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1巻
1-2
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『鋼将軍』の噂だけを聞いていた時は、どんなに怖そうな人かと思っていた。噂の中には敵兵を無残に斬り殺すとか、女子どもにも容赦しないなどといった恐ろしげな話も多数含まれていて、どれもシルヴィアを震え上がらせた。
たった今も、シルヴィアが婚礼を嫌がっているのを知りながら、冷酷にシルヴィアを捕らえて逃がそうとはしなかった。
けれど……その前に抱き止められた感触が、まだ身体に残っている。たった数分だけれど、あんなに安心させてくれた人は、塔から出て初めてだ。それもまた、紛れもない事実だった。
だから、彼がシルヴィアの秘密を知って失望し、父のように罵ってくる姿は見たくない。
怖くて未だハロルドを見上げることは出来なかったが、それでも俯いたまま告げた。
「私は貴方の妻に、なりたくありません」
今ならまだ間に合う。結婚前夜に逃げ出した上に、こんな無礼なことを言う女など、いらないと言ってくれれば……
固唾を呑んで兵達が見守る中、ハロルドは無言だった。俯いたままでも、彼の鋭い視線を痛いほど感じる。
やがて静かに、だがきっぱりと告げられる。
「……明日、お迎えに上がります」
そして二本の逞しい腕がシルヴィアを軽々と抱きかかえ、騎士の馬へと乗せた。
伯爵家の騎士達は二手に別れ、一方はシルヴィアを護衛して城に戻り、残った騎士達は地面に転がる死体の片付けに取りかかった。ハロルドは騎士達からのいくつかの質問に答えた後、さっさとその場を退散すべく、木立の奥に隠してあった馬の綱を解き、鞍に飛び乗った。
両脇にプラタナスの木が行儀よく植えられた田舎道で、ゆっくりと馬を歩かせる。ハロルドは今夜、部下達と一緒に近くの宿に滞在することになっている。そこに戻るまでに少し頭を冷やしたい。
秋の星座が煌めく夜空を見上げ、溜め息をつく。
――運命とやらはひどい悪戯好きだ。
シルヴィアを襲おうとしていたのは、各国で罪を犯したあげく、今は魔獣組織という犯罪組織に与する者達だ。ハロルドの祖国は、件の組織から盗難などの被害をたびたび受けている。今夜ハロルドは、その組織の馬車を偶然に見つけ、密かに後をつけたところ、シルヴィアが襲われている光景に出くわしたというわけだ。
シルヴィアの身体こそ守れたが、心境的には互いにこの上なく気まずい結果を残した。彼女の名を呼んだ時は、驚きのあまりもう少しで声が裏返るところだった。
(まさか、あそこまで嫌われているとはな……)
何しろ貴族令嬢を金で身請けするような結婚だ。周囲からはもちろん、本人からの非難も覚悟はしていた。
しかし、母親の形見を投げ打ってまで逃げたいと言われ、その後も面と向かって婚約破棄を要求されれば、さすがにこたえる。
この結婚は、きっかけが不純だからこそ、相手の伯爵令嬢には誠意を込めて接したいと思っていた。少しずつでも分かり合っていければと願っていたが、考えが甘すぎたようだ。
泣きそうな震え声で、婚姻の破棄を訴えたシルヴィアは、まるで猟犬に追い詰められた小動物のようだった。いっそ怒ってひっぱたかれた方が、まだ気楽だったかもしれない。
(気の進まない求婚者と実際に会ったら、意外と好ましかった……など、所詮は夢物語、か)
憔悴し切ったシルヴィアの顔が脳裏に蘇り、胸が痛む。
ふと、手綱を握る自分の手を見た。剣を握り続けた皮膚は厚く硬化し、北国の寒さでひび割れた痕も数え切れないほどついている。絹の手袋に大切に包まれ、折れそうなほど華奢だったシルヴィアの手とは大違いだ。
彼女は顔も知らなかった求婚者を間近に見て、兵士あがりの野蛮そうな男だとさらに絶望したのだろう。
ハロルドは馬をゆるやかに歩かせながら、片手でポケットから一枚の折りたたんだ紙を取り出した。広げると、鉛筆だけで描かれたスケッチ画が現れる。少しの間、その画をじっと見つめてから、ハロルドはまた折りたたんで大切にしまいこんだ。
遠くに視線を移すと、月明かりに伯爵の古城が浮かび上がっていた。シルヴィア達は、もう城に到着した頃だろう。
(変に思いつめたりしなきゃいいが……)
しきりに恐縮していた騎士隊長には、逃亡した彼女を咎めないでやってくれと、伯爵宛の伝言を頼んでおいたから、せいぜい小言くらいで済むと思う。
それに、親心か良心、どちらかが少しでもある人間なら、結婚を嫌がり死人のような顔色をしている娘を責めることなど出来まい。
そこまで考えて、ようやく気持ちに整理をつけたハロルドは、馬の脇腹を軽く蹴り、田舎道を軽快に走らせ始めた。
シルヴィアが兵達に両脇を抱えられ、ほとんど引きずられるようにして父の執務室に入ると、アルブレーヌ伯爵は荒々しい足音を立てながら、足早に近づいてきた。
執務室は、何代も前から受け継がれた重厚な調度品で調えられ、壁には代々のアルブレーヌ伯爵を描いた肖像画が並ぶ。最も古い肖像画の下には、家宝の剣が飾られていた。
その前で一番新しい肖像画の主である父は、小太りの丸い顔に血を昇らせ、茹で上げたような色をさせていた。
拘束されて戻った娘を目にし、伯爵の顔がさらに憤怒で歪む。
「愚か者!」
頬に痛烈な平手打ちを喰らい、焼けつくような痛みにシルヴィアは呻く。一足先に執務室へ入っていた騎士隊長が、痛ましそうな表情を浮かべるのが一瞬だけ見えた。
「伯爵様……僭越ですが、ハロルド様からのご伝言を……」
「黙って全員外で待機していろ! 警備不行届で解雇しないだけでも、ありがたく思え!」
気まずそうに言いかけた隊長の言葉を、伯爵は怒鳴りつけて遮った。
兵達はシルヴィアを放し、慌てふためいて退室していく。最後に隊長が沈痛な面持ちで分厚い扉を閉めるのを、シルヴィアは申し訳ない気分で見送った。
騎士隊長は、この城に仕える古参の兵で父の腹心でもあるが、父よりよほど親切なおじさんだ。大っぴらに父を非難したりはしないが、ばあやと引き離された件ではシルヴィアに随分と同情してくれ、ばあやはミヨンの生家で幸せに暮らしているはずだと慰めてくれた。
だというのに今夜シルヴィアが抜け出したことで、警備責任者の彼は随分と迷惑をこうむったに違いない。
(ハロルド様から、伝言……?)
騎士隊長の言いかけた言葉に、シルヴィアは胸中で首を傾げた。
ハロルドが別れ際に、彼へ何か話しかけていたのは見えたが、よく聞こえなかったのだ。
だが、考え込んでいる暇はなかった。父娘二人きりになった室内で、小柄ながら声の大きい父が、雷のような怒声を発したのだ。
「この私を騙して逃げ出すなど……! 私がこの三ヶ月、お前をどれほど厚遇してやったと思っている! 恩知らずの化物が!!」
父に突き飛ばされ、身も心も疲れ切っていたシルヴィアは、色あせたカーペットに倒れ込んだ。怒りに顔を歪めた父はさらに詰め寄り、シルヴィアの右手の手袋をむしり取る。
「なぜ、お前のような化物が、私の娘に生まれてきたのだ!!」
露になった白い手は、指も五本あり、爪もきちんとそろっている。ただし手の甲だけは、普通と違っていた。
そこは、まるで蛇のような銀色の鱗で、ビッシリと覆われていたのだ。父がもう片方の手袋もひきむしると、同様に鱗を持つ左手が現れた。
「お父様……っ!」
声をあげかけたシルヴィアの片手を、父は容赦なく踏みつけた。銀鱗をこそぎ取ろうとするように、体重をかけて靴底で踏みにじる。
「う……」
シルヴィアは眉をひそめて呻いた。
ただ、押し潰される手の骨は痛んだが、靴底に痛めつけられる鱗の部分は、何も感じない。不思議なことにその部分だけは、あらゆる痛みを感じないのだ。
足を離した父は、銀鱗に変化がないのを見ると、今度は暖炉から真っ赤に焼けた火かき棒を持ってくる。
「……無駄です」
シルヴィアは小声で呟いた。
火や刃物での除去は出来ないと、城医師がこの三ヶ月で散々試したというのに、何度繰り返せば気が済むのだろう。
「今度こそ、神のご加護があるかもしれんだろうが」
父が顔を歪めてそう吐き捨て、灼熱の鉄棒を娘の手を覆う銀鱗に押しつけた。思わずシルヴィアは顔を背けたが、シュウシュウと音が鳴るだけで、やはり痛みも熱も感じない。熱が周囲の皮膚を焼こうとすると、そこにも銀色の鱗が広がっていく。
あの幼い日と、まったく同じだった。
ばあやと暮らしていた塔で、綺麗な暖炉の炎を触ってみたくて両手を突き入れたのだ。すると、火が触れた部分が銀鱗に覆われていった。
両肘まですっかり銀色になったシルヴィアを、ばあやが悲鳴をあげて暖炉から引き剥がしたのを、今でもはっきり覚えている。
父は、しばらく無言で娘の手に火かき棒を押しつけていたが、やがて断念したかのようにそれを暖炉に戻し、血走った目でまた銀鱗を凝視する。
カーペットの上に力なく置かれた手から熱が引くにつれて、徐々に銀鱗も消えていった。ただし消えたのは新たに増えた鱗だけで、最初から存在している銀鱗は頑固に残り、暖炉とランプの灯りを受けて光っている。
「フン……やはり化物に、救いなどあろうはずもないか」
皮肉げに呟かれた声が、シルヴィアの胸を残酷に突き刺した。
(どうして私は、普通の手を持って生まれなかったのかしら……)
もう数え切れないほど繰り返しては、嘆き続けた疑問だ。
こんな手を持って生まれたがゆえに、父から化物と罵られ、表向きには精神を患っている娘として塔に幽閉されていた。退屈な塔の窓から広い世界を眺め、いつか魔法のようにこの鱗が取れる日を夢見てきた。
さすがに十八歳にもなって現実が見えるようになった今、ようやく諦めかけていたところだったのに。
「……たった今、ハロルド様にお会いしました。私が結婚を嫌がり逃亡しようとしたのも、あの方は知っております」
無駄とは思いつつも訴えたが、やはり余計に父を怒らせる結果になった。
「聞いたとも。婚約破棄を願うなど、とんでもない! 我が家を破産させる気か!」
父の手が壁に飾られた剣を掴むのを見て、シルヴィアはカーペットに座り込んだまま、ジリジリと後ずさる。
逃げ出したいのに、足に力が入らず立つことも出来ない。冷や汗が全身から噴き出て、喉が引きつり悲鳴も出なかった。
父はこの婚約が決まった時、城のお抱え医師へ厳重に口止めしつつシルヴィアの秘密を明かし、ハロルドが迎えに来るまでに銀鱗を何としても除去しろと厳命した。
だが、削いでも焼いても消えない銀鱗に、医師はどうすることも出来なかった。彼がしたのは、ひたすら神に祈りをささげながら、シルヴィアの手に何度も刃や炎を押し当てることだけ。
痛みや熱さを感じなくても、恐ろしくてたまらなかった。シルヴィアはいつも気絶しそうになりながらその行為に耐えていた。普通の手となり、それで父に認めてもらえるのならと、その想いだけが心の支えだった。
しかし、ついに今日、痺れを切らした父が、
『このおぞましい化物の手を斬り落とせ。どうせ爵位目当ての結婚だ。子を産む部分の他は必要ない』
と、城医師に吐き捨てたのだ。身じろぎ一つ出来ないでいるシルヴィアの前で、父は怒りと焦りの混じった、奇妙な笑い声をたてた。
『もっと早くこうするべきだった。お前の手を斬ったところで、呪われなどしない……』
――呪い?
その呟きを聞いて湧いた小さな疑問は、続くけたたましい笑い声にかき消された。
『そうだとも! ありがたく思うのだな、シルヴィア! 私は、お前を虐げるのではない。化物と知られずに済むよう、情けをかけてやるのだから!』
あの時、何かが心の中で、音もなく壊れてしまった。シルヴィアは涙を流すどころか、微笑さえ浮かべて頷いたのだ。
『……はい。おとうさまの、おっしゃるとおりですわ』
自分があんなにスラスラと嘘をつけるなど初めて知った。ひたすら感心したように頷いてみせて油断させ、父と城医師の隙をついて、必死で逃げ出したのだ。
だが、それも今は無駄になってしまった。
「お、お願いです……許して……」
尻餅をついたまま懇願するシルヴィアを、父は荒い呼吸を繰り返しながら睨んでいたが、やがて忌々しげに呻いた。
「今からお前の手を斬り落とせば、逆に不審がられる……」
ようやく父の手が剣から離れたのを見て、シルヴィアは大きく安堵の息を吐いた。床に打ち捨てられクシャクシャに丸まっていた手袋を取り、大急ぎで嵌める。
そんな娘の姿を、父はおぞましい虫でも見るように顔をしかめながら吐き捨てた。
「フロッケンベルクか……錬金術など、悪魔の技を使うおぞましい国の将軍なら、お前とさぞ似合いの夫婦となるだろう」
その軽蔑に満ちた声には、家の窮地を救ってくれたハロルドに対する感謝など欠片もなかった。
昔、このシシリーナ国では、魔物の出現や疫病は、全て魔法使いや錬金術師の悪事だと信じられていたそうだ。よって錬金術の盛んな北国フロッケンベルクは、悪魔の国も同然とばかりに悪し様に言われていたらしい。
だが時代が下るにつれ、魔法や錬金術で便利な品物が作られるという話が広まり、その品物が実際に流通するようになると、シシリーナ国の人々の意識も寛容になってきた――とばあやから聞かされていた。
ばあやと母が生まれ育った街でも、隊商達が北国から運んでくる錬金術ギルドの製品を日常的に使い、富裕層も積極的に魔法使いを雇っていたと言う。
しかし、このアルブレーヌ領のような田舎ではまだ彼らを敬遠する者も多く、特に父はその極端な例だった。錬金術や魔法の類をひどく嫌悪し、領内で錬金術ギルドの品を売ることさえ禁じている。シルヴィアも、魔法や錬金術を実際に見たことはなかった。
「もう私は、お前の手のことなど何も知らないで通す。たとえ化物とばれて離縁されようと、ここに戻ることは許さん。そのまま北で野垂れ死ね」
黙りこくったシルヴィアに、父の言葉が吐きかけられた。返事をする気にもなれず、シルヴィアが項垂れていると、重々しい咳払いが発せられた。
「そうだ。グランツ将軍からの伝言を聞いた。お前の振る舞いには我慢ならないとかでな。今後、少しでも自分に背くことがあれば、地下牢に一生閉じ込めるそうだ」
「っ!?」
『地下牢』の単語に、シルヴィアは弾かれたように顔を上げた。
大きく見開いた両目に、父の薄笑いが映った。
「あの男は、それでもお前を妻にしたいそうだ。相当爵位に固執しているのだな」
「あ……あ……」
酸欠の魚のように口をパクパクさせるシルヴィアの耳に、父の声が毒液のごとく染み込んでいく。
「良かったではないか、これなら正体がばれても斬り殺されるとは限らんぞ。だが、地下でネズミと床を共にしたくないのならば、せいぜいその手を隠し、夫のご機嫌取りに精を出すのだな」
嘲笑交じりの声が頭の中でワンワンと響き、思考力を奪う。
ぐったりと人形のように身動きできなくなったシルヴィアは、父が呼んだ兵達にそのまま自室へと運ばれた。
――シルヴィアが六歳の頃だ。
よく晴れた春の日、どうしても我慢できなくなって、塔からこっそり抜け出した。
ばあやから絶対に出てはいけませんと言われていたし、それが父の命令だとも聞いた。なぜならシルヴィアの手が、皆と違うからだそうだ。
『……伯爵様は、シルヴィア様を心配して、塔に匿っておられるのです。世の中には、他人と違う者に心無い言葉を浴びせる者が多くいますから』
だから窓から外を覗く時もなるべく他の召使に見られないように注意したし、窓辺に近づく時は絶対に手袋をするようにという約束も守った。
小部屋がいくつかある塔は、それなりに居心地がよかった。今なら分かる。あれは全部、ばあやのおかげだった。部屋に季節の花を絶やさず、綺麗に飾って清潔に保ち、ほの暗い幽閉塔でもシルヴィアが楽しく暮らせるように、あらゆる努力をしてくれていた。
それに、暇を見つけてはシルヴィアに文字や裁縫を教え、狭い台所で一緒にマドレーヌを焼いた。もしばあやが一緒にいられなくなっても困らないように、身の周りのことは自分で出来るようになってくださいというのが、彼女の口癖だった。
そのばあやも塔で寝泊まりはしていたが、シルヴィアと違い、食料や生活用品を調達するため自由に外へ出ることが出来た。
『では、シルヴィア様。すぐに戻りますからね』
その日もショールを肩に羽織ったばあやは、そう言って柳で出来た大きなバスケットを持ち、塔を出て行った。
シルヴィアはいつものように急いで手袋を嵌めると、螺旋階段を一気に駆け上がり、一番上の窓から顔を突き出した。ばあやが芝生を歩き、城の居館へ向かう後ろ姿が見える。
空は青く澄み渡り、外の世界はどこまでも広く見えた。庭の芝生も周囲の森も、遠くに見える湖も、全てが春の柔らかな陽光を浴びて美しく輝いている。
あの中に入っていけたら、どんなに気持ちいいだろう。
でも、塔の前にはいつも見張りの兵がいたし、彼らに話しかけるのも駄目だと言われていた。
しょんぼりと項垂れ、真下を見た時、戸口前に兵士がいないことに気がついた。精一杯顔を突き出して眺めても、ついさっきまで見張りをしていた兵はどこにもいない。辺りの芝生にも、誰もいない。
いけないと思っても、むくむくと好奇心が湧き上がった。
手袋さえしていれば大丈夫、すぐに戻れば誰にも見つからないよ……心の中で、そう囁く声が聞こえた。
階段を駆け下り、戸口の扉を思い切って押す。扉はとても重かったが、身体ごと押すと何とか開き、シルヴィアは細い隙間から身体を滑り込ませた。
『…………』
声も出なかった。
塔の窓からも外の空気は入ってきたが、全身で感じるそよ風と日光は全く違う。シルヴィアは呆然と立ち尽くした。
高い窓からいつも見下ろしていた森や城は、なんて大きかったのだろう。自分がとても小さな虫にでもなった気がして、急に不安がこみ上げてきた。
一瞬、塔に戻ってしまおうかと思ったが、目の前に広がる光景の素晴らしさがそれに勝った。
笑い声をあげ、両手を広げて芝生を駆け回った。十数歩で石壁に突き当たる塔では、考えられない。くるくる回ると、木綿のスカートが大きく広がって輪になる。楽しい! 楽しい!
あまりにもはしゃぎすぎ、周りがまるで見えていなかった。芝生に寝転び、息を切らせて青空を見上げていると、不意に大きな影が顔にかかった。
金糸刺繍の立派な服を着た男の人が、怖い顔でシルヴィアを見下ろしている。
『シルヴィアか? なぜ、お前がここにいる』
『あ……あ……ごめんなさい……』
芝生から急いで起き上がり逃げようとしたが、手袋の上から腕を捕まれた。
『乳母は何をしている! お前を外に決して出すなと、命じたはずだ!』
怒鳴り声に、シルヴィアはビクンと全身を硬直させた。もしかして、この人が……
『わたしの……おとうさま……ですか?』
恐る恐る尋ねると、シルヴィアと同じ薄い水色の目に、ギロリと睨まれた。
『化物が、そのように私を呼ぶな!』
嫌悪と侮蔑の篭った怒声は、見えない棒となってシルヴィアを叩きのめす。
そして呆然としたまま引きずられるように城の方へと連れて行かれた。途中、何人かとすれ違ったが、父が睨むと慌てて道を空けて顔を背ける。やがて居館にたどり着き、石の回廊を少し進んでから、湿っぽい階段を降り始めた。
『ご、ごめんなさい……ごめんなさい…………』
怖くてたまらず泣きながら震え声で訴えたが、父は答えずシルヴィアを引きずったまま、階段の先にある重そうな扉を開けた。
中は真っ暗で、篭っていたかび臭い空気が流れ出してくる。
『ごめんなさ……きゃあっ!』
強く突き飛ばされ、石部屋に倒れ込むと、そのまま扉が閉められた。直後、かんぬきをかける重い音が響く。
部屋には一筋の光も入らず、扉の位置も分からない。真の暗闇というものを初めて体感した。
『おねがいっ! 出して! だして!! ばあやぁ!!! たすけて!!!』
壁か扉かも分からない場所を闇雲に叩き、泣き叫んだ。暗闇が四方から押し寄せ、押し潰されそうだ。
一体、どれほど閉じ込められていたのか。もしかしたら、たった数時間だったのかもしれない。
ひらすら泣き叫ぶうちに何も分からなくなり、気がついたら塔の寝室で寝かされていた。
ベッドの横の椅子に腰掛けたばあやが、シルヴィアの手をしっかり握ってくれていた。銀鱗に覆われた素手を、躊躇いもせずに。
他の人と違う手でも、ばあやはシルヴィアを化物だなんて言わない。この手はちょっと変わっているけれど、綺麗で好きだと言ってくれた。
『……ごめんなさい』
小さく呟くと、ばあやは黙って頷いた。少し皺のある頬は、涙で濡れていた。悪いことをしたのはシルヴィアで、罰を受けたのもシルヴィアなのに……
その日から、シルヴィアはもう絶対に黙って抜け出そうとは思わなくなった。
石部屋――地下牢の恐ろしさを知ってしまったからだ。
ばあやが嘘をついていたことを、知ってしまったからだ。
父が自分を塔に閉じ込めたのは、守るためではなく、化物と言って嫌っているからだと……
(――ハロルド様が、私を地下牢に……)
寝かされた自室の寝台で、シルヴィアは呆然と父の言葉を反芻していた。
泥だらけの服がいつ着替えさせられたのかも分からない。意識はあるけれど、気力が空っぽで指一本動かせない。もし身体を動かせたとしても、どのみち扉の外では兵が厳重に見張っているはずだ。
この居館でシルヴィアに与えられた居室は、日当たりの良い広々とした部屋で、調度品も豪華なものばかりだ。でも……ここでは、ひとりぼっち。
視線だけ動かすと、ランプの黄色い炎がガラスの中でチラチラ揺れていた。その炎を見ているうちに視界がぼやけ、涙が溢れ出してくる。
ハロルドに嫌われようと思って暴言を吐き、本当に嫌われてしまったのだから、自業自得だ。
それでも悲しくてたまらず、嗚咽すら出せずに無言で泣き続けた。
2 スケッチ画
なだらかな丘の合間から太陽が顔を覗かせ、金色の朝日を投げかけ始めた頃。
伯爵の城から程近い宿屋の裏庭で、ハロルドはポケットから取り出した例のスケッチ画を熱心に眺めていた。今日は伯爵家の令嬢を娶りに行くため、彼は昨夜の旅装と違い、黒マントに青い軍服という、フロッケンベルク騎士の正装をしている。
ハロルドの持つ白黒のスケッチ画には、小窓から顔を出して、うっとりと遠くを見つめているシルヴィアが描かれていた。薬品で保護された鉛筆画は、さんざんに折りたたみを繰り返しても擦れてしまうことはなく、細部の描写まで鮮明に残している。
ただしそこに浮かんでいる夢見るような微笑は、昨夜のやつれきった絶望の表情とは雲泥の差だ。
(やはり肖像画より、こっちの方が正確だな……)
明るい朝日の下で改めてスケッチ画を眺め、ハロルドは確信する。
領地を出立する直前にも、伯爵家から油絵で描かれたシルヴィアの肖像画が届いたのだが、そこにはごてごてと着飾り、なんとも薄気味悪い半笑いを浮かべた、陰気そうな少女が描かれていたのだ。
「なにを熱心に眺めてるのさ、ハロルド兄」
唐突に、ハロルドの頭上から陽気な声が降り注ぐ。
「チェスター!?」
いつの間にか赤毛の少年が、近くにある薪小屋の屋根の上で腹ばいになって頬杖をつき、ニヤニヤとハロルドを見下ろしていた。癖の強い赤毛にターバンを緩く巻き、細身の敏捷そうな身体には草木染めのチュニックを重ね着するなど、典型的な隊商の人間の装いをしている。
一体、いつからそこにいたんだとハロルドが聞く前に、チェスターは音一つたてずに地面へ飛び降りた。
兄とは言っても、彼とハロルドは実の兄弟ではない。愛嬌が服を着ているようなチェスターには、兄さん姉さんと呼ぶ知り合いが大陸中にいるだけだ。
彼は、バーグレイ商会という隊商の首領息子である。そしてバーグレイ商会の真の顔は、フロッケンベルク王家御用達の密偵機関だった。彼らは幌馬車で商売をしながら大陸各地を巡り、難しい秘密裏の任務も確実に成功させてくる。もちろんこの事実を知っているのは、ハロルドをはじめフロッケンベルクでも一握りの者達だけだ。
たった今も、シルヴィアが婚礼を嫌がっているのを知りながら、冷酷にシルヴィアを捕らえて逃がそうとはしなかった。
けれど……その前に抱き止められた感触が、まだ身体に残っている。たった数分だけれど、あんなに安心させてくれた人は、塔から出て初めてだ。それもまた、紛れもない事実だった。
だから、彼がシルヴィアの秘密を知って失望し、父のように罵ってくる姿は見たくない。
怖くて未だハロルドを見上げることは出来なかったが、それでも俯いたまま告げた。
「私は貴方の妻に、なりたくありません」
今ならまだ間に合う。結婚前夜に逃げ出した上に、こんな無礼なことを言う女など、いらないと言ってくれれば……
固唾を呑んで兵達が見守る中、ハロルドは無言だった。俯いたままでも、彼の鋭い視線を痛いほど感じる。
やがて静かに、だがきっぱりと告げられる。
「……明日、お迎えに上がります」
そして二本の逞しい腕がシルヴィアを軽々と抱きかかえ、騎士の馬へと乗せた。
伯爵家の騎士達は二手に別れ、一方はシルヴィアを護衛して城に戻り、残った騎士達は地面に転がる死体の片付けに取りかかった。ハロルドは騎士達からのいくつかの質問に答えた後、さっさとその場を退散すべく、木立の奥に隠してあった馬の綱を解き、鞍に飛び乗った。
両脇にプラタナスの木が行儀よく植えられた田舎道で、ゆっくりと馬を歩かせる。ハロルドは今夜、部下達と一緒に近くの宿に滞在することになっている。そこに戻るまでに少し頭を冷やしたい。
秋の星座が煌めく夜空を見上げ、溜め息をつく。
――運命とやらはひどい悪戯好きだ。
シルヴィアを襲おうとしていたのは、各国で罪を犯したあげく、今は魔獣組織という犯罪組織に与する者達だ。ハロルドの祖国は、件の組織から盗難などの被害をたびたび受けている。今夜ハロルドは、その組織の馬車を偶然に見つけ、密かに後をつけたところ、シルヴィアが襲われている光景に出くわしたというわけだ。
シルヴィアの身体こそ守れたが、心境的には互いにこの上なく気まずい結果を残した。彼女の名を呼んだ時は、驚きのあまりもう少しで声が裏返るところだった。
(まさか、あそこまで嫌われているとはな……)
何しろ貴族令嬢を金で身請けするような結婚だ。周囲からはもちろん、本人からの非難も覚悟はしていた。
しかし、母親の形見を投げ打ってまで逃げたいと言われ、その後も面と向かって婚約破棄を要求されれば、さすがにこたえる。
この結婚は、きっかけが不純だからこそ、相手の伯爵令嬢には誠意を込めて接したいと思っていた。少しずつでも分かり合っていければと願っていたが、考えが甘すぎたようだ。
泣きそうな震え声で、婚姻の破棄を訴えたシルヴィアは、まるで猟犬に追い詰められた小動物のようだった。いっそ怒ってひっぱたかれた方が、まだ気楽だったかもしれない。
(気の進まない求婚者と実際に会ったら、意外と好ましかった……など、所詮は夢物語、か)
憔悴し切ったシルヴィアの顔が脳裏に蘇り、胸が痛む。
ふと、手綱を握る自分の手を見た。剣を握り続けた皮膚は厚く硬化し、北国の寒さでひび割れた痕も数え切れないほどついている。絹の手袋に大切に包まれ、折れそうなほど華奢だったシルヴィアの手とは大違いだ。
彼女は顔も知らなかった求婚者を間近に見て、兵士あがりの野蛮そうな男だとさらに絶望したのだろう。
ハロルドは馬をゆるやかに歩かせながら、片手でポケットから一枚の折りたたんだ紙を取り出した。広げると、鉛筆だけで描かれたスケッチ画が現れる。少しの間、その画をじっと見つめてから、ハロルドはまた折りたたんで大切にしまいこんだ。
遠くに視線を移すと、月明かりに伯爵の古城が浮かび上がっていた。シルヴィア達は、もう城に到着した頃だろう。
(変に思いつめたりしなきゃいいが……)
しきりに恐縮していた騎士隊長には、逃亡した彼女を咎めないでやってくれと、伯爵宛の伝言を頼んでおいたから、せいぜい小言くらいで済むと思う。
それに、親心か良心、どちらかが少しでもある人間なら、結婚を嫌がり死人のような顔色をしている娘を責めることなど出来まい。
そこまで考えて、ようやく気持ちに整理をつけたハロルドは、馬の脇腹を軽く蹴り、田舎道を軽快に走らせ始めた。
シルヴィアが兵達に両脇を抱えられ、ほとんど引きずられるようにして父の執務室に入ると、アルブレーヌ伯爵は荒々しい足音を立てながら、足早に近づいてきた。
執務室は、何代も前から受け継がれた重厚な調度品で調えられ、壁には代々のアルブレーヌ伯爵を描いた肖像画が並ぶ。最も古い肖像画の下には、家宝の剣が飾られていた。
その前で一番新しい肖像画の主である父は、小太りの丸い顔に血を昇らせ、茹で上げたような色をさせていた。
拘束されて戻った娘を目にし、伯爵の顔がさらに憤怒で歪む。
「愚か者!」
頬に痛烈な平手打ちを喰らい、焼けつくような痛みにシルヴィアは呻く。一足先に執務室へ入っていた騎士隊長が、痛ましそうな表情を浮かべるのが一瞬だけ見えた。
「伯爵様……僭越ですが、ハロルド様からのご伝言を……」
「黙って全員外で待機していろ! 警備不行届で解雇しないだけでも、ありがたく思え!」
気まずそうに言いかけた隊長の言葉を、伯爵は怒鳴りつけて遮った。
兵達はシルヴィアを放し、慌てふためいて退室していく。最後に隊長が沈痛な面持ちで分厚い扉を閉めるのを、シルヴィアは申し訳ない気分で見送った。
騎士隊長は、この城に仕える古参の兵で父の腹心でもあるが、父よりよほど親切なおじさんだ。大っぴらに父を非難したりはしないが、ばあやと引き離された件ではシルヴィアに随分と同情してくれ、ばあやはミヨンの生家で幸せに暮らしているはずだと慰めてくれた。
だというのに今夜シルヴィアが抜け出したことで、警備責任者の彼は随分と迷惑をこうむったに違いない。
(ハロルド様から、伝言……?)
騎士隊長の言いかけた言葉に、シルヴィアは胸中で首を傾げた。
ハロルドが別れ際に、彼へ何か話しかけていたのは見えたが、よく聞こえなかったのだ。
だが、考え込んでいる暇はなかった。父娘二人きりになった室内で、小柄ながら声の大きい父が、雷のような怒声を発したのだ。
「この私を騙して逃げ出すなど……! 私がこの三ヶ月、お前をどれほど厚遇してやったと思っている! 恩知らずの化物が!!」
父に突き飛ばされ、身も心も疲れ切っていたシルヴィアは、色あせたカーペットに倒れ込んだ。怒りに顔を歪めた父はさらに詰め寄り、シルヴィアの右手の手袋をむしり取る。
「なぜ、お前のような化物が、私の娘に生まれてきたのだ!!」
露になった白い手は、指も五本あり、爪もきちんとそろっている。ただし手の甲だけは、普通と違っていた。
そこは、まるで蛇のような銀色の鱗で、ビッシリと覆われていたのだ。父がもう片方の手袋もひきむしると、同様に鱗を持つ左手が現れた。
「お父様……っ!」
声をあげかけたシルヴィアの片手を、父は容赦なく踏みつけた。銀鱗をこそぎ取ろうとするように、体重をかけて靴底で踏みにじる。
「う……」
シルヴィアは眉をひそめて呻いた。
ただ、押し潰される手の骨は痛んだが、靴底に痛めつけられる鱗の部分は、何も感じない。不思議なことにその部分だけは、あらゆる痛みを感じないのだ。
足を離した父は、銀鱗に変化がないのを見ると、今度は暖炉から真っ赤に焼けた火かき棒を持ってくる。
「……無駄です」
シルヴィアは小声で呟いた。
火や刃物での除去は出来ないと、城医師がこの三ヶ月で散々試したというのに、何度繰り返せば気が済むのだろう。
「今度こそ、神のご加護があるかもしれんだろうが」
父が顔を歪めてそう吐き捨て、灼熱の鉄棒を娘の手を覆う銀鱗に押しつけた。思わずシルヴィアは顔を背けたが、シュウシュウと音が鳴るだけで、やはり痛みも熱も感じない。熱が周囲の皮膚を焼こうとすると、そこにも銀色の鱗が広がっていく。
あの幼い日と、まったく同じだった。
ばあやと暮らしていた塔で、綺麗な暖炉の炎を触ってみたくて両手を突き入れたのだ。すると、火が触れた部分が銀鱗に覆われていった。
両肘まですっかり銀色になったシルヴィアを、ばあやが悲鳴をあげて暖炉から引き剥がしたのを、今でもはっきり覚えている。
父は、しばらく無言で娘の手に火かき棒を押しつけていたが、やがて断念したかのようにそれを暖炉に戻し、血走った目でまた銀鱗を凝視する。
カーペットの上に力なく置かれた手から熱が引くにつれて、徐々に銀鱗も消えていった。ただし消えたのは新たに増えた鱗だけで、最初から存在している銀鱗は頑固に残り、暖炉とランプの灯りを受けて光っている。
「フン……やはり化物に、救いなどあろうはずもないか」
皮肉げに呟かれた声が、シルヴィアの胸を残酷に突き刺した。
(どうして私は、普通の手を持って生まれなかったのかしら……)
もう数え切れないほど繰り返しては、嘆き続けた疑問だ。
こんな手を持って生まれたがゆえに、父から化物と罵られ、表向きには精神を患っている娘として塔に幽閉されていた。退屈な塔の窓から広い世界を眺め、いつか魔法のようにこの鱗が取れる日を夢見てきた。
さすがに十八歳にもなって現実が見えるようになった今、ようやく諦めかけていたところだったのに。
「……たった今、ハロルド様にお会いしました。私が結婚を嫌がり逃亡しようとしたのも、あの方は知っております」
無駄とは思いつつも訴えたが、やはり余計に父を怒らせる結果になった。
「聞いたとも。婚約破棄を願うなど、とんでもない! 我が家を破産させる気か!」
父の手が壁に飾られた剣を掴むのを見て、シルヴィアはカーペットに座り込んだまま、ジリジリと後ずさる。
逃げ出したいのに、足に力が入らず立つことも出来ない。冷や汗が全身から噴き出て、喉が引きつり悲鳴も出なかった。
父はこの婚約が決まった時、城のお抱え医師へ厳重に口止めしつつシルヴィアの秘密を明かし、ハロルドが迎えに来るまでに銀鱗を何としても除去しろと厳命した。
だが、削いでも焼いても消えない銀鱗に、医師はどうすることも出来なかった。彼がしたのは、ひたすら神に祈りをささげながら、シルヴィアの手に何度も刃や炎を押し当てることだけ。
痛みや熱さを感じなくても、恐ろしくてたまらなかった。シルヴィアはいつも気絶しそうになりながらその行為に耐えていた。普通の手となり、それで父に認めてもらえるのならと、その想いだけが心の支えだった。
しかし、ついに今日、痺れを切らした父が、
『このおぞましい化物の手を斬り落とせ。どうせ爵位目当ての結婚だ。子を産む部分の他は必要ない』
と、城医師に吐き捨てたのだ。身じろぎ一つ出来ないでいるシルヴィアの前で、父は怒りと焦りの混じった、奇妙な笑い声をたてた。
『もっと早くこうするべきだった。お前の手を斬ったところで、呪われなどしない……』
――呪い?
その呟きを聞いて湧いた小さな疑問は、続くけたたましい笑い声にかき消された。
『そうだとも! ありがたく思うのだな、シルヴィア! 私は、お前を虐げるのではない。化物と知られずに済むよう、情けをかけてやるのだから!』
あの時、何かが心の中で、音もなく壊れてしまった。シルヴィアは涙を流すどころか、微笑さえ浮かべて頷いたのだ。
『……はい。おとうさまの、おっしゃるとおりですわ』
自分があんなにスラスラと嘘をつけるなど初めて知った。ひたすら感心したように頷いてみせて油断させ、父と城医師の隙をついて、必死で逃げ出したのだ。
だが、それも今は無駄になってしまった。
「お、お願いです……許して……」
尻餅をついたまま懇願するシルヴィアを、父は荒い呼吸を繰り返しながら睨んでいたが、やがて忌々しげに呻いた。
「今からお前の手を斬り落とせば、逆に不審がられる……」
ようやく父の手が剣から離れたのを見て、シルヴィアは大きく安堵の息を吐いた。床に打ち捨てられクシャクシャに丸まっていた手袋を取り、大急ぎで嵌める。
そんな娘の姿を、父はおぞましい虫でも見るように顔をしかめながら吐き捨てた。
「フロッケンベルクか……錬金術など、悪魔の技を使うおぞましい国の将軍なら、お前とさぞ似合いの夫婦となるだろう」
その軽蔑に満ちた声には、家の窮地を救ってくれたハロルドに対する感謝など欠片もなかった。
昔、このシシリーナ国では、魔物の出現や疫病は、全て魔法使いや錬金術師の悪事だと信じられていたそうだ。よって錬金術の盛んな北国フロッケンベルクは、悪魔の国も同然とばかりに悪し様に言われていたらしい。
だが時代が下るにつれ、魔法や錬金術で便利な品物が作られるという話が広まり、その品物が実際に流通するようになると、シシリーナ国の人々の意識も寛容になってきた――とばあやから聞かされていた。
ばあやと母が生まれ育った街でも、隊商達が北国から運んでくる錬金術ギルドの製品を日常的に使い、富裕層も積極的に魔法使いを雇っていたと言う。
しかし、このアルブレーヌ領のような田舎ではまだ彼らを敬遠する者も多く、特に父はその極端な例だった。錬金術や魔法の類をひどく嫌悪し、領内で錬金術ギルドの品を売ることさえ禁じている。シルヴィアも、魔法や錬金術を実際に見たことはなかった。
「もう私は、お前の手のことなど何も知らないで通す。たとえ化物とばれて離縁されようと、ここに戻ることは許さん。そのまま北で野垂れ死ね」
黙りこくったシルヴィアに、父の言葉が吐きかけられた。返事をする気にもなれず、シルヴィアが項垂れていると、重々しい咳払いが発せられた。
「そうだ。グランツ将軍からの伝言を聞いた。お前の振る舞いには我慢ならないとかでな。今後、少しでも自分に背くことがあれば、地下牢に一生閉じ込めるそうだ」
「っ!?」
『地下牢』の単語に、シルヴィアは弾かれたように顔を上げた。
大きく見開いた両目に、父の薄笑いが映った。
「あの男は、それでもお前を妻にしたいそうだ。相当爵位に固執しているのだな」
「あ……あ……」
酸欠の魚のように口をパクパクさせるシルヴィアの耳に、父の声が毒液のごとく染み込んでいく。
「良かったではないか、これなら正体がばれても斬り殺されるとは限らんぞ。だが、地下でネズミと床を共にしたくないのならば、せいぜいその手を隠し、夫のご機嫌取りに精を出すのだな」
嘲笑交じりの声が頭の中でワンワンと響き、思考力を奪う。
ぐったりと人形のように身動きできなくなったシルヴィアは、父が呼んだ兵達にそのまま自室へと運ばれた。
――シルヴィアが六歳の頃だ。
よく晴れた春の日、どうしても我慢できなくなって、塔からこっそり抜け出した。
ばあやから絶対に出てはいけませんと言われていたし、それが父の命令だとも聞いた。なぜならシルヴィアの手が、皆と違うからだそうだ。
『……伯爵様は、シルヴィア様を心配して、塔に匿っておられるのです。世の中には、他人と違う者に心無い言葉を浴びせる者が多くいますから』
だから窓から外を覗く時もなるべく他の召使に見られないように注意したし、窓辺に近づく時は絶対に手袋をするようにという約束も守った。
小部屋がいくつかある塔は、それなりに居心地がよかった。今なら分かる。あれは全部、ばあやのおかげだった。部屋に季節の花を絶やさず、綺麗に飾って清潔に保ち、ほの暗い幽閉塔でもシルヴィアが楽しく暮らせるように、あらゆる努力をしてくれていた。
それに、暇を見つけてはシルヴィアに文字や裁縫を教え、狭い台所で一緒にマドレーヌを焼いた。もしばあやが一緒にいられなくなっても困らないように、身の周りのことは自分で出来るようになってくださいというのが、彼女の口癖だった。
そのばあやも塔で寝泊まりはしていたが、シルヴィアと違い、食料や生活用品を調達するため自由に外へ出ることが出来た。
『では、シルヴィア様。すぐに戻りますからね』
その日もショールを肩に羽織ったばあやは、そう言って柳で出来た大きなバスケットを持ち、塔を出て行った。
シルヴィアはいつものように急いで手袋を嵌めると、螺旋階段を一気に駆け上がり、一番上の窓から顔を突き出した。ばあやが芝生を歩き、城の居館へ向かう後ろ姿が見える。
空は青く澄み渡り、外の世界はどこまでも広く見えた。庭の芝生も周囲の森も、遠くに見える湖も、全てが春の柔らかな陽光を浴びて美しく輝いている。
あの中に入っていけたら、どんなに気持ちいいだろう。
でも、塔の前にはいつも見張りの兵がいたし、彼らに話しかけるのも駄目だと言われていた。
しょんぼりと項垂れ、真下を見た時、戸口前に兵士がいないことに気がついた。精一杯顔を突き出して眺めても、ついさっきまで見張りをしていた兵はどこにもいない。辺りの芝生にも、誰もいない。
いけないと思っても、むくむくと好奇心が湧き上がった。
手袋さえしていれば大丈夫、すぐに戻れば誰にも見つからないよ……心の中で、そう囁く声が聞こえた。
階段を駆け下り、戸口の扉を思い切って押す。扉はとても重かったが、身体ごと押すと何とか開き、シルヴィアは細い隙間から身体を滑り込ませた。
『…………』
声も出なかった。
塔の窓からも外の空気は入ってきたが、全身で感じるそよ風と日光は全く違う。シルヴィアは呆然と立ち尽くした。
高い窓からいつも見下ろしていた森や城は、なんて大きかったのだろう。自分がとても小さな虫にでもなった気がして、急に不安がこみ上げてきた。
一瞬、塔に戻ってしまおうかと思ったが、目の前に広がる光景の素晴らしさがそれに勝った。
笑い声をあげ、両手を広げて芝生を駆け回った。十数歩で石壁に突き当たる塔では、考えられない。くるくる回ると、木綿のスカートが大きく広がって輪になる。楽しい! 楽しい!
あまりにもはしゃぎすぎ、周りがまるで見えていなかった。芝生に寝転び、息を切らせて青空を見上げていると、不意に大きな影が顔にかかった。
金糸刺繍の立派な服を着た男の人が、怖い顔でシルヴィアを見下ろしている。
『シルヴィアか? なぜ、お前がここにいる』
『あ……あ……ごめんなさい……』
芝生から急いで起き上がり逃げようとしたが、手袋の上から腕を捕まれた。
『乳母は何をしている! お前を外に決して出すなと、命じたはずだ!』
怒鳴り声に、シルヴィアはビクンと全身を硬直させた。もしかして、この人が……
『わたしの……おとうさま……ですか?』
恐る恐る尋ねると、シルヴィアと同じ薄い水色の目に、ギロリと睨まれた。
『化物が、そのように私を呼ぶな!』
嫌悪と侮蔑の篭った怒声は、見えない棒となってシルヴィアを叩きのめす。
そして呆然としたまま引きずられるように城の方へと連れて行かれた。途中、何人かとすれ違ったが、父が睨むと慌てて道を空けて顔を背ける。やがて居館にたどり着き、石の回廊を少し進んでから、湿っぽい階段を降り始めた。
『ご、ごめんなさい……ごめんなさい…………』
怖くてたまらず泣きながら震え声で訴えたが、父は答えずシルヴィアを引きずったまま、階段の先にある重そうな扉を開けた。
中は真っ暗で、篭っていたかび臭い空気が流れ出してくる。
『ごめんなさ……きゃあっ!』
強く突き飛ばされ、石部屋に倒れ込むと、そのまま扉が閉められた。直後、かんぬきをかける重い音が響く。
部屋には一筋の光も入らず、扉の位置も分からない。真の暗闇というものを初めて体感した。
『おねがいっ! 出して! だして!! ばあやぁ!!! たすけて!!!』
壁か扉かも分からない場所を闇雲に叩き、泣き叫んだ。暗闇が四方から押し寄せ、押し潰されそうだ。
一体、どれほど閉じ込められていたのか。もしかしたら、たった数時間だったのかもしれない。
ひらすら泣き叫ぶうちに何も分からなくなり、気がついたら塔の寝室で寝かされていた。
ベッドの横の椅子に腰掛けたばあやが、シルヴィアの手をしっかり握ってくれていた。銀鱗に覆われた素手を、躊躇いもせずに。
他の人と違う手でも、ばあやはシルヴィアを化物だなんて言わない。この手はちょっと変わっているけれど、綺麗で好きだと言ってくれた。
『……ごめんなさい』
小さく呟くと、ばあやは黙って頷いた。少し皺のある頬は、涙で濡れていた。悪いことをしたのはシルヴィアで、罰を受けたのもシルヴィアなのに……
その日から、シルヴィアはもう絶対に黙って抜け出そうとは思わなくなった。
石部屋――地下牢の恐ろしさを知ってしまったからだ。
ばあやが嘘をついていたことを、知ってしまったからだ。
父が自分を塔に閉じ込めたのは、守るためではなく、化物と言って嫌っているからだと……
(――ハロルド様が、私を地下牢に……)
寝かされた自室の寝台で、シルヴィアは呆然と父の言葉を反芻していた。
泥だらけの服がいつ着替えさせられたのかも分からない。意識はあるけれど、気力が空っぽで指一本動かせない。もし身体を動かせたとしても、どのみち扉の外では兵が厳重に見張っているはずだ。
この居館でシルヴィアに与えられた居室は、日当たりの良い広々とした部屋で、調度品も豪華なものばかりだ。でも……ここでは、ひとりぼっち。
視線だけ動かすと、ランプの黄色い炎がガラスの中でチラチラ揺れていた。その炎を見ているうちに視界がぼやけ、涙が溢れ出してくる。
ハロルドに嫌われようと思って暴言を吐き、本当に嫌われてしまったのだから、自業自得だ。
それでも悲しくてたまらず、嗚咽すら出せずに無言で泣き続けた。
2 スケッチ画
なだらかな丘の合間から太陽が顔を覗かせ、金色の朝日を投げかけ始めた頃。
伯爵の城から程近い宿屋の裏庭で、ハロルドはポケットから取り出した例のスケッチ画を熱心に眺めていた。今日は伯爵家の令嬢を娶りに行くため、彼は昨夜の旅装と違い、黒マントに青い軍服という、フロッケンベルク騎士の正装をしている。
ハロルドの持つ白黒のスケッチ画には、小窓から顔を出して、うっとりと遠くを見つめているシルヴィアが描かれていた。薬品で保護された鉛筆画は、さんざんに折りたたみを繰り返しても擦れてしまうことはなく、細部の描写まで鮮明に残している。
ただしそこに浮かんでいる夢見るような微笑は、昨夜のやつれきった絶望の表情とは雲泥の差だ。
(やはり肖像画より、こっちの方が正確だな……)
明るい朝日の下で改めてスケッチ画を眺め、ハロルドは確信する。
領地を出立する直前にも、伯爵家から油絵で描かれたシルヴィアの肖像画が届いたのだが、そこにはごてごてと着飾り、なんとも薄気味悪い半笑いを浮かべた、陰気そうな少女が描かれていたのだ。
「なにを熱心に眺めてるのさ、ハロルド兄」
唐突に、ハロルドの頭上から陽気な声が降り注ぐ。
「チェスター!?」
いつの間にか赤毛の少年が、近くにある薪小屋の屋根の上で腹ばいになって頬杖をつき、ニヤニヤとハロルドを見下ろしていた。癖の強い赤毛にターバンを緩く巻き、細身の敏捷そうな身体には草木染めのチュニックを重ね着するなど、典型的な隊商の人間の装いをしている。
一体、いつからそこにいたんだとハロルドが聞く前に、チェスターは音一つたてずに地面へ飛び降りた。
兄とは言っても、彼とハロルドは実の兄弟ではない。愛嬌が服を着ているようなチェスターには、兄さん姉さんと呼ぶ知り合いが大陸中にいるだけだ。
彼は、バーグレイ商会という隊商の首領息子である。そしてバーグレイ商会の真の顔は、フロッケンベルク王家御用達の密偵機関だった。彼らは幌馬車で商売をしながら大陸各地を巡り、難しい秘密裏の任務も確実に成功させてくる。もちろんこの事実を知っているのは、ハロルドをはじめフロッケンベルクでも一握りの者達だけだ。
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