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玉生ホーム探検隊
玉生ホーム探検隊 13
しおりを挟む廊下を戻りかけていたのを引き戻された駆は、改めて向き直った青い扉と黄色い扉の部屋の間のにある壁を平手でペシペシと叩き、「廊下はここが突き当たりだな。じゃ、次はこっちの黄色い部屋行くぜ」と黄色い扉を開いて覗いた。
「ほう? 壁一面が棚になっている中心に机と椅子のスペースを嵌め込んで――お、こっちもスゴイ。天蓋ベッドだ」
「この棚はどう見ても書棚だろう? うん、これは詠だね」
寿尚に断言された詠は、窓の反対側のベッドまで歩み寄って天蓋から下がるカーテンに触れてから大きく頷き、「いかにも僕向き」と満足気に頷いてから戻って来た。
こちら側は反対側の3人の部屋と比べて横長だが、見たところ広さ自体はどの部屋もみんな同サイズだろう。
ちなみに下の階も含めてどの窓もカーテンを開いて両脇にまとめ、色も全てオフホワイトで統一されていた。
そして、赤い扉。
「せっかくだから、ここはマオマオが開けてみたらどうだ?」
駆がそう言うとほかの三人も、玉生と扉の間から脇へ避ける。
「う、うん。じゃあ、開けてみる……」
少し臆した様子ながら、玉生はドアノブに手を掛けて内側へと押し開けた。
そこにあったのは――
「ロフトベッドか。うむ、マオマオっぽい」
そんな風に、駆が入り口に立っている玉生の頭の上から覗いてきた。
そして「ほら、せっかくだからもっと近くで見たらどうだ?」と玉生の背中を押しながら、部屋へと足を踏み入れる。
近くで見ると、木製のロフトベッドは統一されたデザインの机と椅子に加え収納家具が下部に配置されて、梯子ではなく階段が付属していて落ちないようにサイドガードがぐるりと囲んでいる構造は、なんとなく児童公園にある滑り台を思わせるフォルムだ。
ただしロフトベッドと言ってもおそらくそのイメージより一回りも二回りも大きなサイズで、マットレスの部分はクイーンサイズ位はあるだろう。
下半分もさすがに駆などは腰を屈めないと入り込めないが、玉生や詠なら普通に利用できる空間になっている。
なおベッド部分は座っても手を伸ばせば天井に触れてしまうが、移動にだけ気を付ければ頭をぶつける事はなさそうだ。
そしてスタンドに張られたハンモックと、その横には見るからに触り心地の良さそうなオフホワイトのラグが敷かれ、その上には人が寝転がれる位に大きな赤いマカロンの様な形のクッションと、大小いくつものカラフルなクッションが散らばっている。
そして、天井から吊り下げられたハンモックチェアとその横の丸テーブル。
しかしある程度の住環境が揃っているほかの部屋に比べてなんとなく、ガランとしたフローリングの床が広がっている印象の部屋なのだった。
「後は自分の好きなように、って感じかな? まあ、はじめての自分の城みたいなものでもあるしね」
一見ほかの部屋より適当に見えて、この赤い扉の部屋はロフトベッドを付属品で揃えたセットにしたり、ラグも最高品質の物が選ばれている。
それに改めて見れば、天井にオシャレなシーリングファンまで付いていたりもするのだ。
「ここのベランダは、縁側の上辺りか?」
ふと見た窓の外に木のてっぺんがあるが目に入り、温室の内側にこの部屋のベランダがあるらしいのに気付いた詠の言葉に、「そうだな」と掃き出し窓を開いて身を乗り出した翠星が、ふと横手を見て「くらタマ、ちょっとこっち来い」と玉生を手招いた。
首を傾げてベランダに顔を出すと、そこにはウッドパネルが敷かれたベランダの一角を占める、二人が並んでも余裕のありそうなカウチソファーが鎮座していた。
寄り掛かれば上半身がずっしりと埋まりそうな質感のそれは、柔らかそうなシーツに覆われた上にクッションとブランケットが置かれ、逆側の床には樽に載せた天板をテーブルにして大き目なランプがオブジェのように載せられている。
全体的に濃淡様々なレンガ色の系統で揃えられたそれは誰かが使ってクタクタになった感じでもなく、ディスプレイのように汚れ一つないのだ。
「玉生の趣味がまだ確定してないから未完成で、取り敢えずあっちこっちでゴロゴロ仕様。やはり玉生のために用意された部屋だな」
その後ベランダから部屋に戻っても、玉生は胸がいっぱいで思いが言葉にならない状態だった。
これまで暮らしてきた孤児院では部屋を広く使うため、子供の寝床は二段ベッドと決まっていて、それは六人部屋からはじまり一定の年齢になると四人部屋に、そして最終的には二人部屋になる。
子供は非日常な視点に魅力を感じるのか基本的に上の段を望んだので、物事を譲りがちな玉生はずっと下の段になり、二段ベッドの上の段には密かな憧れがあったのだ。
どうしてこうまでしてくれる叔父に会えなかったのだろうと考えて、あの遠い親族たちに叔父から資産を引き出す窓口にされる可能性を示唆した、傍野の言葉を思い出した。
しんみりする玉生に近付くと、その肩に腕を回した駆があえて空気を読まないといった調子で部屋の外へ向かう。
「まだ地下とかも残ってるけど、新発見の廊下も最後まで見ていないだろう? すぐ突き当たりかもしれないがな、一応は確認しておこうぜ」
「……うん、そうだよね。それに、みんな好きな部屋が選べそうで良かった」
「それな! あの部屋なら作業も捗りそうだ。気が向いたら編み物以外の図画工作もしような」
そうやって廊下を進む二人に続く仲間たちは、駆が良くも悪くも空気を一掃してしまうのは一種の才能だなと呆れ混じりに感心するのだった。
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