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玉生ホームで朝食を

玉生ホームで朝食を 12

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 テーブルにはパンケーキと共にハムとチーズの定番にトマト・レタスにベーコンエッグ、おまけにオニオンスライスなど大皿に数種類の具が用意されていて、みんなそこから好きな物を合わせてパンケーキを食べるのに、玉生たまおはまずそれを半分に切ってからスクランブルエッグを載せる。
それから少し考え、さらに半分にして一枚はハムもう一枚はチーズで巻いてスープと一緒に食べた。
それでようやく一息吐いて、まだ半分残っていたパンケーキの端にサクランボのジャムをちょこんと付けて口に入れる。
苺や桃と比べて甘さも酸っぱさにも固さがあるが、これはこれで美味しいとそのできに満足してもぐもぐと味わう口の端が自然に上がってしまう。
ほかにも甘味的には蜂蜜やバターに生クリーム、房分けされた蜜柑や葡萄に切り分けた桃など目でも楽しく玉生を誘惑するが、そう多くは食べられないのでちびちびと色々な味を少しずつ口にするのが幸せなのだった。



「ところで、みんなはいつからここに引っ越して来るんだ? ちなみにオレは、後で荷物取りに行ってすぐ戻ろうかと思ってるんだけど」

 そろそろ食事も終わろうかという頃、コーヒーを手にしたかけるがそれを切り出した。

「登校するのに直通のバスはあるし、教科書と制服さえ持ち込めばね。ちいたまはともかくチャトがいるから、いっそ単身で荷物取りに戻ってとんぼ返りでそのまま入居しようかな」

 寿尚すなおは口に出した時点で即入居はほぼ確定していて、今は持ち込む物やどの交通手段を使うかなどを頭の中で取捨選択している様だ。

「学生街まで自転二輪でも通えそうな距離っすよね。荷物の箱詰めも済んでるし、自分も今日からでも問題ないんすよね」

 翠星すいせいはもとから多少家に問題があっても引っ越しはすると決めていたので、実はもう現在の下宿先は片付けも挨拶も粗方済んでいる。
荷物はバス停前の郵便局留めで小包として送って、自転二輪車はここまで運転して来るのにもそう無理のない距離なので、今すぐ行ってきてもいいのだがとりあえずほかのみんなの返事を聞いてから動こうと待ちの姿勢である。

「僕はすぐに必要な物だけ電話して持ってこさせて、後は学校帰りに少しづつこっちに移す事にする」

 よみはこれから帰るのも面倒くさくなったのか、椅子の背もたれに体重を掛けて胸の前で腕を組んだ。
どうやらみんなこのまま入居という意外な展開に、そろそろ今日は解散かなと少し気落ちしていた玉生は目を丸くする。
それに駆が「マオマオは」と口を開いた時に、ヂリリリリ……と思いのほか響く電話機の受信音が鳴って玉生をびくりとさせた。
まずみんなの顔を見渡した玉生はハッとして、「あ、出なくちゃ」とあたふたスリッパのままで電話機まで駆けて行った。

「は、はい、もしもし、えと、倉持くらもちです」

 緊張したまま受話器を手にした玉生は、それでもバイト先で電話機での対応も業務のうちというのもあって、割合とスムーズに名乗った後は「はい……はい」と電話の相手に頷いている。
そして最後に「はい。よろしくお願いします」の言葉と共に大きく息を吐きながら、チンという音が鳴るまで慎重な手つきで受話器を下ろした。

「このタイミングだと傍野はたのさんかな? 何か問題でもあったの?」

 電話の相手を察したが、その内容が内見の様子を確認しただけではなさそうだと寿尚がそう尋ねてみた。
すると玉生はこくりと頷いてから、ありがたいと申し訳ないが混ざった「いいのかな?」という表情のままそれに答えた。

「え、えとね、傍野さんが引っ越しの荷物運ぶのに車出してくれるって。それでミニバン? だから、ほかのみんなも乗れるからついでにどうかって」

 
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