ダンタリオンと勇者

小栗とま

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魔界の章

21 行き交う欲望(ダンタリオンの視点)

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(一体どこへ行ったんだ…クロム)

 悪魔の市場に薬を売りに来た道すがら、俺はクロムを見失ってしまっていた。

「あの。渦巻いた剣を見かけませんでしたか?こういう感じの」

 と、悪魔の市場に通りがかる悪魔たちに尋ねてみる。

 わかりやすいように、クロムのイラストを地面の砂に小枝で描いて見せながらだ。
 しかし返ってくる答えは、どれも冷淡である。

「知らねーよ」
「邪魔だっつーの。どけ!」
「絵下手くそだなぁ。ぎゃははっ!」

 などだ。
 ……絵が下手なことには触れないでほしい。

 この市場に通りかかる悪魔たちは、醜い顔をした怪獣のような者も居れば、動物や人間に近い容姿の者もいる。巨大な者も、小さい者もいる。
 見た目は千差万別だが、総じて皆、欲望を満たす場所を求めて退屈そうにうろうろと徘徊している。

 それぞれ単独か、エテル稼ぎのために一時的に組んでいるビジネス仲間としか行動を共にしていない。
 悪魔には、家族や恋人、友人という概念もない。
 俺がわざわざクロムを探しているのも、この魔界では奇妙なことだ。

 ほとんどの悪魔の目的地は、サキュバスが接客する「アスモデウスの館」か、あらゆる魔アイテムが揃う大型量販店「マモンズ」だ。
 「マモンズ」は名前の通りマモン様が経営している店で、薬の原料や、勇者の剣を封印した檻を俺はここで入手している。
 7つの大罪の中でもアスモデウス様とマモン様は、こういう商売上手なところがあるのだ。

 ちょっと変わり種で言えば、「アスタロトの占い屋」なんかも繁盛している。
 アスタロトは、奴の目に入る者の「過去を見る能力」を有している上級の悪魔だ。その能力があれば、魔界中の出来事を知ることも可能だろうし、それを元に未来を占うのであれば相当の精度だろう。
 噂によれば、7つの大罪をも顧客にしているとか。

 そんな愉快な店たちに吸い込まれていく悪魔に揉まれながら、俺はクロムの捜索をひとまず諦めた。

「俺も自分の薬を売り始めるか……」

 俺はフリーマーケットスペースに足を運び、そこで一つの屋台を借りて、自分の薬をつめたトランクを開いた。
 すると店裏の小道から、いやーな会話が聞こえてくる。

「このチビ!今、俺様にぶつかっただろ?」

 と、ハイエナの顔をした巨大な人型の悪魔2体が、人間の手のひらサイズのちっこい悪魔に絡んでいたのだ。



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