ダンタリオンと勇者

小栗とま

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オズワルド王国の章

67 表と裏(パブロの視点)

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「ホップウェルか」

 覚えていろよ、とでも言いたげに睨むマクスーン伯爵の視線をかわして、ホップウェル伯爵は皆々に静かに語り掛けた。

「今王国は大きな混乱の中に居ます」

 伯爵は話を続ける。

「息子は勇者の任務を終えた後、オーサー辺境伯領で戦っている第二騎士団の援護に向かいましたが――今だ、良い知らせは届きません」

(ロミオが……!)

 ロミオの姿をみていないと思っていたが、彼は父さんが団長を務める第2魔法騎士団の援護に向かっていたらしい。

「サタンとの契約者であり、オーサー辺境伯領を王国から閉ざしていたグレゴリー・オーサー。彼との戦いに、まだ決着がついていないのです」

 ホップウェル伯爵がそう言う通り、グレゴリーの正体も目的もわからないまま、オーサー辺境伯での戦いが続いている。

「その中で、宰相ネロ殿と勇者ユリウスが伝説の怪物ヨルムンガンドを召喚し、王都を襲う計画があることが露呈しました。
 このような不明瞭な状況下で、勇者パブロの罪だけを問うことはできません」

 ホップウェル伯爵の言葉に、その他の伯爵も同調した。
 これが気に食わないのは、当然、マクスーン伯爵だった。

「君たちは何もわかっていないようだな。勇者でありながら悪魔と契約したパブロ・フルームは断罪されなければならない!なんのために、我が第1魔法騎士団が日々、ミュルクを市中から懸命に駆除していると思っている?」

 ミュルク狩りを続けている第1魔法騎士団の団長でもあるマクスーン伯爵は、そのことを議題に上げて話し始める。

「 精霊に愛されていない奴らミュルクは、闇に手を染めるより他、力を得る術をしらない劣等種なんだ!奴らを奴隷にすることでこの王国を浄化してきた私の努力をないがしろにするつもりか!」

 マクスーン伯爵はそう怒鳴り散らした。

「それにだ、パブロ・フルームはオルオンが白状したところによると……出生に問題があるようだな。かの闇使い、グレゴリー・オーサーの息子だとか?」
「……!」

 マクスーンの言葉で蒸し返された俺の出生は、俺に更なる疑いの目を向けさせる要素になってしまう。

「ミュルクの血を引いているのなら、闇に惹かれても仕方がない。
 精霊魔法を授かったのも、何かの間違いだったのだろう」
「……っ!」

 マクスーンのニタニタと歪んだ口が、彼の顔から浮かんで見える。

(くそっ……)

 頭がガンガンしてきた俺は、ゆっくりと深呼吸をしてみた。
 そうして少しの冷静さを取り戻せば、次第にこの状況にある違和感を覚え始める。

(王国が大変な時に――マクスーン団長はどうして俺一人にここまでこだわる?)

 俺とダンタリオンたちが拘束されて一番得をする人物は誰だ。
 ――それを考えた時に、異様な熱量で開かれたこの伯爵会議の、真実を垣間見た気がした。

「……闇使いは、精霊使いのふりをすることもできます。
 オルオンもユリウスもそうだったように」

 俺の口から、言葉が出ていく。

「なら、例えミュルクでなくたって――
 王国のどこに、闇使いがいたっておかしくないですよね?」

 挑発的な言葉に、伯爵たちがどよめく。
 俺はそのまま思いの丈をぶちまけることにした。

「自分が無罪だと言い切れますか?マクスーン団長」

 俺の問いかけに、彼は怒りに顔を真っ赤にした。

「お前は私を愚弄するつもりか!?」

 その直情的な姿を見れば、彼はオルオンほど策士ではないと感じた。

 きっと他人の罪に夢中で、自分の手元に転がっている罪はおざなりにしているのだろう。
 そんな嫌な予想の答え合わせをするように、事件は起こった。
 
「この音は――!」

 カイザー国王陛下が立ち上り、皆に警戒を呼びかけた。

 ドンという大きな爆発音と、けたたましく怪物が叫ぶ声が聞こえる。
 ここからそう遠くない場所――精霊の丘の方からだ。
 
 そして次の瞬間には、この講堂の壁も破壊された。

「――っ!!!」

 崩れる瓦礫を縫って現れたのは、伝説の怪物ヨルムンガンド――触れるもの全ての力を奪いとる大蛇だった。



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