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番外編

ジークの一番災難な日 (*本編一年後と、少しだけ九年後)

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 他人との慣れあいなんざ、心底ウザい。俺は昔からそう思っていたし、今も同じだ。
 生きるにはメシを喰うし寝る場所も必要だから、退魔士部隊の連中や、情報屋も兼ねてる不良神父くらいとの付き合いは我慢する。
 だが、隣に越して来たガキに懐かれ、いつのまにかそれに慣れちまってるなんて、信じられねぇ。
 おまけに一年前の騒動から、とんだ連中が加わった。
 エメリナとギルベルト、それからウリセスだ。

 あれから何度か、アイツ等と偶然に顔を合わせた。それもなぜか、マルセラと一緒の時ばかり。おかげでマルセラはすっかり、アイツ等に懐いちまった。
 もちろん人狼云々の話はできないから、連中と出会った経緯は適当に誤魔化した……が、そもそも、俺は、いつからこんな日常が平気になった!? おかしいだろ!!

 鏡を見りゃ、あいかわらず目つきの悪い自分が写ってる。
 別人に変わったってわけでもないのによ……。

 ***

「お邪魔しまーす!」

 猫形リュックを背負ったマルセラが、キョロキョロと俺の部屋を見渡す。

「しょっちゅう来てるんだから、今さら珍しくもないだろ」

 そう言うと、マルセラが大きなくりくりした目で俺を見上げる。

「うん、でもお泊りは初めてだもん」

 メチャクチャ嬉しそうに言われ、なんだか息が止まりそうになった。

「そうか……」

 慌てて熱くなった顔をそらした。
 隣人のガキを預かって泊まらせるなんて……昔の俺がこれを見たら、なんかの間違いだって怒鳴るだろう。

 けどな、仕方ない事情がある。
 マルセラの祖母さんが熱を出して、二日間の休養入院になっちまったからだ。
 あの祖母さんは、あんまり身体が丈夫じゃないらしい。
 まぁ、意外と根性ある人だから、そんなに嫌いじゃねぇ。たまに、俺の分までメシ作ったと呼ばれるしな。しかも美味い。
 それに去年、俺がギルベルトに負けて入院してる時に、マルセラは殆ど毎日、なんのかんのと来てくれた。
 それが鬱陶しいと思……わなかったんだ。チクショウ! ウサギ型に切ったリンゴなんか初めて見た。都市伝説だと思ってたぜ。くそっ! 実は一度喰ってみたいものリスト一位だったよ! すげぇ美味かったよ! 
 ……そういうわけで、借りを返さなくちゃならねぇ。納得したか? 昔の俺!


 俺が内心で自分を説得しているうちに、マルセラはリュックから紙ファイルを取りだして、熱心にめくっていた。

「……です……」

 何やらブツブツと小声で呟いているのは、劇のセリフだろう。
 明日はマルセラの通う魔法学校の学園祭へ、一緒に行くことになっている。
 去年も一昨年も誘われたんだが、俺は昔から学校って場所が苦手で断っていた。
 しかし、今年は小等部が演劇の出し物をやり、マルセラは主役ヒロインになったというので、俺も見に行くと約束させられたわけだ。

 台本をめくるマルセラは、真剣そのものだ。
 聞いたところじゃ、どうやらマルセラの生まれ持った魔力は高く、学校でも優等生らしい。
 でも、こういう姿を見ると、生まれつきの能力だけじゃなく、やっぱり真面目なんだと思う。
 俺は本なんか未だにロクすっぽ読まないし、この……ツンデレラ? とかいう話も、聞いた事がねぇ。だから内容は明日、マルセラの舞台を見てのお楽しみだ。
 それよりも……と、手に持った『保護者の皆さまへ』という、プリントに視線を走らせ、俺は内心でこっそり溜め息をつく。
 演劇なんざまるで興味はないが、どうせ観に行くのならと、デジカメとビデオカメラを昨日購入したのだ。
 だがプリントを読めば 『静かにご鑑賞頂くため、撮影は当校の専属カメラマンが行い、当日はご家族ならび使用人の個人的撮影を一切禁止させて頂きます。画像データは後日に販売いたしますので、ご理解、ご協力をお願いいたします』 だと。

 魔法学校の人間生徒ってのは、貴族や金持ちの率が多い。
 エルフやピクシーなんかの異種族はともかく、人間の魔力は血統遺伝が殆どだし、魔法使いには名家が多いから、当然といえば当然か。
 マルセラの父親も、本当はロクサリス国の貴族息子だったのに、魔力なしの女と結婚して勘当されたらしいし……ま、そんなのはどうだっていい。
 重要なのは撮影禁止の件だ。
 せっかく購入したカメラとビデオが無駄になったのはシャクに触るが、そういう規則なら仕方ねぇ。
 昔は規則なんぞ気にも留めなかったが、退魔士になってからは、よほどの場合でない限り守る事にしている。
 何よりも今回の場合、マルセラの保護者代理を勤めるわけだ。好き放題にやれば、俺に非難が来るだけじゃなく、マルセラに気まずい思いをさせちまう。
 画像データは、ホームページを後でチェックして買うしかないか。
……あくまでも、マルセラの祖母さんに見せるためだからな。二枚買うのは、壊れた時に備えて念のためだ。

 手持ち無沙汰になった俺は、プリントを放り出し、チェーンソーの手入れでもすることにした。

 夕飯を済ませ、一緒に風呂に入ろうというマルセラの申請は全力で却下した。ガキっつっても、お前はもう九歳だろうが!
 ベッドはマルセラに貸してやり、俺はリビングのソファで寝る事にする。部屋の灯りを小さくし、ベッドに潜り込んでいる柔らかなくせっ毛を撫でた。

「明日……残念だったな」

 思わず、そんな言葉が口をついてでた。 
 マルセラはがっかりした様子も見せないが、やっぱり祖母さんに一番見て欲しかったんじゃないかと思う。
 幾ら懐かれたって、俺はマルセラの家族じゃねぇ。ただの、隣人だ。

「おばあちゃんが来られないのは残念だけど……早く元気になってくれる方が嬉しいよ」

 目を閉じたまま、マルセラがとても聞き分けのいい返事をした。
 あーあ、無理してやがる。
 普段はいっぱしにワガママも言うくせに、こういう時は……まったく……。

「……そうか」

 でも、俺はガキの慰めかたなんか知らないから、短くそれだけ答えた。

「うん。ジークお兄ちゃんが来てくれるし」

 大粒のくりくりした可愛い瞳が開き、無邪気に俺を見上げる。途端に頬が熱くなり、なんとも落ち着かない気分になった。

「なんかあったら呼べ」

 慌ててリビングに続く扉へ逃げこみ、ソファーに寝転んで制服の上着を引っかぶる。
 ソファーは俺が寝床にするのは、かなり窮屈だった。少しでも動くと落っこちそうになる。

(マルセラくらい小さけりゃ、ここでも広々かもな……)

 身体を縮め、なんとか眠ろうとしながら、ふとそんな思いが頭に浮かんだ。
 その時、寝室と繋がる扉が開く音がする。

「……マルセラ?」

 寝付けないのかと尋ねようとしたのに、扉の隙間から奇妙で甘ったるい香りが漂ってきた途端、猛烈な睡魔が俺を襲った。目を開けられないほどの眠気に、瞼を無理やり塞がれる……。

 ―― 朝か。
 薄いカーテン越しに朝日が室内を照らし、俺は目を覚ました。
 起き上がり、妙な違和感に気づく。見慣れた寝室なのに、なんだかいつもと違うように見える。微妙に天井が高い気がする。
 しかも、確か昨日はここで寝てなかった気が……
 ふと、自分の身体を見下ろして、声にならない悲鳴がほとばしった。

「―――――――――っ!!??」

 自分の身体の代わりに、赤いリンゴ模様のパジャマを着た少女の身体が目に入る。
 ペタペタと頬を両手で探れば、皮膚はツルツルと滑らかで、ふっくらした心地いい感触。頭を触れば、短く切った硬い髪ではなく、ふんわりした柔らかな巻き毛。
 ま、まさか……!!
 部屋に備え付けのクローゼットの前に立ち、ぜーはーと大きく深呼吸した。
 この扉内には鏡が張ってある……が、見たくない。すっげぇ嫌な予感がする。でも、見ないわけにはいかん。
 恐る恐る扉をあけると……思ったとおり、鏡には九歳の女の子が映っていた。……若干、目つきが悪くなっていたが、まぎれもなくマルセラだ。

 な ん で 俺 が、マルセラになってる!?

 思わずフラフラと、もう一度布団に潜り込んだ。
 ああ、そうか、俺はまだ寝てるんだ。これは夢だ。早く朝になれ……。

「―――じゃ、ねぇよっっ!!」

 危うく現実逃避するとこだったぞ! しっかり起きてる! 夢じゃねぇ! 
 急いで寝室を飛び出すと、ソファーから落っこちて床でグーグー寝ている自分の姿が眼に飛び込んだ。

「お、おい! おきろ!!!」

 呑気に寝ている自分に駆け寄り、タンクトップの胸ぐらを掴んで揺さぶる。
 どうやら腕力も一緒に移動したらしく、マルセラの小さな手でも、俺の身体を軽々と引き起こせた。

「ふぁ……ん~……」

 無理やりたたき起こされた俺の身体は、呑気に大あくびをする。そして、数度目をしばたかせてから、悲鳴をあげた。

「え!? 何でわたしがいるの!?」

「やっぱりマルセラか! 何でか知らんが、俺とお前の身体が入れ替わったんだよ!」

 俺の顔がキョトンと目を丸くする。そしてオロオロと身体を眺め回した。

「ど、どうしよう……」

 頬に両手をあてて、両眼を涙でウルウルさせた自分の姿に、マジで吐きそうになった。
……すまん。お前ならヒキガエルになっても守るが、これだけは許容範囲外だ。

「俺の声と顔で、そのポーズはやめろぉぉ!!」

 必死で腕を引き剥がすと、マルセラ(俺の身体)は泣き声をあげた。

「う……ご、ごめんなさい。わたしのせいだ……こんなことになるなんて……」

「っ、何か心当たりがあるのか!?」

 半ベソでしゃくりあげる自分……という、最も見たくないモノを、視界になるべく入れないようにして聞き返す。
 マルセラは頷き、寝室に置いてあった自分の鞄から、小さな冊子と紙箱を取り出した。

「これ……」

 安っぽい冊子の表紙には『誰でも使える☆東端魔法イースタン・マジック』と、派手な色彩で印刷されている。
 雑誌の裏なんかによく広告を載せている、子ども向けのお手軽な魔法グッズを販売している通販カタログだった。
 紙箱には紫色の香袋が入っており、表面には安っぽい黄色の糸で、俺には読めない東の漢字が刺繍されている。きつく縛ってある袋の紐を解くと、昨日の夜に漂ってきた甘い香りが立ち昇った。
 急いで袋を閉め、裏の説明書に目を走らせると、

『自分の羨む能力を持つ相手に香を嗅がせて、そのまま欲しい能力を念じて眠れば、一日だけ相手と同じ能力が自分にも宿る』……といった内容が書かれていた。

 東端魔法イースタン・マジックは、難しい東の漢字が必須で、材料も特殊なものが多く、大陸西側の魔法使いは殆ど使えない。
 そもそも、似たような効果のある魔法が西の魔法にもあるから、わざわざ両方を習得する必要もないのだ。
 だが、本職の魔法使いとは無縁なヤツやガキからすれば、かえって珍しいと魅力的に見えるらしい。
 漢字プリントのシャツとか、流行ってるしな。
 とにかく、子どもの玩具程度に薄められた東端魔法のグッズは、かなり売れる。

 だが、正規の玩具メーカーが出してるものと違って、この手の通販は半分以上がインチキで、大した効果もない。
 魔法も使えない俺が詳しいのは、荒んだガキ時代に、自分の食い扶持を稼ぐべく、(裏の)社会勉強ばっかりしていたせいだ。
 教科書を読む代わりに、裏商売の仕組みは一通り学習したんだよ。

「お前、こんなの買ったのか」

 俺が説教ってのもなんだが、自然と眉間に皺が寄る。
 表向きのカモフラージュ商売といえ、こいつら実体はマフィアなんだぞ! ガキは知らないで気軽に買い物してるけどな! 
 マルセラが気まずそうに首を振った。

「誰かが知らないうちに、私のロッカーに入れたの。……でも、使ったのは私だから」

「そうだな、同じことだ」

 俺だって嫌な気分だったが、冷たく言った。
 入手経緯がどうであれ、使ったのはマルセラだ。

「どうして使ったんだ?」

 返答しだいじゃ、いくらマルセラでもきっちり叱る。そう決意して、俺はキッと睨んだ。
 いや、マルセラだからこそ、この行動はヤバイんだ。
 インチキ魔道具でも、高い魔力をもったヤツが使えば、それなりの効果が出ることもある。しかも魔法の内容をちゃんと理解せずに使えば、メチャクチャな結果になる。
 だから、魔法学校で優秀な成績を納めてるマルセラみたいなガキは、絶対に手を出しちゃいけないし、それくらい知ってるはずだ。

 絶対に叱る! きっちり反省しやがるまで叱る!!

 グルグルと唸る俺の前で、うな垂れたマルセラが白状した。

「劇の主役がちゃんと出来るか、不安だったの。そうしたら先週、これで勇気をわけて貰えって書いた手紙と一緒に、この箱が入ってて……」

「ふーん、そうか」

 贈り主が本当に好意だったのか、疑わしいところだ。マルセラの不安に付け込んで、悪戯をしかけた可能性だってある。
 ……だが、叱るからな!

「私の知ってる人で、一番強いのはジークお兄ちゃんだから……」

 あー、なるほど。よくわかった。なら仕方ねぇ。説教は中止だ。

 マルセラは心から反省したようで、ヒックヒックと肩を震わせている。
 ……もちろん、俺の身体で!

「わかった! わかったから、俺の身体で泣くな!」

 自分ものだった固い金髪頭を、よしよしと撫でて宥めるというのは、奇妙な気分だ。

「とにかく……アイツに相談してみるか」

 これは非常事態にも程がある。
 劇は十一時から始まるし、それまでに……いや、大至急なんとかしなくては。

 情けないツラで泣きじゃくる俺の姿は、悲惨すぎる! 

 ものすごく気が進まないが、テーブルからスマホを取りあげ、とある大企業の『非常事態収集員』に電話をかけた。

 ***

「なるほど。これは、信じるしかありませんね」

 俺と並んでソファーに座るマルセラを交互に眺め、ウリセスがようやく頷いた。電話口でいくら事情を説明しても、コイツは『アハハ! マルセラちゃん。面白いですけど、ひっかかりませんよ~』と、本気にしなかったのだ。

 カレンダーを見れば、今日は4月1日。
 このイスパニラ国では、正午まで嘘が吐き放題の日だった。

 なにかとテンションの高いことで知られるイスパニラ国民だが、この日はそれが最も発揮される。
 ニュースも新聞も、ノリノリで堂々と大嘘を書きたてる。
 大人の本気を出して、凝りに凝った嘘を演出し、真に受けた連中がパニックを起こしたこともある。

 ……しかし俺は、王都で生まれ育ったのに、この国のエイプリル・フールにかける凄まじい情熱にだけは、どうもついていけない。

『エイプリル・フールの冗談じゃねぇんだよ! 画面で写すからよく見やがれ鬼畜スーツ!』
 と、ビデオ通話に切り替えて俺になったマルセラを写して見せたら、ようやくコイツはバイクを飛ばしてやってくる気になった。

 休日の早朝から呼び出すなんて、と電話口で文句を言っていたくせに、仕立てのいいスーツを一部の隙もなく着こなし、平時と変わらない姿だ。
 そんでもって、あからさまに爆笑を堪えて頬をヒクヒクさせている。

「ウリセスさん、ごめんなさい」

 通販カタログと香袋を前に、マルセラがしょぼんとうな垂れて頭を下げる。

 ――いつもの姿なら可愛いはずだが、生憎とそれをやっているのは俺の身体という醜態。

 ウリセスが顔を背け、堪えきれないようにププッと噴出した。

「おい。解決できるなら、報酬は払うし好きなだけ笑っていいぞ。だがな、面白いからこのままでいろとか言うなら、全力で殴る」

 俺は顔をしかめ、拳を固めた。

「くく……いえいえ。好青年の顔になったジークはともかく、ガンたれ顔のマルセラちゃんは気の毒すぎますからね」

「くっそ……!」

 ギリギリと歯軋りして唸る俺をよそに、ウリセスが香袋をしげしげと眺める。

「これ、基本の魔法漢字はともかく、肝心の部分が間違っていますよ。箱のような効果を出すなら、『転写』と書くべきなのに、『転移』となっております」

 指でテーブルに複雑な文字を書かれたが、さっぱりわからない。マルセラも首をかしげている。
 ちなみにウリセスも魔法大学の卒業生らしい。マルセラの大先輩ってところか。

「つまり、これでは丸ごと相手から能力を奪い取ってしまうのですよ」

 ウリセスは香袋から匂い立つ木切れを取り出し、軽く嗅いで顔をしかめた。

「香も質の悪いものですし、普通なら何も起こりませんが、マルセラちゃんの高い魔力に加えて、よほどタイミング良くかけてしまったのでしょうね」

 そしてアイスブルーの目が、もの言いたげに俺をチロっと眺めた。

「……なんだよ?」

「マルセラちゃんの行動は、確かに軽率でした。ですが身体ごと入れ替わるなんて、ジークにも心当たりがあるんじゃないかと思いまして」

「俺は妙な香なんか買ってねぇぞ」

「香を嗅いだ時、マルセラちゃんの何かを、羨ましいと思いませんでしたか?」

「あ? んなこと……っ!!」

 きっぱり否定しようとしたが、唐突に思い出した。眠気に巻かれながら、ふと思ってしまったのを……。
 ちょ、まて! あんなので……!?

 冷や汗を浮べて硬直する俺を、ウリセスが冷ややかに眺める。

「心当たり、あるんですね?」

「っ……マルセラくらい小さけりゃ、ソファーでも広々寝られるって、思ったんだよ!」

 運の悪い偶然が重なったとはいえ、我ながらマヌケにも程があるきっかけだ。
 ウリセスがニヤニヤ顔で首をふる。

「効果はせいぜい、丸一日でしょうね。自然に切れるまで放っておくのが一番です。下手に西魔法で解除をかけて失敗したら、一生そのままかもしれません」

「っ!?」

 俺とマルセラが同時に顔を引きつらせる前で、ウリセスは香袋を手早くしまい、代わりに魔法学園祭のパンフレットを取り出した。

「とにかく、マルセラちゃんの劇を心配しましょうか。東魔法の乱用でこんな事になったと知られたら、小等部といえど、それなりの処罰を受けますよ」

 隣でマルセラが息を飲んで青ざめる。それもそうだろう、魔法学校は規律が厳しいことで有名だ。
 どうやら責任の一端は俺にもあるようだから、恐る恐る尋ねた。

「……劇が始まるまでに戻れなきゃ、どうすんだ?」

「ジークが代わりにやるしかないでしょう」

「はああ!?」

 思わず素っ頓狂な声をあげて立ち上がった俺へ、ウリセスが満面の笑みを向ける。

「貴方の視力はバツグンに良いですし、それも移っているでしょう? 客席からセリフのカンペ出してあげますから、頑張ってくださいね!」

***

 小一時間ほど色々な打ち合わせをしてから外に出ると、憎らしいくらい爽やかな小春日和だった。
 俺としては不本意極まりなかったが、ウリセスも含めて三人で、仲良く魔法学校へと歩いて向う。

「……いくらなんでも『シンデレラ』くらい、知っていると思っていましたよ」

 呆れたようにぼやくウリセスに、俺は顔を思いっきりしかめて唸った。

「無学で悪かったな」

「見事な棒読みの大根役者ですし」

「うるせぇ!!」

 ツンデレ女の話かと思ってたのに、台本を読んだら全然違った。
 おまけに恥ずかしいセリフばっかりだ。カンペ出されても、あんなのを普通に読み上げられるか!!
 ウリセスを蹴っ飛ばそうと脚をあげたら、赤いタータンチェックのスカートがひらんと舞い、慌てて手で押えた。
 ぐ……この、スカートってのは、なんでこう……っ!

 俺が着ているのは、魔法学校の女子制服だ。何しろ身体はマルセラなんだから。
 黒いローブマントは問題ない。白いブラウスに赤いリボンタイも我慢できる。問題は膝上丈のスカートだ!
 やたらと脚がスースーして気持ち悪いし、なによりも自分がスカートを履いているという事実は耐え難い。
 やり場のない怒りに、黒い革ぐつと白い靴下を履いた脚が、プルプル震える。
 そして、そんな俺を眺め、すげぇ楽しそうにニタついてやがるウリセス。

「中の人はガサツで凶暴な男でも、身体は九歳の可憐な女の子なんですから、言葉使いや仕草も気をつけましょうね」

「おい! 絶対に楽しんでるだろ!」

「ええ、それはもう」

 ニヤニヤしているコイツの呼び名は、やっぱり鬼畜スーツがピッタリだ。
 しかし、そのニヤケ面がふいに引き締まった。周囲に漏れないように、声を潜めて囁く。

「身代わりを決意したなら、これだけは肝に銘じてください。貴方の行いは、全てマルセラちゃんの行いとなり、場合によっては彼女の今後にも、多大な影響を与えます」

 俺を見下ろすアイスブルーの眼には、さっきまでの呑気さが嘘のように、厳しい光が宿っている。
 一瞬、俺は息を飲んだ。遅ればせながら、思っていたより事態は厳しいことに気づく。
 つまり、俺がヘタなことをすれば、それは全部マルセラに降りかかるってわけだ。

「チ……わかったよ」

「舌打ちも禁止ですよ、マ ル セ ラ ちゃん ?」

「~っ!!」

 効き目が切れるまで、無言で押し通すしかねぇ!!
 早くもげっそりした気分で、反対側を見上げた。
 すっかり落ち込んじまったマルセラは、ずっと神妙な顔で押し黙って歩いてる。
 身につけているのは、ジーンズに黒いシャツという、俺の私服だ。
 退魔士の制服は身分証明になって便利だが、もし休日でも魔獣騒動に出くわせば、戦わなくちゃならない。今の状態でそんなことになったら、即座に殺されちまうからな。
 もっとも、腑抜けた落ち込み顔が幸いしてるのか、私服で九歳児と歩いているのに、周囲からヒソヒソ声も不審そうな視線も向けられない。

「……心配すんな」

 迷った末に思い切って、硬くゴツゴツした自分の手を握った。

「ジークお兄ちゃん……?」

 驚いたように、マルセラが目を見開いた。

「一日だけの辛抱だ。誰にもバレねーように名演技してやる。だからお前も、今日だけは我慢しろ。俺の身体で泣かなけりゃ、それで許す」

「……うん。ありがとう」

 正面に向き直ると、頭上から半泣き声の返事と、鼻をすする音が聞こえた。
 ――ま、今のはカウントに入れないでやるさ。

 ***

 三十分ほど歩くと、都内のど真ん中に広大な敷地を構えた魔法学校に辿り着く。
 高い鉄柵に囲まれた敷地内には、城みたいな立派な校舎が建ち、噴水に薬草温室までも備わっている。
 詳しいことは知らないが、ここでは実験用に魔獣が多く飼われ、ドラゴンの飼育小屋までもあるらしい。
 何しろ魔法学校は基本的に、部外者の立ち入りは厳禁だ。中で魔獣が暴れても教員だけで対処し、退魔士も呼ばないという徹底振り。俺も入るのは今日が初めてだった。

 学校に近づくにつれ、賑やかな喧騒が大きくなっていたが、もう入り口から大混雑だった。
 学園祭は、この閉鎖的な学校の中を見られる数少ない貴重な機会だから、無理もないだろう。
 それも無差別に開放でなはく、学校の在籍者や卒業生から、チケットを貰わなければ入れない。
 重々しい鉄門の受付を通り、広々とした芝生庭を歩いて噴水へと向う。
 マルセラは噴水の前で、エレオノーラという友人と待ち合わせをし、一緒に講堂へ行く約束をしているそうだ。
 魔術ギルドやロクサリス国の旗があちこちに飾られ、手入れされた木々の上では、幻影魔法の妖精たちが微笑んで手を振っている。
 年齢の高い学生たちは屋台を出し、魔法グッズや魔法食材の料理を売っていた。

「久しぶりですが、変わりませんね」

 辺りを見渡し、ウリセスが目を細めた。
 あまりキョロキョロして不自然にならないよう気をつけながら、俺も辺りの様子を眺める。
 家から三十分なのに、魔法一色の世界は、染みのない異国に来ちまったような気分だった。
 美形率が異様に高いのは、エルフやハーフエルフがやたらと多いからだ。そして人間も、大半が庶民と違う雰囲気だ。
「ごきげんよう」とか「まぁ、お姉さま」……なんて会話の端々が、あちこちから聞えてくる。

 ―― あれ、マジで言ってんのか……?

 ただようセレブ臭に唖然としていると、噴水の傍らで談笑していた親子連れが、こっちを振り返った。
 ひげをきちんと整えた中年の男と、日傘をさした妻らしい女。淡い金髪を風にそよがせている魔法学校の制服を着た娘は、マルセラと同じ歳くらいだろうか。
 一目でわかるくらい、とびきり血統書のよさそうな一家だ。

「マルセラ、お待ちしておりましたわよ!」

 お上品な見た目からは意外なほど元気な声で、お嬢様が手をふる。
 どうやら、あれがエレオノーラらしいな。

「おい、呼んでる……」と、つい隣を向いて言いかけて思い出した。

 そうか、今は俺がマルセラだ。
 しかし、絵に描いたようなこのお嬢様に、なんて返事すりゃいいんだ? 『ああ』や『待たせたな』は、マズイだろうし……。
 目の前まで駆けて来たエレオノーラが、冷や汗ダラダラで硬直している俺に、小首をかしげている。

「マルセラ?」

 く……マルセラになりきれ!! 俺はマルセラ!! すっげぇ可愛いガキ……じゃねぇ、女の子だ! 可憐な美少女だ! このお上品な学校の生徒だ!!

「あ……えーと……エ、エレオノーラ……さま? ご、ごきげんよう?」

 その瞬間、今度はエレオノーラが硬直した。
 ヤバイ! なんか間違ってたのか!?

「うふふふっ! マルセラ、急にどうしたんですの?」

 エレオノーラが噴出し、身をよじって大笑いする。
 ツンツンと俺の肩をマルセラがつつき、そっと耳打ちした。

(普通にエレオノーラで良いんだよ。私はお嬢さまじゃないんだし)

(あ、そうか……)

 俺は慌てて、アパートで緊急特訓した笑顔をつくる。これがまた、難しいんだ……に、にこ……っ?

「アハ……ハ、冗談だよ。ビックリさせようと思って……」

 その時、ガランゴロンと鐘の音が盛大に鳴り響いた。

「あら、もう集合時間になってしまいましたわ」

 エレオノーラがウリセスたちへ、優雅に一礼する。

「エレオノーラ・クロエ・グランシャールと申します。せっかくお会いできましたのに、申し訳ございません。また後ほど、ごゆっくり挨拶をさせてくださいませ」

「これはご丁寧に、私はウリセス・イスキェルド。こっちはジーク・エスカランテです。劇を楽しみにさせて頂きます」

 ウリセスが負け劣らず優雅で丁重な挨拶を返した。……ったく、調子のいいヤツだ。
 俺の姿をしたマルセラも、ペコリとお辞儀をしている。

「では、お父さま、お母さま、失礼いたします」

 エレオノーラが両親に会釈し、俺の手を取って駆け出した。

「さぁ、急ぎましょう!」

 有無を言わされずに引っ張られ、心配になって振り返ると、マルセラたちはエレオノーラの両親と何か談笑していた。
 不安は残るがマルセラは賢いし、鉄壁の猫かぶりウリセスがついてる。
 俺は自分の心配をしたほうが、良さそうだ。


 アーチ型の巨大な石門をくぐり、中世の城めいた校舎の中へ入る。
 壁に飾られた絵の男女が動いていたり、モップとバケツがダンスしながら掃除をしていた気もするが、よく見る余裕なんかなかった。
 複雑に曲がりくねった通路を走り、廊下の端にある扉の前で、ようやくエレオノーラは脚を止めた。扉の中からは、子どもたちの賑やかな声が漏れ聞える。
 さっさと入ると思ったのに、エレオノーラは唐突に振り向き、ガバっと抱きついてきた。

「マルセラ! わたくしは貴女の親友といえ、本日は心を鬼にして、役になりきりますわ!!」

 ……そういやコイツは、主人公にエグイ嫌がらせをする継母役らしいな。

「いや、劇の役なんだし、仕方……」

 ……ねぇだろ、と言い終わる前に、エレオノーラにぎゅうっと抱きつかれた。

「大好きですわ! マルセラ!」

 おいおい! お前はいつもマルセラにこうやって抱きついてるのか!? ちょっとスキンシップ過剰だろ!

「わ、わかった……っ!」

 力を入れすぎないように気をつけながら、華奢なお嬢さまを引き剥がす。
 エレオノーラは名残惜しそうな顔をしていたが、ふと思い出したように言った。

「そういえば、あの金髪のお方が、マルセラの英雄ですのね」

「え?」

「ジークさま、でしたっけ?」

 かああ、と顔に血が集まっていく。
 マルセラのヤツ、学校でも俺の話をしてるのかよ!

「っ!!」

 いたたまれずに、エレオノーラを押しのけるようにして扉を開いて中に駆け込んだ。
 扉をあけた瞬間、部屋にいた十数人のガキが、いっせいに振り向く。
 思わぬ注目に、一瞬ギクリとしたが、すぐに親しげな挨拶と笑顔が向けられた。それも一人じゃなくて、何人も。
 どうやらマルセラは、大勢の友達と学校で楽しくやっているようだ。
 ケンカを挑まれるか、泣いて逃げられるかの二択だった、俺の学生時代とは大違いだな。皆と仲良くしろと、口を酸っぱくしていたシスターたちも、しまいには匙を投げたっけ。
 だけどもし、魔法学校じゃなくて貧困家庭の子どもを集めた慈善学校でも、マルセラならどこだって、友達を沢山作って仲良く過ごせるだろう。
 両親を亡くしてからしばらくは、口も聞けずに虚ろな無表情だったのが、すっかり元に戻ったと、祖母さんも喜んでる。
 もっとも、祖母さんだって本当は、マルセラがまだ立ち直れちゃいないし、かなり無理しているのにも気づいているはずだ。

 ガキたちは無邪気にはしゃいで劇の仕度に精を出している。
 それをぼんやりと眺めていると、部屋の扉が開き、やせぎすの女が姿を現した。
 生徒達がいっせいに姿勢をただし、声をそろえてさえずる。

「ホワン先生! おはようございます」

「おはようございます、皆さん。廊下まで騒ぎが聞えていましたよ。もう少しお静かに」

 威厳たっぷりの静かな声が、生徒たちに向けられる。
 出遅れちまった俺は、慌てて姿勢だけ正して、女をこっそり観察した。
 細身といや聞えはいいが、針みたいな色気のない体型だ。歳はそろそろ50近いってところか。尖った顎の顔だちは、いかにも厳しく神経質そうに見える。
 黒髪をひっつめて頭の上でまとめ、首もとの詰まった細身の大陸東風ドレスを着ている。群青色の絹には、鮮やかな青の刺繍が細やかに施され、服と同じ絹地で作られたハンドバックを持っている。
 どうやらこの女が、マルセラの担任教師らしい。

 この女教師の話は、たまにマルセラから聞いていた。
 確か名前はジャネット・ホワン。西と東の魔法使いを両親に持ち、両方を自在に使えるとか……。
 そんなに優秀なら、なんで小等部の教師なんかやってんのか不思議だ。子ども好きって感じにも見えないしな。
 いかにもキツそうな女教師は、不意に俺を見て、不審そうに片方の眉を吊り上げた。

「……マルセラ?」

「っ!?」

 入れ替わってるのがバレたのかと思ったが、女教師は部屋の隅に置かれた箱から衣装を取り、俺の手に押し付ける。

「もうすぐ始まりますよ。早く着替えなさい」

「あ……は、はい」

 最初に着るツギハギだらけの衣装を眺め、俺が内心で諦めの溜め息を吐いた時だった。
 廊下から荒い足音が響き、乱暴に扉が押し開かれる。
 肩をいからせながら鼻息も荒く飛び込んで来たのは、はちきれそうな腹を高価そうなスーツに押し込んだ中年男だった。太りすぎていて首が殆どない体型は、まるでセイウチに見える。

「ホワン先生、納得いきませんな!」

 セイウチ男はドスドスと足音を響かせて、女教師へと詰め寄った。

「カブリーニ男爵。申し訳ございませんが、保護者の方は講堂でお待ち願ください。間もなく開演いたしますし、子どもたちは準備中です」

 鼻がくっつきそうなほど責め寄る男に、女教師が落ち着き払った冷ややかな声をかける。

「その劇のことだ! もう一度言う。私は娘から、主役に選ばれたと聞いておりましたぞ。それがなぜ、ネズミの役なのですか!」

 ヒステリックにわめく男が、太った指を部屋の隅にいた少女に向けた。眼鏡をかけた大人しそうな女のガキで、作り物のネズミ耳と尻尾をつけている。

「お父さま……」

 血の気の引いた顔でガクガク震えているガキへ、女教師はチラリと視線を走らせてから、男爵だったらしいセイウチ男に向き直った。

「先ほどもご説明しましたように、今年の劇はどの学年も、魔道試験で首席の者が主役になっております。クラリッサがご家族になんと申し上げようと、変更はございません」

 ピシャリと断言され、セイウチ男の顔が怒りに赤黒く膨れた。
 さっきまであれほど騒がしかった室内は、緊張した空気が満ちて静まりかえっていた。
 ガキたちは強張った顔で、二人の大人へ注目している。

「私の大切な娘が、嘘を言ったとでも!? 娘はこのクラスで一番優秀なはずですぞ!」

 もう一度、父親に指を突きつけられ、クラスメイト全員の視線を集めた眼鏡のガキは、顔を真っ赤にして俯く。消えてしまいたそうに、身を縮めていた。
 どうやらアイツが親についていた嘘は、一つどころじゃなかったみたいだな。

「今すぐ配役を替え、クラリッサを主役にするよう、断固として要求します!」

 はー……、もしかしてこれ、魔獣両親モンスターペアレントとかいう奴か? 前に子持ちの同僚が、マジで駆除したくなるほど迷惑だって、愚痴ってたな。
 実際に見ると、確かに迷惑さは半端ねぇ。おまけに相手は人間だし、あきらかに迷惑なのに犯罪じゃないから、駆除もできないのが余計にタチ悪いな。

「申し訳ございませんが、それはできません」

「これだけ私が頼んでいるのに!? 教師のクセに、親の心を理解できないのか!?」

 怒り心頭なセイウチ男と引き換えに、女教師はあくまで冷静だ。

「男爵、どうか講堂でお待ちください。……皆さん、各自の用意を続けなさい」

 教師に促され、ガキたちは状況を気にしつつも、神妙な面持ちで劇の準備を再開した。だがセイウチ男は尚も食い下がる。

「先生! クラリッサに恥をかけと言うのか!?」

 ……いやはや、娘に恥ずかしい思いさせてんのは、まぎれもなくお前だから。

 俺は呆れて、自分勝手な主張を喚く男を眺めた。
 育児放棄してた俺の母親とは真逆のタイプに見えるが、根っこのところは同じだ。
 てめぇが大事なのは、娘じゃなく自分の見栄だろうが。

(……それに、お前も悪いんだぜ?)

 涙を浮かべて立ち尽くしている眼鏡のガキに、俺は声に出さず呟いた。
 誰だって嘘くらいつくさ。いつも正直でいろなんて言わねーよ。だが、絶対にバレる嘘なら、最初からやめとけ。特に、あとでベソベソ泣くくらいだったらな。

「私は認めないぞ! こんな平民の子が、クラリッサより優秀など!」

 セイウチ男が声を張り上げて俺を指し、ギッと睨む。

「は?」

 いきなり矛先が向いて驚いた。
 つーか、いくら爵位もちだからって、今の時代に『平民』はないだろ。それ、笑うところなのか? マルセラにケンカ売る時点で、笑えねーけどな。
 思わず眉間に皺を寄せちまった俺を、エレオノーラが庇うように、そっと隣へ寄り添った。

「気にすること、ありませんわ。先生に任せて無視しましょう」

 小声で囁かれたが、ふと俺の頭に一つの考えが浮かんだ。
 ――待てよ。このセイウチ親父はムカつくが、コイツがごねて主役が代われば、俺は舞台へ立たずに済むわけだ。
 客席からウリセスが台本を開き、こっそりセリフを見せる手はずになっていても、俺にできるのは、せいぜいがたどたどしい棒読みだ。王子に求愛されるシーンなんか、想像しただけで鳥肌が立つ。
 それくらいなら、あの眼鏡ガキの方が、ずっとマシだろう。
 マルせラは皆に迷惑をかけるから絶対に休めないと言ってたが、この状況で辞退すりゃ、迷惑どころか騒ぎも収拾できて万々歳じゃねーか!
 運がよかったな、セイウチ親父と眼鏡ガキ!

「どうしましたの?」

 熱心に考えこんでいる俺に、エレオノーラが怪訝な声をかける。俺はにっこりと……いや、ニヤリとなっちまったが、笑いかけた。
 お前も役とはいえ、親友をイビらなくて済むんだから喜べよ!

「先せ……」

 辞退を告げようとした時、セイウチ親父がゴホンと咳払いをした。嫌味ったらしい視線で、チロリと俺を眺め降ろす。

「マルセラ・フェリシアーノだね? 君の話は聞いているよ。こんな事は言いたくないが、何年も昔の事をいつまでも引き摺って甘えるのは感心せんな」

「……は?」

 セイウチ男の言う意味が理解できず、俺はキョトンと間の抜けた顔になる。
 一方で無表情を通していた女教師は、初めて眉を潜め、不快を露にした。

「男爵。お話は後でお聞きしますので、どうぞ今はもう……」

 女教師の剣呑な声を、セイウチ男は大袈裟な身振りで制止する。

「先生、特別扱いばかりしていては、子どもは駄目になりますよ」

 ……特別扱い? なんでそう思うのか知らねーが、とりあえずお前が言うな。 
 黙っている俺を眺め、セイウチ男は苦笑した。

「両親を亡くした可哀想な子だと、先生は君に同情して優遇してくれるのが、魔獣災害の遺児など大勢いるんだ。君だけが辛いわけじゃない。ここに在籍を許されているだけでも感謝して、分をわきまえるべきだ」

「……」

 コイツが酷くムカつく事を言っているのは解るのに、その言葉は頭の中でけたたましくわめくだけで、意味をはっきり理解しない。
 あまりの嫌悪感に、頭が理解するのを拒否している。

「酷すぎますわっ!」

 嘲笑する男を、エレオノーラが憤然と睨む。女教師が、男爵へ向ける視線の温度を三段階は冷やした。

「エレオノーラは黙りなさい。……お言葉ですが男爵。劇の配役とはまるで関係ないお話ですわね。そして私も他の教師も、マルセラを他の生徒とまったく同じに扱っております」

 しかし男爵は薄ら笑いを浮べたまま首を振り、大袈裟な溜め息をつく。

「建前をおっしゃりたいのは解りますよ。だが、彼女は幼稚舎の頃、二年近くも口が聞けなくなり、休学していたというではありませんか。そんな子が、本当に優秀なわけがない」

 そこまで聞いて、ようやくコイツが『マルセラ』に言った侮蔑を、はっきり理解した。

 ―― 殺す。

 衣装を床に放り捨て、姿勢を低くして身構えた。床を踏みしめ、跳躍の準備をする。
 だが拳を固めた瞬間、ふと違和感に気づいた。
 握り固めたこの手は、俺の手じゃない。
 小さくて綺麗な、マルセラの手だ。

『これだけは肝に銘じてください。貴方の行いは、全てマルセラちゃんの行いとなり、場合によっては彼女の今後にも、多大な影響を与えます』

 ウリセスの言葉が、やけに大きく頭に響いた。

「っ……」

 九歳児のか弱いガキの身体になってても、腕力だって一緒に移ってるんだ。
 この鈍そうなセイウチ男をブチのめして半殺しにするくらい、簡単にできる。

 ……できる、んだ……けど、よ……。

「……マ、マルセラ?」

 エレオノーラが脅えたような顔で、殺気全開で目をギラつかせている俺を……親友であるマルセラの姿を見ている。
 他のガキ共も、驚愕と脅えを浮べて、こっちを見ていた。

「っは……はぁ……は……っ……!」

 全身にたぎりたつ怒りにわななきながら、俺は喘いだ。
 俺にとっちゃ、ケンカは勝つか負けるかを楽しむ娯楽だ。
 純粋にムカついたという動機で、これだけ強烈に誰かを殴りたいと思ったのは、何年ぶりだろう。

 殴りたい。
 最悪な形でマルセラを侮辱しやがったコイツを、心底から殴りたい!!

 魔獣災害の被害者なんか、星の数ほどいる。退魔士の俺はよく知っているさ。
 そして、悲劇に潰れるだけの人間がいかに多いかも……マルセラが立ち直ろうと、どれだけ無理しているかも、知ってんだよ!!

「はぁっ……く………ぅ……」

 握り締めた拳が震える。
 コイツを殴って半殺しにするのは簡単で、さぞ気分が晴れるだろう。
 だけど、それをやっちまえば、友人たちがマルセラを見る眼は、すっかり変わっちまう。
 この拳は、俺じゃなくてマルセラのものだ。

 ガキの頃、いつも俺に向けられていた脅えと嫌悪の顔と、さっきマルセラへ向けられていた親しみの笑顔が、脳裏へ交互に浮かぶ。

「~~っ!!!!」

 硬く目を瞑って、歯を喰いしばった。

 悔しすぎる。頭ん中がグチャグチャだ。
 友達いっぱいつくって、学校で楽しく勉強したいなんて、俺は一度も思わなかった。
 でもマルセラはこの学校が好きで、友達も好きで、ちょっとばかり厳しい教師も好きなんだよ。俺にも学校であった事を、しょっちゅう話すしな。
 俺は無愛想な返事ばっかで、上手い感想なんか言えねーけど、ちゃんと聞いてるんだ。
 だから……俺の気晴らしの代償に、マルセラの幸せな生活が壊れるっていうなら……

 ―― 絶対に、死んでも、殴りたくねぇ!!

 硬く瞑った眼の奥が熱くなって、頬を湿っぽい感触が流れた。口端から塩辛い味が流れこむ。なんだ、これ?

「……ジークお兄ちゃん」

 ふわりと、後ろから何かが巻きついてきた。
 驚いて目をあけると、短い金髪を逆立てた男が膝をついて……俺の本当の身体に、抱きしめられていた。

「マルセラ……? おい、なんでここにいるんだよ!?」

 思わず怒鳴った声は、しゃくりあげるような泣き声だった。

「間違いを誤魔化して、もっと悪いことをするのは、やっぱり嫌だから……。ちゃんと謝って罰を受けるために来たの。……頑張ってくれたのに、ごめんなさい。」

 少し目を細めてそう言った顔は、なかなか悪くなかった。俺は生まれて初めて、自分のツラが好きになれるかもしれないと思った。

「え? え? どういうことですの?」

 俺とマルセラを交互に眺め、エレオノーラが驚愕の声をあげる。俺の身体をしたマルセラは立ち上がり、厳しい表情を浮べる女教師に頭を下げた。

「ホワン先生。私は東端魔法を使って失敗し、ジークお兄さんの身体と入れ替わってしまいました。だから、劇には出られません」

 そして、ざわめくガキ達を見渡して、もう一度頭を下げる。

「皆にも迷惑をかけてしまいました。本当にごめんなさい」

 女教師の他は、誰もがあっけにとられた表情を浮べていた。だが、いち早く我に返ったセイウチ男が、喜びを隠せない声音と表情で叫ぶ。

「と、とんでもない子だ! やはり……」

「失礼、少々お静かに願います」

 女教師が至極冷静な声とともに、ハンドバックから取り出した漢字の紙札を、セイウチ男の口に貼る。ただのペラペラな紙札に見えるのに、札が触れた途端に、厚い唇は堅く閉じられてしまった。

「ぐっ!? むむっ!?」

 ピタリと張り付いた札は、どうしても取れないようだ。
 札を取ろうと苦戦しているセイウチ男を他所に、女教師が厳しい視線をマルセラに向ける。

「マルセラ。皆に迷惑をかけたというなら、最初からきちんと説明しなさい」

「はい……」

 そしてマルセラは、劇の主役に選ばれたのが嬉しかったが、不安でたまらなかった事、ロッカーに入っていた手紙と香袋、俺と入れ替わった事、それを誤魔化そうとした事まで、全て正直に話した。

「なるほど……」

 聞き終えると女教師は溜め息をつき、生徒たちを見渡した。
 例のクラリッサとかいう眼鏡のガキが、ビクリと肩をすくめる。

「皆さんにお尋ねします。彼女のロッカーに、香袋を入れた覚えのある人は?」

 誰も手をあげなかった。
 女教師は少し待った後、無表情のまま、再度口を開いた。

「そうですか……ではクラリッサ、貴女はマルセラの代役を務めることが、できますか?」

 俯いていたクラリッサが、弾かれたように顔を上げた。父親が口に札をくっつけたままウンウンと頷いている。

「は、はい……私、セリフも全部覚えて……」

 嬉しそうに言った少女は、ふと俺の方へ視線を移した。とたんに表情を曇らせ、口ごもる。

「……っ」

 眼鏡の奥の目が潤み、嗚咽とともに懺悔を吐き出した。

「……ごめんなさい。私が香袋を渡しました。あれが変な効果を出すのも知っていました。
……マルセラが羨ましくて……彼女が東魔法を使って叱られて、また学校にこれなくなれば良いと思ったんです」

―― ああ、やっぱりな。眼鏡ガキ、お前は嘘が下手すぎるんだから、もう一生つくな。
 それにあのやり方じゃ、マルセラが香袋を誰に使うかも曖昧だし、使ってもお前の狙い通りにいくとも限らないだろ。
 本気で狙ってこの程度なら、陰湿な罠を仕掛けるにも向いてねぇよ。

 怒る気も失せてしまい、俺はグシャグシャに濡れていた顔を、袖でゴシゴシと拭く。
 とにかくこれでやっと、普段の気楽な口調で喋れるわけだ。
 女教師を見上げ、肩をすくめた。

「俺も誤魔化せと、マルセラをそそのかした。校則違反の罰ってのが、部外者にも適用されんなら、ちゃんと受けるさ。……ついでに、アイツも同罪だ」

 扉の傍らでニヤニヤしているウリセスを、親指で示した。
 フン。アイツの嬉しそうな顔からするに、マルセラが自分で白状するのを、期待してたんだろうな。

「ホワン先生、お久しぶりです」

 苦笑するウリセスを、女教師が冷たく眺める。

「あら。やっと問題児が卒業してくれたと思ったのに、相変わらずだこと」

 ……なんか、やけに親しそうだな。
 俺は二人を見比べ、ガキ達も茫然としている中、ガランゴロンと鐘が鳴り響いた。

「まぁ大変。時間になってしまったわ」

 女教師が片眉を潜め、咳払いをする。

「ウリセス。貴方は講堂の観客を退屈させないように、十五分ほど時間稼ぎをしなさい。それでお説教は勘弁してあげます。……ついでに、男爵を講堂へご案内してあげなさい」

 チラッと、女教師が細い目で、口を聞けなくした男爵を睨んだ。

「かしこまりました」

 一礼したウリセスが、ジタバタもがく男爵を笑顔で手早く捉え、さっさか退室していく。
 扉が閉まると、女教師はバックからまっさらな紙札と筆ペンを取り出した。ミミズがのたくっているような複雑な模様と、いくつかの漢字を素早く書き込む。
 そしてツカツカと俺たちに近寄ってきた。

「お二人とも、解呪の間は動かないで下さいね」

 マルセラと俺の額へ、ペタリと紙札が押し当てられた。

「転・移・解・戻!!」

 西と東の魔法を操る女教師は、鋭い声で東の言葉らしい呪文を唱える。
 一瞬、目の前の景色が、溶けるように歪んで真っ白になった。

「……あ」
「……戻った!」

 俺とマルセラは、半日ぶりに取り戻した身体をペタペタ触って確認し、顔を見合わせる。マルセラの大きな青い瞳に、いつもと同じ、目つきの悪い俺が映っていた。

 ―― ハハ。やっぱ、こうじゃねーとな。

「……マルセラ、クラリッサ」

 しかし、喜んだのも束の間。
 冷ややかな声に呼ばれ、マルセラが緊張を孕んだ顔で女教師を見上げる。クラリッサも同様だ。

「はい」

 並んだ二人の生徒へ、ホワンは厳しい視線を降ろす。薄い唇を開き、冷たい声で言った。

「エイプリル・フールの冗談にしても、少し度が過ぎますね。来年はもう少し、程ほどにするように。――以上です」

「……え?」
「……先生?」

 そして女教師は、パンと手を打ち合わせた。

「さぁ、マルセラは早く着替えて。クラリッサ、手伝ってあげなさい。他の皆も準備を急ぐように!」

「は、はい……!」

 マルセラが頷き、クラリッサも慌てて礼をする。他のガキ達も、いっせいに支度へ取り掛かった。
 ホワンは生徒たちの姿を満足そうに眺め、不意に俺へ向き直る。

「っ!?」

 鋭い眼光を浴びせられ、俺は顔を引きつらせた。
 怖いわけじゃねーが、こういう女は苦手だ。
 なにより、さっきまで俺は、マルセラの『中の人』だったのがバレたわけで、おまけに悔しさの余り泣くと言う……うああああああ!! 

 この部屋のやつ等、全員の記憶を消す魔法とか、無いのか!?
 俺は今、人生で初めて、魔法使いになりたいと猛烈に思う!!

 蒼白になっている俺に、女教師が淡々と告げる。

「申し訳ございませんが、保護者の方は講堂でお待ちください」

 そして、さっさと出て行けというように扉を開いた。

「あ、ああ……」

 扉をくぐりながら振り返ると、マルセラが灰被り娘のボロ衣装を着るのを、クラリッサが手伝っていた。
 二人は少し気まずそうに、笑いあっていた。

 ―― ま、仕方ねぇ。今日は正午まで嘘が吐き放題の日だ。

 なんだかんだあったが、劇は大成功に終わった。
 恥ずかしいセリフの数々も、マルセラが言うと可愛く見えるから不思議だ。

 ***

 ―― そして八年が経った。
 あれ以来、俺は魔法学校には近寄っていない。学園祭も、断固として拒否している。
 だが、マルセラからいつも学校生活の話を聞くし、ウリセスからも色々と情報を仕入れた。
 たとえば、前から何かと問題視されていたクラリッサの父親は、学園祭を含めて、学校敷地内へ永久出入り禁止とされたとか。
 あの学校で、東魔法の問題を最も起こしやすいのは小等部の生徒たちで、ホワンはそのために小等部の専門教師を長年やっているとか……。
 クラリッサは深く反省し、今はマルセラと学部が違うが、仲良くやっているらしい。


 俺が風呂から出ると、パジャマ姿のマルセラが、リビングの床に座り込んで何か眺めていた。
 相変わらず小柄だが、もう十七歳になったから、子どもとは呼べない。俺を『お兄ちゃん』と呼ぶのも止めさせた。
……なにしろ、嫁にしちまったんだからよ。

「なにやってんだ?」

 ひょいと後ろから覗き込んだ瞬間、俺は硬直した。

「っ!! お、おい……っ! それ、どこにあった!?」

 魔法学校の紋章が印刷された小さな紙袋は、マルセラと住むことになった引越しで、行方不明になっていたものだ。

「さっき、私のクローゼットの奥で見つけたんだけど、やっぱりジークの? 魔法学校の袋だから、引越しの時に間違えて、私の荷物に入っちゃったみたい」

 なんだと!? 引越し業者め!!
 中身がアレだけに、マルセラに聞くこともできず、散々探していたのに!!

「これ、あの時のだよね。懐かしいなぁ」

 マルセラが袋から、八年前の学園祭を写したDVDを取り出し、懐かしそうに眺める。そしてふと、小首をかしげた。

「……でも、なんで同じのが三枚もあるの?」

「~~っ!!」

 あまりの羞恥に声も出ず、俺は袋ごと奪い取って後ろに隠し、顔をそらした。

 誰かと暮らすというのは、いいことばかりじゃない。
 たまにこうやって、見られたくない持ち物がバレちまう時もある。

「べ、別に、いいだろうが……っ! 俺が何をいくつ買っても!」

「うん、別にいいけど……ちょっと照れちゃった」

 マルセラが頬をほんのりと染めて、照れ笑いをする。あんまりにもそれが可愛らしくて、思わずソファーに押し倒して唇を塞いだ。

「んん……っ!?」

 俺の下で、マルセラが身を捩ろうともがく。

「嫌か?」

 耳たぶを甘噛みして聞くと、顔を真っ赤にして口篭った。

「そうじゃない……けど、ここじゃ……」

「なんだよ、はっきり言え」

「……だって……明るいし……恥ずかしい……」

 視線を逸らして消え入りそうな声で囁かれ、顔が勝手にニヤける。

「悪いな。余計にここでしたくなった」

「えええ!? なんで……っ!」

 ジタバタと逃げようとするのを、許すはずなんかない。片手でマルセラの両手を押さえ、もう片手でボタンを外していく。

「あ、ああっ、や……」

 しだいに甘い艶を帯びていく抗議の声に、喉を鳴らして笑った。

「マルセラ……」

 そっと呼べば、白い肌が鎖骨辺りまで赤みを帯び、甘い発情の香りが、いつもよりも早く濃く香る。
 薄暗くても明るくても、俺はよく見えるから変わらないんだが、マルセラの気分は大違いらしい。
 羞恥に悶える姿も、どうしてお前なら、こんなに可愛いんだろうな。

 ――せいぜい俺と同じくらい、恥ずかしい思いをしてもらおうか。

 
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みんなの感想(1件)

あかこ
2019.08.29 あかこ

こんにちは、初めまして!Amazon unlimited作品からすっかりハマり、電子書籍で出ているのを一通り作者買いした後にこちらまで追いかけてきました。異種間ものが本当に好きで、人狼くんのモフモフたまらんのでwシリーズ続編を楽しみに待っています。あちこちにバラけて発表なさってるのを探すのも楽しみです♪素敵な物語をありがとうございます!

小桜けい
2019.08.30 小桜けい

はじめまして。たくさんお読みいただきましてありがとうございます!異種間もの、良いですよね!人狼キャラを何人作ったのかというくらい書いていますが、またこれからも人外最高で色々と書きたいので宜しくおねがいいたします。

解除

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