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1巻
1-3
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「早かったな」
ハロルドはやや上擦った声で返し、とっさにスケッチ画を後ろに隠した。確かに彼とはここで落ち合う予定になっていたが、全く気配を感じなかった。あいかわらず神出鬼没な少年だ。
「うん。まさかこれから一年も兄さんの従者になるなんて思ってもいなかったから、緊張しちゃってさ。早く着きすぎちゃったよ」
チェスターはそう言ったものの、こげ茶色の瞳は陽気そのもので、緊張など微塵も感じさせない。
彼は来年の夏まで隊商を離れて、ハロルドの従者として働くことになっていた。チェスターも十五歳になったので、そろそろ次期首領として見聞を深めさせたいと、現首領である彼の母親から預かったのだ。
「チェスター・バーグレイ。本日より、グランツ将軍の従者としてお仕えいたします!」
チェスターは片膝をつき、完璧な礼をした。普段の彼は自由奔放に振る舞いながらも、やろうと思えば宮廷作法から上品な食事マナー、そして社交ダンスまで見事にこなしてみせる。今さら従者生活で何を学ぶ必要があるのかと不思議に思うほどだ。
「分かった。だが、公的な場以外はいつもの呼び方と振る舞いでいい」
ハロルドは手を振って、彼を立たせた。チェスターに他人行儀に振る舞われると、なぜか寂しくなる。そう言いつつ、ついでにスケッチ画をさりげなく懐にしまおうとした。
しかし亀のように首を伸ばしたチェスターが、素早くハロルドの手元を覗き込む。
「あ、この人がハロルド兄のお嫁さん? フーン、すっごく可愛いじゃん」
「……そうだ」
手の中のスケッチ画へ、ハロルドは改めて視線をやった。大きな瞳と形のいい唇が具合良く収まった、やや幼さの残る顔立ち。言い表すとしたら、確かに美しいというより可愛らしいという方が合っている。
チェスターは感心したようにスケッチ画を眺めていたが、不意にハロルドを見上げて、複雑そうな顔をした。
「……大丈夫? この人、ハロルド兄の好みにピッタリだと思うけど……」
その言葉に、ハロルドは思い切り顔をひきつらせた。
――そもそもこの縁談が舞い込んできたのは、今年の初夏。ハロルドが自国フロッケンベルクの王都へ召還されたことから始まった。
フロッケンベルク国は、とても変わった地形をしている。王都の周囲を広大な森が取り囲み、一年の半分はそこが氷雪に覆われて通行不可能となる。森より外側の領地管理は、貴族の領主や、ハロルドのように王家から委任された代理領主の務めだ。いずれも年に一度、夏の間に王都を訪れて、その年の管理状況について報告するよう義務づけられている。もっとも、初夏のうちは他国からの使者が王都に殺到するので、領主の大半は夏の終わる間際に訪問するのが常だった。
ところが今年はハロルドのもとに、『森の通行が可能になり次第、大至急王都へ来るように』との緊急召還状が届いたのだ。
雪の森の上を飛んで手紙を運んできたのは、金属で作られた小さな鳥で、錬金術ギルドの特別空輸便だ。この空輸便は便利で機密性にも優れているのだが、一羽につき一度しか使えないために非常に高価で、緊急の場合しか使われない。逆に言えば、これで伝える用件はそれほど重要なのだという意思表示にもなる。
何事かと驚いたが、さらに意外だったのは、差出人がこの国の軍師だったことだ。
フロッケンベルクの軍師は、稀代の策略家として大陸中にその名をとどろかせていたが、その本名や姿は自国の将軍達にさえ知られていない。軍師と直接言葉を交わせるのは国王のみで、老人か若者か、男か女かも含め、一切の素性が明かされていない謎の人物だ。
当然ながらそんな軍師への不審を訴える家臣も多かったが、極力表に出ないことだけが、軍師が唯一国王に要求する報酬だというのだから、それらの訴えが取り上げられることはなかった。
そんな軍師からの呼び出しを受け、例年よりも随分と早く王都へ向かったハロルドは、国王との謁見を済ませた後、城の奥まった位置にある小部屋に案内された。
存在自体を隠されているかのようなその小部屋は、青いカーテンと瀟洒な調度品で調えられていた。
そこでハロルドは、初めて自国の軍師と対面を果たしたのだ。
長椅子に腰掛けたハロルドは、テーブルを挟んで向かいに座る細身の青年を、まじまじと見つめた。
年齢は二十代半ばといったところだろうか。グレーの髪と、氷河を思わせるアイスブルーの瞳を持ち、顔立ちは女性でも滅多に見ないほど美しい。身なりも仕立てのいいシャツにタイをきちんと巻いており、華美ではないが品の良さが滲み出ている。
国王直筆の紹介状を差し出した彼は、自分が軍師で、無礼は承知だが名は明かせないと言った。
この若い青年が歴戦の軍師とは信じがたいが、実のところフロッケンベルク王家が奇妙な軍師を抱え始めてから、優に二百年は経っている。当然、普通の人間が生きられる年月ではない。つまり『フロッケンベルクの軍師』は、代替わりしつつその地位を継承し、この青年もごく最近軍師の任に就いたのだろう。
その辺りの事情はともかく、問題は軍師が唐突にハロルドを呼び出した理由だった。
『……結婚?』
ハロルドは耳を疑い、聞き返した。
『ええ。我が国の将来のために、ぜひともグランツ将軍には、シシリーナ国のアルブレーヌ伯爵令嬢と婚姻し、彼女と良好な関係を築いていただきたいのです』
軍師はにこやかな笑みを浮かべて頷いた。
……どうやら、気を引き締めすぎて幻聴を聞いたわけではないらしい。
唐突な政略結婚の話に、ハロルドは混乱しかけた頭を必死で整理する。
この数年で、世の中は大きく変わり始めた。数百年にわたり血なまぐさい乱世が続いていたが、それが終焉の兆しを見せ始めたのだ。
まず大陸の主な列強国の間で、いくつかの和平条約が結ばれた。ハロルドの預かる領地でも、以前は国境の警備に力を入れていたが、今は森を開墾し、フロッケンベルク王都と外部が冬でも行き来できるような、広い街道を作ることが主な仕事となっている。これは実質上、王都を守る冬の天然城壁を壊すに等しい。
似たような動きは各国にも広がっていた。街道を整備し、港を整え、戦の代わりに婚姻政策が盛んになった。王族から没落貴族まで、こぞって他国との縁組を求める今、一介の将軍にもそのお鉢が回ってきたというのだろうか。
――しかし、よりによってこの俺に持ちかけるなど、無茶な人だ。
この『軍師』はやはり新任らしいと、ハロルドは内心で溜め息をつく。
ハロルドは勇猛な将軍として知られていたが、極度の恋愛嫌いとしても有名だった。
だが実際には、恋愛が嫌いなのではなく、致命的に不得手なだけである。
自分でも困った欠点とは思っているのだが、好意を持った女性を前にすると、極端に緊張してしまい、非常に無愛想な態度で接してしまうのだ。厳つい外見がまた悪い相乗効果を生み、怯えられて泣かれたり、感じが悪いと怒らせてしまったりしたことも珍しくない。今までの人生で抱いた淡い恋心は、この欠点がことごとく叩き潰してきた。
『軍師殿は、ご存じないのでしょうが、俺……いや、私は女性に関して……』
言いかけたハロルドに、軍師は笑みを崩さずにまた頷いた。
『苦手意識を持っておられる……貴方の欠点は存じた上で、お願いしております』
……知った上で言うのか。余計にタチが悪い。
『しかし……なぜアルブレーヌ伯爵令嬢との結婚が、国のためになるのですか?』
どうにも納得しかねて、ハロルドは尋ねる。
貿易大国シシリーナは戦の際、フロッケンベルクの傭兵団をよく雇う。かの国には、ハロルドも何度か団を率いて加勢した。シシリーナ語も話せるし、大まかな国情も頭に入っている。
確かアルブレーヌ伯爵家といえば、広い領地と古い歴史を持つ貴族だ。しかし、その領地は荒地ばかりで、大陸の主街道からも離れている。過去にあそこが一度も戦場にならなかったのは、戦略的にまったく価値がないからだろう。
すると軍師は、机に並べた紙の束から、一枚の書類を取り出してハロルドに示した。
『これはまだ極秘ですが、錬金術ギルドの調査により、アルブレーヌ領の荒地は希少金属の宝庫だと判明しました』
書類には何種類かの金属名が記されており、それを見てハロルドは目を見張った。錬金術師でない彼にも、一目で貴重と分かるものばかりだ。
『かの地はシシリーナ国内にあるとはいえ、アルブレーヌ家の個人所有地。他国に土地を貸し出すことも認められており、我が国の今後を考えると、ぜひとも伯爵家と友好を深め、採掘権を入手したいのです』
『はぁ、なるほど……』
『ご存じでしょうが、傭兵団はすでに不要となりつつあります』
流麗な声で事実を突きつけられ、ハロルドは黙って頷いた。
極寒のフロッケンベルク国は、農耕や畜産には向かず、外貨を得るために錬金術が発達した。だが、錬金術師にはそれ相応の頭脳と才能が必要とされ、誰でもなれるわけではない。
そこでもう一つの稼ぎ頭が、国営の派遣傭兵団だった。その名の通り、他国に派遣されて戦闘を請け負うフロッケンベルク傭兵団の勇猛さは、大陸中で重宝された。
だが、戦乱の時代が終われば、傭兵団も自然とその役目を終える。つまり、これからフロッケンベルクが頼れるのは、錬金術とそこから発展した工業技術ということだ。そしてそれらの分野において必要となるのが、ここに挙がっているレアメタルである。
表情からハロルドが理解したと察したらしく、軍師は次の事実を明かした。
『もう一つ、今回の調査ついでに判明しましたが、アルブレーヌは最近、魔獣組織にとっても重要地帯となっていました』
『魔獣組織の!?』
思わぬ名を挙げられて、ハロルドは目を見開いた。
兵器用の魔獣を人工的に作り出し売買する組織はいくつかあるが、いずれも組織員のほとんどが各国から逃れた犯罪者である。そのせいか彼らにとって資金や資材は盗みで得るのが常套だ。フロッケンベルクでも深刻な被害が出ており、ハロルドも魔獣を使って領地を荒らす魔獣使い達を多数逮捕した。小さな組織もいくつか潰したが、手ごわい連中はまだまだ残っている。
『アルブレーヌの荒地にのみ生える植物の一種が、魔獣の調教用の餌として理想的だったようで、各魔獣組織がこぞって採取をしております。もちろん、伯爵家には無断で』
軍師の冷たいアイスブルーの瞳に見据えられ、ハロルドの背中を汗が伝う。相手に絡みついてじりじりと凍らせる、毒と氷の蛇を前にした気分だ。
『つまり、採掘権によって荒地を管理することが出来れば、こちらは新たな資源を得て、同時に魔獣組織の資源を断てるのです』
『分かりました……が、シシリーナも魔獣組織には多少なりとも被害をこうむっているはず。アルブレーヌ伯爵も、我々が魔獣組織の無断採取を封じるために動きたい、と言えば協力してくれるのではないでしょうか? そこから友好を深めれば、採掘権だって入手することも可能では?』
何も政略結婚までしなくても……という言葉を呑み込みつつハロルドが指摘すると、軍師は軽く首を振った。
『現伯爵は迷信深く、錬金術や魔法を非常に嫌うのですよ。その上強欲で信頼の置けない人物でしてね。策無くして我が国への協力や、公平な取引きなどはとても期待できません』
容赦のない評価を下した軍師は、アルブレーヌ伯爵家の状況を説明し始めた。
現在、アルブレーヌ伯爵家は事業の失敗により多額の借金を抱えていること。
だがシシリーナ国にとってかの家は重要な存在ではないので、王家も投資家達も積極的に手を貸そうとはしないこと。
もちろんシシリーナ王の家臣である以上、伯爵には王に泣きつき、領地を買い取ってもらうという道もあった。だがそれは家名を地に落とし、貴族社会において抹殺されるも同然の行為なので、伯爵としては避けたかったことなど……
『――そこで、採掘権の話は一旦後に回し、伯爵とは別の交渉をしてまいりました』
軍師は次の書類を差し出す。
ハロルドが伯爵の一人娘シルヴィアを娶り、次期伯爵位はシルヴィアか、彼女とハロルドの間に生まれた子へ譲るという条件で、フロッケンベルク国が伯爵家に多額の結納金を支払う旨が記載されていた。署名欄には、すでにアルブレーヌ伯爵のサインがされている。
書類を凝視しているハロルドに、軍師はニコリと微笑みかけた。
『世間的には、フロッケンベルクがアルブレーヌ領というお荷物を引き受けることで、シシリーナ国に貸しを作り、なおかつ貴方にはその将来性に期待して貴族との縁を与えたとなります』
そしてシルヴィアはこの結婚で一時的にフロッケンベルクの人間となるが、父親亡き後彼女が爵位を継げば、シシリーナ国の女伯爵となる。しかし、婚姻の事実はそのまま残るので、領地は代理人に任せて、グランツ夫人として夫とフロッケンベルクで暮らし続けるもよし、自分で直接管理するもよし……と、両国の法律も詳しく説明された。
そこでアイスブルーの瞳が、ハロルドをひたと見据える。
『そういう事情です、グランツ将軍。採掘権を得るために、次期伯爵となるシルヴィア嬢と、ぜひ友好関係を築いてください』
『っ! しかし……』
流暢な説明にうっかり聞き入ってしまったが、我に返ったハロルドは、さすがに非難の声をあげた。
『それでは伯爵令嬢は、父親に金で売られて結婚するのですか!』
『珍しくもないでしょう? 確かに彼女は貴方の顔も知りませんし、結婚についても彼女抜きで伯爵が承諾しましたが、そもそも貴族に生まれた時点で政略結婚はつきものですよ』
しれっと言い返され、ハロルドは返す言葉を失う。
確かにこれほど婚姻政策が盛んになる以前から、貴族は政略結婚が一般的だ。彼らは幼いうちから、それが当然だと教育される。夫婦となる相手とは、愛ではなく経済や国情など、利害関係で繋がるものだと……
『ちなみにシルヴィア嬢は、少々世間知らずな面こそありますが、性格には特に難のない、健康的な十八歳の女性です。いかがでしょうか?』
そう打診する軍師は、あくまでにこやかで丁重な態度を崩さない。だが、断らせる気がないのは明らかだった。だいたい、国費まで使ってズンズン話を進めているあたり、もう確定も同然ではないか。
『そういう問題ではなく……』
ハロルドは困惑して、言いよどむ。そもそも平民出の無骨な自分と、生まれながらの貴族の姫が、一体どうすれば仲むつまじい夫婦になれるのか想像もつかない。
シルヴィアにとっても、この結婚は押しつけられた以外の何物でもないし、その相手であるハロルドを愛せるとも思えなかった。彼女がこの理不尽な政略結婚を甘受したとしても、仮面夫婦になることは目に見えている。
この結婚が十分に意味のあるものだということは理解したが、彼女との仲が上手くいかなくては元も子もないではないか。
(……いや、待てよ。恋愛感情を挟まなければ、かえって上手くやれるかもしれないな)
渡された書類を眺めるうちに、ふとそんな考えが浮かんだ。そしてそれは瞬く間にハロルドの中に広がっていく。
よく考えれば、互いに恋愛感情が一切無しというのは、逆に好都合ではないか。
ハロルドが女性にひどい態度を取ってしまうのは好意からくる緊張ゆえで、女性全般が苦手だからではない。
その証拠に、領内のご婦人方や一緒に住む使用人の女性達とは、仲良くやっている。
この婚姻の要は、シルヴィアがハロルドと友好的な関係を築き、将来的に快くアルブレーヌ領におけるレアメタル採掘の契約を交わしてくれることだ。
――つまり無理にシルヴィアと恋愛をする必要など、どこにもない。妻という名の取引相手として適度な距離を保ちつつ丁重に接して、友好関係を築きさえすれば良いのか!
そんな結論に行き着いたハロルドの脳裏には、続いて国王夫妻の顔が浮かんでいた。
ハロルドの両親は王宮の衛兵と侍女で、息子が十歳になる前に事故でこの世を去った。しかし両親亡き後も国王夫妻の厚意により、孤児院ではなく、住み慣れた王宮の使用人棟で暮らすことが許され、士官学校にも通わせてもらった。
国王夫妻はハロルドにとって敬愛する君主であると同時に、どれほど感謝しても足りないほどの恩人だった。今の『鋼将軍』があるのも、国王夫妻の恩に報いるために立派な騎士になろうと、ハロルドが必死に腕を磨いた結果だ。だが――
努力を評価されるのは光栄だけれど、爵位が欲しいとまでは思わない。それよりも亡き両親や、仲むつまじいことで評判の国王夫妻のように、伴侶と愛し合い、幸せな家庭を築く方がハロルドにとっては魅力的だ。
とはいえ、自分の欠点とそれによる今までの失敗から考えれば、それは見果てぬ夢だろう。
いっそ個人的な望みなど捨てて、国益となる政略結婚をする方が、はるかに合理的であり、国王夫妻への恩返しにもなるではないだろうか……
考えにふけるハロルドに、軍師が声をかけた。
『シルヴィア嬢の肖像画は用意できませんでしたが、簡単な似顔絵を持参しました。お見せしましょうか?』
机の書類束ではなく、鞄から何かを取り出そうとした軍師に、ハロルドは首を振った。
『いいえ。向こうもこちらの顔を知らないのでしたら、それは公平ではないでしょう』
覚悟を決めて腹をくくり、深く息を吐いた。そうして拳を胸にあてて礼をする。
『このお話を、謹んでお受けいたします。また、シルヴィア嬢には誠意を持って接することを誓います』
『ああ……これで安心しました。不躾なお願いをご了承いただき、ありがとうございます』
にこやかに微笑んだ軍師が白々しくそう言い、先ほど取り出しかけた紙を見せる。
『しかし、念のためにシルヴィア嬢のお顔は知っておいてください。もう婚約は決まったのですから、不公平でもないでしょう』
『はぁ……』
小さく折りたたまれた厚手の紙をハロルドは受け取った。確かに、こんな戦略的な婚姻を決めた以上は、相手の情報を早く知っておくに越したことはないだろう。
そう思い、紙を丁寧に開き……あやうく長椅子ごとひっくり返りそうになった。
……失敗した!! 先にこれを見ていれば……っ! 誰の命令だろうと、この政略結婚は絶対に無理だと、すっぱり言い切ったのに!!
スケッチ画に描かれた美しい少女は、どこかの窓辺で頬杖をつき、うっとりとした眼差しで、はるか遠くを見つめていた。可愛らしい口元は小さく自然に微笑み、夢見るような瞳にはほんの少しだけ、寂しげな陰が浮かんでいるような気がする。
どこか儚げな雰囲気を漂わせる可憐な美少女を凝視し、ハロルドは無言で全身をブルブル震わせた。
――まずい。この美少女に、愛想よく話しかけられる自信が、微塵もない!!
まだ実際に会ったこともないのに、すでに一目惚れしてしまった。スケッチ画の中の伯爵令嬢は、それほど強烈にハロルドを惹きつけたのだ。
『ぐ、軍師殿……やはり俺に、この結婚は無理です』
盛大に冷や汗をかき、ハロルドは震える手でスケッチ画を返そうとした。しかし、軍師は受け取ろうとせず、笑顔のままで首を傾げる。
『おや。このタイプの女性は、貴方の好みだと思いましたが』
『ええ、その通りです! だから困るんです!』
今まで冷静であるように努めてきたが、もう限界だった。動揺のあまり、ハロルドは立ち上がって悲痛な声で訴える。
『俺の欠点を知っているのでしょう!? こんな美人を前にしたら、確実に怒らせてしまいます!』
いきり立つ屈強なハロルドを前にしても、いかにも文弱そうな軍師はまるで動じなかった。
『すみませんが、一度引き受けたからには、無理にでもこなしていただきますよ』
すっかり冷めてしまった茶を優雅に一口すすり、軍師は口端に狡猾な笑みを浮かべる。
『こちらとしては、採掘権をもぎ取ることさえ出来れば良いのです。正攻法でも邪道な方法でも……その手段は、彼女の夫となる貴方にお任せいたします』
(……嵌められた!)
軍師とのやり取りを回想し、ハロルドはギリギリと唇を噛みしめる。自分で決断した以上、仕方ないとは思うが、まんまと手の上で転がされた感があるのは否めない。
「ハロルド兄?」
「っ! あ、ああ……。なんでもない」
不思議そうなチェスターに声をかけられ、我に返ったハロルドは、急いでスケッチ画を内ポケットにしまい込んだ。
必死で冷静さを保ってきたが、今日改めてスケッチ画を見ているうちに、ハロルドはまたもや限界を迎えていた。
昨夜会った本物のシルヴィアは、紛れもなくスケッチ画から受けた印象そのまま……むしろそれ以上の可憐さだった。画からは知ることの出来なかった可愛らしい声も、思い出しただけで胸が締めつけられ、身悶えしたくなる。
しかし……おかげでまともに話しかけられる自信は、一切なくなった。
あと数時間のちには、伯爵の城へシルヴィアを迎えに行かなければならないのに、恐らく……いや確実に彼女を前にしたら、緊張のあまり睨みつけてしまうだろう。
言うことを聞かない、己の表情筋が憎い!!
「……それより、実は昨夜……」
内心で涙を堪えつつ、ハロルドはチェスターに昨夜の詳細を話し始めた。
――そして数時間後。
ハロルド達の馬車が城に着くと、美しい水色のドレスを着たシルヴィアが、荷物を詰めたいくつかの木箱とともに、すでに門前で待っていた。
伯爵は挨拶もそこそこに、召使達に命じて馬車の屋根へ木箱を積み込ませる。彼のフロッケンベルク嫌いは相当らしく、ハロルドが手を差し出すも、気づかないふりをして握手を避けた。軍師が彼と土地についての交渉を避けたのは当然だと、ハロルドは密かに納得した。
荷物を積み終え、最後にシルヴィアがおずおずと馬車の座席に乗り込むと、伯爵は素早く踵を返し、そのまま振り返りもしないで居館への小道を歩き去ってしまった。
あまりに無礼な伯爵の態度に、メイド達や騎士隊長が恐縮した様子で頭を下げる。ハロルド達は怒りを通りこして唖然としていたから、肩をすくめただけで済ませた。
ハロルドは馬車でシルヴィアと向かい合わせに座り、五人の部下達は騎馬で周囲を護衛する。
準備が整ったところで御者台のチェスターが軽く鞭を鳴らすと、逞しい六頭の馬が馬車を引き始めた。部下達は馬を走らせながら、気まずい空気から逃げ出せたとほっと顔を見合わせる。
しかし、シルヴィアと同乗するハロルドは、とても肩の力を抜くことなど出来ない。何しろシルヴィアには侍女の一人もつけられず、馬車の中は二人きりなのだ。
錬金術ギルド製の馬車は振動も少なく、内部も広々として快適だ。カーテンや柔らかいクッションも用意され、馬車旅に不慣れな者でも酔わないようにとの細やかな配慮が為されている。
それでも立ち込める重苦しい空気だけは、どうしようもない。
非常に居心地悪い気分で、ハロルドは顔を逸らしたまま、視線だけでそっとシルヴィアの様子を窺う。
今朝の彼女は、まるでこれから夜会にでも行くのかと思うほど華やかに飾り立てられていた。身体にピッタリと沿った細身のドレスに、真珠のアクセサリーを合わせ、舞踏靴を履き、銀髪は凝った形に結われていくつもの髪飾りが煌めいている。とても美しいが、その濃すぎるほどの化粧でもやつれた様子は隠し切れない。涙こそ浮かべていないものの、城を出る前から一言も口をきかず、顔を強張らせて、座席の片隅で身を縮ませている。
ハロルドはふと、わずかに身じろぎした。それだけで剥き出しの細い肩が弾かれたように震える。顔は青ざめるのを通りこし、完全に血の気が引いている。
「コホン、その……」
「はっ、はいっ!?」
ハロルドが口を開くと、ぷるぷると震えっぱなしの彼女から、気の毒なほど裏返った声が返ってくる。
たとえばそう……臆病な子ウサギが、獰猛な狼と一緒に檻に放り込まれたら、きっとこんな反応をするのではなかろうか。
自分と対角線の位置にあたる角部分に座り、背もたれと馬車の壁にめり込みそうなほど身体を押しつけているのは、少しでも自分から離れようとしているから……などと思うのは気のせいだ……ろうか?
なぜか急に、背もたれのクッションを顔の前に抱えて隠れたのは、狼の視線から逃れようとしているから……など、思い過ごしだよな!?
昨夜、シルヴィアの中で自分への好感度は限りなく地に落ちた。それは認める。ここまで落ちれば、もはや失うものはない! 重要なのはこれから、いかに挽回するかだ!! ……と、先ほどは思っていた。
しかし、なぜか……好感度が地下層へめり込んでいるというか……昨日より格段に怯えられているのだが!?
ハロルドの背中を、冷や汗が滝のように伝い落ちる。
(な、何か……話題を……)
耐え難い沈黙を打ち破ろうと、ハロルドは緊張で麻痺した思考を必死に巡らせる。
(っ……そうだ! 旅の日程だ!!)
昨夜の顛末を聞いたチェスターから、ハロルドが旅の日程や道中の見所などを教えてあげれば、きっと安心して信頼も生まれるだろうと提案されたのだ。
ようやく言うべきことを思い出し、拳を握り締めて気合を入れる。
ハロルドの管理するバルシュミーデ領は、フロッケンベルクの南端に位置するが、現在地からは随分と北上せねばならず、順調にいっても七日間はかかる長旅だ。
今日の夕方にはアルブレーヌ領を出て、そこから他の領地をいくつか通行し、二日後にはシシリーナの北の国境に到達する予定である。
シシリーナ国とフロッケンベルク国との合間には、小さな自治国家が多数存在し、それらの城塞都市を通過しながら四日ほど進む。
最後に大きな山の麓を迂回して北側に出れば、もうそこがフロッケンベルクの領土であり、ハロルドの治めるバルシュミーデ領だ。
……それらの道筋を、頭の中でよくおさらいして、ハロルドは深呼吸した。
向かいの席でクッションの陰から、水色の瞳が不安そうにチラリと覗く。落ち着けと自分を諌めながら、ハロルドは慎重に口を開いた。
ハロルドはやや上擦った声で返し、とっさにスケッチ画を後ろに隠した。確かに彼とはここで落ち合う予定になっていたが、全く気配を感じなかった。あいかわらず神出鬼没な少年だ。
「うん。まさかこれから一年も兄さんの従者になるなんて思ってもいなかったから、緊張しちゃってさ。早く着きすぎちゃったよ」
チェスターはそう言ったものの、こげ茶色の瞳は陽気そのもので、緊張など微塵も感じさせない。
彼は来年の夏まで隊商を離れて、ハロルドの従者として働くことになっていた。チェスターも十五歳になったので、そろそろ次期首領として見聞を深めさせたいと、現首領である彼の母親から預かったのだ。
「チェスター・バーグレイ。本日より、グランツ将軍の従者としてお仕えいたします!」
チェスターは片膝をつき、完璧な礼をした。普段の彼は自由奔放に振る舞いながらも、やろうと思えば宮廷作法から上品な食事マナー、そして社交ダンスまで見事にこなしてみせる。今さら従者生活で何を学ぶ必要があるのかと不思議に思うほどだ。
「分かった。だが、公的な場以外はいつもの呼び方と振る舞いでいい」
ハロルドは手を振って、彼を立たせた。チェスターに他人行儀に振る舞われると、なぜか寂しくなる。そう言いつつ、ついでにスケッチ画をさりげなく懐にしまおうとした。
しかし亀のように首を伸ばしたチェスターが、素早くハロルドの手元を覗き込む。
「あ、この人がハロルド兄のお嫁さん? フーン、すっごく可愛いじゃん」
「……そうだ」
手の中のスケッチ画へ、ハロルドは改めて視線をやった。大きな瞳と形のいい唇が具合良く収まった、やや幼さの残る顔立ち。言い表すとしたら、確かに美しいというより可愛らしいという方が合っている。
チェスターは感心したようにスケッチ画を眺めていたが、不意にハロルドを見上げて、複雑そうな顔をした。
「……大丈夫? この人、ハロルド兄の好みにピッタリだと思うけど……」
その言葉に、ハロルドは思い切り顔をひきつらせた。
――そもそもこの縁談が舞い込んできたのは、今年の初夏。ハロルドが自国フロッケンベルクの王都へ召還されたことから始まった。
フロッケンベルク国は、とても変わった地形をしている。王都の周囲を広大な森が取り囲み、一年の半分はそこが氷雪に覆われて通行不可能となる。森より外側の領地管理は、貴族の領主や、ハロルドのように王家から委任された代理領主の務めだ。いずれも年に一度、夏の間に王都を訪れて、その年の管理状況について報告するよう義務づけられている。もっとも、初夏のうちは他国からの使者が王都に殺到するので、領主の大半は夏の終わる間際に訪問するのが常だった。
ところが今年はハロルドのもとに、『森の通行が可能になり次第、大至急王都へ来るように』との緊急召還状が届いたのだ。
雪の森の上を飛んで手紙を運んできたのは、金属で作られた小さな鳥で、錬金術ギルドの特別空輸便だ。この空輸便は便利で機密性にも優れているのだが、一羽につき一度しか使えないために非常に高価で、緊急の場合しか使われない。逆に言えば、これで伝える用件はそれほど重要なのだという意思表示にもなる。
何事かと驚いたが、さらに意外だったのは、差出人がこの国の軍師だったことだ。
フロッケンベルクの軍師は、稀代の策略家として大陸中にその名をとどろかせていたが、その本名や姿は自国の将軍達にさえ知られていない。軍師と直接言葉を交わせるのは国王のみで、老人か若者か、男か女かも含め、一切の素性が明かされていない謎の人物だ。
当然ながらそんな軍師への不審を訴える家臣も多かったが、極力表に出ないことだけが、軍師が唯一国王に要求する報酬だというのだから、それらの訴えが取り上げられることはなかった。
そんな軍師からの呼び出しを受け、例年よりも随分と早く王都へ向かったハロルドは、国王との謁見を済ませた後、城の奥まった位置にある小部屋に案内された。
存在自体を隠されているかのようなその小部屋は、青いカーテンと瀟洒な調度品で調えられていた。
そこでハロルドは、初めて自国の軍師と対面を果たしたのだ。
長椅子に腰掛けたハロルドは、テーブルを挟んで向かいに座る細身の青年を、まじまじと見つめた。
年齢は二十代半ばといったところだろうか。グレーの髪と、氷河を思わせるアイスブルーの瞳を持ち、顔立ちは女性でも滅多に見ないほど美しい。身なりも仕立てのいいシャツにタイをきちんと巻いており、華美ではないが品の良さが滲み出ている。
国王直筆の紹介状を差し出した彼は、自分が軍師で、無礼は承知だが名は明かせないと言った。
この若い青年が歴戦の軍師とは信じがたいが、実のところフロッケンベルク王家が奇妙な軍師を抱え始めてから、優に二百年は経っている。当然、普通の人間が生きられる年月ではない。つまり『フロッケンベルクの軍師』は、代替わりしつつその地位を継承し、この青年もごく最近軍師の任に就いたのだろう。
その辺りの事情はともかく、問題は軍師が唐突にハロルドを呼び出した理由だった。
『……結婚?』
ハロルドは耳を疑い、聞き返した。
『ええ。我が国の将来のために、ぜひともグランツ将軍には、シシリーナ国のアルブレーヌ伯爵令嬢と婚姻し、彼女と良好な関係を築いていただきたいのです』
軍師はにこやかな笑みを浮かべて頷いた。
……どうやら、気を引き締めすぎて幻聴を聞いたわけではないらしい。
唐突な政略結婚の話に、ハロルドは混乱しかけた頭を必死で整理する。
この数年で、世の中は大きく変わり始めた。数百年にわたり血なまぐさい乱世が続いていたが、それが終焉の兆しを見せ始めたのだ。
まず大陸の主な列強国の間で、いくつかの和平条約が結ばれた。ハロルドの預かる領地でも、以前は国境の警備に力を入れていたが、今は森を開墾し、フロッケンベルク王都と外部が冬でも行き来できるような、広い街道を作ることが主な仕事となっている。これは実質上、王都を守る冬の天然城壁を壊すに等しい。
似たような動きは各国にも広がっていた。街道を整備し、港を整え、戦の代わりに婚姻政策が盛んになった。王族から没落貴族まで、こぞって他国との縁組を求める今、一介の将軍にもそのお鉢が回ってきたというのだろうか。
――しかし、よりによってこの俺に持ちかけるなど、無茶な人だ。
この『軍師』はやはり新任らしいと、ハロルドは内心で溜め息をつく。
ハロルドは勇猛な将軍として知られていたが、極度の恋愛嫌いとしても有名だった。
だが実際には、恋愛が嫌いなのではなく、致命的に不得手なだけである。
自分でも困った欠点とは思っているのだが、好意を持った女性を前にすると、極端に緊張してしまい、非常に無愛想な態度で接してしまうのだ。厳つい外見がまた悪い相乗効果を生み、怯えられて泣かれたり、感じが悪いと怒らせてしまったりしたことも珍しくない。今までの人生で抱いた淡い恋心は、この欠点がことごとく叩き潰してきた。
『軍師殿は、ご存じないのでしょうが、俺……いや、私は女性に関して……』
言いかけたハロルドに、軍師は笑みを崩さずにまた頷いた。
『苦手意識を持っておられる……貴方の欠点は存じた上で、お願いしております』
……知った上で言うのか。余計にタチが悪い。
『しかし……なぜアルブレーヌ伯爵令嬢との結婚が、国のためになるのですか?』
どうにも納得しかねて、ハロルドは尋ねる。
貿易大国シシリーナは戦の際、フロッケンベルクの傭兵団をよく雇う。かの国には、ハロルドも何度か団を率いて加勢した。シシリーナ語も話せるし、大まかな国情も頭に入っている。
確かアルブレーヌ伯爵家といえば、広い領地と古い歴史を持つ貴族だ。しかし、その領地は荒地ばかりで、大陸の主街道からも離れている。過去にあそこが一度も戦場にならなかったのは、戦略的にまったく価値がないからだろう。
すると軍師は、机に並べた紙の束から、一枚の書類を取り出してハロルドに示した。
『これはまだ極秘ですが、錬金術ギルドの調査により、アルブレーヌ領の荒地は希少金属の宝庫だと判明しました』
書類には何種類かの金属名が記されており、それを見てハロルドは目を見張った。錬金術師でない彼にも、一目で貴重と分かるものばかりだ。
『かの地はシシリーナ国内にあるとはいえ、アルブレーヌ家の個人所有地。他国に土地を貸し出すことも認められており、我が国の今後を考えると、ぜひとも伯爵家と友好を深め、採掘権を入手したいのです』
『はぁ、なるほど……』
『ご存じでしょうが、傭兵団はすでに不要となりつつあります』
流麗な声で事実を突きつけられ、ハロルドは黙って頷いた。
極寒のフロッケンベルク国は、農耕や畜産には向かず、外貨を得るために錬金術が発達した。だが、錬金術師にはそれ相応の頭脳と才能が必要とされ、誰でもなれるわけではない。
そこでもう一つの稼ぎ頭が、国営の派遣傭兵団だった。その名の通り、他国に派遣されて戦闘を請け負うフロッケンベルク傭兵団の勇猛さは、大陸中で重宝された。
だが、戦乱の時代が終われば、傭兵団も自然とその役目を終える。つまり、これからフロッケンベルクが頼れるのは、錬金術とそこから発展した工業技術ということだ。そしてそれらの分野において必要となるのが、ここに挙がっているレアメタルである。
表情からハロルドが理解したと察したらしく、軍師は次の事実を明かした。
『もう一つ、今回の調査ついでに判明しましたが、アルブレーヌは最近、魔獣組織にとっても重要地帯となっていました』
『魔獣組織の!?』
思わぬ名を挙げられて、ハロルドは目を見開いた。
兵器用の魔獣を人工的に作り出し売買する組織はいくつかあるが、いずれも組織員のほとんどが各国から逃れた犯罪者である。そのせいか彼らにとって資金や資材は盗みで得るのが常套だ。フロッケンベルクでも深刻な被害が出ており、ハロルドも魔獣を使って領地を荒らす魔獣使い達を多数逮捕した。小さな組織もいくつか潰したが、手ごわい連中はまだまだ残っている。
『アルブレーヌの荒地にのみ生える植物の一種が、魔獣の調教用の餌として理想的だったようで、各魔獣組織がこぞって採取をしております。もちろん、伯爵家には無断で』
軍師の冷たいアイスブルーの瞳に見据えられ、ハロルドの背中を汗が伝う。相手に絡みついてじりじりと凍らせる、毒と氷の蛇を前にした気分だ。
『つまり、採掘権によって荒地を管理することが出来れば、こちらは新たな資源を得て、同時に魔獣組織の資源を断てるのです』
『分かりました……が、シシリーナも魔獣組織には多少なりとも被害をこうむっているはず。アルブレーヌ伯爵も、我々が魔獣組織の無断採取を封じるために動きたい、と言えば協力してくれるのではないでしょうか? そこから友好を深めれば、採掘権だって入手することも可能では?』
何も政略結婚までしなくても……という言葉を呑み込みつつハロルドが指摘すると、軍師は軽く首を振った。
『現伯爵は迷信深く、錬金術や魔法を非常に嫌うのですよ。その上強欲で信頼の置けない人物でしてね。策無くして我が国への協力や、公平な取引きなどはとても期待できません』
容赦のない評価を下した軍師は、アルブレーヌ伯爵家の状況を説明し始めた。
現在、アルブレーヌ伯爵家は事業の失敗により多額の借金を抱えていること。
だがシシリーナ国にとってかの家は重要な存在ではないので、王家も投資家達も積極的に手を貸そうとはしないこと。
もちろんシシリーナ王の家臣である以上、伯爵には王に泣きつき、領地を買い取ってもらうという道もあった。だがそれは家名を地に落とし、貴族社会において抹殺されるも同然の行為なので、伯爵としては避けたかったことなど……
『――そこで、採掘権の話は一旦後に回し、伯爵とは別の交渉をしてまいりました』
軍師は次の書類を差し出す。
ハロルドが伯爵の一人娘シルヴィアを娶り、次期伯爵位はシルヴィアか、彼女とハロルドの間に生まれた子へ譲るという条件で、フロッケンベルク国が伯爵家に多額の結納金を支払う旨が記載されていた。署名欄には、すでにアルブレーヌ伯爵のサインがされている。
書類を凝視しているハロルドに、軍師はニコリと微笑みかけた。
『世間的には、フロッケンベルクがアルブレーヌ領というお荷物を引き受けることで、シシリーナ国に貸しを作り、なおかつ貴方にはその将来性に期待して貴族との縁を与えたとなります』
そしてシルヴィアはこの結婚で一時的にフロッケンベルクの人間となるが、父親亡き後彼女が爵位を継げば、シシリーナ国の女伯爵となる。しかし、婚姻の事実はそのまま残るので、領地は代理人に任せて、グランツ夫人として夫とフロッケンベルクで暮らし続けるもよし、自分で直接管理するもよし……と、両国の法律も詳しく説明された。
そこでアイスブルーの瞳が、ハロルドをひたと見据える。
『そういう事情です、グランツ将軍。採掘権を得るために、次期伯爵となるシルヴィア嬢と、ぜひ友好関係を築いてください』
『っ! しかし……』
流暢な説明にうっかり聞き入ってしまったが、我に返ったハロルドは、さすがに非難の声をあげた。
『それでは伯爵令嬢は、父親に金で売られて結婚するのですか!』
『珍しくもないでしょう? 確かに彼女は貴方の顔も知りませんし、結婚についても彼女抜きで伯爵が承諾しましたが、そもそも貴族に生まれた時点で政略結婚はつきものですよ』
しれっと言い返され、ハロルドは返す言葉を失う。
確かにこれほど婚姻政策が盛んになる以前から、貴族は政略結婚が一般的だ。彼らは幼いうちから、それが当然だと教育される。夫婦となる相手とは、愛ではなく経済や国情など、利害関係で繋がるものだと……
『ちなみにシルヴィア嬢は、少々世間知らずな面こそありますが、性格には特に難のない、健康的な十八歳の女性です。いかがでしょうか?』
そう打診する軍師は、あくまでにこやかで丁重な態度を崩さない。だが、断らせる気がないのは明らかだった。だいたい、国費まで使ってズンズン話を進めているあたり、もう確定も同然ではないか。
『そういう問題ではなく……』
ハロルドは困惑して、言いよどむ。そもそも平民出の無骨な自分と、生まれながらの貴族の姫が、一体どうすれば仲むつまじい夫婦になれるのか想像もつかない。
シルヴィアにとっても、この結婚は押しつけられた以外の何物でもないし、その相手であるハロルドを愛せるとも思えなかった。彼女がこの理不尽な政略結婚を甘受したとしても、仮面夫婦になることは目に見えている。
この結婚が十分に意味のあるものだということは理解したが、彼女との仲が上手くいかなくては元も子もないではないか。
(……いや、待てよ。恋愛感情を挟まなければ、かえって上手くやれるかもしれないな)
渡された書類を眺めるうちに、ふとそんな考えが浮かんだ。そしてそれは瞬く間にハロルドの中に広がっていく。
よく考えれば、互いに恋愛感情が一切無しというのは、逆に好都合ではないか。
ハロルドが女性にひどい態度を取ってしまうのは好意からくる緊張ゆえで、女性全般が苦手だからではない。
その証拠に、領内のご婦人方や一緒に住む使用人の女性達とは、仲良くやっている。
この婚姻の要は、シルヴィアがハロルドと友好的な関係を築き、将来的に快くアルブレーヌ領におけるレアメタル採掘の契約を交わしてくれることだ。
――つまり無理にシルヴィアと恋愛をする必要など、どこにもない。妻という名の取引相手として適度な距離を保ちつつ丁重に接して、友好関係を築きさえすれば良いのか!
そんな結論に行き着いたハロルドの脳裏には、続いて国王夫妻の顔が浮かんでいた。
ハロルドの両親は王宮の衛兵と侍女で、息子が十歳になる前に事故でこの世を去った。しかし両親亡き後も国王夫妻の厚意により、孤児院ではなく、住み慣れた王宮の使用人棟で暮らすことが許され、士官学校にも通わせてもらった。
国王夫妻はハロルドにとって敬愛する君主であると同時に、どれほど感謝しても足りないほどの恩人だった。今の『鋼将軍』があるのも、国王夫妻の恩に報いるために立派な騎士になろうと、ハロルドが必死に腕を磨いた結果だ。だが――
努力を評価されるのは光栄だけれど、爵位が欲しいとまでは思わない。それよりも亡き両親や、仲むつまじいことで評判の国王夫妻のように、伴侶と愛し合い、幸せな家庭を築く方がハロルドにとっては魅力的だ。
とはいえ、自分の欠点とそれによる今までの失敗から考えれば、それは見果てぬ夢だろう。
いっそ個人的な望みなど捨てて、国益となる政略結婚をする方が、はるかに合理的であり、国王夫妻への恩返しにもなるではないだろうか……
考えにふけるハロルドに、軍師が声をかけた。
『シルヴィア嬢の肖像画は用意できませんでしたが、簡単な似顔絵を持参しました。お見せしましょうか?』
机の書類束ではなく、鞄から何かを取り出そうとした軍師に、ハロルドは首を振った。
『いいえ。向こうもこちらの顔を知らないのでしたら、それは公平ではないでしょう』
覚悟を決めて腹をくくり、深く息を吐いた。そうして拳を胸にあてて礼をする。
『このお話を、謹んでお受けいたします。また、シルヴィア嬢には誠意を持って接することを誓います』
『ああ……これで安心しました。不躾なお願いをご了承いただき、ありがとうございます』
にこやかに微笑んだ軍師が白々しくそう言い、先ほど取り出しかけた紙を見せる。
『しかし、念のためにシルヴィア嬢のお顔は知っておいてください。もう婚約は決まったのですから、不公平でもないでしょう』
『はぁ……』
小さく折りたたまれた厚手の紙をハロルドは受け取った。確かに、こんな戦略的な婚姻を決めた以上は、相手の情報を早く知っておくに越したことはないだろう。
そう思い、紙を丁寧に開き……あやうく長椅子ごとひっくり返りそうになった。
……失敗した!! 先にこれを見ていれば……っ! 誰の命令だろうと、この政略結婚は絶対に無理だと、すっぱり言い切ったのに!!
スケッチ画に描かれた美しい少女は、どこかの窓辺で頬杖をつき、うっとりとした眼差しで、はるか遠くを見つめていた。可愛らしい口元は小さく自然に微笑み、夢見るような瞳にはほんの少しだけ、寂しげな陰が浮かんでいるような気がする。
どこか儚げな雰囲気を漂わせる可憐な美少女を凝視し、ハロルドは無言で全身をブルブル震わせた。
――まずい。この美少女に、愛想よく話しかけられる自信が、微塵もない!!
まだ実際に会ったこともないのに、すでに一目惚れしてしまった。スケッチ画の中の伯爵令嬢は、それほど強烈にハロルドを惹きつけたのだ。
『ぐ、軍師殿……やはり俺に、この結婚は無理です』
盛大に冷や汗をかき、ハロルドは震える手でスケッチ画を返そうとした。しかし、軍師は受け取ろうとせず、笑顔のままで首を傾げる。
『おや。このタイプの女性は、貴方の好みだと思いましたが』
『ええ、その通りです! だから困るんです!』
今まで冷静であるように努めてきたが、もう限界だった。動揺のあまり、ハロルドは立ち上がって悲痛な声で訴える。
『俺の欠点を知っているのでしょう!? こんな美人を前にしたら、確実に怒らせてしまいます!』
いきり立つ屈強なハロルドを前にしても、いかにも文弱そうな軍師はまるで動じなかった。
『すみませんが、一度引き受けたからには、無理にでもこなしていただきますよ』
すっかり冷めてしまった茶を優雅に一口すすり、軍師は口端に狡猾な笑みを浮かべる。
『こちらとしては、採掘権をもぎ取ることさえ出来れば良いのです。正攻法でも邪道な方法でも……その手段は、彼女の夫となる貴方にお任せいたします』
(……嵌められた!)
軍師とのやり取りを回想し、ハロルドはギリギリと唇を噛みしめる。自分で決断した以上、仕方ないとは思うが、まんまと手の上で転がされた感があるのは否めない。
「ハロルド兄?」
「っ! あ、ああ……。なんでもない」
不思議そうなチェスターに声をかけられ、我に返ったハロルドは、急いでスケッチ画を内ポケットにしまい込んだ。
必死で冷静さを保ってきたが、今日改めてスケッチ画を見ているうちに、ハロルドはまたもや限界を迎えていた。
昨夜会った本物のシルヴィアは、紛れもなくスケッチ画から受けた印象そのまま……むしろそれ以上の可憐さだった。画からは知ることの出来なかった可愛らしい声も、思い出しただけで胸が締めつけられ、身悶えしたくなる。
しかし……おかげでまともに話しかけられる自信は、一切なくなった。
あと数時間のちには、伯爵の城へシルヴィアを迎えに行かなければならないのに、恐らく……いや確実に彼女を前にしたら、緊張のあまり睨みつけてしまうだろう。
言うことを聞かない、己の表情筋が憎い!!
「……それより、実は昨夜……」
内心で涙を堪えつつ、ハロルドはチェスターに昨夜の詳細を話し始めた。
――そして数時間後。
ハロルド達の馬車が城に着くと、美しい水色のドレスを着たシルヴィアが、荷物を詰めたいくつかの木箱とともに、すでに門前で待っていた。
伯爵は挨拶もそこそこに、召使達に命じて馬車の屋根へ木箱を積み込ませる。彼のフロッケンベルク嫌いは相当らしく、ハロルドが手を差し出すも、気づかないふりをして握手を避けた。軍師が彼と土地についての交渉を避けたのは当然だと、ハロルドは密かに納得した。
荷物を積み終え、最後にシルヴィアがおずおずと馬車の座席に乗り込むと、伯爵は素早く踵を返し、そのまま振り返りもしないで居館への小道を歩き去ってしまった。
あまりに無礼な伯爵の態度に、メイド達や騎士隊長が恐縮した様子で頭を下げる。ハロルド達は怒りを通りこして唖然としていたから、肩をすくめただけで済ませた。
ハロルドは馬車でシルヴィアと向かい合わせに座り、五人の部下達は騎馬で周囲を護衛する。
準備が整ったところで御者台のチェスターが軽く鞭を鳴らすと、逞しい六頭の馬が馬車を引き始めた。部下達は馬を走らせながら、気まずい空気から逃げ出せたとほっと顔を見合わせる。
しかし、シルヴィアと同乗するハロルドは、とても肩の力を抜くことなど出来ない。何しろシルヴィアには侍女の一人もつけられず、馬車の中は二人きりなのだ。
錬金術ギルド製の馬車は振動も少なく、内部も広々として快適だ。カーテンや柔らかいクッションも用意され、馬車旅に不慣れな者でも酔わないようにとの細やかな配慮が為されている。
それでも立ち込める重苦しい空気だけは、どうしようもない。
非常に居心地悪い気分で、ハロルドは顔を逸らしたまま、視線だけでそっとシルヴィアの様子を窺う。
今朝の彼女は、まるでこれから夜会にでも行くのかと思うほど華やかに飾り立てられていた。身体にピッタリと沿った細身のドレスに、真珠のアクセサリーを合わせ、舞踏靴を履き、銀髪は凝った形に結われていくつもの髪飾りが煌めいている。とても美しいが、その濃すぎるほどの化粧でもやつれた様子は隠し切れない。涙こそ浮かべていないものの、城を出る前から一言も口をきかず、顔を強張らせて、座席の片隅で身を縮ませている。
ハロルドはふと、わずかに身じろぎした。それだけで剥き出しの細い肩が弾かれたように震える。顔は青ざめるのを通りこし、完全に血の気が引いている。
「コホン、その……」
「はっ、はいっ!?」
ハロルドが口を開くと、ぷるぷると震えっぱなしの彼女から、気の毒なほど裏返った声が返ってくる。
たとえばそう……臆病な子ウサギが、獰猛な狼と一緒に檻に放り込まれたら、きっとこんな反応をするのではなかろうか。
自分と対角線の位置にあたる角部分に座り、背もたれと馬車の壁にめり込みそうなほど身体を押しつけているのは、少しでも自分から離れようとしているから……などと思うのは気のせいだ……ろうか?
なぜか急に、背もたれのクッションを顔の前に抱えて隠れたのは、狼の視線から逃れようとしているから……など、思い過ごしだよな!?
昨夜、シルヴィアの中で自分への好感度は限りなく地に落ちた。それは認める。ここまで落ちれば、もはや失うものはない! 重要なのはこれから、いかに挽回するかだ!! ……と、先ほどは思っていた。
しかし、なぜか……好感度が地下層へめり込んでいるというか……昨日より格段に怯えられているのだが!?
ハロルドの背中を、冷や汗が滝のように伝い落ちる。
(な、何か……話題を……)
耐え難い沈黙を打ち破ろうと、ハロルドは緊張で麻痺した思考を必死に巡らせる。
(っ……そうだ! 旅の日程だ!!)
昨夜の顛末を聞いたチェスターから、ハロルドが旅の日程や道中の見所などを教えてあげれば、きっと安心して信頼も生まれるだろうと提案されたのだ。
ようやく言うべきことを思い出し、拳を握り締めて気合を入れる。
ハロルドの管理するバルシュミーデ領は、フロッケンベルクの南端に位置するが、現在地からは随分と北上せねばならず、順調にいっても七日間はかかる長旅だ。
今日の夕方にはアルブレーヌ領を出て、そこから他の領地をいくつか通行し、二日後にはシシリーナの北の国境に到達する予定である。
シシリーナ国とフロッケンベルク国との合間には、小さな自治国家が多数存在し、それらの城塞都市を通過しながら四日ほど進む。
最後に大きな山の麓を迂回して北側に出れば、もうそこがフロッケンベルクの領土であり、ハロルドの治めるバルシュミーデ領だ。
……それらの道筋を、頭の中でよくおさらいして、ハロルドは深呼吸した。
向かいの席でクッションの陰から、水色の瞳が不安そうにチラリと覗く。落ち着けと自分を諌めながら、ハロルドは慎重に口を開いた。
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