ダンタリオンと勇者

小栗とま

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魔界の章

26 魔物の餌食(パブロの視点)

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「僕はね。ずっと君たち勇者のことを見ていたよ」

 アスモデウスがうっとりとした感じでそう微笑み、サソリを一匹拾い上げて彼の膝の上に置いた。

「……!!」

 反射的に俺の体がびくっとしてしまったのは見なかったことにしてほしい。

「魔界中に居るサソリたちの目に写った光景は、僕にも見えるからね」

 と、サソリの甲を撫でるアスモデウス。
 ……よく撫でられるな。

「魔王を封印したのは感動しちゃったなあ。
 それに君が持っていた剣はとても興味深い。
 ――あれは随分と、禍々しい魔物だね?」

 アスモデウスは、ぐにゃりと口をゆがめて笑った。

(――魔物?)

 ありえない疑惑がアスモデウスの口から発せられる。

「ちょっと待て!勇者の剣が魔物なわけないだろ。
 精霊の加護を受けたなんかすごい剣なんだぞ!?」

「精霊ね~」

 アスモデウスは、「やれやれ」という感じで肩をすくめ、首を横に振る。

「人間界に住んでる妖精さんたちが、あんな呪われた魔物とお友達だと思うの?」

「っ…!だから、魔物じゃないって!」

 俺は、相変わらず毒針を振り回すサソリをちらちらと見やりながら、精一杯の大声でアスモデウスに抗議した。

「じゃあなぜ、君は魔法が使えなくなったのかわかる?」
「……!」

(俺が魔法を使えなくなったって、知ってたのか……!)

 火の魔法を得意とする俺は、パンデモニウムで骸骨と戦ったのを最後に、体力が回復しても魔法を使えていない。

「それに。君がパンデモニウムで、突然、動けなくなったのも偶然じゃない。
 全て、あの禍々しい魔物のせいだ」
「……なに?」

 俺が倒れた理由も、あの剣だと言うのか。
 これ以上聞きたくないと思いながら、しかし聞かなければスッキリしない俺はアスモデウスに食らいつくように耳を傾けた。

「あの魔物はね。触れたものから、極限までエネルギーを吸い取る呪いを持っている。サタンの魔力だけじゃ満足せずに、君が精霊からもらった魔法も、君自身の生命力も食い散らかしたんだ」

「……!」

「剣の鞘を抜いたら呪いを発動するように擬態したんだろうね。
 そして勇者の剣に紛れ込んだ」

「……そ、そんなの信じられるか」 

 俺は震え始めた。
 こんなことが真実なら、俺は知らないうちに魔物に利用されて、命をおとす運命にあったことになる。

 しかしクロムも、「魔物ってのは、本当かもしれねえ」と話し始めた。

「兄ちゃんが家を出て行ったあと。
 あの剣は、蛇に姿を変えて、どこかに逃げちゃったんだよ」
「蛇に…!?」

 俺が驚けば、クロムはかくんと胴体を曲げて頷いた。 

「そ、そうか……」

 ダンタリオンが俺の剣を「危ないから」といって封じた理由、それは俺から武器を奪うためだと思っていた。
 しかし本当は、あの剣が俺の生命力を吸い取るのを防ぐためだったのかもしれない。

(やっぱ。敵か味方かよくわかんない悪魔だな……ダンタリオン)

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