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玉生ホームで朝食を

玉生ホームで朝食を 6

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「あー、そういや合鍵とか無いと不便だよな。鍵屋で人数分の複製するなら、引っ越しまでに知り合いに頼むか?」

 鍵の有無は、在宅時はともかく家の施錠された外出と帰宅のタイミングによっては、閉め出された状態になるおそれがある。
庭に出ているのを気付かれなかったり就寝してしまった場合にも、やはり閉め出したという結果になる事もありそうだ。
ただ複製を頼むのに一時的とはいえ家の鍵を預けるなら、万が一の事を考え情報漏れの心配のない職人に伝手を使って頼もうと考えたかけるが提案すると、「待て。鍵束に予備が無いか確認するのが先」とよみからの待ったがかかる。

「まあ、そうだね。たま、その鍵束ちょっと見せてくれる?」

 家が大きくて玄関まで鍵を開けるために出迎えるのも一苦労なので、せめて表玄関は人数分の鍵は用意しないと不便すぎると、寿尚すなお玉生たまおから受け取ったキーケースの中に同じ型の物が無いかと比べようとした。
それで何気なく一つだけ表に出ている鍵を見て、「随分、複雑な形だけど。もしかしたらマスターキー?」と呟いてから、キーケースを開いて中の鍵束と見比べた。
そうしてしばらくチャリチャリと一通り突起部分を確認してから、「ミミ」と駆の前にキーケースごと鍵をぶら下げた。

「二階の部屋と同じ色のリングの付いた鍵と、ほかに何本か鍵が入っていた。色リングに付いている鍵は、表に出ていた鍵とほぼ一緒の形に見えるけどどう思う?」

 まずは目の前のそれをじっと見た駆は、鍵束の重なった部分を指でチョイと退けて確認しながら、「うん」と頷いた。
それから「多分な」と自分の推測を話しはじめると、詠と翠星すいせいもそれについての見解を述べる。

「この一本は全部の鍵と形が被っているから、マスターキーの可能性が高いな。この辺のはよく見たら小さく崩した漢字で、“玄”とか“裏”とかあるし比較的に単純だから玄は玄関で裏は裏玄関じゃないかな?」
「色リングは全部微妙に形が違う――二階の個室になる部屋だけは、その色でしか開かない?」
「あー、なるほど。そうなら鍵一本で玄関と部屋に使えるだけでも便利すね」

 その結論を聞いた玉生は、部屋の扉と同じ色のリングの鍵を、手元に戻ったキーケースのフックから外してそれぞれに渡したのだった。

「後で試してみて問題ないなら、そのまま使うって事でいいと思うんだけど……こっちの鍵はどうしよう」

 自分も赤いリングの鍵を外して手にした玉生が、場所ごとに個別の鍵とマスターキーと推定されている鍵と予備なのか黒のリング付きの鍵がフックに収まっているキーケースを、困った様に見ている。

「通常は別に暮らして非常時に訪ねて来る身内か友人知人に預ける。か、郵便受けやその辺の植木鉢の陰など適当な所に隠すものらしい」

 詠が後半は自分でも不可解そうに、「防犯的に問題だが」と一般的な知識らしいものを披露している。
どこから得た知識かは不明だが、ほかのみんなも頷いているので玉生としては「そうなんだ」と素直に納得した。
しかしその一般的な手段の問題ない方だと、玉生には預けていい人の判断ができない。

「みんなは同居するし、すぐ来てくれる身内の人――いないし」
「尾見さんに頼めばいいんじゃないのか? あの人は人を動かす人でずっと家にいるし、万が一用事があっても上手くフォローするだろうからお勧めだぞ」

 そんな風に悩む玉生に対して、駆があっさりと提案してきた。

「ああ、そうだね。たまがいいなら尾見に頼むといい」

 寿尚の家の執事にそんな頼み事をしていいのかと少し躊躇する様子を見て取ったのか、「たまの頼み事なら、尾身も快く引き受けてくれるよ」とニコリと頷いてみせる。
玉生としては傍野に預ける事も考えはしたが、本人の口から「探偵なんて予定変更はしょっちゅうだし、用事があるなら電話してくれたら伝言残せるんでそっちに頼む」と言われている。
ついでに「急ぎの用事で連絡がつかない場合は、悪いが君の友達の日尾野君に相談してくれ。それで以前から君の叔父さんが、色々と煩雑な事を任せている弁護士なりに連絡がいくはずだ」とも断りを入れられた。
なので正直なところ、寿尚と仲良くなってからずっと世話になっていて信用できる尾見に任せられるのは、玉生としては願ってもないのだ。
ただ尾見は日尾野の家の使用人であって、個人的な頼みなどおそらく玉生の方からは言い出せない相手でもある。

「え、と。じゃあ、今度お願いしに、尚君のおうちにお邪魔するね?」

 そのやや遠慮気味な姿に、「それにはまず家中の鍵穴に、この鍵がどこまで使えるか試してみないとダメだろ」と緑のリングを指に引っ掛けた翠星が、玉生の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
それで鍵の問題に結論が出たとみた詠が、また横道に逸れる前にと階段前にいる駆をそちらの方へとグイっと押した。

「その前に、いい加減さっさと当初目的の階段上るべき」
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