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玉生のリ・ハウス
玉生のリ・ハウス 8
しおりを挟む「つまり後ろから付いて来るのは詠の家の者で、どういう家に引っ越すかのかチェックしたいんだって。過保護な保護者が付いたもんだよね」
背後に視線を向け、運転席に目を凝らす寿尚に詠がムスッとする。
「問題があれば、蔵地のバス停留所で消える」
一度家に戻りすぐに学用品関係と適当な着換えに一箱、手元にある私物を手当たり次第に詰めて一箱という大雑把な荷物を両脇に抱え持って来た駆が、ミニバンにそれを乗せながらふんふんと事情を聞いている。
「基準が分からないからなんとも言えないけど、チャトが実際よりも能力を下げて許容されているというなら、まあその辺りが関係しているんじゃないかとは思うんだけど」
「う~ん、チャトはある意味、野生の部分を去勢されてる感じなんだよな。本来はもっと猛獣でもおかしくないというか……感覚的にそう思うってだけだから、ちょっと言葉ではどう説明していいか分からん」
寿尚の推測に、駆が自分の感じた個人的なチャトの印象を語ってから「そういう部分の何かに、家が受け入れられない要素があるのかもな」と話を締め、傍野に「じゃあ、オレは原付で追って行きますんで」と言い残してドアを閉めた。
最後に回った翠星の下宿は、駆の家からそう離れていないもう少し緑が多い場所にあった。
大家から許可を貰い建物の裏に家庭菜園レベルの畑を作って、新鮮な物はなかなか入手の難しいリーフレタスやルッコラなどを自分で賄っていたのだが、家具家電と一緒にそれもそのまま近所の苦学生に譲るなどしたそうだ。
それでも持ち物をまとめるのに中サイズの箱が六つは必要だったらしく、在室中だった近所の学生たちが「くれぐれも水遣りだけは忘れないでくださいっす」と言われながら見送りに出たついでに、車まで荷物を運ぶのを手伝ってくれたのだった。
「後ろのあれって、ああやって使う物だったんだ」
「後から追っ掛けるつもりだったんで、助かったっす」
誰か一人は自転車を持ち込むだろうと、予想した傍野がミニバンの後部に取り付け式のサイクルキャリアを設置してきたおかげで、翠星は愛用の自転二輪車をそこに積んで本人は車内でゆったり移動できる事になった。
それでみんなが合流する間の話として聞かされた内容は翠星にとって、驚きよりは納得だった。
「チャトがわけありなのは納得って感じっすね。なるほど、よそから来たんすか」
「おや。意外と現実主義な翠星にしては、あっさり流すんだね?」
見た目で騒がれるのに対して、自ら「似非エルフ」と名乗るファンタジークラッシャーの翠星にしてはサラッと認めているのは、どういう風の吹き回しか。
「それがっすね。引っ越し先を実家に知らせたら、うちの父が『ああ、宝が持ち帰ったアレか。まあ翠星は私の兄に似て、典型的な森人だし案外気が合うんじゃないか?』って言われたんす」
「森人って、森の人か? オラウータンがどうした」
唐突な父親の話に詠が返した発言に、まだ以前のゴリラネタを引きずるのかと自然に目が座る寿尚を見て「いや、そうじゃなく」と翠星が否定する仕草で顔の前に手のひらを立てた。
「森人っていうのは父の故郷での呼称で、こっちで言うところのエルフだそうで、自分ハーフエルフだったんす。『まだその話はしてなかったか?』って言われたっす」
一瞬の沈黙の後、「――今後は、似非エルフと名乗るのは詐称」と詠に言われた翠星は、「ホントにな」と呻き声を上げるのだった。
翠星のカミングアウトに玉生は目を丸くしているが傍野は特に驚いた様子もないので、おそらくエルフであるという父親と面識があるか宝から聞いているかで、その事情については既知だったのだろう。
「うん、まあそれはともかく。つまりたまの家は、宝さんがよそから持ち帰ったモノである可能性が高いという話だよね」
「気が合うという仮定は、遣り取りが可能というだけでなく、人格らしきものがあると」
「人格……僕と仲良くしてくれるかな?」
そう玉生が呟いた時、丁度彼らの乗るミニバンが右折して私道に入った。
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