に戻った直後でも、素っ裸にはなっていなかった。
朝、猫になる直前に着替えた宮廷服を、何も変化などなかったかのように、普通に着ている。
一年近く前、初めて自身の身体が急に猫へ変化した時には、事前に呪いのことを聞いていても仰天した。
どれくらいで人間に戻れるのかなど、不安もたくさんあった。
けれど、今では身体が変化する兆候も、ムズムズした特有の感覚で察せられるし、随分と慣れて来た。
「はぁ……ついに見つかってしまたか……」
溜息をつき、アルベルトはぐったりと長椅子に倒れ込んだ。
――十二歳の時に、父から正式に呪いの話を聞かされ、巻き込んですまないと謝罪された時は、複雑な気持ちになった。
どう考えても悪いのはそのイカレタ魔女で、父はただ立派な王族として振る舞っていただけだ。
父を恨むつもりはなかったが、面倒なことに巻き込まれたのは確かだ。
そして同時に、顔を合わせる貴族がやたらと、自分の娘がいかに小動物を可愛がっているかを話したがるのか解ってしまった。
アルベルトが呪いでどんな姿に変わるのかは成人まで解らないが『無力な獣』と条件づけられている。
それを考えれば、子犬や子猫、もしくは子ネズミなど、ある程度の候補は絞られる。
アルベルトが成長するにつれ、社交場で会う令嬢たちもこぞって動物好きアピールをし、すり寄って来る始末。
うんざりした。
皆して、アルベルトの不幸に同情すると口先では言いながら、その不幸に付け込んであわよくば利益を貪ろうとしている。
件の魔女が放った呪いは『アルベルトが運命の相手と結婚しなければ、不定期に小動物になりつづける』というものだ。
何も、その運命の相手と結婚しなければ死ぬとかではない。
それならばと、皆は考えたのだろう。
自身が運命の相手ならよし。
だが、たとえ運命の相手でなくとも、小動物好きを前面に押し出し、アルベルトが呪いにかかったままでも愛せますとアピールすればいい……と。
そんなことをコソコソ話し合っている貴族の会話を偶然に聞いてしまってから、もう決定的に全ての女性が気持ち悪く思えてきた。
特に、可愛い小動物にわざとらしく優しくしてみせる女など、絶対に信用ならない。
そして、いよいよ自分が子猫に変わると判明しても、そのことはひた隠しにしておいた。
子猫に変わると世間に知られたら、自称猫好きの令嬢や娘を持つ貴族がいっせいに押し寄せてくるだろう。
「やれやれ。わざわざ自分で運命の相手を探しにいったくせに、一体何を落ち込んでいるのですか?」
コスティが呆れたように肩を竦めた。
乳兄弟で側近の彼は、王太子という不自由な立場のアルベルトと気楽に話せる数少ない相手だ。
「ぐっ……その通りだが……思ったよりもその……な、馴れ馴れしい女だったというか……」
痛いところを突かれ、アルベルトはモゴモゴと言い訳をする。
魔女の言っていた『赤い糸』は、アルベルトが猫に変わった時だけ、右の前足に出現する。
もっとも、糸が見えるのはアルベルトだけのようだ。
コスティや両親にも話したが、皆に見えないと言われてホッとした。
他に見えないのなら、猫になった瞬間そこら辺の道に急に赤い糸が現れて、辺りが大騒ぎになる心配もない。
そしてアルベルトは決意をし、自分でも卑怯だと思いながら父王に懇願した。
――自分が運命の相手と強制的に結婚するよう王命を出してくれ、と。
「まったく……」
舌打ちをしたくなるのを堪える。
せめてもの情けだろうか、それとも元からそういう魔法なのか。猫から人間に戻った直後でも、素っ裸にはなっていなかった。
朝、猫になる直前に着替えた宮廷服を、何も変化などなかったかのように、普通に着ている。
一年近く前、初めて自身の身体が急に猫へ変化した時には、事前に呪いのことを聞いていても仰天した。
どれくらいで人間に戻れるのかなど、不安もたくさんあった。
けれど、今では身体が変化する兆候も、ムズムズした特有の感覚で察せられるし、随分と慣れて来た。
「はぁ……ついに見つかってしまたか……」
溜息をつき、アルベルトはぐったりと長椅子に倒れ込んだ。
――十二歳の時に、父から正式に呪いの話を聞かされ、巻き込んですまないと謝罪された時は、複雑な気持ちになった。
どう考えても悪いのはそのイカレタ魔女で、父はただ立派な王族として振る舞っていただけだ。
父を恨むつもりはなかったが、面倒なことに巻き込まれたのは確かだ。
そして同時に、顔を合わせる貴族がやたらと、自分の娘がいかに小動物を可愛がっているかを話したがるのか解ってしまった。
アルベルトが呪いでどんな姿に変わるのかは成人まで解らないが『無力な獣』と条件づけられている。
それを考えれば、子犬や子猫、もしくは子ネズミなど、ある程度の候補は絞られる。
アルベルトが成長するにつれ、社交場で会う令嬢たちもこぞって動物好きアピールをし、すり寄って来る始末。
うんざりした。
皆して、アルベルトの不幸に同情すると口先では言いながら、その不幸に付け込んであわよくば利益を貪ろうとしている。
件の魔女が放った呪いは『アルベルトが運命の相手と結婚しなければ、不定期に小動物になりつづける』というものだ。
何も、その運命の相手と結婚しなければ死ぬとかではない。
それならばと、皆は考えたのだろう。
自身が運命の相手ならよし。
だが、たとえ運命の相手でなくとも、小動物好きを前面に押し出し、アルベルトが呪いにかかったままでも愛せますとアピールすればいい……と。
そんなことをコソコソ話し合っている貴族の会話を偶然に聞いてしまってから、もう決定的に全ての女性が気持ち悪く思えてきた。
特に、可愛い小動物にわざとらしく優しくしてみせる女など、絶対に信用ならない。
そして、いよいよ自分が子猫に変わると判明しても、そのことはひた隠しにしておいた。
子猫に変わると世間に知られたら、自称猫好きの令嬢や娘を持つ貴族がいっせいに押し寄せてくるだろう。
「やれやれ。わざわざ自分で運命の相手を探しにいったくせに、一体何を落ち込んでいるのですか?」
コスティが呆れたように肩を竦めた。
乳兄弟で側近の彼は、王太子という不自由な立場のアルベルトと気楽に話せる数少ない相手だ。
「ぐっ……その通りだが……思ったよりもその……な、馴れ馴れしい女だったというか……」
痛いところを突かれ、アルベルトはモゴモゴと言い訳をする。
魔女の言っていた『赤い糸』は、アルベルトが猫に変わった時だけ、右の前足に出現する。
もっとも、糸が見えるのはアルベルトだけのようだ。
コスティや両親にも話したが、皆に見えないと言われてホッとした。
他に見えないのなら、猫になった瞬間そこら辺の道に急に赤い糸が現れて、辺りが大騒ぎになる心配もない。
そしてアルベルトは決意をし、自分でも卑怯だと思いながら父王に懇願した。
――自分が運命の相手と強制的に結婚するよう王命を出してくれ、と。
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