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玉生ホーム探検隊

玉生ホーム探検隊 8

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「ところで猫男としては、ちいたまを新参に任せていていいのか?」 

 よみの言葉に釣られて見ると、さっきセットして置いてあった猫用のトイレから、ちいたまの首の後ろを咥えた茶トラがリードに気を付けながらこちらの方へ連れ帰って来るところだった。

「そのまま縁側にいないで連れて戻って来ただろう? ちいたまには、まだまだこちらの保護が必要だとわかってる賢い子だから、自発的に構う分には任せた方がいいんだよ」
「……なるほど、生き物は感情だけで育ててはいけないというやつか」

 寿尚すなおはそれに微妙な顔で「しばらくは付きっきりで可愛がれると思ってたんだけどねー」と溜め息を吐いて続けた。

「俺の場合どうしても多頭飼いになるし猫はヤキモチ焼きも多いから、相性がいい子たち同士は必要以上に干渉しないで眺めて愛でるとか割り切らないと、その時の気分なんてお猫様には関係ないから贔屓すると後で修羅場になるよ」
「なるほど、猫が女に例えられるのはこれか。日尾野の付き合いの極意が、軽佻浮薄な男の言い訳と被る」

 この二人で会話をすると大体がこの調子で進むのだが、本人たちは別に仲が悪いわけではなく、むしろこのやり取りを楽しんでいるらしい。
初めてその場面に遭遇してオロオロする玉生たまおに「大丈夫」と言い切ったかけるに言わせると、「あの二人はあれだ。同族嫌悪じゃなくて、あ~……同族友好?」で問題ないそうだ。
そんな人間は知った事ではないというように、今は電源の入っていない炬燵布団の端で、もう夢の中にいるちいたまを抱き込んだ茶トラは悠々と寝転んでいる。

「彼らがここがいいなら無理に連れ歩くコトはないさ。ちいたまは、まだ人が多いと落ち着かないだろうしね」

 それに大きい子が小さい子にご執心の時は人間が構うのも嫌がったりするので、人に慣れて向こうから関心を持って寄って来るまで、こちらは餌を貢ぐ役に徹するぐらいが日尾野式なのだという。

「……それにしても、まだ戻って来ない奴らは何やってるんだろうね?」



 玉生を呼ぶ駆の声がしたのは「そろそろアイツら呼び戻すか」とちょうど話していた時だった。

「何か見つけたのか? 呼ぶって事は危険性はないんだろうけど」

 ホントあいつら何やってるのと言いた気な寿尚の肩を、「ちょっと行ってくるね」とすれ違いざまにポンと叩いて玄関に向かおうとすると「玄関から回らないで、僕の靴を履けばいい」とそこに出したままだった詠のバブーシュを貸してもらった。
 こういうやり取りに友達っぽさを感じているのを分かっていて、友人たちはそういう質でもないのに、時々こういう風に玉生を嬉しくさせてくれるのだ。




 足元が玉砂利から芝へと変わり樹木の生え際に近付いても、奥には行くなと釘を刺されていたはずの駆と翠星すいせいの姿が見当たらない。
キョロキョロと振り返りながら先へ進んでいると、思いがけずに頭上から玉生を呼ぶ声がした。
見上げてみるとガラスを通して眩しい光が降り、枝葉の影に沈んだ巨体が「こっちこっち」と手を振っている。

「ここの木って果樹が結構あるみたいだから、もいでもいいかな?」

 駆が伸ばした指先で摘んでみせたのは赤い小さなサクランボで、意識して見ると逆光になった葉の陰にいくつもの赤い実が覗いている。

「で、あっちの方にな、多分スモモと桃の木じゃないかと言って翠星が見に行ってる」

想像していなかったオプションに玉生が反射で「うん、うん」と頷くが、そうやって流されているようでしっかり状況確認をしているのはいつもの事なので、許可は取ったとして近くの木から適当に実をもいでいく駆である。

「美味しかったらまた取りに来よーぜ?」

 服の裾を使って持てるだけ手当たり次第に狩っていた駆は、思わぬ収穫にご機嫌だ。

「うん、甘いのがイマイチでもジャムにできるから、うん」

 有無を言わさず収穫した実を「マオマオんちのだがら」と服の裾に移動させられた玉生は、サクランボの存在に実はドキドキしている。
まだ母親といる時の学校行事で苺狩りがあったが、当然の様に参加はできずその後も縁がなかったので、今となっては「ちょっと贅沢して食べられる分だけ果物屋で買えばいいし」と自分を納得させても消えない憧れになっていたのだ。
これが寿尚や詠なら玉生の生い立ちから欠乏している要素を察して、カタルシスを狙った結果この状況になる事はあるだろうが、駆の場合は間違いなく天然でやっているに違いない。
ちなみに翠星なら「フルーツのお菓子作って食べてたよな? 好きなんじゃね?」と理解した上で、駆と似たような事をするだろう。
もっとも駆本人からしたら、『普通のお菓子を買うお金で粉から始まり少しずつ材料を揃え、時価で手頃なフルーツを質より量で手に入れて、フレーバーをケチらないで仕上げて大事に食べながら、半分以上「いつものお礼」で配るという玉生の習性から、フルーツへの拘り憧憬まで推測し最終的に苺狩りの思い出まで聞き出す奴らって……なあ?』という感想になるのだが。
その話し声が聞こえたのか、「くらタマいるのか? ちょっとこっち来てくんねぇ?」と翠星が木の向こう側から顔を覗かせた。

「そこに、美味そうな桃とスモモが成っててな、白葡萄も食べ頃なんだ」

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