上 下
66 / 66
回廊の秘密

回廊の秘密 7

しおりを挟む

「確かに、棚とか冷蔵庫とか開いてお宝いっぱい発見したのって、ダンジョンの宝箱っぽいよねっ」

 玉生たまおの方も、孤児院の本棚ではむしろ娯楽本の方が大部分を占めていたので、ダンジョンという言葉には馴染みがあった。
昨日のプール脇の蜜柑や温室の果物を見付けた時もそうだが、そのたびにプレゼントを貰ったドキドキに加えて宝箱を開くワクワクも感じていたのだ。



 ダンジョンの宝箱。
その玉生の発言に、はっとした顔で椅子の背に体重を掛けていたよみが「それか?!」と前のめりになる。

「やたら敷地内に動線が通るのは――回廊だから……?」
「はい。基本的にダンジョンの構成は、通路と小部屋なので。しかし絶対に個室は必要だと宝に指摘を受け、二階の居住部分を追加したのです」

 そこへキッチンワゴンでパスタの大皿と取り皿を運んできたかけるが、配膳しながら案外と真面目な顔で言った。

「もしかしたら寝床は全部、あのリビングと家具で仕切られた目隠しベッドみたいになるところだったとか?」
「いえ、壁にアルコーブベッドを予定しておりましたが?」
「アルコーブってアレだよな、壁のへこみ部分」
「ええ、続き部屋の手前左右二面と、奥の左右に突き当りを入れた三面の壁にアルコーブを作ろうと――ダンジョンでは群れるのが人の生態なのでは?」
「多分、個人スペースは広くてベッド自体も高品質になっていそうだし、正直言ってオレは面白そうだと思う。でもな、それは生態とは違う」
「しかし環境リセットされる以前、冒険者相手のモンスターダンジョンの頃は、通常の群れは連るんでおりましたのでその様なものなのかと」

 会話を続けながら配膳を続けていた駆は、カウンターに戻って用意していたスープやサラダをワゴンに載せて戻ると、それをさっと配りながら、「それで、ここにもモンスターは出たりするのか?」と尋ねる。
少なくとも危険な気配は感じないので、おそらくダンジョンという単語で想像する、攻撃的な生物が湧く様な事にはならないとは思うのだが念のために聞いておかないと落ち着かない。

 そこに両手にピザを持った翠星すいせいが、それをテーブルの空いた場所に置いてから、傍野はたのにも手早く給仕を済ませる。

「ミミ先輩、冷めたパスタもピザも美味いもんじゃねっすよ」
「おっと、そうだな。せっかくの絶妙にほんのり焦げかけチーズが、固まったら台無しだ」


「慌てずともお待ちしますよ、どうぞ先にお食事を済ませるといい」

 人形が「これはお邪魔になりますかね」と頭部を上下に動かすと、トランクごと浮いてカウンターに移動するのに、はっとした玉生がピザを一切れ載せた小皿を手に追う。

「あの、コアさんもこれ、よかったらどうぞ」
「主から下賜いただけるモノが、よろしくないわけがありません。ありがたく頂戴します」

 その声に合わせて人形サイズのテーブルセットが、カウンターから生える様に現れる。
「わ」という形に口を開いた玉生は、それでも特に動揺するわけでもなく「では、こちらに」とテーブルにそっとピザの小皿を載せた。
自分の席からその長い腕を伸ばした駆は、玉生の分の取り皿やスープをヒョイヒョイと食べやすく並べ直しながら、ほかの友人たちと同様にカウンターに意識を向けている。

「……あー、まあ後でいいか。とりあえず、いただきます!」

 また脱線する前にとにかく夕飯だけは済ませようと、玉生が自分の席に戻って来たのを合図に有無を言わさず、駆のいただきますコールで食事がはじまったのだった。




しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。


処理中です...