上 下
63 / 66
回廊の秘密

回廊の秘密 4

しおりを挟む


「俺が先に玄関開けておくからね。そっちのカートの荷は木箱だから、上に荷物載せて一緒に運ぶといいよ」

 件のちいたまの追っ掛けチャトが付いているとはいえ、やはり寿尚すなおとしては子猫の無事を確認するのが最優先なのは当然であるらしい。
肩に掛けた大きなドラムバッグの中も、間違いなく大部分が猫用の貢ぎ物だろう。
キャリーカートを引き早足で緑のトンネルを抜けた彼は、あっと言う間に裏玄関から突入して行ってしまった。

「スナ先輩、いつもはむしろ細かいところを気にして追求してくるのに。猫愛好家は下僕と紙一重ってコレか」
「猫のためなら適温のミルクが作れても、人間相手なら白湯を飲む方がましな茶になるという、別回路で動いている男だ」
「尚君の家では、先代から使用人の人が会社の商品開発も兼ねてて、奉仕される主人側の参考にするからって家事はしちゃダメなんだって。猫関係はお父さんが作った会社だから、例外だって言ってたよ」
「使用人は会社の方に使用感のレポート提出、モニターになるのも業務のうちらしいからな」

 カートの運搬力と「玉生たまおの荷物を一つだけな」というよみの好意もあり、傍野はたの翠星すいせいがもう一度往復して、どうにか全部の荷物を家の中に運び込む事ができた。
アーチに対してそこそこ幅があるカートのサイズが心配されたが、通過が思いのほかスムーズに行えたのは「さっきより幅が拡がったけど、まあいいか」と今更なので、そういうものだと全員に流された。
 
 玄関前の階段部分では翠星が手を貸して持ち上げたカートを押して、そのまま彼に続いて扉を潜った傍野は、問題なく玉生の家に立ち入れた。
演劇の舞台セットの様な壁の無いダイニングルームには、「今回もまた奇妙な――いや、ガランとしたホールよりは進歩してるか」と以前と比べると、むしろ住居としての形ができている事に密かな感動を覚えるのだった。
見ると寿尚のキャリーカートが靴箱の前にある広いスペースに置かれ、ダイニングの段になった上がり框に運んだ荷物が積まれているので、カートもそこにまとめて置いた。

「あ、傍野さん。引っ越しのお手伝いありがとうございました」

 チャトとちいたまに餌を上げて来たらしく、通常の状態に戻った寿尚が傍野に礼を言いながら、ダイニングに出て来た。
そのタイミングで表の玄関からは扉を開閉して「ただいま~」と声を上げるかけるが、廊下をガラガラとタイヤを転がし詠の荷物を運んで来る。

「ヨーミンの家の人はこっちに来れなかったみたいだな。標識の所にこれ置いてたけど、これで全部か一応確認はしてくれよ」

 誰かが気を利かせて移動させたのか、玄関ホールのシンク下のパイプ棚にあったと思しきサンダルが置かれていたので、詠はそれでフローリングの床から土間に下りて来た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)

幻田恋人
恋愛
 夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。  でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。  親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。  童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。  許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…  僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

処理中です...